2.

 で、結局どうなったかといえばジェミネは彼の言うなりになるしかなく、しぶしぶ観光に付き合わされているような次第だった。

「こんな昼間の時間にうろついてる子なんて、学校に行ってないかサボリかのどっちかだろ?」
 しれっとワシュレイは聞いてくる。
「失礼ね、学校には行ってるわよ」
「じゃあ後者だ」
 ぐうの音も出ない。
「で、万年筆をずっと物色してた。書き味を試すでもなく、ね」
 ずっと観察されていたらしい。ジェミネはうなるしかなかった。
 こうして奇妙なデートが始まったのだ。

 それこそ、映画のように。
 あれは何ていう映画だったかなぁとジェミネは考える。アパートに一つだけある腐ったテレビが映していた、シンデレラストーリー。街のあばずれが金持ちに拾われて綺麗になっていくなんて、そんなこと、現実にあるわけがない。
 だからジェミネは、自分に起こっているそれも夢だと思うことにした。
「まぁまぁ綺麗になりましたよ! とっても可愛らしいこと!」
 一流ブランドのお洒落な店長が自分を誉めるだなんてそんなこと、現実なわけがない。鏡の中の自分らしき女の子だって、到底これが自分だとは思えなかった。

 黒髪はこれまでになく最高に、艶やかに光っている。ウェーブが強調してあって、これでワシュレイと同じブロンドだったら、間違いなく童話のお姫様だ。髪を半分留めている髪留めが宝石のようにキラキラしている。
 膝丈でノースリーブのワンピースは、可愛すぎず大人すぎない、微妙な色気があって。淡いピンクなんて人生上、一度も着たことがなかったというのに。けれど一時間前に自分が着ていたグレーのTシャツとGパンは「雑巾」と言われて捨てられて、これを着るしかなくなっていた。
「強引だったかい? ごめんね、でもそうでもしないと君は着替えてくれそうになかったから」
 さほど悪いと思っていないような彼の口調が、癪に障る。けれどいちいち怒っているのも疲れると察して、ジェミネは怒りを抑えることにした。
 今日一日なのである。こいつのお人形になっておけば服も貰えて美味しいものも食べられるのだ。明日には夢だったと思えば良い。その頃に、この坊ちゃんがホテルにいようが異国にいようが病院にいようが、自分には関係ないことだ。

 ジェミネは、たまには早起きも面白いなぁと思っただけだった。
 学校には、ほとんど行っていない。悪友がいるのでたまには顔を出すけれど、夕方から深夜まで続くレストランのバイトだけで、くたくたになってしまうので、朝は寝ていることが多い。体を売る方が手っとり早く金になることは知っていたが、ジェミネはそこまでのふんぎりが付かないでいる。
 飲んだくれの父か病気がちの母のどっちかが死んだら……。そしたら自分は開放されるのだろうか? と思うことがある。

 そうしてドレスアップしたジェミネを連れて、王子様は街のすべてを吸収しようとせんばかりに、精力的に動いた。時々、少し疲れたような様子も見せるので「無理しないでよ王子様」とジェミネは揶揄したものだったが、それでもワシュレイの行動力は落ちなかった。
 教会やら図書館、博物館に、かと思えばアミューズメントパーク……。

「あっ待って。ここは、ちょっと」
 ジェミネは言いよどんだ。知った顔がいる可能性があったからだ。
 大通りからは少し奥まった場所にある大きなゲームセンターだが、ゲーセンであることには違いなく、ジェミネが持つ空気と同じ、すえた臭いが漂っている。ワシュレイには似つかわしくない。
 それに自分のこの格好を見られたら、何を言われるか。どちらかといえば、その気持ちの方が大きい。
「あっちに行きましょ」
 名残惜しそうにしているワシュレイを引っぱるジェミネだったが、それが手遅れだったことに気づくのは、その直後だった。

「よう。ジェミネじゃねぇか」


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