直木賞のすべて
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第134回

=受賞者=
東野圭吾

=候補者=
伊坂幸太郎
荻原 浩
恩田 陸
恒川光太郎
姫野カオルコ


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 平成17年/2005年下半期
 (平成18年/2006年1月17日決定発表/『オール讀物』平成18年/2006年3月号選評掲載)
選考委員  阿刀田高 平岩弓枝 五木寛之 渡辺淳一 林真理子 津本陽 北方謙三 宮城谷昌光 井上ひさし
選評総行数  94 57 72 91 91 62 93 86 158
評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
東野圭吾 『容疑者Xの献身』 評言 39 31 56 35 45 16 24 14 24
伊坂幸太郎 『死神の精度』 評言 17 11 7 19 12 10 15 9 31
荻原浩 『あの日にドライブ』 評言 5 14 0 0 6 9 11 18 30
恩田陸 『蒲公英草紙』 評言 15 14 10 0 6 14 10 9 29
恒川光太郎 『夜市』 評言 10 14 5 19 8 6 10 47 28
姫野カオルコ 『ハルカ・エイティ』 評言 8 14 0 0 14 7 16 13 27
                 
見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成18年/2006年3月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員阿刀田高×各候補作  見方・注意点
なぞ解きの名作 総行数94 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東野圭吾 全委員 39 「こんな人間が実在するだろうか? これは愛だろうか? ヒューマニズムにもとるところはないだろうか? などなどいくつかの疑問の余地を含んでいるが、それはなぞ解きミステリーの宿命的弱点とも関わる問題だ。あえて言えば私はなぞ解きミステリーとしてのすばらしさだけでも受賞に値する、と考えた。」
伊坂幸太郎 全委員 17 「筆力の冴えを充分に感じながらも微妙な違和感を禁じえなかった。」「死の不条理を前にして、私たちの日常がどう映るか、それがこの作品のテーマだと考えるが、そのあたりに、もっと深い思案があってよかったのではないか、」
荻原浩 全委員 5 「わるくない。一つの人生がほどよく描かれている。が、インパクトが弱いし、読後のカタルシスも感じにくかった。」
恩田陸 全委員 15 「このテーマを読むとしたら私は(たとえファンタジーであったとしても)どこかにデモニッシュな気配を感じたい。――味のいい作品だな――と思いながら印象は弱かった。」
恒川光太郎 全委員 10 「おもしろく読んだ。優れたイマジネーションを感じた。」「ほかにどんな手腕を持っているのか、この作品を認めながらももう少し見守りたい、というのがおおかたの意見であり、私もそれに従った。」
姫野カオルコ 全委員 8 「戦後生まれの作者が、――よく調べて綴ったなあ――と感心したけれど、私たちの世代を感動させるには薄かった、と思う。」
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選考委員平岩弓枝×各候補作  見方・注意点
堂々たる受賞作 総行数57 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東野圭吾 全委員 31 「秀れた棋士が大胆、且つ、細心の注意を払って指し進めた棋譜をみるような構成力も見事ながら、ひたすら人間を描くことと、事件の謎ときが渾然と一つに溶け合っているあたり、作者の実力であろうが、これも、そうしなければと心がけていても容易に成功するものではない。」「受賞作が、これだけ重厚で、奥行きの深さがあると、才智だけで書いた作品はどうしても色褪せてみえてしまう。」
伊坂幸太郎 全委員 11 「軽く書いているようで、この作品の本質は決して軽くはない。作風は小粋で、人間のとらえ方に柔軟性があってとても楽しく読めた。」「(引用者注:主人公の死神による最終判断が)もう少し「見送り」の作品があってもよろしいのではあるまいか。」
