『恋したチューリップの妖精』




ある広場の片隅に、小さな花壇がありました。あまり手入れをされていない
花壇ですが、いつ植えられたのでしょう?
1本だけ、チューリップの花が、生えていました。
チューリップの花は、今にも花が開きそうです。
そして、ある朝、ピンクのかわいらしい花を咲かせました。

その花の中には、薄く透き通る羽の生えた、
ちいさな、ちいさな女の子が座っていました。
この女の子は、だれだと思いますか?
そう、生まれたばかりのチューリップの精なのです。
その、チューリップの精は、春の暖かい日差しの中で伸びをすると、こう言いました。
「ああ、気持がいい、これが外の世界なのね。」
チューリップの精は、すべて、目に入るものは新鮮に、そして美しく見えました。
青い空、白い雲、自分を取り囲んでいる草花たちのみどり。

この小さな花壇のある、広場で、今日も男の子が数人ボール遊びをしていました。
この近所に住む仲良しのわんぱくグループです。
チューリップの精は、その男の子たちに気がついて、ぼんやり見ていましたが、
ある一人の男の子から、目が離せなくなりました。
「あれは?素敵なひと・・・」心の中にぽっと火がともったような感じです。
チューリップの精は、その男の子に恋をしてしまったのです。
やがて、日が暮れてポール遊びをしていた男の子達も、家に帰っていきました。

この男の子は、隣町に住んでいました。ケンイチといいます。
少し前に、この町から隣町に引っ越したばかりでした。
この広場はこの町の中ではめずらしく広いところで、
町の男の子達は毎日の様にこの広場に遊びに来るのです。隣町に引っ越しても
ケンイチは毎日ここの広場に遊びに来ていました。
そして、毎日遊びに来る理由が、もうひとつあったのです。

毎日、同じ時刻になると、お下げ髪の小さな女の子が、いつもスケッチブックを
持って、この広場にやって来て、片隅のいつも同じベンチに座って、
絵を書いているのです。
「あの女の子と仲良くなりたいな。」
ケンイチも、そのお下げ髪の女の子に恋をしていました。

そんなことは全然知らないチューリップの精は、その日から毎日、この広場に遊びに来る
ケンイチをずっと見つめていました。
そして、ピンクの花びらを、ますます鮮やかにするのです。
周りの草花たちは、口々に言います。
「私たちは草花の妖精、あの人は、人間。それに、私たちの一生は、花を咲かせて
いるときだけだよ・・・悲しい恋は、やめようよ。」

満月の夜、チューリップの精は、月に向かっていいました。
「お月様、私、毎日ここの広場へ来る、男の子に恋してしまったの・・・。
悲しい恋でしょうか?」
すると、お月様はいいました。
「まぁ かわいいチューリップの精、あなたは今晩一晩だけ魔法が使えるのですよ
忘れてしまったのですか?」チューリップの精は、はっとしました。
「そうだわ!忘れていた、今晩私は、魔法がつかえるんだった・・・
なんて運がいいのかしら。」
草花たちが、一番美しく見える夜、その夜が満月だと、その夜一晩だけ魔法が使えるの
でした。そして、その夜だけ、月の青い光の中で、花を開いていることが出来るのです。

チューリップの精は、ケンイチの家に行く事にしました。

「あのひとに会って、心を伝えたい・・・」

魔法の使いみち・・・人間に姿を見せる
チューリップの精は、その一瞬にその力を使おうと思いました。

ケンイチの家に行くと、ケンイチは机に向かって、今日の宿題をやっていました。
チューリップの精は、開いた窓辺においてある人形の陰に隠れて、ケンイチを見つめいています。
いつ、ケンイチの前に姿を見せようか・・・ドキドキしながら。
すると、ケンイチは手を休め、窓のところにやってきました。

「今だ!!」そう思って出ていこうといた時です。
ケンイチは外の月を見ながら、こんなことを言いました。
「あの、お下げの女の子・・今日も絵を書いていた。仲良くなりたいな・・・どうすればいいだろう。」

チューリップの精は、悲しくなりました。ケンイチの心のなかを、知ってしまったのです。
姿を見せずに、そのまま広場に戻っていきました。悲しくて・・・大きな目からは涙がこぼれます。
お月様も、周りの草花も、なんだか悲しそうです。


    ケンイチの恋をかなえてあげたい・・・。
     チューリップの精の魔法は・・女の子の心へ。



次の日、ケンイチはいつもの様にあの広場へ・・・今日はみんなが帰る夕方に。
あの、お下げの女の子も来ています。
ケンイチは、広場の隅の花壇に咲いているチューリップの花を摘んで、
その女の子に渡しました。
「友達になってください!」
ケンイチの顔も、女の子の顔も、真っ赤です。


チューリップの精は、その二人を見て、寂しそうに笑うと、スーっと静かに消えていきました。