直木賞のすべて
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第20回

山本周五郎賞

=受賞者=
恩田 陸
森見登美彦

=候補者=
恒川光太郎
伊坂幸太郎
楡 周平


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 平成18年/2006年度
 (平成19年/2007年5月15日決定発表/『小説新潮』平成19年/2007年7月号選評掲載)
選考委員  浅田次郎 北村薫 小池真理子 重松清 篠田節子
選評総行数  221 210 204 215 189
評言 評言 評言 評言 評言
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
恩田陸 『中庭の出来事』 評言 37 25 18 47 32
森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』 評言 47 109 59 37 35
恒川光太郎 『雷の季節の終わりに』 評言 27 13 32 39 30
伊坂幸太郎 『フィッシュストーリー』 評言 48 40 39 63 18
楡周平 『陪審法廷』 評言 38 19 37 31 60
         
見方・注意点

このページの選評出典:『小説新潮』平成19年/2007年7月号
1行当たりの文字数:19字


選考委員浅田次郎×各候補作  見方・注意点
迷わずご成約 総行数221 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
恩田陸 全委員 37 「まことに気宇壮大である。べつに壮大なストーリーテリングを用意しているわけではないのに、築き上げた世界が大きいのである。」「良いものは必ず、現実の尺度では計測できぬイメージの大きさを感ずるものである。(引用者中略)この作品は今までのどれにもまして大きかった。」「このごろ氏は、人間の本質を見つめる目を持った。」「これは迷わずご成約である。」
森見登美彦 全委員 47 「年齢とキャリアから察するに、この建築家の才覚はなまなかのものではない。古典的な素材をふんだんに使用して、少しも衒いを感じさせぬ。自由闊達な表現をしながら放埓に流れず、思想性や求心力には欠けるものの、決定的な破綻は見当たらない。」「すぐれた建築にはストーリー性のダイナミズムが必要である。この一作品を鑑賞した限りでは、氏にそうした資質があるかどうか不明であった。」「この物件については保留」
恒川光太郎 全委員 27 「門と玄関が気に入った。」「期待に胸を膨らませて履物を脱いだのだが、廊下を歩むうちに興が醒めてしまった。」「こうまで状況説明に終始する表現が続くと、この種の趣味にたまさか合致する人以外は受けつけぬであろうと感じた。」「想像力は天与のものである。しかし技術や意志は人為である。ゆえに氏は、今後いかようにでも傑作を創造する資格を、すでに有していると言える。」
伊坂幸太郎 全委員 48 「たしかに居心地はよい。熱心な愛好者が数多いという事実も、むろんわからぬでもない。」「氏の表現のことごとくを長所と感ずるか短所と感ずるかによって、この物件の評価は真向から対立することになる。」「ひとことで言うなら、この矛盾せる対立の根源は「苦悩の不在」であろうか。」
楡周平 全委員 38 「第一印象として、アプローチが悪すぎる。玄関を入ってしばらくの造作が、どことなくぞんざいに感じられた。」「それぞれの人間関係を描く「情」の造作はすこぶる不器用なのだが、社会のしくみや裁判や法律について客観的に描写する「知」の造作に至ると、まるで別人のような実力を発揮するのである。」「何よりも真面目で全力を費した労作である。そうした点に少なからぬ敬意を抱きつつ、これは購入することとした。」
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他の選考委員
北村薫
小池真理子
重松清
篠田節子
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選考委員北村薫×各候補作  見方・注意点
あれよあれよ 総行数210 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
恩田陸 全委員 25 「朦朧たるところこそが、優れた味である。その独特の浮遊感が、まことに心地よい。」「これを他の作家が書いて、同様の浮遊した安定を得られたかどうか。そういう意味で、まことに恩田陸らしい作といえる。」「この作で受賞する、ということに意味があるだろう。」
