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完全ネタバレです。

第一部 ダナ降臨
第2部 マラナ唄
第3部 クーナ遮光


第一部 ダナ降臨

 死の神『ダナ』に取り憑かれた親友オルセイを救う旅。
 複雑に絡み合う糸が一本になった時、人々は恐怖する──。

          ◇

 一章 紫髪の娘〜旅の始まり〜

 クリフォード・ノーマことクリフは、紫色の髪を持つ娘ラウリーの一家、コマーラ家と共に暮らしている。彼女の兄オルセイとは同い年なこともあって、兄弟であり親友であった。
 だがある日、突然オルセイが原因不明の仮死状態になってしまった。クリフとコマーラ家の父は、ラウリーに教えられた「魔道士」に救いを求めた。そして山で遭難してしまった彼らを助けてコマーラ家に訪れてくれたのは、一人の黒いマントの男。魔道士かどうかは分からない。だが魔法を少しかじっているラウリーは、彼を「魔道士だ」と感じた。
 彼はオルセイを目覚めさせてくれた。だがオルセイは別人になっていて、男を「魔道士か」と鼻で笑い、親友のはずのクリフを魔力で蹴散らした。やはり魔道士だったのだ。オルセイと魔道士の力が激しくぶつかり、気が付けば、クリフとオルセイは見知らぬ地に飛ばされていたのだった。
 魔道士はエノアと名乗った。そしてオルセイに憑いたものは「神」だと言った。7神の一人、死を司る神ダナ。エノアはオルセイの後を追ってダナ神を浄化すると言い、オルセイの妹ラウリーもそれに付いていくことを決意した。
 その頃クリフと元に戻ったオルセイは、家路を探して歩くこととなり、こうして、それぞれの旅が始まったのだった。



 2章 金の踊り子〜敵か味方か海賊か〜

 飛ばされたオルセイは元に戻ったものの、自分の中に“何か”がいて、それが東へ行きたがっているので、家には帰れない……とクリフに告白する。クリフは葛藤したが、奇妙な踊り子ルイサと知り合い、いわくつきの海賊船ではあったが東へ行く船を得て、旅立つことを決意した。

 その頃ラウリーと魔道士エノアは、国境である巨大な河も魔法“転移”で飛び越え、北方クラーヴァ国の王都へと入っていた。オルセイに取り憑いた死を司るダナ神の、心臓とも言える“魔石”が東の地にあるのを、彼より早く得るために先回りするというのだ。それを手に入れれば、ダナを浄化させられる可能性が高くなるとエノアは言った。


 3章 白銀の鏡〜停滞している気がする行進〜

 そしてエノアは魔道士ラハウとかいう老婆に邪魔をされつつもクラーヴァ城に入り、そこで「先回り」に使う道具として、神の媒体であるイアナの剣を得ようとする。ところが剣は、持ち主である王子イアナザールと共にさらわれており、城に存在しなかった。エノアは国王に、ラウリーを人質として城に置いて行く代わりに王子を助け出し、その報酬として剣を借り受けるという約束をして、城を後にした。
 エノアはもう一つの道具、クーナ神の媒体である鏡を、それを守る魔法使いウーザが住む西北の森へ、借りに行った。
 エノアのことを覚えていたウーザは、こころよく媒体を手渡したのだった。
「お前の思うようにすれば良い」と言って。


 4章 漆黒の船〜世の中そんなに甘くない〜

 換わって海を渡るクリフらは、踊り子であり海賊の親玉でもあるルイサに、厄介な頼まれ事をしていた。クリフらには当然断る術がなく、東へ行く途中の国、ヤフリナ国の領主に手紙を届けさせられた。ところがこの領主がルイサを裏切ったらしく、クリフらは追われ、殺されかけた。オルセイは無事船に戻ったものの、クリフは囚われの身となってしまった。
 その頃ラウリーは、クラーヴァ城で囚われの日々を過ごし、そこで徐々に彼女付きの召使い、少女リンと仲良くなりつつあった。


