息がおさまると、一人で休憩するのは手持ちぶさただ。
近くにいた一人らしき男性に、カメラを渡して私の写真をとってもらった。
彼は、パリ近くの村に住んでいて、車でパリに来てナイトスケートに
参加しているそうだ。もちろん私は「Why don't you use your skate!?」
と言ってあげた。
また一人でぶらぶらして写真を撮っていると、じっとこちらを見ている
若い男性に気づいた。その目つきはどこかで見たことがある。
数年前、旅行先のプラハの地下鉄でガイドブックを広げていたら
革ジャンの男性から食い入るような視線を感じ、
恐かったのですぐに電車を降りた。その時の目だ。
(なお、私は、外国でもところかまわず地図を広げる。
道に迷うリスクと天秤にかけたらしょうがない。)
ナイトスケートに浮かれていたけれども、ここは日本ではない。
男性に悪気はなかったかもしれないが、一瞬で冷静になった。
またザワザワして、集団が動き始める。私も走り出した。
休憩のあと、ちょっと呼吸が楽になったけどすぐ足がだるくなってきた。
たびたびボコボコの石畳にも遭遇した。散々すり減った石畳なら見た目より
滑りやすいが、やりにくい石畳もある。ウィールのシャフトなくして
3輪なので余計に引っかかりやすい。
…と、前方に、あれは昼間のぼった凱旋門かしら!ライトアップ
された白い姿が浮かび上がってきた。凱旋門広場から放射状に延びる
道を、中心に向かって進んでいるようだ。
近づく途中で、右に曲がり、広場を同心円状にとりまく道に入る。建物に
遮られて凱旋門が見えなくなるとぐっと道が滑らかになる。大通りを横断
するときは凱旋門が見えるが足元は擦り減った石畳になって、夜景を楽しむ
余裕はない。
凱旋門のまわりをぐるりと滑ったようだ。そして凱旋門から離れていく。
そのうち、右側にずーーっと続く緑の芝生が現れた。その向こうに
お城らしき建物と、標識に「チュイルリー」という字が見える。
ずっと車道を占領してきたが、休憩後は車の流れと交わることが何度か
あった。車は徐行しているのでその横をすり抜けて行くが、車の前方を
ふさぎそうなスケーターはスタッフが両手を広げて進路をかえさせている。
さらに滑っていると、1−2車線を車に明け渡すところもあった。
集団が前後にのびているので、もうそれほど幅を必要としないのだろう。
車は普段の速度で走っているのでここで転んだら、異国で一生を終える羽目になる。
すでに息は絶え絶えで苦しい。しかしアドバイスにしたがって、小休止ではなるべく
止まらず、人の間をすり抜けて少しでも前に進んだ。
川も渡ったし即席の土地カンに従うとそろそろイタリー広場じゃないかと
思う頃、標識が見えた。
矢印と一緒に「バスティーユ」と書いてある。たしかバスティーユは
地図の右端のほうじゃなかったかな?
げげげげ、そっちのほうに行っちゃうの?
先ほどから、しばしば後方を固めるバイクの音が聞こえるようになってきた。
回りは子供や女性が多い。これ以上遅れると足きりされてしまうらしい。
必死に滑る。
せっかく渡ったセーヌ川をもう一回渡る。横を見ると他の橋に明かりが点って
きれいだ。満足した。「もう疲れた。夜景もいっぱい見れたしリタイアしようよ」
「せっかくだから完走しようぜ」と天使と悪魔が頭の中でせめぎあう。
ライトアップされたオペラバスティーユの横を通る。ガイドブックで見たとおり
モダンな建物だった。オペラ座の前にホテルがあった。このホテルに泊まっていれば
ここでリタイアできるのにと無意味なことを考える。
また川を渡った後、上り坂になってきた。どんどん自分の速度が落ちる。
スタッフがにやりと笑って手を差し出してくれた。力強く引っ張って
十分速度がつくと、ぶん!と前方にホイップされた。振り返ると他の
女性も助けてもらっていた。
いったいどれくらい滑っただろう。いつになったら終わるんだろう。
わたしのパリローラーは、完走で終わるのかリタイアで終わるのか
ずっとそんなことを考えながら滑っていると、前方がにわかにばらけてきた。
信号で渡る人、渡らない人、横の路地に入る人。ここは、ゴールの
イタリー広場だった。なんとか完走できたようだった。
以上です。大変ハードでした。
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