森見登美彦 全委員 109 「『夜は短し歩けよ乙女』を推す。」「これはもう、一段階、完全に抜けていて、どれかひとつとなったら論をまたない、という思いであった。」「粗筋を聞いたら、腹の立つような話が、読んでみると、まことに魅力的なのだ。まさに、そこにこそ、小説の魅力、――いや、この場合は、そんなところは軽々と飛び越えて《魔力》といった方がいい――それが、あるからだ。」
恒川光太郎 全委員 13 「読み進むにつれ気になったのは、全体のバランスの悪さだ。特に、後半は、この倍は必要ではないか。」「あるいは、これは、《穏》の物語という大きなサーガの、ひとつの断片なのか、とも思わせられる一編だった。」
伊坂幸太郎 全委員 40 「伊坂さんという作家は、実に選考委員泣かせだと思わせられた。というのは、人物再出法の評価についてだ。」「後半二作が見事だと思う。」「しかし、総体としての印象は、どうしても弱くなる。つまり、この一冊だけで、賞に推す気にはなれなかった。」
楡周平 全委員 19 「余分なものを極端に切り落とした、直線的な作だ。テーマを明確に語りたいという意図があるから、そうなるのだろう。」「裁判の経過が、要領よく書かれていて、一気に読ませる。」「一方で、すらすらと読める物語だからこそ、直線に、もう少し膨らみを求めたい気も起こらないではなかった。」
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他の選考委員
浅田次郎
小池真理子
重松清
篠田節子
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選考委員小池真理子×各候補作  見方・注意点
健やかな力 総行数204 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
恩田陸 全委員 18 「『夜は〜』と僅差で同時受賞が決まった」「人生とは舞台であり、現実というのは劇場である、という作者の想いが伝わってきて、私は、この作品をトリッキーな、入れ子構造的な側面よりも、観念的な側面で高く評価した。」「難を言えば、全体が長大すぎて、とりわけ、会話部分にくどさが感じられたことか。」
森見登美彦 全委員 59 「個人的にはこの作品を強く推したい、と思ったのだが、正直なところ、選考会が始まるまで他の委員の反応が読めなかった。」「ひとたび蓋を開けてみたら、各委員ともに、高く評価し、短時間のうちに文句なしの受賞作に決まった。」「単に物語や仕掛けの面白さというよりは、むしろ、私はこの作品に通奏低音のように流れている「健やかさ」に感心した。」「読んでいて、気持ちがひたすら明るく、温かくなる作品でもある。」
恒川光太郎 全委員 32 「構成の立て方が手慣れていて、フラッシュバックの使い方も巧妙な作品だった。」「幼さが目立ち、小説的魅力が削がれているような気がした。」「「小説におけるファンタジー性とは何か」という問題に関して、今ひとつ、作者の認識が甘かったせいだろうと思われる。」「ファンタジーの側面だけが強調されすぎると、どうしても、現実世界とのギャップが目立ち、不自然な印象が残ってしまう。」
伊坂幸太郎 全委員 39 「これまでの伊坂作品を読んでいない読者には、正しく解読することが難しい作品と言える。」「その種の遊戯は、あくまでも一部の愛好家たちの間に限ってのみ、行われるべきことであり、決して普遍化はできない、ということをそろそろ学んでほしいと思う。」「読み進めていくにつれ、決まって綻びが目立ってくるのはどうしたことだろう。」「せっかくの小説的才能を、作者自身が手軽に使いきってしまおうとしているように見えるのは、私だけだろうか。」
楡周平 全委員 37 「全候補作中、私が最もすらすら読めたのは、この作品であった。リズム、テンポ、共にこなれていて、無駄がない。」「しかし、登場人物が、あまりにもステレオタイプであり過ぎた。」「何よりも、研一がクレイトン殺害に至るまでの描写が、あまりにも杜撰すぎた。」「研一の内面に、どれほど複雑な思いが錯綜していたかを丹念に描かぬまま、本筋に突入してしまったことが、この作品の大きな失敗であった。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
重松清
篠田節子
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選考委員重松清×各候補作  見方・注意点
読者として。選考者として。 総行数215 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