 5章 赤光の剣〜いくら何でも、それはない〜

 クリフは北西の国ソラムレアに連れて行かれた。ここでクリフは奇しくも老婆ラハウと、クラーヴァ国から誘拐されてきた王子イアナザールに出会う。クリフは、潜在能力として持っていた魔力の差から、イアナザールの代わりに利用されることになった。ところがクリフが「魔道士」を知っていたことから、クリフはラハウに殺されかけた。その窮地を救ったのは“転移”によって飛んできた魔道士、エノアだった。だがエノアはイアナザールを得ると、その場をクリフにまかせて逃走した。


 6章 鈍色の石〜あっちもこっちも災難で〜

 やけくそになってラハウと闘うクリフを次に救ったのは、反乱軍だった。反乱軍がソラムレア国皇帝を倒さんと、クリフらの騒動に合わせて暴動を起こしていたのだ。船の中でも世話になった反乱軍の男カーティンに助けられたクリフは、ラハウが逃げた後も、カーティンらと共に闘った。そして皇帝の首を取り、イアナの英雄として心ならずとも名を馳せたのだった。

 オルセイの方はその頃、船旅を終えてネロウェン国に入っていた。船を降りることになった海賊の副船長である少女マシャと共に2人旅をしていたのだが、ひょんなことからネロウェン国王ディナティ軍の世話になる。しかしその旅もつかの間、オルセイはマシャを連れて歩けないと判断して軍に残し、また一人、旅だった。


 7章 翠眼の魔道士〜ようやく再会、でも彼は?〜

 無事イアナザール王子を連れてクラーヴァ城に帰参したエノアは、ラウリーと、そこでラウリーが知り合ったリンという少女を連れて、ソラムレア国へ引き返す。そこで旅をするクリフめがけて“転移”をして無事再開できたものの、エノアは力の使いすぎで療養が必要になってしまった。ようやく回復していよいよ明日には“ダナの石”めがけて“転移”ができる、という状態になったその少し前、時すでに遅く、オルセイはダナ神と化していたのだった。


 8章 天上の光〜まさか、こんな終結〜

 ダナはジェナルム国中の平民をすべて操り人形と化して、世界の滅亡をもくろむ。その矢面に立ったのが、ちょうど進軍していたネロウェン軍だった。
 夜明け前に衝突した両軍の戦いは熾烈を極め、そんな中で少女マシャも傷つき倒れる。絶望が鎌首をもたげた時、“転移”してきたクリフがオルセイに対峙し、エノアらが魔法を使ってダナを抑え、戦争を止めた。
 だが、あと少しでダナを浄化できる……という時に、老婆ラハウの邪魔が入り、それに惑わされて剣を止められなかったクリフはオルセイを貫き、オルセイの剣はクリフの腹に入った。
 相打ちだった。
 戦争は終結したものの忽然とオルセイの姿も消えてしまい、深い傷が残り……目的を達成できなかったクリフとラウリーには悲しみだけが残った。



第2部 マラナ唄

 終結後、帰郷への旅。
 だが悲しみは深く……。

          ◇

 一章 ジェナルム鎮魂歌〜それでも、まだ生きているから〜

 戦争の終わったジェナルムから引き上げるネロウェン軍。クリフたちは、ディナティ王に保護された。
 ジェナルムでしばらく政務などに追われた後、一行はネロウェン王都に凱旋する。エノアとリンはその間に、皆の記憶をすべて消して去ってしまった。

 兄を救えなかったことで悲しみにくれるラウリーは、ものを食べようともしない。クリフはそんなラウリーに暴言を吐いて自分に怒りの矛先を向けさせて、彼女を生かそうと試みる。
 クリフは、オルセイを刺した。その怒りにまかせてラウリーは、一度はクリフを殺してしまえば楽になれるだろうか……と思い詰めたのだが、結局それはできなかった。
 そこまで憎みたくなるほどクリフが気になるのは、自分が彼を好きだからだと気付いてしまったからだ。

