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継続 2.
いや戦友と言うのは、間違いかも知れない。 彼らは、全く戦わなかったのだから。 「どうして……」 と言ったきりのトマジの顔は、酔いが醒めて一気に白くなっていた。 どうして俺のところに来たのか。どうして俺がここにいることを知ったのか。どうして今ごろ会いに来たのか。 そんな様々な問いが交錯してしまって、それ以上言葉にならなかったのだろう。 「今もまだ、ルガイヤ様の下で働いていたんだな。城への出入りをしてないから、探すのに苦労したよ」 特にさほどの苦労もしていなかったが、ガルダンはそう言って少し口の端を引いて見せた。その表情、その口調で、トマジにはガルダンの変化が分かった。ずっと会っていなかった仏頂面の少年の変貌は、思ったより強烈な印象をトマジに与えたらしい。彼は驚愕に目を見開いた。 トマジのそれは、良い意味での驚きになったらしい。 ガルダンに対して警戒していた彼の心に多少余裕が生まれ、昔聞いた流ちょうな軽口が少し戻った。 「こんな時間にこんな風に会っておいて、偶然とは言わないだろうな? 俺に何の用があるんだ? お前さんの件でルガイヤ様には大目玉くらっちまって、俺は出世街道を外されたんだぜ」 トマジはガルダンが何をどこまで知っているのかを知らなかったので、あえて盗賊の名は出さなかった。ガルダンはトマジの言う「出世街道」がどれほどのものだったのかと内心思いながら、肩を竦めたのだった。 「偶然じゃないさ。あんたのいる場所くらいなら、調べれば分かる。ここの2階に寝泊まりしてるんだろう?」 ガルダンは自分の話す速度を変えず、最初の問いにゆっくりと答えた。まくし立てて人を煙に巻くのが彼の論法らしい、とは、昔話した時の記憶で学んであったので、ガルダンはわざと彼のペースを崩そうとしたのだ。 彼が口をはさもうとする隙だけは押さえて、ガルダンは言葉を続けた。 「俺が今日ここに来たのは、あんたを雇おうと思ったからさ」 素っ頓狂な回答に、案の定トマジは絶句した。 ガルダンは少し大袈裟なほどに顎を引きながら、机に肘を突いて神妙な顔をした。重大な発言が飛び出るかの仕草に、自然とトマジも頭を下げる。 「近々ルガイヤ様が、反乱を起こされるつもりだ」 「何?」 トマジは思わず呟いてしまってから、口をつぐんだ。そんな話は聞かされていないと、自分から暴露したようなものだった。聞いていなくて当然である、ガルダンのハッタリなのだから。 正確にはガルダンとボーン、2人の計画だった。トマジは出世出来ずに金銭的にも苦しいはずなので、自分がルガイヤに完全に信用されなくなったのだと思えば、傾くはずだと言うのがボーンの言い分だった。 だが“反乱”があながちハッタリでもないのかも知れないと思っている為、ガルダンの言葉は真剣味を帯びて、トマジに疑われる余地はなかった。 店のおかみが注文を取りに来たそれに、何の躊躇もなく麦酒を頼んだガルダンのことを、感慨深げな顔で見ている。3年は早いようで長い。 「奴隷のクグライバル人を使って、大きなことをしようとしている」 「暴動?」 「多分」 全くそんな確証はないのだが、トマジの読みが当たっているふりをして、ガルダンは頷いた。彼に花を持たせて話に引き込むことが大事だからだ。実際は“反乱”も“暴動”も言葉を換えただけで意味は同じものだったが、自分の言葉を肯定されたトマジはやる気を見せて、目の色を変えた。 ガルダンが続けた。 「けれど、奴隷たちをルガイヤ様が直接指揮してる訳じゃない」 「部下にやらせてるんだろ」 「いや、」 そうじゃなくて、と言いかけてガルダンは詰まり、少し考えてから言葉を変えた。 「ルガイヤ様が持つ権限だけでは、国中の奴隷を操ることは出来ない、と思わないか?」 「それが出来る人間がいるってことか?」 ガルダンは頷いた。「そうじゃない」とトマジの言葉を真っ向から否定するのを避けたのは、正解だった。トマジが目をそらして考え込んだので、ガルダンは控えめに答えを言ってみた。 「例えば……大司教様」 「あり得る」 俺もそう思っていたとばかりに、トマジが飛びついた。ガルダンはトマジが完全に“こちら側の人間”になったと思った。だがまだ油断は出来ない。 「奴隷を操って大司教様と共に反乱を起こし、国を乗っ取る……。大がかりだな」 「国境の盗賊を使って隣国の動きを抑えてるのも、その為なんだろう」 「え。ガルダン、お前……」 知っていたのか、まで言えずに絶句したトマジに、ガルダンは頷いて見せた。 「ボーン様が教えてくれた」 「そうか」 放心したトマジの表情は、安心か諦めか。盗賊の名に気を使っていたトマジは、目に分かるほど肩を落としたのだった。 「ルガイヤ様とボーン様は、仲違いしてるのか?」 「ああ。あの一件の後、すぐだって聞いた。知らなかったのか?」 ガルダンの問いに、トマジは今度は苦笑して肩を竦めて見せたのだった。ルガイヤという男の、人となりが伺える瞬間だった。部下に何も言わないのだ。 ガルダンはかいつまんで説明した。 ルガイヤとボーンが対立状態になり、ルガイヤは、ボーンを陥れようとしているのだ、と。自分はその為に利用され、はめられた。何とかして反撃したいのだと語った。 むろん実際にそれが全てルガイヤの策略なのかどうかの確証もなく、憶測でしかない。だがガルダンは、これをもっともらしく話した。中途半端な話し方では、トマジに不信感を抱かせるからだ。 彼にはしっかりと自分を信用してもらい、ルガイヤの屋敷へ侵入してもらわなければならないのだから。 「これが成功すれば、間違いなくルガイヤ様は牢獄行きか追放だろう。王に楯突いているんだから。そしたら働きを認められて恩賞も出るし、地位も上がる。――ルガイヤ様に付いていたんじゃ、この先ろくなことがないぜ」 砕けた物言いで説明を締めくくったガルダンは、ニヤリとして見せた。多少ぎこちなかったが、それよりトマジの頭には「恩賞が出るし、地位も上がる」と言うガルダンの甘言が強く残ったようで、半ば中空を見つめながら口を開けていた。 「お前なら、昼間堂々と屋敷に出入りも、出来るだろ」 「まあな」 トマジはまんざらでもない顔をした。左大臣の屋敷に、まだ顔パスで入ることが出来るというのが、彼のささやかな誇りなのだろう。裏口の出入りだが。 ガルダンは顎を引いて、睨むほど真剣な顔を作った。 「お前にしか、出来ないことなんだ」 |