直木賞のすべて
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第138回

=受賞者=
桜庭一樹

=候補者=
井上荒野
黒川博行
古処誠二
佐々木 譲
馳 星周


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 平成19年/2007年下半期
 (平成20年/2008年1月16日決定発表/『オール讀物』平成20年/2008年3月号選評掲載)
選考委員  浅田次郎 阿刀田高 五木寛之 井上ひさし 北方謙三 林真理子 平岩弓枝 宮城谷昌光 渡辺淳一
選評総行数  100 113 123 173 103 100 95 104 83
評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
桜庭一樹 『私の男』 評言 27 47 16 50 26 43 22 16 50
井上荒野 『ベーコン』 評言 12 8 18 16 15 10 8 27 0
黒川博行 『悪果』 評言 13 26 8 18 18 8 23 7 15
古処誠二 『敵影』 評言 28 8 18 36 15 11 7 10 0
佐々木譲 『警官の血』 評言 12 19 11 30 17 14 28 8 17
馳星周 『約束の地で』 評言 8 5 11 23 12 7 4 10 0
                 
見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成20年/2008年3月号
1行当たりの文字数:12字


選考委員浅田次郎×各候補作  見方・注意点
文学の正統 総行数100 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
桜庭一樹 全委員 27 「進化論に則ればその形態は整合性を欠き奇体にも見えようけれど、私にはどうにもこの鳥が進化系の枝葉に出現した変異種とは思えず、むしろ主幹の生物にちがいないと判定した。太古からつらなる正統でありながら新鮮な個性を有し、堂々たる体躯と知性をも併せ持っている。」「文句なしに推挽させていただいた。」
井上荒野 全委員 12 「文学の主幹に位置する、正統の、しかもすぐれた短篇集」「人間が置かれた状況を傍観的に書く小説が多い風潮の中で、人間そのものをすこぶる自然かつ正確に描いたそれぞれの作品は、文学の王道を感じさせた。」
黒川博行 全委員 13 「登場人物の全員が悪いやつで、それぞれの悪の論理の闘争によって話が展開する。まさに端倪すべからざる快作と言えるのだが、思いがけなく結末が「悪の果実」ではなく「悪の果て」になってしまった。」
古処誠二 全委員 28 「戦争どころか戦後の空気すらも知らぬはずの作家が、かくも襟を正して過ぎにし戦を書き続けている。」「あえて至難の小説というかたちで描き出そうとするのは、玉砕するも甎全を恥ずの気概を、作者自身が持っているからであろう。むろん受賞には足らぬ。しかし歴史がいまわしい転用をした「玉砕」の一語を、本来の語意に正してわが身に背負い続ける作家の覚悟は、もうひとつの文学の正統である。」
佐々木譲 全委員 12 「受賞作に並べて推してもよいと思ったのだが、まこと頭の下がる父子三代の大河小説に、なぜミステリーを絡めてしまったのだろうという疑いを捨て切れなかった。」
馳星周 全委員 8 「受賞作(引用者注:「私の男」)と同じ風土を舞台にしたために背景の印象が弱く感じられ、なおかつ(引用者注:「ベーコン」と列したために)人間に対する傍観的な視点が際立ってしまった。」
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選考委員阿刀田高×各候補作  見方・注意点
選考のむつかしさ 総行数113 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
桜庭一樹 全委員 47 「――この作者には小説家の気配が濃密に感じられる――と、それが推薦の第一の理由だった。」「想像力の広がりにおいて、文章の魅力において、またストーリイの微妙な妖しさにおいて、それを感じて、賭けてみようと考えた。」「現実性を欠くうらみはあるが、そこにあまり目くじらを立てずに読むほうがよいのだろう。」
井上荒野 全委員 8 「軽やかで、――こんな小説もいいな――と楽しく読んだが、人間や出来事への目配りに少し納得のいかない部分があるように思った。」
黒川博行 全委員 26 「暴力団対策を担当する刑事を描いて間然するところがない、みごと、みごと。」「文句のつけようのない作品なのだが、――直木賞はどうあるべきか――この賞が新しいサムシングを期待することにおいて一抹の疑念が生じた。」「今後も長く今回の評価が、――あれでよかったのだろうか――私の心に残りそうだ。」
