直木賞のすべて
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第29回

吉川英治文学新人賞

=受賞者=
佐藤亜紀

=候補者=
首藤瓜於
辻村深月
恒川光太郎
中島京子
山田深夜


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Last Update[H20]2008/4/22

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 平成19年/2007年度
 (平成20年/2008年3月6日決定発表)
選考委員  浅田次郎 伊集院静 大沢在昌 高橋克彦 宮部みゆき
選評総行数  68 79 82 63 73
評言 評言 評言 評言 評言
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
佐藤亜紀 『ミノタウロス』 評言 17 32 14 20 10
首藤瓜於 『指し手の顔―脳男II』 評言 9 19 10 12 6
辻村深月 『名前探しの放課後』 評言 11 8 17 17 10
恒川光太郎 『秋の牢獄』 評言 8 8 12 7 10
中島京子 『冠・婚・葬・祭』 評言 8 8 14 6 21
山田深夜 『電車屋赤城』 評言 6 7 15 6 23
         
見方・注意点

このページの選評出典:『小説現代』平成20年/2008年5月号
1行当たりの文字数:20字


選考委員浅田次郎×各候補作  見方・注意点
華麗なるデカダン 総行数68 (1行=20字)
候補 評価 行数 評言
佐藤亜紀 全委員 17 「仰天小説である。仰天は悪い比喩ではなく、読みながら思わず天を仰いで感嘆することしばしばであった。」「登場人物はみな性格破綻者なのだが、その破綻ぶりを破綻なく描き切るのは並大抵の力量ではない。」「美と醜とが同義をなす華麗なるデカダンの美学に、文句なしの拍手を送る。」
首藤瓜於 全委員 9 「のっぴきならぬ知力と体力を感じさせる作品である。ただ(引用者中略)小説が映像の代償物であってはならない。その点が露骨に過ぎて、面白くとも推すことはできなかった。」
辻村深月 全委員 11 「表現様式を模索している段階の作品であろう。しかし章立てに使用している名作をきちんと読みさえすれば、その問題はたちまち解決されるはずである」「あえて難点をひとつ挙げれば、冗長な友情物語がメインストーリーを終始脅かし続けているという、全体の不均衡である。」
恒川光太郎 全委員 8 「非凡なアイデアを感じさせる。つまり、非凡な才能である。しかし、惜しむらくはそのアイデアを物語として拡げてゆく力、文学として掘り下げてゆく力を欠いている。わかりやすく言うなら、嘘と哲学の不足である。」
中島京子 全委員 8 「小説に完成度を求める意志が欠けている。そのぶん読みやすくもあり、親しみも感ずるのだが、かつて『イトウの恋』で発揮した審美眼が忘れ去られていることも、もしや資質を見誤っているのではあるまいかと懸念させた。」
山田深夜 全委員 6 「ユニークな演歌小説として読んだ。かつて『ぽっぽや』という同工異曲の演歌を聞いた記憶がある。」「一概に比較はできまいが、演歌の文学的昇華という点では後者(引用者注:『ぽっぽや』)のほうがよいと私は思う。」
  「今回の候補作のすべては、初出が雑誌等の連載である。」「作家を健全に育てるために、なかんずく小説の読者を奪還するためには、単行本を上梓する目的のみのこうした発表の手順を、再考する時機なのではあるまいかと思った。」
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他の選考委員
伊集院静
大沢在昌
高橋克彦
宮部みゆき
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選考委員伊集院静×各候補作  見方・注意点
ただならぬ新人の登場 総行数79 (1行=20字)
候補 評価 行数 評言
佐藤亜紀 全委員 32 「読みはじめた時、妙な予感を抱いた。」「作者は私たちをどこに連れて行ってくれるのだろうかとおおいに期待した。」「近代がいかに人間臭いものからはじまり、なかば偶発的に突入したという歴史観がここにある。しかし文中にそんなことは一行も書かれていない。そこが作者のただならぬ才能なのである。」「読み手をあきさせない物語の構成、文章はなみなみならぬ力量である。」