 そんなラウリーを利用して国王ディナティを暗殺してしまおうと、王弟マラナエバはたくらむ。そしてディナティの元には「部下がフセクシェル家に捕らえられたため、王の力で助けて欲しい」とルイサが嘆願に訪れていた。
 フセクシェル家は、王弟マラナエバを支持している武器商人だった。



 2章 ネロウェン行進曲〜壮大なるお家騒動の中で〜

 フセクシェル家に乗りこむのは、マシャの役目になった。彼女が自分から志願したのである。グール“オルセイ”を連れて彼女は少年のふりをして侵入し、捕らえられているロマラール人──ナザリを発見した。
 彼女もそこでヤハウェイサーム・フセクシェルに捕らえられた。だがこれは計画だった。翌朝にはディナティ王が軍を連れて「ここにマシャ(小姓)がいるはずだ」と攻め入ることになっているのだ。いくらディナティでも証拠のない無実の家に殴り込むことはできない。マシャ自らが「証拠」になったのだ。

 だが翌朝に出陣するはずだったディナティ王は、毒を盛られて生死の境をさまようことに。毒を盛った者はラウリーだった。マラナエバにハメられたのである。
 彼女はディナティを救いたいと泣きついて、クリフまでもが土下座して嘆願し許され、魔法を使うことになった。牢に入れられるクリフ。明朝ディナティ王の命がなかったら、ラウリー共々死刑である。だがラウリーは魔法を見事にやりとげ、ディナティ王を回復させた。

 牢から出されたクリフはディナティの代わりに「イアナの英雄」としてフセクシェル家への進軍に参加することを余儀なくされた。ここぞとばかりに暴れるクリフ。だがその内心では、やけに血がたぎっている、人殺しをしている自分におののいていた。
 ヤハウェイは捕らえられそうなところ「私はディナティ王に毒を盛った真犯人を知っている」と言って罪から逃れようとする。狡猾な取引にネロウェン軍が歯噛みしかけたその時、助け出されて自由になったナザリが突然ヤハウェイを殺害したのだった。
 マシャを人質にしてネロウェン軍の足を止めて逃げるナザリ。ネロウェン軍はとうとう、捕らえられていたこの男が何者だったのかすら知らないままになってしまった。そして連れ去られたマシャはそのまま、ネロウェン国小姓の地位を捨てて、また“ピニッツ”に戻った。

 最後にマシャはディナティ王に会いに行き、別れを告げる。そしてクリフとラウリーは自分たちが引き取ると提案して去ったのだった。
 再び“ピニッツ”に乗りこむクリフ。そして釈然としない、クリフもオルセイを刺した苦しみを抱えたままであることに気付いてしまって彼を憎めなくなってしまったラウリーの2人を乗せて、“ピニッツ”はネロウェン国を後にしたのだった。

 そんな皆はまだオルセイが生きていてダナ神と融合、新たなもくろみに向けてラハウと2人で療養しているところだなどとは、知らないでいる──。


 3章 ヤフリナ狂想曲〜苛々するほど、すれ違い〜

 ラウリーはクリフもまたオルセイを刺したことに苦しんでいることに、ようやく目を向け、彼を憎むことを止めた。彼を嫌いでいた方が自分が楽だったのだ。それを謝るためにラウリーはクリフに話しかけるが、クリフの傷は思いの外深く、ラウリーは拒絶されてしまった。
 クリフは逆に、ラウリーに嫌われていた方が楽だったのだ。許されたくなどなかった。オルセイを殺した罪は消えないから。

 そんな2人のすれ違いをよそに、船はヤフリナ国に到着し、新たな火種に近づいていた。今回は偵察だけ──と前置きしながら調査にクリフを駆りだす“ピニッツ”の船長ナザリ。しかし、この事件に首を突っこみたいと願い出たのは、クリフの方だった。
 ヤフリナ国テネッサ・ホフムの港に、ソラムレア国皇帝の遺産である正規軍が駐留していて、しかもその正規軍海軍を、反乱軍が倒しに来ているというものだったのだ。クリフの関心は当然、反乱軍に向いた。しかも軍の中に、自分に良くしてくれた男カーティンがいるとなれば、もう無視はできない。
“ピニッツ”が反乱軍に加担することになり、ラウリーも自分にできる力『魔力』で手助けすることを決めて、とうとう戦争が開始したのだった──。

