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イアナ神戦記番外編
オンライン小説競作企画「大宴会」参加作品
  夕食一幕



 グールという動物がいる。
 四つ足で森を徘徊する主はどう猛で、人間には容赦がない。山を荒らす小動物程度の認識しかしていないのだ。けれどその小動物は時折、仲間を殺していく。だから油断はできない。今もほら、自分の前には醜悪な格好の後ろ足だけで立つ奇妙な小動物が鋭い刃を光らせて立っている──。
 グールは知らない。
 自分の肉が、脂が乗っていて精の付く物だということを。
 自分の皮が加工されて、冬のコートになることを。
 自分の脂がこの小動物らの、霜焼け防止になることを。

          ◇

 そうして戦い討ち取ったグールを街に売って生計を立てている狩人は通常と異なり、敬意と畏怖をこめて『グール狩人』と呼ばれる。ロマラール国内でも数の少ない、力ある者だけがなれる職業だ。当然、騎士や剣士には及ばないものの、謝肉祭の折りには国王に直接グール肉を献上するなどの特権を持つ。
 という、そんな前置きでもつけなければ、到底この者たちがそんなにすごいとは見えない辺りがミソだが。

 自分も手伝って皆で得たそんな獲物を頬ばる赤茶髪の少年は、喜色満面、非常に旨そうにそれを食べる。ワインにつけ込んだ後、串に通して香辛料をたっぷりまぶしたグール肉は、臭みが抜けており、しかも炭火でじりじりと焼いたので狭い台所に香ばしい匂いを振りまいている。
 彼の向かいに座る少女には、その香りは少し脂っぽすぎるようだったが、育ち盛りの少年にはたまらなく香しいもののようだ。
 少年は顎が外れそうなほどに口を開けて、肉にかぶりつく。拳大ほどに切られて串に刺さる3つの塊を一つ、まるごと口に入れんとする勢いだ。だがさすがにまるごとは無理だったので、少年は頭を振って肉を食いちぎる。豪快この上ない。向かいに座る少女の食欲は、さらに減退してしまったようだったが、彼はおかまいなしである。むしろ彼女に、
「お前、もっと食わないと出るとこ出ねぇぞ」
 と無駄口を叩いて鉄拳を食らった直後なので、無視しているような状態である。

 少し繊維のある肉が、ぶちぶちと音を立てる。口から溢れそうな肉汁を、少年が吸い込んで飲みこむ。切り口から立ちのぼる湯気が肉の香りを漂わせながら、木の屋根に染みこんでいく。狭い丸太の家は祖父の代から伝わるグール獲りのせいで床も壁もグールの匂いに包まれている。
 肉の表面に付けられたスパイスの辛みとコクのある肉の甘みが、彼の舌でふんわりと溶け合った。
 自分で獲ったというだけでも嬉しいのに、そのように美味に仕上げられては喜びも一層であろう。仕上げた者としても、息子がそのように食べてくれるのは幸甚というものだ。
「美味しい?」
 つい、聞かずにはいられない。
 だが彼女の本当の息子ではない彼は少しためらってから、
「ええ」
 とか何とかボソリと答えるだけである。するとその隣りに座る同い年の、彼女の本当の息子が赤茶髪をどついておどけた。
「母さん、こいつにそんなこと聞いても無駄。口に入るものは何でも美味しいんだから、クリフは」
 まだ10代も半ばの少年らの口調は荒いが、可愛らしいものだ。こいつ呼ばわりされたクリフは彼の手を払いのけてわめいた。
「母さんの作る料理が“何でも”なんてわけねぇよっ。これは本当に美味しいから美味いっつってんだろがよ、って、あ」
「あ」
「あら」
 勢いで、初めて義母を母さんと呼んでしまったクリフは、それを自分の失態のように気まずそうな顔をした。けれど彼を囲む義父も義母も、食事以上の甘美な言葉を味わったものだった。
 隣りに座る黒髪の友人はニヤニヤするし、向かいの少女も怒ったような顔をしながら笑っている。
 言ってしまった当の本人だけが何のリアクションも思いつかず、明日からからかわれる種が増えたことにげんなりしながら明後日を向いて、肉にかぶりつくだけだった。

fin
2003.10.10




 天城さんちの企画を拝見していて、突発的に思いつきました。
 超短編でヤマもオチもないんですけど;;;



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