首藤瓜於 全委員 19 「読みごたえのある大作だった。」「強く推す委員があれば私は賛同する決意で選考会にのぞんだ。私が本作を一番手に推せなかったのは、この大作を読み終え本を閉じた時、各章で感じた覚醒にも似た感動がひとつの潮流として捉えられなかった点だった。」「最終章でもっと語ってしかるべきだったのではないか。」
辻村深月 全委員 8 「以前、この賞の候補になった作品に比べると文章も磨かれ、登場人物も活き活きとしていた。ただ今回、これほどの分量で書き積んで行った作品が最終章の結末のためにあったように感じさせてしまったのが私には惜しまれた。」
恒川光太郎 全委員 8 「大変にセンスの良い短編集で小説の筋の良さは候補作の中でも光っていた。」「この上質な作品が受賞にいたらなかったのは選考会が持つ独特な流れであった気がする。作品自体の力は遜色なかった。」
中島京子 全委員 8 「安定感のある佳作揃いの短編集だった。人間の生の区切りを中島さんの持ち味である軽妙さでまことに上手く捉えている。私は授賞に強く推したが他選考委員を押し切るまでには及ばなかった。」
山田深夜 全委員 7 「(引用者注:『冠・婚・葬・祭』と共に)授賞にむけて話し合われた」「作者の純粋さがこれほど各所にあらわれる小説を私はひさしぶりに読ませて貰った。好感を持った。」
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他の選考委員
浅田次郎
大沢在昌
高橋克彦
宮部みゆき
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選考委員大沢在昌×各候補作  見方・注意点
実力と可能性と 総行数82 (1行=20字)
候補 評価 行数 評言
佐藤亜紀 全委員 14 「圧倒的な筆力で他の候補作を凌駕した。」「会話にカゴカッコをまるで使用していないにもかかわらず、登場人物の体臭が押しよせてくる。」「無理な難癖を承知でいうなら、現代の日本人である読者と、物語がどこも交差しないことくらいか。」「しかしそれは打ちのめされた選考委員の弱々しいぼやきのようなものだ。」
首藤瓜於 全委員 10 「警察内部の軋轢や精神医療に関する描写など、物語の本筋とあまりかかわらないエピソードが多く、進行を阻害していた。取材で得た知識を詰めこみすぎ、濃淡のない絵画のような仕上がりになってしまった。」
辻村深月 全委員 17 「ラストのどんでん返しが許せなかった。同じ推理小説家であるのにこんなことをいってよいのかとは思うが、無理にミステリー仕立てにする必要があったのだろうか。」「エピローグがなければ、心地よい青春小説として読めた筈の作品が、むしろ後味の悪いものにかわってしまった。これだけの人間が、長期間、舞台劇のように息の合った芝居をつづけられるとはとうてい思えない。」
恒川光太郎 全委員 12 「ひと言でいうなら“薄い”作品集だった。奇妙な味の作品を集めているのだが、それが読み手の恐怖や不安につながってくるほどの毒を含んでいない。」「ただ感じたことがひとつある。表題作で、一度は集まるようになった「リプレイヤー」が、またバラバラになっていくという作者の感性は、私とは明らかに異なる世代の人間観である。」
中島京子 全委員 14 「ああ、もう、また! とくやしくなった。中島さんにはよく知らないことを書く際に、不用意な描写をしてしまう悪い癖があり、それがいつも“あと一歩”の場面で足を引っぱる。」「もっとワキを締めて下さい、としかいいようがない。」
山田深夜 全委員 15 「候補作中、最も好感を抱いた作品だった。「誰もが善人で、けんめいに小さな幸せを願っている」という構造は、単純ではあるけれど、まっとうに生きること、己の仕事に誇りをもつこと、の尊さをまっすぐ読む者の胸につきつけてくる。」「この人は伸びる、と主張し、多くの選考委員もそれに同意して下さったが、作品が著者の人生経験を色濃く反映したものであることが、逆にためらいを生んだようだ。」
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他の選考委員
浅田次郎
伊集院静
高橋克彦
宮部みゆき
