朱の星
宇宙にポツンと一台、小さな船が航行している。
操縦席から見えるクルーは2人の若い男だけである。
A「もうすぐだな」
B「ああ」
希望に満ちた笑顔である。
A「見えてきた」
B「俺たちにとっての3年も長かったが……地球じゃもう300年か」
微笑みながらも泣きそうになっている。
スクリーンの向こうには地球が浮かんでいる。
A「猿の惑星になってたりしてな」
B「その前に、どっちが浦島太郎と改名するか決めよう」
冗談を言いながら笑っていた2人の顔が、モニター横のメーターを見たとたんに凍りついた。
A「生命反応の出てる星が……」
B「地球じゃ……ない」
スクリーンでは、地球の向こうに火星が見えてきていた。
◇
火星の宇宙港は砂の地平線があるものの、近代的だった。
しかし2人は降りたってみて愕然とする。
彼らを出むかえてくれたのは、火星人の群れだったからだ。細い手足の禿頭が様々な格好をしている。
その中の偉い人らしい格好をした火星人が握手を求めてきたので、2人は仕方がなしに握手した。
火星人「我々はテラフォーミングに成功して移住したが、いずれ地球も生きかえらせるつもりだ。重力が違うので不便もあろうが、今はここが故郷と思って、ゆっくりしてくれたまえ」
わらわらと火星人たちに群がられて、とうとう2人は失神した。
◇
暗闇。
セリフのみ「……た。……あなた」
男は目を覚まして、ガバッとベッドから飛びおきた(ABどちらでも可)。
男『夢か』
ベッドを降りて歩きだす。奥の台所からはジューッと何かを焼く音と煙が漂ってくる。
男『そうか。もう40年か』
男の足が曲がって細くなり、背中が曲がり、顔が老けていく。洗面所に入り、彼は水道の蛇口をひねる。
男『早いものだ』
水の音を聞きながら鏡に顔を映した男は、火星人と化した自分と対面する。正確には、まだ火星人じゃない。髪が少しあり、顔の造りも若干地球人の面影を残している。
火星人「あなた?」
可愛い火星人。彼の妻。
火星人「どこか悪いの? 大丈夫?」
男「大丈夫、どこも悪くないよ」
近づいてくる妻を、男が軽く抱きしめる。
並んで窓に立って、外を眺める。
妻「まだ帰りたいのね」
不安げな顔。
男「そうじゃない」
柔らかく微笑む。
背後のテーブルに置かれた新聞には“地球活性化計画遅延”という記事が出ている。
男「“朱に交われば赤くなる”ってのは、よく言ったものだと思っただけさ」
外から見たその窓はマンションの高層で、眼下には自然のカケラもない近代都市が広がっている。
空には青い地球が、冷ややかに浮かんでいる。
fin
2006.2.8
『原作×漫画』さん第一回に応募した作品でした。
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