荻原浩 全委員 14 「才能は感じられるものの、完成度は今一つの感がある。」
恩田陸 全委員 14 「才能は感じられるものの、完成度は今一つの感がある。」
恒川光太郎 全委員 14 「才能は感じられるものの、完成度は今一つの感がある。」
姫野カオルコ 全委員 14 「才能は感じられるものの、完成度は今一つの感がある。」
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選考委員五木寛之×各候補作  見方・注意点
『容疑者Xの献身』を推す 総行数72 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東野圭吾 全委員 56 「推理小説として、ほとんど非のうちどころのない秀作である。」「特筆すべきは、そのプロセスを作中人物に投影させつつストーリーを組み上げてみせた作者の膂力である。」「犯行を偽装するために殺されたホームレスの描きかたと、男たちを惹きつける何を持った靖子という女のオーラが伝わってこないのと、その二点が私にとっては不満だった。」「しかし、他の作品を引き離しての、堂々の受賞であったことはまちがいない。」
伊坂幸太郎 全委員 7 「これまでの伊坂さんの作品とくらべて、いささか生彩を欠く感じがあった。」
荻原浩 全委員 0  
恩田陸 全委員 10 「(引用者注:この作品に)登場する奇妙な集団は、日本人の集合的無意識に触れる何かがあって、興味ぶかく読んだ。民俗学的なアプローチに今ひとつの視野の広さが欲しいような気がする。」
恒川光太郎 全委員 5 「奇妙な魅力がある。未完成だが、この先に何かがありそうな可能性を感じる書き手であると思う。」
姫野カオルコ 全委員 0  
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選考委員渡辺淳一×各候補作  見方・注意点
トリックか人間描写か 総行数91 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東野圭吾 全委員 35 「わたしは不満である。」「問題は人物造形で、最後の謎解きにいたるにつれて、主人公の石神がいかにもつくりものじみて、リアリティーに欠ける。」「人間を描くという姿勢はいささか安易で、もの足りない。にもかかわらず本作品が受賞したことは、かつての推理小説ブームなどを経て、近年、推理小説の直木賞へのバリアが低くなりつつあることの、一つの証左といえなくもない。」
伊坂幸太郎 全委員 19 「以前から才気ある作家で、その才気は今回も充分発揮され、死神を主人公にもってきたところが、いかにも斬新である。」「とくに不満なのは、死神の身勝手な尊大さが見えてくるところで、ときには死神の精度が狂って、失敗するケースも加えたほうが作品の奥ゆきが深まっただろう。」
荻原浩 全委員 0  
恩田陸 全委員 0  
恒川光太郎 全委員 19 「今回、もっとも惹かれた」「なによりも想像力が豊かで、妖しい小説の現代版として説得力がある。」「ただ候補になったのが今回初めてで、未知数のところがマイナスとなり、残念な結果になった」
姫野カオルコ 全委員 0  
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選考委員林真理子×各候補作  見方・注意点
満を持しての受賞 総行数91 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東野圭吾 全委員 45 「(引用者注:過去の候補作と比べ)今回がいちばん危なげなく着地出来たような気がする。」「たとえ小説でも許されない、非道徳的なことがあると思うが、この作品はそうした善悪を乗り越えるだけの力を持っていると思う。」「ご本人に不満はあるだろうが、とてもよいタイミングの受賞であったと思う。」
伊坂幸太郎 全委員 12 「今とてもむずかしい時期に来ていると感じた。アイデアもいい。文章もうまい。しかしそこから発酵してくるもの、書いている作者さえ想像しなかったものが漂ってこなければ、作品はそれまでのものだ。」「伊坂さんの場合、計算どおりのことしか起こらなかったようだ。」