恩田陸 全委員 47 「読み手は幾度となく既読部分の読み直しと読み替えを求められ、ときに途方に暮れながら、虚構の中に没入する醍醐味を堪能できる。」「読み手は客席という安息の地を与えられ、舞台で繰り広げられる役者たちの謎解きめいたカーテンコールを眺めることができる。その大団円を「読者」としても「選考者」としてもとても好もしく感じながら、しかし「読者」とはワガママなもので、宙吊りにされた不安を保ったままの終わり方もありえたのではないか、という思いも残るのだ。」
森見登美彦 全委員 37 「森見さんは視点をヒロインの側にも割り振った。これ、ほんとうはとても危険で難しい試みだと思うのだ。」「森見さんはみごとに「一人称の天然」を描ききった。種明かしになりかねない内面へと無防備に足を踏み込むことなく、それでいて決して物足りなさは感じさせずにヒロインを造型し、描写した。その筆力(なのかヒロインや物語そのものへの愛なのか)にただただ敬服して、授賞への一票を投じたのだった。」
恒川光太郎 全委員 39 「とても大きな世界、大きな物語の始まりを感じた。」「ところが、物語は後半で転調し、失速してしまう。」「なにより〈私〉を追い詰めるムネキの存在感が弱い。」「前半の物語に最も深い陰影を与えてくれていた雷季は、回想の中で出てくるだけで、再び描かれることはなかった。ああ、もったいない、と何度つぶやいたことだろう。」
伊坂幸太郎 全委員 63 「一冊の中での結構をたくらんで編まれた作品集ではない。だからこそ期待するところ大だった。」「「読者」として本作を愉しんだことは確かなのだ。」「その愉しさは、もしかしたら『ラッシュライフ』や『重力ピエロ』をすでに読んでいることに担保されているのかもしれない。」「先行作品の参照や援用なしに向き合った場合、僕には残念ながら本作を「受賞作品」として推すことはできなかったのである。」
楡周平 全委員 31 「動きつづける現実の諸相を物語に焼き付けるべく、綿密な取材と覚悟とを持って執筆に臨んだはずの作者の姿勢に、まずは深い敬意を表したい。」「殺人事件の描き方やとらえ方は、いささか性急に過ぎたのではないか。」「判決の大きな要因となったものが「情」である以上、その「情」のバックボーンとなる殺人の動機や背景についても批評の目を向けざるを得なくなる。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
篠田節子
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選考委員篠田節子×各候補作  見方・注意点
上質さと普遍性と 総行数189 (1行=19字)
候補 評価 行数 評言
恩田陸 全委員 32 「この作者の構築的な持ち味がいかんなく発揮された作品である。」「ストーリーではなく論理、キャラクターではなく記号、それらを造形的かつ美的に組み合わせ、世界を読み解こうという高度な遊びの精神が、「中庭の出来事」という小説の最大の魅力ではないかと思う。」
森見登美彦 全委員 35 「冒頭数ページのお調子ものの比喩と言い回しに白けながら、しかし読み進むに従い、作者の豊かなイメージ世界と尋常ならざる言葉の巧みさに、引き込まれていった。」「幻想的ではあってもグロテスクさや回転性の眩暈を誘うような不快な混乱はない。こちらの予想を裏切りながら、物語はすこぶる心地よく、収束した。」「作者はセンスも語り口もぬきんでたものを持った方のようでもあり、この先、様々なテーマと題材に果敢に取り組まれ、私たちを楽しませてくれることを期待している。」
恒川光太郎 全委員 30 「「穏」という少年の育った世界は、コンミューンや宗教団体に置き換えて読むとなかなか興味深い。」「大きな骨格を持ったファンタジーであり、少年の成長物語でもあるのだが、どうにも既視感がぬぐえない。せっかくの作り込んだ世界と冒険の物語が、ゲームや翻訳ファンタジー小説、アニメに重なってくる。」
伊坂幸太郎 全委員 18 「私にとっては意味不明の作品だった。」「候補となった作品が、これまでに出た伊坂さんの本のサイドストーリーのようなもので、それらの本をあらかじめ読み、前提を理解した上でなければ読み解くことができない内容だったらしい。逆に言えばこうした本が出るほど、伊坂ワールドに魅せられたファンが多いということでもある。それを思えば、あながち不運な結果とも言えまい。」
楡周平 全委員 60 「圧倒的なリーダビリティと、明快なテーマを持つ、力強く誠実に書かれた作品だった。」「極めてよくできた事例研究書でもあり、読み手に、思考すること判断することを迫ってくる小説だ。」「この小説は既存の法廷ミステリ、ましてや一般的な文芸作品とは作者の意図するところが異なっており、それらの判断基準で計ることはできないだろう。」「作品の力は十分に認めるが、しかし文章的な荒さは気になる。」「こうした作品こそもっと多くの方に読まれてほしいと思う。」
