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放射能レンズ

 

1950年代に入って、ライツが高性能のレンズを作るためにガラスにトリウムという放射性物質を混合していた時期がある。 この方法は高い屈折率を得るために大変有効で、実際トリウムを混ぜた初期のズミクロンは、そうでないズミクロンに比して解像力や色収差において優れているという報告もされている。
ライツに追随して、コダックのエクターなどにもトリウムが添加されたが、日本の有名メーカーがこれを採り入れた 時代は意外に長かった。ライツが1952年には酸化ランタンを採用してトリウムの使用をやめたのに、日本では1970年代半ばまでこれを混合したレンズを製造していたという。

某有名写真専門誌でトリウム添加レンズを「アトムレンズと呼ぼう」などとお気楽に取り上げていたが、私は次の理由から、少し真剣に考えたいと思った。

1.同誌では、放射線量の極端に多いレンズには殆ど触れていなかった。
2.法令で定められた放射線量を大きく下回っていることでよしとしていた。(使用方法や使用者の環境によって影響がある可能性がある。)
3.この事実を知らないカメラ愛好家が多い。(知らしめないメーカーの態度に疑問を感じた。)

私の所有するカメラやレンズ、数百点について放射線計測協会さんからお借りしたガイガーカウンターで計測してみた。
もちろん私が所有するものに限られ、ここに挙げたレンズ以外にもトリウムを含有するものは存在するので、あくまでも参考としていただきたいが、
放射能レンズとして有名なアサヒペンタックスのレンズについては、やはり噂通りの結果となった。

放射線量の単位について              
                   
ここで使用している単位μSv(マイクロシーベルト)/hは、線量当量率といわれ、「一時間あたりの人体への影響度」を表す。
(1Sv=1000mSv、1mSv=1000μSv)          
日本での自然界での被曝は、屋外で0.04(0.01〜0.08)μSv/h、屋内で0.06(0.02〜0.12)μSv/h程度とのこと。(放射線測定協会資料より)              
                   
計測対象                  
                   
透過率が高く人体への影響の高いγ線のみの計測。
                   
留意点                  
                   
計測した部屋の放射線量は0.04〜0.07μSv/hであり、標準的な自然界での線量である。
ここに挙げたレンズやカメラは、自然界の数値より明らかに多くの放射線を発しているものである。
ただし、自然界の何倍もの数値であっても、人体への影響があるとは言い難い程度の数値のものも掲載したので判断にあたっては注意願いたい。            
また製造年等によって同じレンズでもトリウムを含有していないものがある可能性があるので、ここに掲載されているからといってその同型のレンズが
必ずトリウムを含んでいるとは明言できない。トリウムを含んだレンズは黄変しているものが多いので、ご自身で判断いただきたい。

                   
以下、私の(財)放射線計測協会殿への報告書より (2004.9.30)
                   
写真工業9月号に掲載された放射能レンズの件が写真仲間の間で話題になり、多くのレンズやカメラを所有しております私が計測してみることになりました。          
今回の写真工業の記事にあったのは古いライツやコダックのレンズでしたが、放射線を多く発していると以前から取り沙汰されておりましたアサヒペンタックス
のスーパータクマーについては殆ど言及されておりませんでしたので、当該レンズをいろいろな角度で調べてみようと思ったのですが、300台ほどのレンズ    
やカメラを調べてみて、微量ながら放射線を発しているものがいろいろとあったのは意外でした。
                   
もちろん世に存在するすべてのレンズを調べたわけではありませんので、かかる事実があるという参考にしかなりませんが、以下に計測結果をご報告致します。          
                   
測定方法                  
                   
前群レンズ前面、後群レンズ裏面、カメラボディ裏面の3箇所を被験面とし、1分間以上の平均値を取った。
センサーから被験面の距離は、基本的に1cm以下(概ね密着)であるが個体によって多少の差がある。
しかし1cm以下での距離差による計測値の違いについては、今回の趣旨からすると無視できる範囲と考える。

γ線を発していたレンズ(またはカメラ)一覧 (単位:μSv/h  計測を行った室内の自然放射線量レベルは0.050〜0,060μSv/h)

メーカー レンズまたはカメラ名 製造番号 レンズ前面 レンズ後面 ボディ後 使用ボディ
ASAHI PENTAX Super-Takumar 1:1.4/50mm 4108485 1.160 6.990 0.850 PENTAX SP
1828586 1.000 5.930 1.070 PENTAX SP
Super-Takumar 1:1.8/55mm 1848124 0.260 2.330 0.300 PENTAX SP
4383658 0.230 2.260 0.270 PENTAX SP
4731004 0.280 2.040 0.270 PENTAX SP
763144 - - - PENTAX SP
Super-Takumar 1:3.5/28mm 3406702 - - - PENTAX SP
Super-Takumar 1:3.5/135mm 4195957 - - - PENTAX SP
CANON FL 1:1.8/50mm 256858 0.130 1.060 0.120 CANON AE-1
DATEMATIC   0.120   0.080  
CHINON MEMO EE(Chinon 1:2.7/38mm) 193087 1.240   0.170  
113789 0.680   0.130  
RICOH AUTO SHOT(Rikenon 1:2.8/35mm) 36496 0.220   0.090  
KONICA C35(Hexanon 1:2.8/38mm) 初代 0.670   0.140  

・Super-Takumar 1:1.8/55mmでγ線が検出されないものがあった。(製造年の違いによると思われる。)
・トリウムを含有すると言われているSuper-Takumar 35mmは手元になかったので今回は計測していない。

左 Super-Takumar 1:1.4/50mm 後群レンズにトリウムガラスを使用
右 Super-Takumar 1:1.8/55mm 上記γ線を発していなかったレンズ

γ線を発していた左のレンズが黄変していることがわかる。

                   
最もγ線の強かった(自然界の100倍以上)Super-Takumar 1:1.4/50mmについて、距離による線量の漸減をグラフにした。
測定場所(木造屋内)の自然値が凡そ0.050μSv/hであったが、距離0cmで約6μSv/h(120倍)であるものが10cmの距離で0.250μSv/h(5倍)まで激減し、
30cmで0.080μSv/h、50cmで自然界レベルへと逓減した。

 

以上で今回の報告を終わるが、ガイガーカウンターが激しく鳴りっ放しになるほどの放射線を発するレンズ、確かにその写りは素晴らしい。
普通に使用していれば人体への影響はないと言われるが、あなたはこのレンズを使うか、捨てるか。

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