古処誠二 全委員 8 「作者が従来のノンフィクション的作風から小説へ強く踏み出したように思えて私は評価を高めたが、それとは逆の意見もあって強くは推せなかった。」
佐々木譲 全委員 19 「推理小説仕立てにしたために一番肝腎な(引用者注:主人公たちの)苦悩が謎とされ、充分に描ききれず、種あかしでサラッとすまされたのが私には残念に思えた。力作であることは疑わない。」
馳星周 全委員 5 「自然描写の巧みさに舌を巻いたが、もっと大きな小説の一部を読んでいるような感じが拭いきれなかった。」
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選考委員五木寛之×各候補作  見方・注意点
傾きかたの魅力をかう 総行数123 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
桜庭一樹 全委員 16 「(引用者注:「ベーコン」とともに)今回読んだなかかで、明確な文体意識を感じた」「どこか不安を感じさせる小説である。しかし、その傾きかたに、不思議な魅力があった。しかも前回、候補となって議論をよんだ『赤朽葉家の伝説』とは方向性のちがう世界に挑んでいるところがいい。」
井上荒野 全委員 18 「(引用者注:「私の男」とともに)今回読んだなかかで、明確な文体意識を感じた」「すでに一家をなしている作家の安定した世界を感じさせるところが不満だった。そんなにはやく達者な芸を身につけてどうする、と心中、感じたのである。過不足のない仕上りという点では、この作品集が一番だろう。」
黒川博行 全委員 8 「いちばんおもしろく読み通した」「関西弁の会話のおもしろさに腰を叩いて笑いながら、物語の展開に引きこまれていった。問題は、読後に一種の徒労感が残ることだ。」
古処誠二 全委員 18 「前回の候補作、『遮断』をこえていないと感じた。戦争を実際に体験した読者が、まだ多数現存していることを考えると、近過去を描くことの難しさにため息をつかざるをえない。」
佐々木譲 全委員 11 「組織内に潜入する公安スパイという設定も興味ぶかい。これが受賞作として選ばれなかった理由を考えてみると、警官の視点が最後まで固定されて崩れなかった点にあるように思う。」
馳星周 全委員 11 「『不夜城』や『夜光虫』のイメージをくつがえす文学的作品である。」「しかし、この方向へすすむことは、ある意味でこの作家の異能を枯らすことになるのではないか、と、ふと思った。」
  「そもそも小説にとって、正確で魅力的な文章が不可欠であるという、常識的な考え方が揺らいでいるのではないか。」「文章に対しての関心が薄れてきたことと、最近の直木賞の候補作品のヴォリュームとは、どこかつながっているというのは、的はずれな意見だろうか。」
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選考委員井上ひさし×各候補作  見方・注意点
壮大な試み 総行数173 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
桜庭一樹 全委員 50 「試みは巨きく、そしてその試みはほとんど成功している。」「章が変わるにつれて時間が逆行して行き、そのつど読者はそのときどきの真相を知って絶句することになる。」「これを起きた順に書けば、あいだに二つの殺人もあるし、どろどろの近親相姦モノに成り果てて読むに耐えなかっただろうが、作者は(たぶん)ギリシャ悲劇の「オイデプス王」の構造をかりて時間を遡行させてどろどろ劇をりっぱな悲劇に蘇生させた。」
井上荒野 全委員 16 「あちこちに小手の利いた表現があって感心させられたが、食べ物と愛(主に愛人関係)の二つの縛りが筆を窮屈にしたのか、九篇を通して話の拵えがやや図式になっていた。」
黒川博行 全委員 18 「二人(引用者注:防犯係の二人組刑事)の大阪言葉による会話は機知にあふれ、漫才の域をはるかに超えて上出来の前衛劇のように不条理(ルビ:ばかばかしく)てステキだが、この快調なテンポをときおり妨げる、刑事業務の綿密すぎる詳細や賭博についての過剰な説明――これが難かもしれない。」
古処誠二 全委員 36 「沖縄守備軍で生き残った日本兵に四種あるという事実――それをはっきりと描き出すことが『敵影』(古処誠二)の試みだったのかもしれない。」「思わず身が引き締まるような思いで読み進むことになるが、箴言録風な硬質な文体と煩瑣な物語時間の入れ換えに妨げられて、せっかくの志のある試みがうまくこちらへ伝わってこなかったという恨みがのこる。」
佐々木譲 全委員 30 「三代にわたる警察官一家の生き方に、黒くて太い謎を絡ませて描いた(引用者中略)壮大な試みだ。けれども、もっと壮大であってもよかったかもしれない。叙述の速度が早すぎて、三人の人生の山場をやすやすとつないでしまったような駆け足感がある。」
