7.

 急ごうと言いつつ、そのまま俺たちは潜んでいた。すると追ってきていたヤツらが通過した。2台のホバー。まんまとハマってくれたようだ。
 やり過ごしたり、逃げきるような、そんなつもりはなかった。
 道中はまだ長い。今こいつらを巻くことができたとしても、どうせコロニー近くに行けば何らかのアクションが出るのだったんだろう。だったら、相手に都合のいいタイミングでなく、少しでもイニシアティブを取りたい。
 通過していったヤツらの後を追って、俺たちも発進した。ヤツらはすぐ、背後のバイクに気づくだろう。そのまま速度を上げて逃げるか、Uターンして俺と対峙するか。
 夜の荒野で追いかけっこするホバーとバイク。
 夜といっても、もう白夜期が近いし、今日は晴れている。ムーンは、恒星と惑星両方からの光によって一日中照らされる時期がある。逆に惑星の影に入ってしまう暗黒期もある。昼夜の感覚など、あってないようなものである。白夜期で幸いだった。
 ヤツらは、すぐ俺たちに気づいた。
 怪光線が飛んできた。
「後者か」
 ごちた俺に、シホが「やっぱり逃げましょう!」と叫んだ。今さら遅ぇっつーの。だから隠れてろって言ったんだ、この甘ちゃんが。
 俺は背中越しに少しだけ笑みを見せてやり、すぐにハンドルを握りなおした。俺は格好悪いことは嫌いなのだ。自分から仕掛けておいて逃げるなんざぁ、みっともなさの境地だぜ。
 でもって負けるのだって、格好悪い。
 惚れた女の前でそんなこと、できるかボケ。
 俺はバイクをふかし、速度を上げる。
 紙一重でレーザーをかわしているうちに気分が高揚してきて、思わず笑いが洩れてしまった。高笑いしたまま、追いついたホバーの側面をけっ飛ばして中の人間を威嚇する。そこに乗る2人の男は、おののいてしまって銃を持つ手が震えていた。当然、照準なんか合わない。俺はさらにホバーを蹴飛ばして壊し、止めてやった。
 弱い。
 頭脳犯ってヤツは、体力はからっきしなのだろうか。やけに普通サイズの男たちで服装も農民かってぐらい地味なもので、目つきも何やら弱々しい。この荒野を生きぬいてきた人間とは思えない顔つきだった。
 こんな簡単に勝てちまったら、何か裏があるのかと思っちまうじゃねぇか……とは思うものの、すんなり勝てるのは気持ちがいい。
 俺も停車しようとした時、ほどなくもう一台がUターンして俺を狙ってきやがった。だが、こっちも大したこたぁない。シホをかばいながら停車しちまったホバーを盾にして攻撃を避けると、俺は中の男を殴りつけて銃を奪い、もう一台を狙った。
 狙ったが、引き金は引けなかった。
「駄目、止めて!」
 シホが飛びだしてきて、俺の腕にしがみついたからだ。
「おい、」
「仲間よ! 父さんなのっ」
 うろたえた俺の言葉をさえぎって、シホが叫ぶ。それと同時に迫ってきたホバーが停まって、中から中年紳士が走りだしてきた。
「志穂!」
 コロニーで見てきた上流階級連中と似た格好をしている男。長旅の中にあっても髭を整え、髪を整えている男が、形相を変えて俺に掴みかかってきた。
「この化け物、志穂を返せ!」
 俺は、俺に浴びせられる言葉を聞いていなかった。いや聞こえてはいるし意味も理解している。体つきが尋常じゃないってだけで、顔は悪くないつもりだったんだけどな、などと、どこかで別の俺がいじけた反応をしている。
 だが実際の俺は呆然としていて動けず、中年のオッサン連中にはがいじめにされており……。
「仲間?」
 ようやく顔を上げることができた時には、シホは泣きそうになっていた。
「生きてたの。父さんたちなの」
「ホバーが炎上したのに紛れて、身を隠していたんだ。娘を助けようとしたら、お前が出てきて連れ去ってしまった。発信虫を飛ばして付着させて、後をつけていたんだっ」
 上流中年が前髪を直しながら立ちあがって、そう言った。俺への侮蔑てんこもりな視線と口調だったが、今は反論する気も起きない。
 シホが完全に上流中年その他の皆さまをかばってしまっているので。
 まぁ、そうだろう。
 オッサンらにしてみれば俺はシホを強姦しかけてた悪党で、シホにとってみても、うち解けてはきていたが俺はただのチンピラだ。
 俺が立ちあがりかけたのを見たオッサンらが殴ろうとしてきたが、それはシホがくい止めてくれた。俺は観念するように諸手を挙げた。
「俺はシホに雇われて、彼女をグロースマーヤーコロニーに連れて行こうとしていたんだ。それはお前らも方向から察してたろ? 貰えるモンさえ貰えりゃあ、俺はここで引き返す」
「……ケヴィン!」
 シホが非難の声を上げた。
「一緒に行きましょう」
「駄目だ」
 と言ってくれたのは、俺でなく上流父ちゃんだった。
「確かにこいつはお前に手を出さなかったが、今後どうなるか分かったものじゃない。何かが起こる前で良かったんだ。ここで別れるべきだ」
 素敵に嫌われたモンである。
 俺だって、仲間とかいうオッサン共々旅をしたいわけがない。シホが無事にグロースマーヤーに到着するなら、それでいい。
 父親は、頷く俺に皮袋を投げてきた。チャリンと音がする、これは金貨だろうか。
「コロニー内や近隣の街でなら価値があると聞いた」
「OK」
 俺は低く言い、中身を確かめもせずに、この連中に背を向けた。長く見ていたい顔じゃない。皮袋に詰まっているのが鉄屑でも何でも良かった。キャラバンから失敬した荷物とバイクがあるしな。当分、生きていくのに困らんさ。
 シホが何か叫んでいるのが聞こえる。でも俺はふり向かずにバイクを発進させた。雛が親元へ帰ったんだ。それだけだ。
 チャラチャラしたバイクの派手さが、今は逆にムカついた。アホみてぇな俺が乗るのに、ぴったりなバイクじゃねぇか。
 誰がつけて来ているのかも知らず、高笑いして攻撃しちまって……。
 格好悪いったら、ありゃしねぇ。


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