二部3章の戦争状況ネタバレ相関図


分かりにくいかも;
しかもでかくて、すんません……;



 4章 海上行進曲〜一難去って、また一難〜

 戦争の目的は、敵船に捕らえられているソラムレア国最後の王族、13歳の少女ユノライニを救いだすことだった。王族をソラムレア反乱軍の象徴にすえて、国が完全に反乱軍の指揮下になったことを誇示したいがためである。
 敵船に潜入したラウリーとルイサがユノライニ王女を助けだす。それを援護する形で反乱軍と“ピニッツ”、ヤフリナ国でテネッサに反発する平民団体もが戦争に加わって、大乱闘を起こした。クリフはまっさきに突っこんで行き、脱出に失敗した彼女たちと合流して、ラウリーとユノライニが魔法で船底に穴を空けることで逃げおおせた。
 この時ルイサが正規軍側に捕らえられてしまった。だが反乱軍に味方することを決めたユノライニが魔法で正規軍に目くらましをぶつけ、クリフを走らせてルイサを取りもどした。

 しかし、ここに思ってもみなかった男が出現する。オルセイである。
 ダナと融合して変わり果てたオルセイは軽く皆をいなしてから、援軍到着のどさくさに紛れてラウリーを連れ去ってしまった。
 その直後に、今度はエノアが現れた。お前を連れに来たと言われ、その行き先はオルセイのいる場所だと聞いて、一も二もなくクリフは決意した。エノアからイアナの剣を渡される。クリフはエノアによって消されていた記憶を、すべて思いだした。だがそれでも、クリフはオルセイを殺したくなかった。ラウリーを救いだせたら、敵前逃亡でも構わなかった。
 誰も死なずに済む方法を欲しがるクリフに、エノアがぼそりとダナの媒体を探すことだと口にしてしまった。他の神と違って媒体がないダナの神石を、本来の媒体であった“盾”にはめこむことができたら、オルセイが救えるかも知れないらしいのだ。しかし神石を治めるにふさわしい盾は10年かかっても探し出せないかも知れない、とエノアは言い、やっぱりラウリーにダナを転移させて封じる方法を譲ろうとしない。2人の意見は平行線のまま終わってしまった。行った先の状況による、ということになったのである。
 エノアが“転移”の準備をする夜にクリフは“ピニッツ”との別れを惜しみ、盛大に騒いだのだった。マシャに、またラウリーと一緒に会いに来ると約束して。


 5章 クラーヴァ行進曲〜思いがけず、派手な決戦〜

 そこはクラーヴァ城の地下だった。地下というものがあると知らずにいたイアナザールの記憶が戻り、そこにはラハウがいるようだと気づく。王都中の魔法師と魔法使いを集めてラハウの“封印”を開いたイアナザールは、腹心ノイエと共に地下へと降りる。
 ほどなくしてクリフとエノアも降りたち、イアナザールが到着した石部屋では決戦がくり広げられていた。オルセイとクリフのどちらに味方すべきかを悩んだイアナザールだったが、オルセイが精神的な言葉でクリフを追いつめているのを聞き、決意してオルセイを襲う。そこにリンとケイヤも到着して、場は混乱しそうなほどに荒れた。
 そんな中、オルセイがイアナザールを串刺しにした。クリフがオルセイに対峙する。だがエノアが「ラハウを斬れ」と命じた。ラハウが元凶だ。クリフは渾身の力を込めて老婆に剣を振りおろした。
 だが、その剣をラウリーの声が止めた。剣の先にはリンがいた。ラハウをかばって立っていたのだ。危うくリンを殺すところだったクリフの手からイアナの剣が落ちた。そんなクリフをオルセイが殴りつける。それをラウリーが飛びこんできて、かばう。オルセイはラウリーを避けてクリフだけを斬りすてようとした。
 そこへ、またも飛びこんできた者がいた。
 ラウリーの世話をしていた侍女、ミヌディラだった。彼女はオルセイに心酔していた。そしてオルセイが人を斬ることを止めたのだ。止めることができた満足感に包まれながら、彼女は死んだ。オルセイが退いた。
 しばしの時間を与えようと言って消えたオルセイの真意は掴めない。しばしの時間がどれほどのものなのか、その後に何が起こるものなのかも分からない。ただ、今は生きているということだけを噛みしめて、ミヌディラの死を胸に抱いてラウリーは泣いた。それをクリフが抱きしめる。言葉はなかったが、広く熱い胸に抱かれて、ラウリーもそれを抱きしめたのだった。


