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進出 4.
少数精鋭という言葉が、とても空々しかった。 逆に考えれば、ガルダン程度の子供が参加出来る部隊なのだ、その30人ほどの隊列が端から見ても“精鋭”でないことは、軍にうとい町の人間でも分かりそうな気がした。 本当に戦う気があるのだろうか、とさえ思える。 王の側近であり左大臣も努めているのだとか言う、この隊の隊長に収まっている男、口は達者だがどうも戦闘向きの体に見えず、機敏そうでないのが気になるのだ。挙げ句自分のような隊一番の若輩に偵察なぞを押し付けて、本隊がさっさと村に引っ込んでしまうのだから、猜疑心は募るばかりである。 だが、隊の半数ほどはちゃんとした騎士だったし、剣士や弓士も混ざってはいたが、全員がなにがしかの武器を使え馬にも乗れる人間ばかりである。まぁそれなりの隊とは言えよう。 馬を休められるぎりぎりの休憩だけを取って進んで来た長旅に、ガルダンの疲労は溜まっていた。上手くなって来たとは言え1日中馬に乗り通しでは、まだ小さいガルダンの体が保たないのだ。なのに彼が選ばれ、隊と別行動になって街道をうろつかされるはめになった。ガルダンが一番若くて偵察に見えないだろうと言う理由らしい。 何かあった時には矢を放てと、弓士が同行している。自分と何歳も違わない若い弓士で心もとなかったのだが、それは自分の方が若いので、文句は言えない。しかしこの男何が楽しいのか、ニコニコとしながら馬を操っている。体が大きくて馬を御しやすい為か弓を背に負っているだけなので身軽なのか、余裕があるらしい。こんな考え方は精神的に良くないだろうなと思いつつもガルダンは、きっと遊び半分で隊に参加したのだろうな、と内心毒づいてしまった。 「大丈夫か?」 だがすぐに返答出来ず、疲れの為に能面が保てなくて目を座らせた。 「何だよ、お前若い奴だから心配してやってるのに」 “やっている”という言い方がさらにガルダンの気に触り、顔をそむけてしまった。つくづく人付き合いが下手だと思いつつも、笑顔になれない。男は肩を竦めて、唇を尖らせた。 トマジと名乗るこの男との行動になってすでに、3日がたとうとしていた。ここ数日は良くない天気が続いていて、視界も悪い。山の麓の天候がこのように荒れるものと思っていなかったガルダンの体力を、さらに奪って行った。今日はまだ晴れているが、かろうじてと言う程度の空だ。今のガルダンの心境にも似て、どんよりと重かった。 偵察と言っても、連中のアジトの目星をつける為の情報収集にとどまっており、確たる証拠は掴めていなかった。それが疲労に拍車をかけているのだ。加えてトマジと2人であると言う点も、疲れの原因かも知れないとガルダンは思うのだった。最初は1人で行動するよりマシだと思っていたのだが、そのうち1人の方がマシかも知れないと思えて来た。 トマジは表情をくるくるとよく動かし、身振り手振りまで入れながら話しかけてくれる。ガルダンの態度をあまり気にすることもなく。 そして話す内容と言えば、隣りに住んでいるおばさんは自分の5倍あるだとか、雨が降るのはその地方の人間が8人以上悪いことをした時だなどと言う、耳を貸す価値もなさそうな話ばかりなのだ。自分の身の上話でもしてくれるならまだ聞けるが、ガルダンが興味を持てる話題は飛び出さない。かと言って彼もガルダンのことを根ほり葉ほりと聞く訳ではなかったので、その点は楽だったが。 トマジの言葉を半ば聞き流しながら、ガルダンはぐるりと街道を見回した。 街道と言っても、山道だ。整備されておらずデコボコと、王都の平坦な道に比べ、別世界のような荒野である。緑が少ないのは王都もここも同じだが、ここの方が更に木々が少なく、大きな岩などもあって道の先が分かりにくい。坂になっているので気を抜けず、疲れは溜まる一方で、2人はつい注意散漫になっていた。 「おい、人の話を聞いてんのかよ、お前」 もう何度目になるだろうかという台詞を、雑談の合間にトマジは入れる。 ガルダンも、もう何度目になるだろうかと言う、 「聞いてるよ」 という返事を、溜め息混じりに返した時だった。 ヒュンと何かが、2人の丁度間に落ちて来たのである。 「え?」 トマジの口がぱっくり開いたまま、凍った。 運良く馬にも引っかからなかったが、土に矢が突き立ったのだ。当然トマジの物ではないし、隊の誰も持っていないタイプの矢だった。岩陰からこちらに飛ばされて来たらしい。前方の大きな岩は少し丘になっていて、誰かが隠れていても分からない風な作りになっていた。そこから出た物と見て間違いはなさそうである。威嚇ではなく、明らかに自分たちを狙って撃って来た物だった。 なのに、そう考えつつ後退したガルダンの視界の端には、馬から降りて矢を確かめているトマジの姿が映ったのだ。ガルダンは愕然とした。 「トマジ、引け!!」 「うわっ?!」 ガルダンの叫びに吸い寄せられたかのように、次の矢が飛んで来た。先ほどの物と同じ。殺す気である。だが幸い、この矢も外れた。 ガルダンは馬を退かせながら、腰に手を触れた。が、あるはずの物がなくて、手が空振りした。偵察という理由で商人の格好をさせられ、武器も外されてしまっていたのだ。あるのは、馬に下げた荷物の中に短剣1本きり。動きながら、取り出せる訳がない。 岩陰から人が飛び出したのが見えた。5人だ。だが馬に乗っていないので、逃げ切れれば大丈夫である。 「トマジ、乗れ!」 だがトマジはガルダンを見ず、連中に釘付けになっていた。 「盗賊だ!」 「奴らが?!」 トマジの叫びに、思わずガルダンも止まった。 その瞬間! 「うっ!」 飛んで来た矢がガルダンの腹に突き刺さった。 「ガルダン! あっ!」 ガルダンの上げた叫びに気を取られたトマジまで、矢の犠牲になってしまったらしい。 だがガルダンはそのまま気を失いかけて馬から転げ落ちてしまい、頭を打って完全に気絶してしまって、“らしい”とまでしか分からなかったのだった。 |