荻原浩 全委員 6 「素直さに好感が持てるが、同時に素人っぽさが気にかかる。すんなり読める分、インパクトの薄い小説である。」
恩田陸 全委員 6 「今回創り出した「恩田ワールド」が、とてもちゃちなことにいささか失望した。あの絢爛とした世界はどこに行ったのか。」
恒川光太郎 全委員 8 「初ノミネートにもかかわらず、非常に評価の高かった」「この方の世界の美しさ、はかなさが、持っている引き出しの狭さと通じるのではないかという危惧がある。」
姫野カオルコ 全委員 14 「かなり肩すかしであった。作者の視点にこの高齢の女性と時代に対しての尊敬がない。高所からの茶化しや皮肉が生きていないのだ。」「彼女が性的な世界に導かれるシーンが全くない」「私も経験があるが、ここが身内の女性をモデルにした時の限界になってしまうのだろう。」
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選考委員津本陽×各候補作  見方・注意点
たしかな構築 総行数62 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東野圭吾 全委員 16 「隙のない、堅固な構築であるので、これはいいと思った。これまで候補となったこの作者の小説は、筆力はまちがいなくあるのだが、内容が軽いのでどうかなと首をかしげる段階にとどまっていた。」「こんなものが書けるなら、もっと早く眼光するどくきびしい顔を見せてくれたらよかったと思った。」
伊坂幸太郎 全委員 10 「ありふれた題材だが、表現が巧みで、作品を多産できるかも知れないと期待できる柔軟さが出てきたように思う。」
荻原浩 全委員 9 「上手な作品である。すでに充分な力量をそなえているのだが、一頭地を抜く迫力があるかというと、いましばらくの精進だといいたくなる。」
恩田陸 全委員 14 「独得の湿潤でどこか霧がかかっているような雰囲気があるのだが、全体に軽みがある。南方熊楠の日記に見るような、(引用者中略)鋭い刃のような表現が、一ヵ所にでもあればいいのだがと思う。」
恒川光太郎 全委員 6 「先の可能性があると思わせる、迫力のある作品だが、今後の発展はどうなるかといえば、まだ見当のつかない段階であろう。」
姫野カオルコ 全委員 7 「作者にとっては得にならない小説であったと思う。充分に才気はあるのだが、第二次大戦前(原文傍点)から生きていた者が見れば、杜撰な叙述が多く眼についたからだ。」
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選考委員北方謙三×各候補作  見方・注意点
十二分の力量 総行数93 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東野圭吾 全委員 24 「トリックに終っていない部分を、私はさらに評価した。人間が心の底に持つ、純愛への願望、偏執的な愛を、トリックによって鮮烈に炙り出していた。」「今回は、受賞作一作に丸をつけて臨んだ。」
伊坂幸太郎 全委員 15 「この作者の発想には、いつも新鮮な驚きを覚える。」「技法上は、視点としての存在でしかないはずだが、微妙に死生観まで感じさせてくれるところがいい。ただ、発想から生まれた構成が、設計図通りという印象で、弾けたところがないのが、私には不満だった。二作受賞を主張すべきかどうか迷ったが、推しきれなかった。」
荻原浩 全委員 11 「主人公がかつて銀行員だったことに、こだわり過ぎたのではないだろうか。」「だから、主人公のカタルシスが、読者のそれと重ならなかったところがある、と思った。」
恩田陸 全委員 10 「筆力に圧倒されて読んでしまうが、読後は作りものという印象が残った。民俗的なものと、超常的なものの間に、微妙な乖離を感じてしまうのだ。」
恒川光太郎 全委員 10 「細部の描写が巧みで、丁寧な作品だと思った。なにか、新しい世界を構築しつつある、という気もした。併録作品の「風の古道」の方を私は買ったが、一緒に異世界に紛れこんだ友人がどうなったのか、最後までひっかかってしまった。」
姫野カオルコ 全委員 16 「現代から見るとすでに歴史小説の分野に入ると考えてよく、その配慮がどの程度なされたのか、首を傾げるところがあった。」「エイティのハルカさんの魅力が作り出されたに違いない、六十歳以降がほとんど書かれていないのも、大いに気になった。」
