菜摘が5年生になって、日に日に大人になって行くようでした。
でも、なんとなく気になる事がありました。
そういう事を、書いてみました。
5年生になると女の子は、少しずつ女性らしくなります。 外見もそうですが、心にも変化がありますよね。 この頃の菜摘の変化はそういうものなのかどうか...私には楽しみのようであり、 不安でもありました。 でも、やはり、死の予感だったのではと思うのです。 菜摘は爪を噛むくせがありました。 明るい娘でしたが、不安定な所もあったのでしょう。 私は爪の形が悪くなるのを心配して、たびたび注意していました。 いつもは注意しても、またかという感じなのに、6月に入ってからの菜摘は違いました。 ソファーに座り、下を向いてシクシク泣きはじめたのです。 いつもなら、怒ったあとは抱きしめてあげるのですが、自分できちんと考えてほしくて、 あえて抱きませんでした。 いつもは泣くときも大きな声で泣くのに...。 |
菜摘は、生まれた時から綺麗な顔でした。 ベビーカーで出かけると、知らない人からも声をかけられました。 小さな菜摘を見ていると、自分の子供ではないような気さえ、ありました。 赤ちゃんの時から、公園に通いました。 私の子供の頃のような内向的な子供には、なってほしくなかったからです。 菜摘は、私の思うように、元気で明るい子に育ってくれました。 そんな私の心の中では、この子を失う恐怖が芽生えていました。 「出来るものならば、傷つかないようにガラスケースに閉っておきたい。」 しかし、菜摘は10歳まで成長しました。 5年生になったある日、私は菜摘に告白しました。 「この和室に牢屋を作って、閉じ込めようかな...。」 もちろん、「外で遊ばないと体が腐る!」と、言っていた菜摘に笑われました。 その時、なぜか話題がどちらかが先に死んだら...に、変わりました。 菜摘は、しきりに自分が先に死んだらお化けになって、 私の前にいつも出てくると言いました。 私は、幽霊は苦手なので知らないふりをすると答えました。 どうして、あんな話しになったのでしょうか? 死んだらお化けになって、いつも出てくると言っていた菜摘は、 なかなか出てきてくれません。 |
菜摘は私に似て背が低く、並ぶといつも1番前でした。 でも、親にとってはイベントの時にありがたく、いつも全身をビデオや写真に 収める事が出来ました。 ちなみに、円香は真ん中なので、探すのがひと苦労でした。 元気な菜摘でも、身長の事はコンプレックスだったようです。 「だいじょうぶ、大人になったら気にならないから。 ママよりは、大きくなるから。」 と、励ましていましたが、6月の菜摘は、 「今じゃないと、だめなの。」と言って泣いていました。 菜摘は大人になれなかったね。 菜摘の言っていた事が今、わかりました。 |
夕方、家の近くで友達と遊んでいた円香が、子ウサギ3匹を拾いました。 よく考えれば学校のウサギだと思われるのですが、 子ウサギ3匹が仲良く道路を渡ってくるのも不思議です。 円香の友達は、自分のお気に入りのウサギを自転車に乗せて、帰りました。 仕事帰りの私は、夕方の寒さと早く家に帰りたいのとで、ウサギ2匹を家に入れてしまいました。 そこからが大変でした。 動物大好きな菜摘は、ほしくてほしくて仕方がないのです。 家はマンションだったので、動物は飼えません。 それでも、ジャンガリアンハムスターが4匹いて、ハムの世話だけで大変です。 なにせ、ゲージが4個です。 (菜摘は、毎日ハムスターを順番にかわいがっていました。) とりあえず、凍えていたウサギを暖めて、餌と水をあげました。 |
ウサギの事は、私から学校に連絡しないで、子供たちにさせました。 しかし、ウサギのほしい菜摘は先生に言わず、円香が先生に言ったのですが充分には 調べてくれませんでした。 結局曖昧なまま、ウサギをつれて遊んでいた菜摘は、 飼育係の女の子たちに責められる事になってしまいました。 ちょうど私が仕事から帰ってくると、学校の前で子供たちが大勢たまっていました。 その中でローラーブレードをはいたまま、ウサギを離さず泣きながら立ち尽くす菜摘。 結局、どこのウサギか曖昧なので、先生と相談した結果、うちで飼う事になりました。 白いウサギは、ミルク。 黒と白のウサギは、パンダ。 残念ですが、もう1匹のウサギは後日、学校のウサギ小屋に返したそうなのですが、 他のウサギ達にいじめられ、亡くなっていたそうです。 |
朝、ミルクの様子がおかしかったのです。 見たときにはもう横になって痙攣しているようでした。 菜摘の呼びかけに応える事もなく、ミルクは息をひきとりました。 菜摘と円香が、泣いたのは言うまでもありません。 |
この頃から、菜摘は 「夜が恐い。」と、言い始めました。 自分の死期を、感じていたのでしょうか。 |
ミルクが亡くなってから菜摘は毎日にように、パンダがかわいそうだと言いました。 近くのペットショップに行っても、手頃な値段と大きさのウサギがいません。 仕方なく、仕事帰りに菜摘、円香と「ファクトリー」で待ち合わせました。 でも、ウサギはいませんでした。 がっがりして、落ち込む菜摘。 帰りにおそばを食べましたが、 泣きながら半分くらいしか食べませんでした。 菜っちゃん、どうしてそんなにパンダがかわいそうだったの? 菜摘は自分が居なくなるから、パンダを1匹で残していくのが心配だったのでしょうか? |