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他の選考委員
浅田次郎
北村薫
小池真理子
重松清
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恩田陸『中庭の出来事』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 37 「まことに気宇壮大である。べつに壮大なストーリーテリングを用意しているわけではないのに、築き上げた世界が大きいのである。」「良いものは必ず、現実の尺度では計測できぬイメージの大きさを感ずるものである。(引用者中略)この作品は今までのどれにもまして大きかった。」「このごろ氏は、人間の本質を見つめる目を持った。」「これは迷わずご成約である。」
北村薫 全候補 25 「朦朧たるところこそが、優れた味である。その独特の浮遊感が、まことに心地よい。」「これを他の作家が書いて、同様の浮遊した安定を得られたかどうか。そういう意味で、まことに恩田陸らしい作といえる。」「この作で受賞する、ということに意味があるだろう。」
小池真理子 全候補 18 「『夜は〜』と僅差で同時受賞が決まった」「人生とは舞台であり、現実というのは劇場である、という作者の想いが伝わってきて、私は、この作品をトリッキーな、入れ子構造的な側面よりも、観念的な側面で高く評価した。」「難を言えば、全体が長大すぎて、とりわけ、会話部分にくどさが感じられたことか。」
重松清 全候補 47 「読み手は幾度となく既読部分の読み直しと読み替えを求められ、ときに途方に暮れながら、虚構の中に没入する醍醐味を堪能できる。」「読み手は客席という安息の地を与えられ、舞台で繰り広げられる役者たちの謎解きめいたカーテンコールを眺めることができる。その大団円を「読者」としても「選考者」としてもとても好もしく感じながら、しかし「読者」とはワガママなもので、宙吊りにされた不安を保ったままの終わり方もありえたのではないか、という思いも残るのだ。」
篠田節子 全候補 32 「この作者の構築的な持ち味がいかんなく発揮された作品である。」「ストーリーではなく論理、キャラクターではなく記号、それらを造形的かつ美的に組み合わせ、世界を読み解こうという高度な遊びの精神が、「中庭の出来事」という小説の最大の魅力ではないかと思う。」
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他の候補作
森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』
恒川光太郎 『雷の季節の終わりに』
伊坂幸太郎 『フィッシュストーリー』
楡周平 『陪審法廷』
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森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 47 「年齢とキャリアから察するに、この建築家の才覚はなまなかのものではない。古典的な素材をふんだんに使用して、少しも衒いを感じさせぬ。自由闊達な表現をしながら放埓に流れず、思想性や求心力には欠けるものの、決定的な破綻は見当たらない。」「すぐれた建築にはストーリー性のダイナミズムが必要である。この一作品を鑑賞した限りでは、氏にそうした資質があるかどうか不明であった。」「この物件については保留」
北村薫 全候補 109 「『夜は短し歩けよ乙女』を推す。」「これはもう、一段階、完全に抜けていて、どれかひとつとなったら論をまたない、という思いであった。」「粗筋を聞いたら、腹の立つような話が、読んでみると、まことに魅力的なのだ。まさに、そこにこそ、小説の魅力、――いや、この場合は、そんなところは軽々と飛び越えて《魔力》といった方がいい――それが、あるからだ。」
小池真理子 全候補 59 「個人的にはこの作品を強く推したい、と思ったのだが、正直なところ、選考会が始まるまで他の委員の反応が読めなかった。」「ひとたび蓋を開けてみたら、各委員ともに、高く評価し、短時間のうちに文句なしの受賞作に決まった。」「単に物語や仕掛けの面白さというよりは、むしろ、私はこの作品に通奏低音のように流れている「健やかさ」に感心した。」「読んでいて、気持ちがひたすら明るく、温かくなる作品でもある。」