馳星周 全委員 23 「収められた五つの短篇は、たがいにつながって大円環をなす。」「その鎖の成分は主として暴力であり、全体から浮かび上がってくるのは荒涼とした北の大地の陰欝な気配である。」「最初の短篇の出来がいま一つよくないので、せっかくの試みが生かされなかった。第四、五篇は佳品なのだが。」
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選考委員北方謙三×各候補作  見方・注意点
本質に触れる資質 総行数103 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
桜庭一樹 全委員 26 「血の持つ毒と蜜を描きこんで、存在の意味を問いかけるというような、難しく言えばそういう論評になってしまう作品であった。」「随所に、描写の未熟さや、整合性の欠如を感じさせた。しかし血というものを通して、物語の本質に触れているというのは私の確かな印象で、その資質は買うべきだろうと思った。」「例外的に、『悪果』、『警官の血』、『私の男』、の三作に丸をつけて(引用者注:選考会に)臨んだ。」
井上荒野 全委員 15 「うまさを狙うという点においては成功していて、その完成度も低くはないと思った。しかし、さりげなさが殻のようになって、なかなか世界に入りこめない、というもどかしさがつきまとまった。」「うまいと思いながら、短篇の持つ切り口の鮮やかさが、ややもすると見えてこないのである。」
黒川博行 全委員 18 「崩れていく男の人生を描いたものとして読んだ。」「捜査の方法、手続、書類の作り方など、稠密という印象すらある描写が、警察の人間関係と組織を浮かびあがらせ、読みごたえのある作品となっていた。」「例外的に、『悪果』、『警官の血』、『私の男』、の三作に丸をつけて(引用者注:選考会に)臨んだ。」
古処誠二 全委員 15 「戦争を伝えるという、ある使命感さえ見えてくる。それが小説になった場合、暗く、重いものしか残らないという結果になったと思う。『七月七日』で描かれた結末の透明感が、懐かしくさえあった。」
佐々木譲 全委員 17 「一代目の不審死がミステリー仕立てになっていて、縦糸として牽引力を持っていた。時代背景の描写が、濃厚な生活感の描写とともにあり、力量の確かさを感じさせる。三代という発想のダイナミズムも、物語に少なからず強靭さを与えていると思った。」「例外的に、『悪果』、『警官の血』、『私の男』、の三作に丸をつけて(引用者注:選考会に)臨んだ。」
馳星周 全委員 12 「これまでと違うものを目指したという点において、まず評価できる。」「北海道の情景描写が、私を魅きつけた。それぞれの作品の主人公に、作者の一貫した人間観の視線がむけられていないという印象がややあり、短篇集としてまとまったものを読んだ時、食い足りなさが残る。」
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選考委員林真理子×各候補作  見方・注意点
嫌悪感 総行数100 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
桜庭一樹 全委員 43 「私はこの作品をどうしても好きになれなかった。」「作者がおそらく意図的に読者に与えようとしている嫌悪感が私の場合ストレートに効いたということであろう。」「主人公の女性にも父親にもまるで心を寄せることが出来ない。」「私には“わたし”と“私の男”が、禁断の快楽をわかち合う神話のような二人、とはどうしても思えず、ただの薄汚ない結婚詐欺の父娘にしか思えない。」
井上荒野 全委員 10 「手堅くまとめた短篇集で、作者の実力を感じる。けれどもどれも既視感があるのが残念だ。女性の人生や日常をスケッチする小説は、他の女性作家がいくらでも書いている。井上さんだけの世界を読んでみたいと思う。」
黒川博行 全委員 8 「あまりにも長過ぎる。日々の業務が、後半大きな事件の伏線になっていくわけであるが、そこまで読者を辛棒させるのはかなりむずかしいと感じた。」
古処誠二 全委員 11 「「敵影」の愚直さに強く惹かれた。この若さで、執拗に戦争をテーマにする情熱はいったい何なのだろうか。」「若い人が読んでくれる戦争文学の旗手になっていただきたいと強く願う。」
佐々木譲 全委員 14 「戦後の焼け跡の風景や、学生運動の時代をきちんと描いておられる。しかし、作者が読者の知り得ない事実を最後に提出し、謎を解き明かすという手法はどうなのだろうか。それまで本に寄り添ってきた読者の信頼感が崩れるような気がしてならない。」
馳星周 全委員 7 「最後の二篇が素晴らしい。けれども主人公たちが、もう少し知恵を使いさえすれば、大きな不幸から逃れられるだろうと読者が思うような展開がある。」
  「桜庭さんはじめ、若く実力ある作家たちが次々と登場してくる昨今、キャリアを積んだ方々は本当に大変だ。新しいインパクトは何だろうと、私はいつも考えている。」
