逢魔の木
少年ぽい少女が、夕暮れの路地を泣きながら歩いていく。
暗くて寂しい神社に迷い込むと、男が狛犬の下に座っていた。少女はその横に座った。
男は汚れきったジャンパーと地下足袋姿である。
オジさんは何か長いものを持って、じっと一点を見つめている。
「これは鉄砲だ」
黒くて長い棒。オジさんは少女と目を合わせると、目尻を下げた。
「天狗が来る」
少女は首をかしげた。オジさんは満足した顔をして、また大木を睨み始めた。
オジさんは一度だけ「帰りな」と少女に声をかけた。彼女は首を振り、オジさんと同じ目つきで天狗の木を睨む。そこへ天狗が降りてきた。
天狗は美しかった。
オジさんが鉄砲を構えたが、天狗はたおやかに、それを取りあげてしまった。
オジさんの目つきが怪しくなった。天狗は目前に顔を近づけて、うっすらと笑った。
「名は?」
オジさんが答える。が、その声は小さくて少女には聞こえなかった。
直後、オジさんは糸が切れたように倒れた。
動けないでいる少女に、天狗が近付く。天狗は同じように、うっすらと笑った。
「名は?」
硬直した彼女は、声を出せなかった。美貌が、かすかに歪んだ。
その隙をついて少女は弾かれたように立って走った。笑い声が聞こえた気がした。
「見目良くなったら、また会おう」
気づくと「おおい」と呼ぶ声があった。道の向こうに、母親がいた。
少女は泣きじゃくって「ママ!」と、母親に抱きついた。
回想シーン。
倒れたオジさん。手にしていたのは、ただの棒きれだった。
図書館の窓辺でうつむく美少女は、友人に「ねぇ」と呼ばれて顔を上げた。
「調べもの?」
「別に」
美少女は笑って立ちあがる。開いた辞書には『逢魔が時』という一節が載っている。
夕暮れの窓に顔を向けたが、そこには何もない。
こっそり笑う声があったが、それは彼女には届かなかった。
fin
2006.6.20
『原作×漫画』さん第2回に応募した作品です。
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