  「新人からベテランの作品まで、候補作に並んでいて、選考ということを考えれば、なかなかつらいものがあった。」
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選考委員宮城谷昌光×各候補作  見方・注意点
合理と不合理 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東野圭吾 全委員 14 「他の候補作品は力感において東野氏のそれに及ばなかったということに尽きる。」「閉じられた合理のなかで物語が展開し、読者のなぜという問いかけはうけつけず、作者の自問自答で終始する。」
伊坂幸太郎 全委員 9 「閉じられた合理のなかで物語が展開し、読者のなぜという問いかけはうけつけず、作者の自問自答で終始する。」
荻原浩 全委員 18 「いわゆる小説らしい小説とは、荻原浩氏の「あの日にドライブ」しかなかったといってよいのに、推したのが私ひとりであったのは意外であった。作者の意匠的肚のすえかたは尋常ではない。」「作者のすぐれた自制力と偏曲しない感性がみえるようであり、そのため小説の風景がゆがんでみえない。」
恩田陸 全委員 9 「閉じられた合理のなかで物語が展開し、読者のなぜという問いかけはうけつけず、作者の自問自答で終始する。」
恒川光太郎 全委員 47 「閉じられた合理のなかで物語が展開し、読者のなぜという問いかけはうけつけず、作者の自問自答で終始する。その形式がとくに堅牢につくられているのが恒川氏の作品である。」「幻想小説を嫌っているわけではないが、それらの小説が私のなかで重みを失ってきたのは、小説の動力となっている都合のよさに疑いをもたざるをえなくなったからである。」
姫野カオルコ 全委員 13 「文体は大切なもので、言語が無機質になることをふせぎ、観念の力を保存してくれる。」「「ハルカ・エイティ」の場合、言語に質感がとぼしく、その痩容を新鮮な観念がきれいに粧点しているともおもわれなかった。」
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選考委員井上ひさし×各候補作  見方・注意点
力量は十分 総行数158 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東野圭吾 全委員 24 「(引用者注:「死神の精度」とともに)二作を推すことに決めていた。」「主人公の数学教師はホームレスを殺す。(引用者中略)他人の生命を踏みつけにしておいて愛もへったくれもないではないか……しかし、作者の力量は疑いもなく十分、そこで最後の一票を東野作品に投じた。」
伊坂幸太郎 全委員 31 「(引用者注:「容疑者Xの献身」とともに)二作を推すことに決めていた。」「美点を満載した小説である。」「人間をよく知らない調査部員(死神)がつい幼稚な質問を発して、じつはそれが人間の営みに対する根源的な質問になっているという工夫には脱帽した。もっとも死神が常に全能であるのは疑問で、「死神の失敗や誤算が書かれていたら」という渡辺淳一委員の意見に同感した。」
荻原浩 全委員 30 「日常の細部がいちいちおもしろい。」「過去と現在とが正面衝突するようなこともなく、予定された結末へあっさり着地してしまう。もっとうまく仕組まれた小説的などぎつさがほしい。もちろん、そうはどぎつく書かないぞというのが作者の志だとはわかっているつもりだが。」
恩田陸 全委員 29 「記憶の保存――なにごとにおいても忘れっぽいこの国では貴重な、この作者ならではの鋭い、そして興味深い着眼である。」「この記憶保持者たちが、もっともその記憶が大事にされるべきとき(大戦争)に、なんの活躍もしないのはどうしてだろう。つまり終章がはなはだ物足りない。これでは記憶の持ち腐れではないか。」
恒川光太郎 全委員 28 「いたるところに才能がきらめいていた。」「作者の発明による意外な趣向と精緻な細部が、簡潔で節度のある文章で綴られて行くうちに、人間存在の寂しさ、いとしさが不意に浮かび上がってくる。」「「風の古道」もまったく同趣の作でみごとなものだが、やはり同趣というところが気にかからぬでもない。」
姫野カオルコ 全委員 27 「とくに後半は年表に肉をつけたような筆の運びで、ずいぶん痩せている。なによりも彼女(引用者注:主人公のハルカ)が、彼女自身の運命とどのように渡り合って血と涙を流したのか、どんなことに喜び、そして笑ったのか、そういったことがうまく書き込まれていない。」