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選考委員平岩弓枝×各候補作  見方・注意点
少々の不安と大きな期待 総行数95 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
桜庭一樹 全委員 22 「桜庭一樹さんはこの作品を書き出しの仕掛けの旨さで成功させたように感じた。」「この前直木賞の候補になった『赤朽葉家の伝説』とほぼ前後して書かれたと聞いて、桜庭さんの持つ可能性の豊かさに改めて驚かされた。」
井上荒野 全委員 8 「鋭い感性が匂い立つ作品群で好ましかった。但し、小説として開花させるには、もう一歩のふみこみが必要であろう。」
黒川博行 全委員 23 「登場人物の汗の臭いに圧倒された。」「とりわけ心に残ったのは作中、主要な地位におかれている警官の一人が娘の飼っているメダカの稚魚を親に食われないように網ですくって別の鉢に移しているという十行足らずのエピソードで、悪徳警官と呼ばれる人間の素の顔がかいま見られたと同時に、なにか暗示的で、こういうシーンがもう一つくらいあってもよかったかと思った。」
古処誠二 全委員 7 「よく資料を調べて書いているのであろうけれども、現実に戦争に直面した者の気持からすると脇が甘いし、抵抗があった。」
佐々木譲 全委員 28 「終戦の頃から半世紀にわたる三代の父子の警官物語を祖父と父と、二つの死の真相を鍵にして展開させて行く過程に作者の技の切れ味が見事で読みごたえがあった。私好みでいわせてもらえば、三代の家族の各々について、もう少々、筆をのばしてもらいたかった。」
馳星周 全委員 4 「いつもの馳さん独自の世界であるが、今回は少々、切れ味が鈍い。」
  「今回はよくも悪くも、重くて暗い部分にインパクトの強い作品が並んだ。」
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選考委員宮城谷昌光×各候補作  見方・注意点
受賞作品と今 総行数104 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
桜庭一樹 全委員 16 「(引用者注:「約束の地で」より)全体が明瞭ではあるが、明瞭でありすぎて、おもしろみが希薄となった。小説の構成の失敗があったと私はみるが、どうであろうか。わざわざわかりにくい小説を書く必要はないが、作者のエネルギーを蓄積し、噴出させるための陰翳をもうすこし長く保持しておいたほうがよい。」
井上荒野 全委員 27 「ことばにたいする神経のつかいかたは粗略ではない。人が生きてゆく深刻さをあえて文体が隠蔽しており、小説が昏くも重くもなっていない。それだけでも、この作者は新しい知的作業をおこなっている。」「ときどき危険な陰翳がみえるものの、それが小説の骨子にかかわると誤解されないために、作者はその陰翳をくりかえしすることをしない。要するに作者の賢明さがよくわかる作品ではあるが、それ以上の何かが足りない。」
黒川博行 全委員 7 「独特な生命力が感じられて、けっして嫌いな小説ではないが、人物描写の遠近法ひとつをとっても、丁寧さに欠ける。」
古処誠二 全委員 10 「主題があいまいで、終戦前後の沖縄の捕虜収容所の風景をスケッチしただけであるとみられてしまう。何かに集中してゆくという作品的力闘が貧弱なのは、あいかわらず措辞に不可解な乖離があるせいであろう。」
佐々木譲 全委員 8 「『警官の血』の構成と描写には、瑕がすくないようにおもわれた。設計図をもとに、基礎工事も手ぬきなくおこなわれて、建てられた家を想えばよい。」
馳星周 全委員 10 「習熟した筆致で、独自の言語世界を提示しているが、主題のすえかたが弱い。ただし風景描写はおざなりではなく、自然と人間のかかわりに作者のぬきさしならない思想が静座していることはわかる。」
  「いまや小説というものが旧慣に満ちているとはいえ、やはりなんらかの新風を感じたい。桜庭一樹氏の幻想的作品が受賞した理由は、そこにあるかもしれない。」
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選考委員渡辺淳一×各候補作  見方・注意点
選評 総行数83 (1行=12字)
候補 評価 行数 評言
桜庭一樹 全委員 50 「ある選考委員が、「おかしいところをあげつらうと、いくらでもあるが」と述べたといわれているが、少なくともわたしは、あげつらったのではなく、はっきり批判したのである。」「もしこれを幻想かファンタジーとするなら、そのような書き方をするべきだが、この作者の安易な文章では到底、表現できるとは思えない。」「淳悟と花とのからみのシーンは熱く妖しいが、見方によっては、少女コミックに登場する近親相姦を思わせるところもある。」「この作品の未知の魅力を認めたうえでのことだが、受賞はもう一、二作みてから、というのが、わたしの意見である。」