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選考委員高橋克彦×各候補作  見方・注意点
密度の濃さ 総行数63 (1行=20字)
候補 評価 行数 評言
佐藤亜紀 全委員 20 「個人的な好き嫌いだけで言うなら、私には主人公たちが飛行機を手に入れるまで、ただただ少年たちが時代の波に翻弄されるだけの冗漫な物語に思え熱中できなかった。主人公に芯の通った志が感じられない。」「しかし飛行機の登場で少年たちが力を得、がらりと背景が変わる。それからは文句なしに面白くなる。」「もし私が選考委員でなければ果たして肝心の最後まで読んだだろうかと疑問が残った。」「密度の濃さと描写力の確かさから『ミノタウロス』への授賞に賛同した。」
首藤瓜於 全委員 12 「(引用者注:『ミノタウロス』『名前探しの放課後』と同様)後半の大サスペンス、あるいは大ドンデンのために前半が用意されている。(引用者中略)後半に差し掛かると驚愕や意外性の連続で思わず身を乗り出してしまうのだが、読んだ後、果たしてここまで隠さなければいけない前半であったか疑問が生まれる。」
辻村深月 全委員 17 「(引用者注:『ミノタウロス』『名前探しの放課後』と同様)後半の大サスペンス、あるいは大ドンデンのために前半が用意されている。(引用者中略)後半に差し掛かると驚愕や意外性の連続で思わず身を乗り出してしまうのだが、読んだ後、果たしてここまで隠さなければいけない前半であったか疑問が生まれる。」「ドンデンの目で最初から見直せば、とても成立しない物語と思えてくる。」
恒川光太郎 全委員 7 「十分なレベルに達していたが、似た味わいの物語が続く。そして落ちが日本ホラー小説大賞に輝いた『夜市』のそれと較べて切れに欠ける。」
中島京子 全委員 6 「ことに最後の短編が光っていた。これはホラーの新しい扉を開くものと評価できる。が、さすがにこの一編だけでは佐藤(引用者注:亜紀)さんの力作と肩を並べることができなかった。」
山田深夜 全委員 6 「好もしい連作と感じたが、最も大切と思える赤城の視点での物語がないのに不審と失望を覚えた。種のない果実を味わった気持ちとなった。」
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他の選考委員
浅田次郎
伊集院静
大沢在昌
宮部みゆき
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選考委員宮部みゆき×各候補作  見方・注意点
選評 総行数73 (1行=20字)
候補 評価 行数 評言
佐藤亜紀 全委員 10 「圧勝でした。圧勝して当然の傑作です。」「佐藤亜紀さんの筆力に、まさに脱帽いたしました。」
首藤瓜於 全委員 6 「脳男サーガ起承転結の「承」で、明らかに三作目への橋渡しと、物語世界の拡大の役割を果たしている作品です。単体で文学賞の候補作として評価を云々されるべきではないと、私は思いました。」
辻村深月 全委員 10 「物語が進んでいくうちに登場人物が生き生きと成長し、結果として、作者が用意していたミステリーの枠組みに収まらなくなってしまいました。」「作者が伸び盛りであるしるしです。辻村さんには、この結果を気に病んで、小さくまとまったりしないでほしいと思いました。」
恒川光太郎 全委員 10 「いつもながら、恒川さんの“異界”の着想と描写力は魅力的です。」「残念だったのは、『秋の牢獄』を全体として見たとき、やや淡い印象があったことです。三作ではなく五作収録されていたらどうだったかな、などと考えてしまいました。」
中島京子 全委員 21 「今回は早い段階から二作受賞の議論になるだろうと思っていましたので、(引用者注:『ミノタウロス』の他に)『冠・婚・葬・祭』も推すつもりで選考会に臨みました。勝手ながら自信もありました。」「四つの短編が緩くつながりつつ、もたれ合うことなく、ひとつひとつに、誰かに読んで聞かせたくなる文章がありました。」
山田深夜 全委員 23 「今回の選考の台風の目となったのが『電車屋赤城』です。」「なるほどど演歌(原文傍点)ですが、昨今忘れられがちの、愚直に働く人間の矜持を描いて痛快でした。」「現段階での受賞はむしろプレッシャーとしてマイナスに働くのではないかという議論が、そう遠くはない未来、「あれはとんだ取り越し苦労だったね」というほろ苦い後悔に変わることを信じています。」
