3.

 ジェミネは、自分の口に押しこまれるボウル一杯の苦虫を感じた。
 まだアイツやアイツでないだけマシだったかーという思いはぐるぐるするものの、目前に立った人物にだって見つかりたくなかったことには違いない。

 男は寸法の合わない改造バイクをふかしながら、ヘルメットを脱ぐところだった。
「改造」と「ヘルメット」が妙にアンバランスなのだが、昔ノーヘルで誰々が死んだとか何かで、そういう部分に律儀なのだ。の割には、格好はライダースーツなどではなく、汚いGパンと肩までまくりあげてるTシャツだったりするのだが。
 中から出てきた茶色い頭と日焼けした顔は、案外と普通である。
 自分じゃ良い男だと言いはっているヤツなのだが、その辺ジェミネは、このベルスという男は普通よりちょっと下と厳しく評価していたりする。以前にバイクに乗ってる時だけ良い男だよと言ったら怒られた。ヘルメットをしているのだから。

「何だよ、お綺麗なカッコして。デートか?」
 ジェミネは何と言えば良いのか言葉なく、取りあえずベルスを睨むしかなかった。しかし、そんな険悪な空気をぶち壊してくれたのはワシュレイ本人だった。
 天使のようなニッコニッコの笑顔で、ベルスに右手を差しだしたのだ。
「初めまして、ジェミネの友達だね。僕はワシュレイ。彼女に危ないところを助けてもらったんだ。お礼も兼ねて僕のおごりで、今日一日の観光をお願いしたんだよ」
「は、はぁ??」
 あまりに場にそぐわないワシュレイの天使笑顔と天使声に、ベルスは毒気を抜かれたらしい。ジェミネは内心、気持ちは分かるよとベルスの肩をぽんぽんと叩きたい気分になった。こいつはこういうヤツなんだ。
 まだ2〜3時間しか一緒にいないが、ワシュレイの天然さ加減を掴みつつあるジェミネだった。

 で、王子というところだけ伏せて上手く説明しちゃったワシュレイに、ベルスはすっかり気を許したようだった。
 というか相手が全額持ちの観光というのが、おいしすぎるためである。
「用心棒だよ用心棒」
 などと言って嫌がるジェミネを説きふせてしまい、ベルスはまんまとワシュレイに取り入ってしまったのだ。ワシュレイの方もあいかわらずのノホホン顔で、
「遊び相手は多い方が楽しいよ。僕、友達っていなかったから」
 とベルスを受けいれてしまった。
 何だか思わず疎外感を感じてしまうというものである。だって仮にも男女のペアだったわけだし、どこの病院のお世話だか知らないが、見た目は見目麗しい坊ちゃんだし金は持ってるし。それが急にジェミネだけポイされたような空気になってしまったのだ。
 ワシュレイはそれに気づいたのかどうか知らないが、
「行こうよ」
 とジェミネに手を差しのべてくれた。でも、素直にその手を掴む気にはなれなかった。

 ベルスという男の正体を知っているためもある。
 ただの遊び人、自分と同じ、ただのサボリ野郎に見えるが、犯罪まがいのことだってやっている。ワシュレイに近づいたのだって何を考えているか分からないのだ。
 自分は、学年は違うけど同じ学校だし裏街道にも少しは顔があるので、ベルスに殺されるようなことはないだろう。だが彼がワシュレイに対してカツアゲや誘拐をやらかしたら、それを止めるだけの勇気と力を、ジェミネは持っていない。

 意気揚々と意気投合して(いるように)見える2人の背中を追いかけるジェミネは、呪文のように「自分には関係ない」とくり返した。


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