井上荒野 全委員 0  
黒川博行 全委員 15 「(引用者注:最後に残った「悪果」「警官の血」「私の男」のうち)もっとも面白く読めた」「とくに大阪弁の闊達さにくわえて、一般の人が知らない暴力団担当の警察の内情など新鮮で興味をそそられる。しかし小説の書き方がいささかパターン化しすぎていて、エンターテインメントとしてはともかく、文学賞の対象としては軽すぎる。」
古処誠二 全委員 0  
佐々木譲 全委員 17 「なぜ親、子、孫と、みな警官になったのか。なかには警官になることに迷ったり、悩んだ子もいるのではないか。血という以上、そうした内面にまで掘り下げるべきで、父の死因を探るというだけでは安易すぎるし、最後がお行儀よくまとまるのも興を殺ぐ。」
馳星周 全委員 0  
  「初めに殺人ありき。これに暴力団と警察をからめたら、余程の下手な作家でも、ある程度、読者を引っ張っていける。そんな悪口をいいたくなるほど、今回もこの種の作品が多かった」
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桜庭一樹『私の男』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 27 「進化論に則ればその形態は整合性を欠き奇体にも見えようけれど、私にはどうにもこの鳥が進化系の枝葉に出現した変異種とは思えず、むしろ主幹の生物にちがいないと判定した。太古からつらなる正統でありながら新鮮な個性を有し、堂々たる体躯と知性をも併せ持っている。」「文句なしに推挽させていただいた。」
阿刀田高 全候補 47 「――この作者には小説家の気配が濃密に感じられる――と、それが推薦の第一の理由だった。」「想像力の広がりにおいて、文章の魅力において、またストーリイの微妙な妖しさにおいて、それを感じて、賭けてみようと考えた。」「現実性を欠くうらみはあるが、そこにあまり目くじらを立てずに読むほうがよいのだろう。」
五木寛之 全候補 16 「(引用者注:「ベーコン」とともに)今回読んだなかかで、明確な文体意識を感じた」「どこか不安を感じさせる小説である。しかし、その傾きかたに、不思議な魅力があった。しかも前回、候補となって議論をよんだ『赤朽葉家の伝説』とは方向性のちがう世界に挑んでいるところがいい。」
井上ひさし 全候補 50 「試みは巨きく、そしてその試みはほとんど成功している。」「章が変わるにつれて時間が逆行して行き、そのつど読者はそのときどきの真相を知って絶句することになる。」「これを起きた順に書けば、あいだに二つの殺人もあるし、どろどろの近親相姦モノに成り果てて読むに耐えなかっただろうが、作者は(たぶん)ギリシャ悲劇の「オイデプス王」の構造をかりて時間を遡行させてどろどろ劇をりっぱな悲劇に蘇生させた。」
北方謙三 全候補 26 「血の持つ毒と蜜を描きこんで、存在の意味を問いかけるというような、難しく言えばそういう論評になってしまう作品であった。」「随所に、描写の未熟さや、整合性の欠如を感じさせた。しかし血というものを通して、物語の本質に触れているというのは私の確かな印象で、その資質は買うべきだろうと思った。」「例外的に、『悪果』、『警官の血』、『私の男』、の三作に丸をつけて(引用者注:選考会に)臨んだ。」
林真理子 全候補 43 「私はこの作品をどうしても好きになれなかった。」「作者がおそらく意図的に読者に与えようとしている嫌悪感が私の場合ストレートに効いたということであろう。」「主人公の女性にも父親にもまるで心を寄せることが出来ない。」「私には“わたし”と“私の男”が、禁断の快楽をわかち合う神話のような二人、とはどうしても思えず、ただの薄汚ない結婚詐欺の父娘にしか思えない。」
平岩弓枝 全候補 22 「桜庭一樹さんはこの作品を書き出しの仕掛けの旨さで成功させたように感じた。」「この前直木賞の候補になった『赤朽葉家の伝説』とほぼ前後して書かれたと聞いて、桜庭さんの持つ可能性の豊かさに改めて驚かされた。」
宮城谷昌光 全候補 16 「(引用者注:「約束の地で」より)全体が明瞭ではあるが、明瞭でありすぎて、おもしろみが希薄となった。小説の構成の失敗があったと私はみるが、どうであろうか。わざわざわかりにくい小説を書く必要はないが、作者のエネルギーを蓄積し、噴出させるための陰翳をもうすこし長く保持しておいたほうがよい。」
渡辺淳一 全候補 50 「ある選考委員が、「おかしいところをあげつらうと、いくらでもあるが」と述べたといわれているが、少なくともわたしは、あげつらったのではなく、はっきり批判したのである。」「もしこれを幻想かファンタジーとするなら、そのような書き方をするべきだが、この作者の安易な文章では到底、表現できるとは思えない。」「淳悟と花とのからみのシーンは熱く妖しいが、見方によっては、少女コミックに登場する近親相姦を思わせるところもある。」「この作品の未知の魅力を認めたうえでのことだが、受賞はもう一、二作みてから、というのが、わたしの意見である。」