 6章 ロマラール婚礼曲〜見た目だけは大団円〜

 戦闘は終わったが、問題は山積みだ。結局いつまたオルセイがラウリーをさらいに来るかも知れない状況が続いているため、ラウリーはエノアが描いた魔法陣の加護のもとで暮らすことになった。それと同時にラウリーはそこで魔法の修行もできることになった。魔法陣の描かれた場所はクラーヴァ城の大広間だった。
 クリフとエノアは共に旅立って神の媒体を探すことになった。魔道士の村と袂を分かったエノアはクラーヴァ城広間の魔法陣を使って“遠見”と“転移”を繰り返し、地道に探索する旅になると言う。時々は互いに会えることになるのだが、そう聞いたことへの心中は、クリフとラウリー、共に複雑だった。
 ラウリーはまたクリフがよそよそしくなってしまったことに悲しみと諦めを覚え、クリフは、オルセイへの後ろめたさと自分の気持ちに戸惑っていたためだった。

 だがクリフが負傷したイアナザールの影武者として、リュセスとの婚礼に狩り出されることになったことによって、それを理由に近づいたラウリーが勇気を出してクリフに告白し、ようやく、2人のぎこちなさは氷解した。ラウリーは自分に素直になると決め、クリフは今ある自分の気持ちにだけ従えばいいと悟る。先のことなど分からない。
 分からないとはいっても、この先もずっと一緒に生きて行こうと誓うことができた。
 オルセイのことも、共に。




第3部 クーナ遮光

 一章 真実のクーナ〜すべてがここから始まった〜

 人類創世記。人類というには小規模で、創世というには随分と地味に、人はじわじわ増えていった。最初に生まれたクーナが神からニユを得て夫婦となり、子を作った。
 子が子を産んで増えていき、やがて分裂して歪みが生まれ、破滅を呼んだ。イアナの向上心とマラナのイアナに向ける愛情が、ダナに憎悪を植えつけ、それは、解消されることなく現代に受け継がれている──。
 2年近くが経過してもなお、クリフらはオルセイを元に戻す決定打を見つけられずにいた。見つかったのはライニの水瓶だけである。どこかに存在するらしいダナの盾には、神石がないので魔力が微弱で、到底見つけだせない。そうこうしているうちに日照りの日々が世界中の食糧事情を悪くして、大規模な恐慌を生みつつある……と、いう情報を、クリフらは手にした。
 その被害が一番激しいネロウェン国ではすでに水も枯れ果て、王みずからが井戸を掘るまでになっている。絶望を感じる乾いた土に、王ディナティは思わず、目前に現れたダナ神オルセイの手を取ってしまった。それが数多の血を流す手だと知っていて、握手をしたのだ。
 一度「戦争だ」と心に決めたディナティに、もはや迷いはない。そんなネロウェン国の状況を耳にしたマシャたち“ピニッツ”は、ディナティを説得しに行くことを決意する。ディナティの選択に満足したオルセイは一度ラハウの元へ帰り、束の間の平和を味わう。壊れる直前とは、何もかもが美しく見えるものだな──と。
 そんな兄の『気』を一瞬だけ感じたラウリーだったが、結局クリフらが“転移”して行くのは、止められずに終わってしまった。それが永の別れになるとも思わず。