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他の選考委員
浅田次郎
伊集院静
大沢在昌
高橋克彦
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佐藤亜紀『ミノタウロス』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 17 「仰天小説である。仰天は悪い比喩ではなく、読みながら思わず天を仰いで感嘆することしばしばであった。」「登場人物はみな性格破綻者なのだが、その破綻ぶりを破綻なく描き切るのは並大抵の力量ではない。」「美と醜とが同義をなす華麗なるデカダンの美学に、文句なしの拍手を送る。」
伊集院静 全候補 32 「読みはじめた時、妙な予感を抱いた。」「作者は私たちをどこに連れて行ってくれるのだろうかとおおいに期待した。」「近代がいかに人間臭いものからはじまり、なかば偶発的に突入したという歴史観がここにある。しかし文中にそんなことは一行も書かれていない。そこが作者のただならぬ才能なのである。」「読み手をあきさせない物語の構成、文章はなみなみならぬ力量である。」
大沢在昌 全候補 14 「圧倒的な筆力で他の候補作を凌駕した。」「会話にカゴカッコをまるで使用していないにもかかわらず、登場人物の体臭が押しよせてくる。」「無理な難癖を承知でいうなら、現代の日本人である読者と、物語がどこも交差しないことくらいか。」「しかしそれは打ちのめされた選考委員の弱々しいぼやきのようなものだ。」
高橋克彦 全候補 20 「個人的な好き嫌いだけで言うなら、私には主人公たちが飛行機を手に入れるまで、ただただ少年たちが時代の波に翻弄されるだけの冗漫な物語に思え熱中できなかった。主人公に芯の通った志が感じられない。」「しかし飛行機の登場で少年たちが力を得、がらりと背景が変わる。それからは文句なしに面白くなる。」「もし私が選考委員でなければ果たして肝心の最後まで読んだだろうかと疑問が残った。」「密度の濃さと描写力の確かさから『ミノタウロス』への授賞に賛同した。」
宮部みゆき 全候補 10 「圧勝でした。圧勝して当然の傑作です。」「佐藤亜紀さんの筆力に、まさに脱帽いたしました。」
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他の候補作
首藤瓜於 『指し手の顔―脳男II』
辻村深月 『名前探しの放課後』
恒川光太郎 『秋の牢獄』
中島京子 『冠・婚・葬・祭』
山田深夜 『電車屋赤城』
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首藤瓜於『指し手の顔―脳男II』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 9 「のっぴきならぬ知力と体力を感じさせる作品である。ただ(引用者中略)小説が映像の代償物であってはならない。その点が露骨に過ぎて、面白くとも推すことはできなかった。」
伊集院静 全候補 19 「読みごたえのある大作だった。」「強く推す委員があれば私は賛同する決意で選考会にのぞんだ。私が本作を一番手に推せなかったのは、この大作を読み終え本を閉じた時、各章で感じた覚醒にも似た感動がひとつの潮流として捉えられなかった点だった。」「最終章でもっと語ってしかるべきだったのではないか。」
大沢在昌 全候補 10 「警察内部の軋轢や精神医療に関する描写など、物語の本筋とあまりかかわらないエピソードが多く、進行を阻害していた。取材で得た知識を詰めこみすぎ、濃淡のない絵画のような仕上がりになってしまった。」
高橋克彦 全候補 12 「(引用者注:『ミノタウロス』『名前探しの放課後』と同様)後半の大サスペンス、あるいは大ドンデンのために前半が用意されている。(引用者中略)後半に差し掛かると驚愕や意外性の連続で思わず身を乗り出してしまうのだが、読んだ後、果たしてここまで隠さなければいけない前半であったか疑問が生まれる。」
宮部みゆき 全候補 6 「脳男サーガ起承転結の「承」で、明らかに三作目への橋渡しと、物語世界の拡大の役割を果たしている作品です。単体で文学賞の候補作として評価を云々されるべきではないと、私は思いました。」
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他の候補作