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他の候補作
井上荒野 『ベーコン』
黒川博行 『悪果』
古処誠二 『敵影』
佐々木譲 『警官の血』
馳星周 『約束の地で』
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井上荒野『ベーコン』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 12 「文学の主幹に位置する、正統の、しかもすぐれた短篇集」「人間が置かれた状況を傍観的に書く小説が多い風潮の中で、人間そのものをすこぶる自然かつ正確に描いたそれぞれの作品は、文学の王道を感じさせた。」
阿刀田高 全候補 8 「軽やかで、――こんな小説もいいな――と楽しく読んだが、人間や出来事への目配りに少し納得のいかない部分があるように思った。」
五木寛之 全候補 18 「(引用者注:「私の男」とともに)今回読んだなかかで、明確な文体意識を感じた」「すでに一家をなしている作家の安定した世界を感じさせるところが不満だった。そんなにはやく達者な芸を身につけてどうする、と心中、感じたのである。過不足のない仕上りという点では、この作品集が一番だろう。」
井上ひさし 全候補 16 「あちこちに小手の利いた表現があって感心させられたが、食べ物と愛(主に愛人関係)の二つの縛りが筆を窮屈にしたのか、九篇を通して話の拵えがやや図式になっていた。」
北方謙三 全候補 15 「うまさを狙うという点においては成功していて、その完成度も低くはないと思った。しかし、さりげなさが殻のようになって、なかなか世界に入りこめない、というもどかしさがつきまとまった。」「うまいと思いながら、短篇の持つ切り口の鮮やかさが、ややもすると見えてこないのである。」
林真理子 全候補 10 「手堅くまとめた短篇集で、作者の実力を感じる。けれどもどれも既視感があるのが残念だ。女性の人生や日常をスケッチする小説は、他の女性作家がいくらでも書いている。井上さんだけの世界を読んでみたいと思う。」
平岩弓枝 全候補 8 「鋭い感性が匂い立つ作品群で好ましかった。但し、小説として開花させるには、もう一歩のふみこみが必要であろう。」
宮城谷昌光 全候補 27 「ことばにたいする神経のつかいかたは粗略ではない。人が生きてゆく深刻さをあえて文体が隠蔽しており、小説が昏くも重くもなっていない。それだけでも、この作者は新しい知的作業をおこなっている。」「ときどき危険な陰翳がみえるものの、それが小説の骨子にかかわると誤解されないために、作者はその陰翳をくりかえしすることをしない。要するに作者の賢明さがよくわかる作品ではあるが、それ以上の何かが足りない。」
渡辺淳一 全候補 0  
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他の候補作
桜庭一樹 『私の男』
黒川博行 『悪果』
古処誠二 『敵影』
佐々木譲 『警官の血』
馳星周 『約束の地で』
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黒川博行『悪果』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 13 「登場人物の全員が悪いやつで、それぞれの悪の論理の闘争によって話が展開する。まさに端倪すべからざる快作と言えるのだが、思いがけなく結末が「悪の果実」ではなく「悪の果て」になってしまった。」
阿刀田高 全候補 26 「暴力団対策を担当する刑事を描いて間然するところがない、みごと、みごと。」「文句のつけようのない作品なのだが、――直木賞はどうあるべきか――この賞が新しいサムシングを期待することにおいて一抹の疑念が生じた。」「今後も長く今回の評価が、――あれでよかったのだろうか――私の心に残りそうだ。」
五木寛之 全候補 8 「いちばんおもしろく読み通した」「関西弁の会話のおもしろさに腰を叩いて笑いながら、物語の展開に引きこまれていった。問題は、読後に一種の徒労感が残ることだ。」
井上ひさし 全候補 18 「二人(引用者注:防犯係の二人組刑事)の大阪言葉による会話は機知にあふれ、漫才の域をはるかに超えて上出来の前衛劇のように不条理(ルビ:ばかばかしく)てステキだが、この快調なテンポをときおり妨げる、刑事業務の綿密すぎる詳細や賭博についての過剰な説明――これが難かもしれない。」
北方謙三 全候補 18 「崩れていく男の人生を描いたものとして読んだ。」「捜査の方法、手続、書類の作り方など、稠密という印象すらある描写が、警察の人間関係と組織を浮かびあがらせ、読みごたえのある作品となっていた。」「例外的に、『悪果』、『警官の血』、『私の男』、の三作に丸をつけて(引用者注:選考会に)臨んだ。」