菜摘は、同級生の金子さん、鈴木君、五十嵐君と一緒に、東区の温水プールに行きました。 友達とバスに乗ってプールに行った娘を見て、大きくなったとつくづく思いました。 お留守番の円香は、つまらなくなりパパと買い物に出かけ、 フーセンを貰ってきました。 帰って来てから菜摘は、そのフーセンに気付き、円香とパパが出かけた事にショックを受け、 おまけに円香がフーセンを触らせないので、「菜っちゃんも、ほしかったよ。」と、メソメソ泣きました。 しばらくイジイジしていてパパと、飛んでるお魚のフーセンを買う約束をして機嫌はなおりました。 そして、夜 「こっそりフーセンをたたいてやった!」と、おちゃめな顔をして言っていた菜摘。 5年生にもなって、どうしてフーセンがほしいのか私には判らなかった...。 菜摘どうして、泣いたの? |
30日のお風呂はシャワーで、菜摘が円香の体と髪の毛を洗ってくれました。 夕ご飯は、大好きな二色ごはんでした。(挽肉と卵のそぼろ) この日テレビドラマ「ひとつ屋根の下2」の最終回でした。 菜摘は見たがっていたのですが、ビデオに録画する約束で寝かせました。 私もその時は、見ませんでした。 ビデオを見たのは亡くなってから何ヵ月もたってからでした。 |
運命の日。 朝菜摘は、友達に置いていかれると、あわてて家を出ました。 いつもの、いってらっしゃいの「チュー」も出来ませんでした。 学校から帰ってきた菜摘は、円香と外でしばらく遊び、 ピアノの時間に合わせて家をでました。 円香は、帰ってから「シルバニアファミリー」で遊ぶ約束をしていたので、 家でおもちゃをだして待っていたそうです。 その日円香は、菜摘に「一緒に行きたい。」と言ったそうですが、 菜摘はことわったそうです。 円香の心の中にはいまでも「一緒に行けば良かった」 という思いがあるようです。 −−−−−そして、事故−−−−− 外で救急車のサイレンが聞こえたそうです。 警察から自宅に電話があり、円香が受けました。 円香は、私に連絡をしてくれました。 私はバスの中でした。 あわててすぐ近くののバス停で降りました。 東警察署に電話をしました。 すぐに東警察署に来てくれと言うのです。 私はとっさに「どうして、病院じゃないんですか?」と聞きました。 あんまりじゃないですか...病院にも行けないなんて...。 早く行かなくちゃいけない。 タクシーはなかなか見つかりませんでした。 やっと見つかったタクシーは、なんと事故現場を通ってきたタクシーでした。 こんな偶然はあるのでしょうか? 菜摘が迎えに来てくれたのかもしれません。 現場は、パトカーや報道の車でいっぱいだったそうです。 ニュースでも、何回も流れたそうです。 とにかく、円香を迎えに行きました。 マンションの駐車場に着くと、 そこには仲良しの「りゅうちゃん」と「けいこちゃん」のお母さんが円香と待っていました。 偶然だったのです。 私は2人の顔を見て何も言えませんでした。 ただ首を横に振るだけでした。 それだけで2人はわかってくれました。 小さい頃からいつも一緒に遊んでいた「隆太君」と「恵子ちゃん」、 菜摘は最後の挨拶をしたかったのでしょう。 −−−−− そして、−−−−− 東警察署では、何時間も待ちました。 担任の鈴木先生が来てくれました。 私が菜摘と会ったのは、死体安置所でした。 すでに白い着物を着ていました。 でも、顔が...顔が...頭全体が真っ白い包帯で覆われて、 菜摘の頭の大きさ以上でした。 一緒にいた白衣の男性のネームプレートには、「複顔士」と書いてありました。 体は、擦り傷程度でした。 でも、顔は轢かれてわからない状態だったそうです。 あんなに、かわいい顔が...。 警察の人は、私には見せてくれませんでした。 お願いして見せてもらったのは、右の頬でした。 皮膚という感じではなく、血の赤と黒しか記憶がありません。 後日、警察の方が、「亡くなったお嬢さんを思い出す時、 事故の姿ではないお嬢さんを思い出してくれる事を、お嬢さんは望んでいると思います。」 その言葉に私は涙が止まりませんでした。 確かにそうかもしれません。 でも、菜摘は私のお腹から生まれてきました。 だから、最後まで見てあげたかったのです。 |
円香が、菜摘の夢を見ました。 円香と私が事故現場に行くと、歩道橋のスロープのところで菜摘が待っていたそうです。 そして、3人で歩いて家に帰りました。 途中、小学校の横を、2人で私を置いて走ったそうです。(いつもその道は、走るんです。) 円香はどうしても帰って来て欲しかったのです。 円香の一番大切な人だから。 |
楽しみにしていたハムスターの妊娠。 お腹が大きくなり、警戒心が強くなっていたので、 もうすぐ生まれるのではと楽しみにしていました。 確かにお腹は大きかったのです。 亡くなる前の日、菜摘と2人で檻から出して、確かめました。 なのに久しぶりに見ると、お腹がペチャンコなのです。 菜摘がつれていったのでしょうか? どうしても菜摘に見せてあげたかった、ジャンガリアンハムスターの赤ちゃんを。 |