佐藤亜紀 『ミノタウロス』
辻村深月 『名前探しの放課後』
恒川光太郎 『秋の牢獄』
中島京子 『冠・婚・葬・祭』
山田深夜 『電車屋赤城』
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辻村深月『名前探しの放課後』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 11 「表現様式を模索している段階の作品であろう。しかし章立てに使用している名作をきちんと読みさえすれば、その問題はたちまち解決されるはずである」「あえて難点をひとつ挙げれば、冗長な友情物語がメインストーリーを終始脅かし続けているという、全体の不均衡である。」
伊集院静 全候補 8 「以前、この賞の候補になった作品に比べると文章も磨かれ、登場人物も活き活きとしていた。ただ今回、これほどの分量で書き積んで行った作品が最終章の結末のためにあったように感じさせてしまったのが私には惜しまれた。」
大沢在昌 全候補 17 「ラストのどんでん返しが許せなかった。同じ推理小説家であるのにこんなことをいってよいのかとは思うが、無理にミステリー仕立てにする必要があったのだろうか。」「エピローグがなければ、心地よい青春小説として読めた筈の作品が、むしろ後味の悪いものにかわってしまった。これだけの人間が、長期間、舞台劇のように息の合った芝居をつづけられるとはとうてい思えない。」
高橋克彦 全候補 17 「(引用者注:『ミノタウロス』『名前探しの放課後』と同様)後半の大サスペンス、あるいは大ドンデンのために前半が用意されている。(引用者中略)後半に差し掛かると驚愕や意外性の連続で思わず身を乗り出してしまうのだが、読んだ後、果たしてここまで隠さなければいけない前半であったか疑問が生まれる。」「ドンデンの目で最初から見直せば、とても成立しない物語と思えてくる。」
宮部みゆき 全候補 10 「物語が進んでいくうちに登場人物が生き生きと成長し、結果として、作者が用意していたミステリーの枠組みに収まらなくなってしまいました。」「作者が伸び盛りであるしるしです。辻村さんには、この結果を気に病んで、小さくまとまったりしないでほしいと思いました。」
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他の候補作
佐藤亜紀 『ミノタウロス』
首藤瓜於 『指し手の顔―脳男II』
恒川光太郎 『秋の牢獄』
中島京子 『冠・婚・葬・祭』
山田深夜 『電車屋赤城』
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恒川光太郎『秋の牢獄』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 8 「非凡なアイデアを感じさせる。つまり、非凡な才能である。しかし、惜しむらくはそのアイデアを物語として拡げてゆく力、文学として掘り下げてゆく力を欠いている。わかりやすく言うなら、嘘と哲学の不足である。」
伊集院静 全候補 8 「大変にセンスの良い短編集で小説の筋の良さは候補作の中でも光っていた。」「この上質な作品が受賞にいたらなかったのは選考会が持つ独特な流れであった気がする。作品自体の力は遜色なかった。」
大沢在昌 全候補 12 「ひと言でいうなら“薄い”作品集だった。奇妙な味の作品を集めているのだが、それが読み手の恐怖や不安につながってくるほどの毒を含んでいない。」「ただ感じたことがひとつある。表題作で、一度は集まるようになった「リプレイヤー」が、またバラバラになっていくという作者の感性は、私とは明らかに異なる世代の人間観である。」
高橋克彦 全候補 7 「十分なレベルに達していたが、似た味わいの物語が続く。そして落ちが日本ホラー小説大賞に輝いた『夜市』のそれと較べて切れに欠ける。」
宮部みゆき 全候補 10 「いつもながら、恒川さんの“異界”の着想と描写力は魅力的です。」「残念だったのは、『秋の牢獄』を全体として見たとき、やや淡い印象があったことです。三作ではなく五作収録されていたらどうだったかな、などと考えてしまいました。」
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他の候補作