林真理子 全候補 8 「あまりにも長過ぎる。日々の業務が、後半大きな事件の伏線になっていくわけであるが、そこまで読者を辛棒させるのはかなりむずかしいと感じた。」
平岩弓枝 全候補 23 「登場人物の汗の臭いに圧倒された。」「とりわけ心に残ったのは作中、主要な地位におかれている警官の一人が娘の飼っているメダカの稚魚を親に食われないように網ですくって別の鉢に移しているという十行足らずのエピソードで、悪徳警官と呼ばれる人間の素の顔がかいま見られたと同時に、なにか暗示的で、こういうシーンがもう一つくらいあってもよかったかと思った。」
宮城谷昌光 全候補 7 「独特な生命力が感じられて、けっして嫌いな小説ではないが、人物描写の遠近法ひとつをとっても、丁寧さに欠ける。」
渡辺淳一 全候補 15 「(引用者注:最後に残った「悪果」「警官の血」「私の男」のうち)もっとも面白く読めた」「とくに大阪弁の闊達さにくわえて、一般の人が知らない暴力団担当の警察の内情など新鮮で興味をそそられる。しかし小説の書き方がいささかパターン化しすぎていて、エンターテインメントとしてはともかく、文学賞の対象としては軽すぎる。」
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他の候補作
桜庭一樹 『私の男』
井上荒野 『ベーコン』
古処誠二 『敵影』
佐々木譲 『警官の血』
馳星周 『約束の地で』
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古処誠二『敵影』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 28 「戦争どころか戦後の空気すらも知らぬはずの作家が、かくも襟を正して過ぎにし戦を書き続けている。」「あえて至難の小説というかたちで描き出そうとするのは、玉砕するも甎全を恥ずの気概を、作者自身が持っているからであろう。むろん受賞には足らぬ。しかし歴史がいまわしい転用をした「玉砕」の一語を、本来の語意に正してわが身に背負い続ける作家の覚悟は、もうひとつの文学の正統である。」
阿刀田高 全候補 8 「作者が従来のノンフィクション的作風から小説へ強く踏み出したように思えて私は評価を高めたが、それとは逆の意見もあって強くは推せなかった。」
五木寛之 全候補 18 「前回の候補作、『遮断』をこえていないと感じた。戦争を実際に体験した読者が、まだ多数現存していることを考えると、近過去を描くことの難しさにため息をつかざるをえない。」
井上ひさし 全候補 36 「沖縄守備軍で生き残った日本兵に四種あるという事実――それをはっきりと描き出すことが『敵影』(古処誠二)の試みだったのかもしれない。」「思わず身が引き締まるような思いで読み進むことになるが、箴言録風な硬質な文体と煩瑣な物語時間の入れ換えに妨げられて、せっかくの志のある試みがうまくこちらへ伝わってこなかったという恨みがのこる。」
北方謙三 全候補 15 「戦争を伝えるという、ある使命感さえ見えてくる。それが小説になった場合、暗く、重いものしか残らないという結果になったと思う。『七月七日』で描かれた結末の透明感が、懐かしくさえあった。」
林真理子 全候補 11 「「敵影」の愚直さに強く惹かれた。この若さで、執拗に戦争をテーマにする情熱はいったい何なのだろうか。」「若い人が読んでくれる戦争文学の旗手になっていただきたいと強く願う。」
平岩弓枝 全候補 7 「よく資料を調べて書いているのであろうけれども、現実に戦争に直面した者の気持からすると脇が甘いし、抵抗があった。」
宮城谷昌光 全候補 10 「主題があいまいで、終戦前後の沖縄の捕虜収容所の風景をスケッチしただけであるとみられてしまう。何かに集中してゆくという作品的力闘が貧弱なのは、あいかわらず措辞に不可解な乖離があるせいであろう。」
渡辺淳一 全候補 0  
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他の候補作
桜庭一樹 『私の男』
井上荒野 『ベーコン』
黒川博行 『悪果』
佐々木譲 『警官の血』
馳星周 『約束の地で』
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佐々木譲『警官の血』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 12 「受賞作に並べて推してもよいと思ったのだが、まこと頭の下がる父子三代の大河小説に、なぜミステリーを絡めてしまったのだろうという疑いを捨て切れなかった。」
阿刀田高 全候補 19 「推理小説仕立てにしたために一番肝腎な(引用者注:主人公たちの)苦悩が謎とされ、充分に描ききれず、種あかしでサラッとすまされたのが私には残念に思えた。力作であることは疑わない。」