重松清 全候補 37 「森見さんは視点をヒロインの側にも割り振った。これ、ほんとうはとても危険で難しい試みだと思うのだ。」「森見さんはみごとに「一人称の天然」を描ききった。種明かしになりかねない内面へと無防備に足を踏み込むことなく、それでいて決して物足りなさは感じさせずにヒロインを造型し、描写した。その筆力(なのかヒロインや物語そのものへの愛なのか)にただただ敬服して、授賞への一票を投じたのだった。」
篠田節子 全候補 35 「冒頭数ページのお調子ものの比喩と言い回しに白けながら、しかし読み進むに従い、作者の豊かなイメージ世界と尋常ならざる言葉の巧みさに、引き込まれていった。」「幻想的ではあってもグロテスクさや回転性の眩暈を誘うような不快な混乱はない。こちらの予想を裏切りながら、物語はすこぶる心地よく、収束した。」「作者はセンスも語り口もぬきんでたものを持った方のようでもあり、この先、様々なテーマと題材に果敢に取り組まれ、私たちを楽しませてくれることを期待している。」
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他の候補作
恩田陸 『中庭の出来事』
恒川光太郎 『雷の季節の終わりに』
伊坂幸太郎 『フィッシュストーリー』
楡周平 『陪審法廷』
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恒川光太郎『雷の季節の終わりに』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 27 「門と玄関が気に入った。」「期待に胸を膨らませて履物を脱いだのだが、廊下を歩むうちに興が醒めてしまった。」「こうまで状況説明に終始する表現が続くと、この種の趣味にたまさか合致する人以外は受けつけぬであろうと感じた。」「想像力は天与のものである。しかし技術や意志は人為である。ゆえに氏は、今後いかようにでも傑作を創造する資格を、すでに有していると言える。」
北村薫 全候補 13 「読み進むにつれ気になったのは、全体のバランスの悪さだ。特に、後半は、この倍は必要ではないか。」「あるいは、これは、《穏》の物語という大きなサーガの、ひとつの断片なのか、とも思わせられる一編だった。」
小池真理子 全候補 32 「構成の立て方が手慣れていて、フラッシュバックの使い方も巧妙な作品だった。」「幼さが目立ち、小説的魅力が削がれているような気がした。」「「小説におけるファンタジー性とは何か」という問題に関して、今ひとつ、作者の認識が甘かったせいだろうと思われる。」「ファンタジーの側面だけが強調されすぎると、どうしても、現実世界とのギャップが目立ち、不自然な印象が残ってしまう。」
重松清 全候補 39 「とても大きな世界、大きな物語の始まりを感じた。」「ところが、物語は後半で転調し、失速してしまう。」「なにより〈私〉を追い詰めるムネキの存在感が弱い。」「前半の物語に最も深い陰影を与えてくれていた雷季は、回想の中で出てくるだけで、再び描かれることはなかった。ああ、もったいない、と何度つぶやいたことだろう。」
篠田節子 全候補 30 「「穏」という少年の育った世界は、コンミューンや宗教団体に置き換えて読むとなかなか興味深い。」「大きな骨格を持ったファンタジーであり、少年の成長物語でもあるのだが、どうにも既視感がぬぐえない。せっかくの作り込んだ世界と冒険の物語が、ゲームや翻訳ファンタジー小説、アニメに重なってくる。」
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他の候補作
恩田陸 『中庭の出来事』
森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』
伊坂幸太郎 『フィッシュストーリー』
楡周平 『陪審法廷』
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伊坂幸太郎『フィッシュストーリー』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 48 「たしかに居心地はよい。熱心な愛好者が数多いという事実も、むろんわからぬでもない。」「氏の表現のことごとくを長所と感ずるか短所と感ずるかによって、この物件の評価は真向から対立することになる。」「ひとことで言うなら、この矛盾せる対立の根源は「苦悩の不在」であろうか。」
北村薫 全候補 40 「伊坂さんという作家は、実に選考委員泣かせだと思わせられた。というのは、人物再出法の評価についてだ。」「後半二作が見事だと思う。」「しかし、総体としての印象は、どうしても弱くなる。つまり、この一冊だけで、賞に推す気にはなれなかった。」