佐藤亜紀 『ミノタウロス』
首藤瓜於 『指し手の顔―脳男II』
辻村深月 『名前探しの放課後』
中島京子 『冠・婚・葬・祭』
山田深夜 『電車屋赤城』
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中島京子『冠・婚・葬・祭』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 8 「小説に完成度を求める意志が欠けている。そのぶん読みやすくもあり、親しみも感ずるのだが、かつて『イトウの恋』で発揮した審美眼が忘れ去られていることも、もしや資質を見誤っているのではあるまいかと懸念させた。」
伊集院静 全候補 8 「安定感のある佳作揃いの短編集だった。人間の生の区切りを中島さんの持ち味である軽妙さでまことに上手く捉えている。私は授賞に強く推したが他選考委員を押し切るまでには及ばなかった。」
大沢在昌 全候補 14 「ああ、もう、また! とくやしくなった。中島さんにはよく知らないことを書く際に、不用意な描写をしてしまう悪い癖があり、それがいつも“あと一歩”の場面で足を引っぱる。」「もっとワキを締めて下さい、としかいいようがない。」
高橋克彦 全候補 6 「ことに最後の短編が光っていた。これはホラーの新しい扉を開くものと評価できる。が、さすがにこの一編だけでは佐藤(引用者注:亜紀)さんの力作と肩を並べることができなかった。」
宮部みゆき 全候補 21 「今回は早い段階から二作受賞の議論になるだろうと思っていましたので、(引用者注:『ミノタウロス』の他に)『冠・婚・葬・祭』も推すつもりで選考会に臨みました。勝手ながら自信もありました。」「四つの短編が緩くつながりつつ、もたれ合うことなく、ひとつひとつに、誰かに読んで聞かせたくなる文章がありました。」
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他の候補作
佐藤亜紀 『ミノタウロス』
首藤瓜於 『指し手の顔―脳男II』
辻村深月 『名前探しの放課後』
恒川光太郎 『秋の牢獄』
山田深夜 『電車屋赤城』
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山田深夜『電車屋赤城』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 6 「ユニークな演歌小説として読んだ。かつて『ぽっぽや』という同工異曲の演歌を聞いた記憶がある。」「一概に比較はできまいが、演歌の文学的昇華という点では後者(引用者注:『ぽっぽや』)のほうがよいと私は思う。」
伊集院静 全候補 7 「(引用者注:『冠・婚・葬・祭』と共に)授賞にむけて話し合われた」「作者の純粋さがこれほど各所にあらわれる小説を私はひさしぶりに読ませて貰った。好感を持った。」
大沢在昌 全候補 15 「候補作中、最も好感を抱いた作品だった。「誰もが善人で、けんめいに小さな幸せを願っている」という構造は、単純ではあるけれど、まっとうに生きること、己の仕事に誇りをもつこと、の尊さをまっすぐ読む者の胸につきつけてくる。」「この人は伸びる、と主張し、多くの選考委員もそれに同意して下さったが、作品が著者の人生経験を色濃く反映したものであることが、逆にためらいを生んだようだ。」
高橋克彦 全候補 6 「好もしい連作と感じたが、最も大切と思える赤城の視点での物語がないのに不審と失望を覚えた。種のない果実を味わった気持ちとなった。」
宮部みゆき 全候補 23 「今回の選考の台風の目となったのが『電車屋赤城』です。」「なるほどど演歌(原文傍点)ですが、昨今忘れられがちの、愚直に働く人間の矜持を描いて痛快でした。」「現段階での受賞はむしろプレッシャーとしてマイナスに働くのではないかという議論が、そう遠くはない未来、「あれはとんだ取り越し苦労だったね」というほろ苦い後悔に変わることを信じています。」
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他の候補作
佐藤亜紀 『ミノタウロス』
首藤瓜於 『指し手の顔―脳男II』
辻村深月 『名前探しの放課後』
恒川光太郎 『秋の牢獄』
中島京子 『冠・婚・葬・祭』
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