 2章 慈愛のマラナ〜とうとう勃発、いきなり最悪〜

 戦争は一瞬の閃光から始まった。ヤフリナ国に舞いおりたオルセイが有力者を殺害し、ヤフリナ国王に宣戦布告を突きつけたのである。この報は世界中に広がり、クラーヴァ国にいるクリフらの耳にも入った。しかし“転移”の予定は崩せない。クリフとエノアの目的はあくまで「対ダナ」なのだ。そこはイアナザール王も理解してくれており、二人は予定通りに旅立った。ただし予定になかったメンバー、リニエスを連れて。“転移”の直前にしがみついて来たのだ。
 誰が感じた嫌な予感だったのか。それは的中した。オルセイがクリフらを待ちかまえていたのである。ラウリーに頭痛を与えるほどの魔力を放出して、2人を召喚したのだ。オルセイに躊躇はなかった。戦うしかないのかと剣を構えたクリフだったが、エノアが起こした“転移”によって無理矢理クラーヴァ国に送り返される。
 エノアは一人でラハウとオルセイを相手に奮闘した。オルセイらは容赦なくエノアを襲う。戦闘中、リニエスが身を以てエノアをかばったことによって、ラハウの動きが止まった。一瞬だったが、それで充分だった。エノアは目くらましのナイフを飛ばした直後に、彼らに渾身の魔法をぶつけた。オルセイには逃げられたが、ラハウは死んだ。
 逃げたオルセイは“転移”で、クリフを追ってクラーヴァへと飛んでいた。胸にはエノアのナイフが深々と刺さっており、今にも死にそうになっている。ラハウの魔力が切れたこともあった。オルセイの中にいる『ダナ』が暴走しかかっているのだ。
 青い顔のままオルセイは、対抗しようとするクリフを傷つけていじめ抜いて、ラウリーに「一緒に来い」と言う。クリフは「行くな」と言う。兄が妹に対して見せた誠実さと、親友に対して見せる残忍さに胸を打たれて、ラウリーはオルセイの手を取った。最後に一言だけ……とばかりに伸ばした手は、クリフと触れあえないまま“転移”で連れて行かれた。
 クリフは数日後に戻ってきたエノアとリニエスを迎えながら、再びオルセイに挑むことを決意したのだった。


 3章 幸運のナティ〜やると決めたら、とことんやるぜ〜

 ネロウェン国ディナティ王の下に、侵入者が訪れた。マシャだった。彼女はあの手この手でディナティに戦争を止めるよう説得したが、決意しているディナティには揺れる気配がない。会話は決裂してしまい、マシャは追われるはめになった。
 そんなマシャを助けたのは、ラウリーだった。ラウリーはすでに、強化された自分の魔力を用いて参戦することを決めていた。他の魔法使いや同じく参戦を決めた魔道士シュテルらと共に『魔軍』として戦場に出たラウリーは、間もなくダナの魔女と呼ばれるようになった。
 ラウリーの噂を聞いたクリフは苛立つ。彼はエノアと共に、対ソラムレア戦へ参加していた。ネロウェン国がヤフリナ国を攻めるのと同時期に、ソラムレア国がクラーヴァ国の辺境を攻めてきたのである。ネロウェンの兵を使って。2方向からの同時攻撃だったのだ。
 クリフらの参戦理由は「『気』が乱れて、ダナの盾が完全に探せなくなったから」と「エノアと同じ魔道士のシュテルナフが戦争に加担していると知ったため」であった。エノアの方針として、強大な魔力が人に影響を及ぼすのを良しとしていないのである。
 クラーヴァ対ソラムレアの戦争が始まった。クリフは群を抜いて駆けぬけた。ラウリーの姿はなかった。現れた魔道士によると、彼女は本命のヤフリナへと飛んだとのこと。お前も送ってやると言われるが、クリフはこれを断った。順番がある。


──続く


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