Act 1 (波の揺り籠)


 3.

 住む町が、町である。
 港町と言っても、広い海岸が多い訳でもない。日本海側は大きな港を起こしにくいためもあり、山と崖に挟まれて、町はのどかなものである。
 しかし、2・300人が泳げる程度には、この町にとてスペースも宿もある。現地集合で充分可能な、目と鼻の先の海岸でバスを降りた美海は、厚子が「まだスキーの方が良い」と言った意味が分かった様な気がしたのだった。ここには、女子高生らがドラマを観て憧れるシチュエーションが、かけらもなかった。
「まぁ、良いじゃないの。あんたは泳ぎたかった訳だし」
 慰める様に、厚子が美海の肩に手を置いた。
「慰められる憶えはないよ」
「あんた今、明らかに絶望の顔したよ」
「え」
 美海は、ばつが悪そうに彼女を見た、が。
「想像してた感じと違ったんでしょ? それとも、帰りたくなった? 不安になって」
 の言葉に、ついかっとなって大声を上げた。
「そんなことないもん、絶対泳ぐもん!」
 洵や祖父の顔が脳裏を駆け巡ったため罪悪感が湧いて、美海の声は必要以上に大きくなってしまった。慌ててちぢこまったが、聞きつけた同級生の1人がにやにやしながら寄って来るではないか。美海は厚子を見て困った顔をし、厚子は、挑戦的な目で彼を見た。
「溺れたら、人工呼吸してやるぜ」
「すっこんどれ、お前は!」
 厚子がしっしと手を振り、美海も嫌そうな顔で一歩退いた。
「どうしてそう言う、下品なネタしか出て来ない訳? あんたは」
「下品じゃなく、さり気ない愛の告白とでも言ってくれ。安心しろ、お前は溺れても見殺しにしちゃる」
 前川隆顕(まえかわたかあき)はふふんと厚子を指さして言った。しかし厚子も負けてはいない。
「そうねぇ、あんたも一緒に海の底に引きずりこんでやるから、人助けどころじゃなくなるもんね」
「俺は溺れないの。これでも水泳は得意なの」
「あ、じゃあ、あんたによじ登ったら良いんだ。何たって溺れないらしいし。美海、こいつの背中に乗ったら、楽できるよ。頑張れ、亀! 何なら竜宮城まで泳いだら?」
「何じゃ、そりゃ!」
「そうか、道理で背中は広いわ、亀みたいな顔してるわと思ったら、あんた、亀が化けてたのね」
「いい加減にせい、何なんだ、亀みたいな顔ってのは!」
「それ」
 当たり前の様に彼の顔を指さす厚子の毒舌に、前川は屈した。詰まってしまった彼に、厚子は斜め上からの冷たい視線を投げた。
「まだまだ甘いわね。ここで私の顔はヒラメじゃないか位、言い返せる様にならないと」
「厚子、厚子、それは違うって」
 ボケツッコミ講座になりつつあった口論を聞いていた美海は、何となく呟いてしまった。
「あなた方、良いコンビだわ」
「コンビじゃないよ、こんな奴とぉ」
 台詞が見事に重なった。

  



  

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