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渡辺淳一
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東野圭吾『容疑者Xの献身』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高 全候補 39 「こんな人間が実在するだろうか? これは愛だろうか? ヒューマニズムにもとるところはないだろうか? などなどいくつかの疑問の余地を含んでいるが、それはなぞ解きミステリーの宿命的弱点とも関わる問題だ。あえて言えば私はなぞ解きミステリーとしてのすばらしさだけでも受賞に値する、と考えた。」
平岩弓枝 全候補 31 「秀れた棋士が大胆、且つ、細心の注意を払って指し進めた棋譜をみるような構成力も見事ながら、ひたすら人間を描くことと、事件の謎ときが渾然と一つに溶け合っているあたり、作者の実力であろうが、これも、そうしなければと心がけていても容易に成功するものではない。」「受賞作が、これだけ重厚で、奥行きの深さがあると、才智だけで書いた作品はどうしても色褪せてみえてしまう。」
五木寛之 全候補 56 「推理小説として、ほとんど非のうちどころのない秀作である。」「特筆すべきは、そのプロセスを作中人物に投影させつつストーリーを組み上げてみせた作者の膂力である。」「犯行を偽装するために殺されたホームレスの描きかたと、男たちを惹きつける何を持った靖子という女のオーラが伝わってこないのと、その二点が私にとっては不満だった。」「しかし、他の作品を引き離しての、堂々の受賞であったことはまちがいない。」
渡辺淳一 全候補 35 「わたしは不満である。」「問題は人物造形で、最後の謎解きにいたるにつれて、主人公の石神がいかにもつくりものじみて、リアリティーに欠ける。」「人間を描くという姿勢はいささか安易で、もの足りない。にもかかわらず本作品が受賞したことは、かつての推理小説ブームなどを経て、近年、推理小説の直木賞へのバリアが低くなりつつあることの、一つの証左といえなくもない。」
林真理子 全候補 45 「(引用者注:過去の候補作と比べ)今回がいちばん危なげなく着地出来たような気がする。」「たとえ小説でも許されない、非道徳的なことがあると思うが、この作品はそうした善悪を乗り越えるだけの力を持っていると思う。」「ご本人に不満はあるだろうが、とてもよいタイミングの受賞であったと思う。」
津本陽 全候補 16 「隙のない、堅固な構築であるので、これはいいと思った。これまで候補となったこの作者の小説は、筆力はまちがいなくあるのだが、内容が軽いのでどうかなと首をかしげる段階にとどまっていた。」「こんなものが書けるなら、もっと早く眼光するどくきびしい顔を見せてくれたらよかったと思った。」
北方謙三 全候補 24 「トリックに終っていない部分を、私はさらに評価した。人間が心の底に持つ、純愛への願望、偏執的な愛を、トリックによって鮮烈に炙り出していた。」「今回は、受賞作一作に丸をつけて臨んだ。」
宮城谷昌光 全候補 14 「他の候補作品は力感において東野氏のそれに及ばなかったということに尽きる。」「閉じられた合理のなかで物語が展開し、読者のなぜという問いかけはうけつけず、作者の自問自答で終始する。」
井上ひさし 全候補 24 「(引用者注:「死神の精度」とともに)二作を推すことに決めていた。」「主人公の数学教師はホームレスを殺す。(引用者中略)他人の生命を踏みつけにしておいて愛もへったくれもないではないか……しかし、作者の力量は疑いもなく十分、そこで最後の一票を東野作品に投じた。」
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他の候補作
伊坂幸太郎 『死神の精度』
荻原浩 『あの日にドライブ』
恩田陸 『蒲公英草紙』
恒川光太郎 『夜市』
姫野カオルコ 『ハルカ・エイティ』
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伊坂幸太郎『死神の精度』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高 全候補 17 「筆力の冴えを充分に感じながらも微妙な違和感を禁じえなかった。」「死の不条理を前にして、私たちの日常がどう映るか、それがこの作品のテーマだと考えるが、そのあたりに、もっと深い思案があってよかったのではないか、」