五木寛之 全候補 11 「組織内に潜入する公安スパイという設定も興味ぶかい。これが受賞作として選ばれなかった理由を考えてみると、警官の視点が最後まで固定されて崩れなかった点にあるように思う。」
井上ひさし 全候補 30 「三代にわたる警察官一家の生き方に、黒くて太い謎を絡ませて描いた(引用者中略)壮大な試みだ。けれども、もっと壮大であってもよかったかもしれない。叙述の速度が早すぎて、三人の人生の山場をやすやすとつないでしまったような駆け足感がある。」
北方謙三 全候補 17 「一代目の不審死がミステリー仕立てになっていて、縦糸として牽引力を持っていた。時代背景の描写が、濃厚な生活感の描写とともにあり、力量の確かさを感じさせる。三代という発想のダイナミズムも、物語に少なからず強靭さを与えていると思った。」「例外的に、『悪果』、『警官の血』、『私の男』、の三作に丸をつけて(引用者注:選考会に)臨んだ。」
林真理子 全候補 14 「戦後の焼け跡の風景や、学生運動の時代をきちんと描いておられる。しかし、作者が読者の知り得ない事実を最後に提出し、謎を解き明かすという手法はどうなのだろうか。それまで本に寄り添ってきた読者の信頼感が崩れるような気がしてならない。」
平岩弓枝 全候補 28 「終戦の頃から半世紀にわたる三代の父子の警官物語を祖父と父と、二つの死の真相を鍵にして展開させて行く過程に作者の技の切れ味が見事で読みごたえがあった。私好みでいわせてもらえば、三代の家族の各々について、もう少々、筆をのばしてもらいたかった。」
宮城谷昌光 全候補 8 「『警官の血』の構成と描写には、瑕がすくないようにおもわれた。設計図をもとに、基礎工事も手ぬきなくおこなわれて、建てられた家を想えばよい。」
渡辺淳一 全候補 17 「なぜ親、子、孫と、みな警官になったのか。なかには警官になることに迷ったり、悩んだ子もいるのではないか。血という以上、そうした内面にまで掘り下げるべきで、父の死因を探るというだけでは安易すぎるし、最後がお行儀よくまとまるのも興を殺ぐ。」
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他の候補作
桜庭一樹 『私の男』
井上荒野 『ベーコン』
黒川博行 『悪果』
古処誠二 『敵影』
馳星周 『約束の地で』
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馳星周『約束の地で』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
浅田次郎 全候補 8 「受賞作(引用者注:「私の男」)と同じ風土を舞台にしたために背景の印象が弱く感じられ、なおかつ(引用者注:「ベーコン」と列したために)人間に対する傍観的な視点が際立ってしまった。」
阿刀田高 全候補 5 「自然描写の巧みさに舌を巻いたが、もっと大きな小説の一部を読んでいるような感じが拭いきれなかった。」
五木寛之 全候補 11 「『不夜城』や『夜光虫』のイメージをくつがえす文学的作品である。」「しかし、この方向へすすむことは、ある意味でこの作家の異能を枯らすことになるのではないか、と、ふと思った。」
井上ひさし 全候補 23 「収められた五つの短篇は、たがいにつながって大円環をなす。」「その鎖の成分は主として暴力であり、全体から浮かび上がってくるのは荒涼とした北の大地の陰欝な気配である。」「最初の短篇の出来がいま一つよくないので、せっかくの試みが生かされなかった。第四、五篇は佳品なのだが。」
北方謙三 全候補 12 「これまでと違うものを目指したという点において、まず評価できる。」「北海道の情景描写が、私を魅きつけた。それぞれの作品の主人公に、作者の一貫した人間観の視線がむけられていないという印象がややあり、短篇集としてまとまったものを読んだ時、食い足りなさが残る。」
林真理子 全候補 7 「最後の二篇が素晴らしい。けれども主人公たちが、もう少し知恵を使いさえすれば、大きな不幸から逃れられるだろうと読者が思うような展開がある。」
平岩弓枝 全候補 4 「いつもの馳さん独自の世界であるが、今回は少々、切れ味が鈍い。」
宮城谷昌光 全候補 10 「習熟した筆致で、独自の言語世界を提示しているが、主題のすえかたが弱い。ただし風景描写はおざなりではなく、自然と人間のかかわりに作者のぬきさしならない思想が静座していることはわかる。」
渡辺淳一 全候補 0  
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他の候補作
桜庭一樹 『私の男』
井上荒野 『ベーコン』
黒川博行 『悪果』
古処誠二 『敵影』
佐々木譲 『警官の血』
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