SUMMER SONG 前編


 日が傾いたら、やっと人が引いてきて静かな海になった。もっと人を避けて、あの岩場にでも行かないか? と誘われたのには私も賛成した。その方が、ゆっくり話もできる。
 健太が私を襲うわけがないし、ともタカをくくっていた。
 なのに押し倒されている今の図が、どっちに非があるのかと言えば、やっぱり私かなぁという気がする。彼氏でもない男子と2人で海になんか来るから、バチがあたったのだ。今カレがどこかで恨んでいるのに違いない。
 恨んでくれるような感情を持ってくれてれば、だけど。
 だから、やっぱりバチが当たったんだと思う。
 健太の気持ちを利用して遊んだ私に。

「……なんで抵抗しないんだよ」
 うん。そうだよね。普通はするよね。私、彼氏持ちだからね。
 襲うぞこのヤローと、はしゃいでバランスが崩れて、本当に押し倒された形になった。体勢を崩せずに私は寝転んだまま、健太は私に覆いかぶさったまま動けないでいる。私がイヤだと言えば、いや言わなくても表情さえすれば察して、健太は退いてくれるだろう。ズルいな健太。
 なぜだか顔をそむけているのは健太の方で、私はしっかりと彼の顔を見ている。私には、やましい気持ちなんてない、と主張するように、力いっぱい頑張って彼を見つめている。
 夕暮れの海に赤い日が落ちかかっていて、風も冷たくなってきた。今日もとても暑かったから、逆に夜は寒いだろう。岩場でビキニでなんかいたら、すぐに風邪をひくだろう。Tシャツを脱がなかったのは、健太にハダカを見られたくなかったからか、じらしたいからなのか自分でも分からなかった。

「抱きたいの?」
 真っ向から、まっすぐ訊いた。健太の顔はそむけられたまま。赤くなったのは気のせいじゃないだろう。怒らせちゃった。
 放送部で知り合って気があって友達になった。友達のままでいたら、別の人が寄ってきて言ったのだ。
『あいつと付き合ってるんじゃないのなら、俺と付き合ってよ』
 返事を保留にしてもらって考えて考えて考えて、健太にも相談したけど結局、相談したことが決定打になって、私たちは友達のままでいる。健太は自分で考えろ、と私を突き放したのだ。だから自分で考えて彼を彼氏にした。
 彼氏とは、うまくやってる方だと思う。花火も行ったし遊園地にも行った。映画も観るし、2人カラオケもやっちゃったし。レパートリーある人で、しかもいい声をしてるので、放送部に来てよと言って笑った。
 でも彼氏は「ヤだよ」と苦笑した。
「放送部、健太がいるじゃん」

 お前があいつと友達なのまで止めろとは言わないが、お前の友達と俺が友達にならなきゃいけねぇこと、ないだろ? ちょっと回りくどく、彼は健太が嫌いなことを滲ませてきた。
「深く考えなくていいじゃん、一緒にカラオケしたり花火に行くメンバーが増えれば楽しい、ぐらいに思っとけばいいじゃん」
 これまた、おバカな私が追い討ちをかける。彼は不機嫌になった。
「お前と2人っきりで過ごすのが、いいの」
 ぼそっと、すねて呟いて背中を向けた彼のことを愛しいと思ったのは、初めてだったかも知れない。
 でも、その愛しさを感じた日から少しずつ、歯車が狂ったのだ。いや最初から狂っていた。健太のように意気投合して付き合い始めたんじゃないもの。色々と噛み合わないところを修正して譲歩してすりあわせて、徐々に歩調を整えていったのだ。
 苦労して互いの気遣いを擦りあわせて付き合うことが、恋愛なのかな?
 健太となら何も考えず、息をするみたいに、水を飲むみたいに、欲しい気持ちがもらえるのに。
 その方がとても自然な気がするのに。
 だから「海は苦手」と断られた腹いせも兼ねて、健太と一緒に海へ来たのだ。
 健太との海は想像通り楽しくて、すごくはしゃげた。のに……終演に来て、こんな展開になるとは……。
 ……なるとは、分かっていたかも知れない。

 あの時、健太が自分で考えろと私を突き放したのは、私に選んで欲しかったからだ。と、やっと分かった。誰に誘導されるでもなく自分自身の気持ちで健太を選ぶことを、健太は望んでいたのだろう。
 望みを絶たれて私が彼を選んでも、健太は友達でいてくれた。遊んでくれるし、相談にも乗ってくれる。均衡が崩れないように注意して、友達やってくれてきた。
 どうして私から、均衡を壊しちゃったんだろう?


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