小池真理子 全候補 39 「これまでの伊坂作品を読んでいない読者には、正しく解読することが難しい作品と言える。」「その種の遊戯は、あくまでも一部の愛好家たちの間に限ってのみ、行われるべきことであり、決して普遍化はできない、ということをそろそろ学んでほしいと思う。」「読み進めていくにつれ、決まって綻びが目立ってくるのはどうしたことだろう。」「せっかくの小説的才能を、作者自身が手軽に使いきってしまおうとしているように見えるのは、私だけだろうか。」
重松清 全候補 63 「一冊の中での結構をたくらんで編まれた作品集ではない。だからこそ期待するところ大だった。」「「読者」として本作を愉しんだことは確かなのだ。」「その愉しさは、もしかしたら『ラッシュライフ』や『重力ピエロ』をすでに読んでいることに担保されているのかもしれない。」「先行作品の参照や援用なしに向き合った場合、僕には残念ながら本作を「受賞作品」として推すことはできなかったのである。」
篠田節子 全候補 18 「私にとっては意味不明の作品だった。」「候補となった作品が、これまでに出た伊坂さんの本のサイドストーリーのようなもので、それらの本をあらかじめ読み、前提を理解した上でなければ読み解くことができない内容だったらしい。逆に言えばこうした本が出るほど、伊坂ワールドに魅せられたファンが多いということでもある。それを思えば、あながち不運な結果とも言えまい。」
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他の候補作
恩田陸 『中庭の出来事』
森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』
恒川光太郎 『雷の季節の終わりに』
楡周平 『陪審法廷』
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楡周平『陪審法廷』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 38 「第一印象として、アプローチが悪すぎる。玄関を入ってしばらくの造作が、どことなくぞんざいに感じられた。」「それぞれの人間関係を描く「情」の造作はすこぶる不器用なのだが、社会のしくみや裁判や法律について客観的に描写する「知」の造作に至ると、まるで別人のような実力を発揮するのである。」「何よりも真面目で全力を費した労作である。そうした点に少なからぬ敬意を抱きつつ、これは購入することとした。」
北村薫 全候補 19 「余分なものを極端に切り落とした、直線的な作だ。テーマを明確に語りたいという意図があるから、そうなるのだろう。」「裁判の経過が、要領よく書かれていて、一気に読ませる。」「一方で、すらすらと読める物語だからこそ、直線に、もう少し膨らみを求めたい気も起こらないではなかった。」
小池真理子 全候補 37 「全候補作中、私が最もすらすら読めたのは、この作品であった。リズム、テンポ、共にこなれていて、無駄がない。」「しかし、登場人物が、あまりにもステレオタイプであり過ぎた。」「何よりも、研一がクレイトン殺害に至るまでの描写が、あまりにも杜撰すぎた。」「研一の内面に、どれほど複雑な思いが錯綜していたかを丹念に描かぬまま、本筋に突入してしまったことが、この作品の大きな失敗であった。」
重松清 全候補 31 「動きつづける現実の諸相を物語に焼き付けるべく、綿密な取材と覚悟とを持って執筆に臨んだはずの作者の姿勢に、まずは深い敬意を表したい。」「殺人事件の描き方やとらえ方は、いささか性急に過ぎたのではないか。」「判決の大きな要因となったものが「情」である以上、その「情」のバックボーンとなる殺人の動機や背景についても批評の目を向けざるを得なくなる。」
篠田節子 全候補 60 「圧倒的なリーダビリティと、明快なテーマを持つ、力強く誠実に書かれた作品だった。」「極めてよくできた事例研究書でもあり、読み手に、思考すること判断することを迫ってくる小説だ。」「この小説は既存の法廷ミステリ、ましてや一般的な文芸作品とは作者の意図するところが異なっており、それらの判断基準で計ることはできないだろう。」「作品の力は十分に認めるが、しかし文章的な荒さは気になる。」「こうした作品こそもっと多くの方に読まれてほしいと思う。」
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他の候補作
恩田陸 『中庭の出来事』
森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』
恒川光太郎 『雷の季節の終わりに』
伊坂幸太郎 『フィッシュストーリー』
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