平岩弓枝 全候補 11 「軽く書いているようで、この作品の本質は決して軽くはない。作風は小粋で、人間のとらえ方に柔軟性があってとても楽しく読めた。」「(引用者注:主人公の死神による最終判断が)もう少し「見送り」の作品があってもよろしいのではあるまいか。」
五木寛之 全候補 7 「これまでの伊坂さんの作品とくらべて、いささか生彩を欠く感じがあった。」
渡辺淳一 全候補 19 「以前から才気ある作家で、その才気は今回も充分発揮され、死神を主人公にもってきたところが、いかにも斬新である。」「とくに不満なのは、死神の身勝手な尊大さが見えてくるところで、ときには死神の精度が狂って、失敗するケースも加えたほうが作品の奥ゆきが深まっただろう。」
林真理子 全候補 12 「今とてもむずかしい時期に来ていると感じた。アイデアもいい。文章もうまい。しかしそこから発酵してくるもの、書いている作者さえ想像しなかったものが漂ってこなければ、作品はそれまでのものだ。」「伊坂さんの場合、計算どおりのことしか起こらなかったようだ。」
津本陽 全候補 10 「ありふれた題材だが、表現が巧みで、作品を多産できるかも知れないと期待できる柔軟さが出てきたように思う。」
北方謙三 全候補 15 「この作者の発想には、いつも新鮮な驚きを覚える。」「技法上は、視点としての存在でしかないはずだが、微妙に死生観まで感じさせてくれるところがいい。ただ、発想から生まれた構成が、設計図通りという印象で、弾けたところがないのが、私には不満だった。二作受賞を主張すべきかどうか迷ったが、推しきれなかった。」
宮城谷昌光 全候補 9 「閉じられた合理のなかで物語が展開し、読者のなぜという問いかけはうけつけず、作者の自問自答で終始する。」
井上ひさし 全候補 31 「(引用者注:「容疑者Xの献身」とともに)二作を推すことに決めていた。」「美点を満載した小説である。」「人間をよく知らない調査部員(死神)がつい幼稚な質問を発して、じつはそれが人間の営みに対する根源的な質問になっているという工夫には脱帽した。もっとも死神が常に全能であるのは疑問で、「死神の失敗や誤算が書かれていたら」という渡辺淳一委員の意見に同感した。」
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他の候補作
東野圭吾 『容疑者Xの献身』
荻原浩 『あの日にドライブ』
恩田陸 『蒲公英草紙』
恒川光太郎 『夜市』
姫野カオルコ 『ハルカ・エイティ』
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荻原浩『あの日にドライブ』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高 全候補 5 「わるくない。一つの人生がほどよく描かれている。が、インパクトが弱いし、読後のカタルシスも感じにくかった。」
平岩弓枝 全候補 14 「才能は感じられるものの、完成度は今一つの感がある。」
五木寛之 全候補 0  
渡辺淳一 全候補 0  
林真理子 全候補 6 「素直さに好感が持てるが、同時に素人っぽさが気にかかる。すんなり読める分、インパクトの薄い小説である。」
津本陽 全候補 9 「上手な作品である。すでに充分な力量をそなえているのだが、一頭地を抜く迫力があるかというと、いましばらくの精進だといいたくなる。」
北方謙三 全候補 11 「主人公がかつて銀行員だったことに、こだわり過ぎたのではないだろうか。」「だから、主人公のカタルシスが、読者のそれと重ならなかったところがある、と思った。」
宮城谷昌光 全候補 18 「いわゆる小説らしい小説とは、荻原浩氏の「あの日にドライブ」しかなかったといってよいのに、推したのが私ひとりであったのは意外であった。作者の意匠的肚のすえかたは尋常ではない。」「作者のすぐれた自制力と偏曲しない感性がみえるようであり、そのため小説の風景がゆがんでみえない。」
井上ひさし 全候補 30 「日常の細部がいちいちおもしろい。」「過去と現在とが正面衝突するようなこともなく、予定された結末へあっさり着地してしまう。もっとうまく仕組まれた小説的などぎつさがほしい。もちろん、そうはどぎつく書かないぞというのが作者の志だとはわかっているつもりだが。」
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他の候補作
東野圭吾 『容疑者Xの献身』
伊坂幸太郎 『死神の精度』
恩田陸 『蒲公英草紙』
恒川光太郎 『夜市』
姫野カオルコ 『ハルカ・エイティ』
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恩田陸『蒲公英草紙』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高 全候補 15 「このテーマを読むとしたら私は(たとえファンタジーであったとしても)どこかにデモニッシュな気配を感じたい。――味のいい作品だな――と思いながら印象は弱かった。」
平岩弓枝 全候補 14 「才能は感じられるものの、完成度は今一つの感がある。」
五木寛之 全候補 10 「(引用者注:この作品に)登場する奇妙な集団は、日本人の集合的無意識に触れる何かがあって、興味ぶかく読んだ。民俗学的なアプローチに今ひとつの視野の広さが欲しいような気がする。」
渡辺淳一 全候補 0  
林真理子 全候補 6 「今回創り出した「恩田ワールド」が、とてもちゃちなことにいささか失望した。あの絢爛とした世界はどこに行ったのか。」
津本陽 全候補 14 「独得の湿潤でどこか霧がかかっているような雰囲気があるのだが、全体に軽みがある。南方熊楠の日記に見るような、(引用者中略)鋭い刃のような表現が、一ヵ所にでもあればいいのだがと思う。」
北方謙三 全候補 10 「筆力に圧倒されて読んでしまうが、読後は作りものという印象が残った。民俗的なものと、超常的なものの間に、微妙な乖離を感じてしまうのだ。」
宮城谷昌光 全候補 9 「閉じられた合理のなかで物語が展開し、読者のなぜという問いかけはうけつけず、作者の自問自答で終始する。」
井上ひさし 全候補 29 「記憶の保存――なにごとにおいても忘れっぽいこの国では貴重な、この作者ならではの鋭い、そして興味深い着眼である。」「この記憶保持者たちが、もっともその記憶が大事にされるべきとき(大戦争)に、なんの活躍もしないのはどうしてだろう。つまり終章がはなはだ物足りない。これでは記憶の持ち腐れではないか。」
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他の候補作
東野圭吾 『容疑者Xの献身』
伊坂幸太郎 『死神の精度』
荻原浩 『あの日にドライブ』
恒川光太郎 『夜市』
姫野カオルコ 『ハルカ・エイティ』
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恒川光太郎『夜市』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高 全候補 10 「おもしろく読んだ。優れたイマジネーションを感じた。」「ほかにどんな手腕を持っているのか、この作品を認めながらももう少し見守りたい、というのがおおかたの意見であり、私もそれに従った。」
平岩弓枝 全候補 14 「才能は感じられるものの、完成度は今一つの感がある。」
五木寛之 全候補 5 「奇妙な魅力がある。未完成だが、この先に何かがありそうな可能性を感じる書き手であると思う。」
渡辺淳一 全候補 19 「今回、もっとも惹かれた」「なによりも想像力が豊かで、妖しい小説の現代版として説得力がある。」「ただ候補になったのが今回初めてで、未知数のところがマイナスとなり、残念な結果になった」
林真理子 全候補 8 「初ノミネートにもかかわらず、非常に評価の高かった」「この方の世界の美しさ、はかなさが、持っている引き出しの狭さと通じるのではないかという危惧がある。」
津本陽 全候補 6 「先の可能性があると思わせる、迫力のある作品だが、今後の発展はどうなるかといえば、まだ見当のつかない段階であろう。」
北方謙三 全候補 10 「細部の描写が巧みで、丁寧な作品だと思った。なにか、新しい世界を構築しつつある、という気もした。併録作品の「風の古道」の方を私は買ったが、一緒に異世界に紛れこんだ友人がどうなったのか、最後までひっかかってしまった。」
宮城谷昌光 全候補 47 「閉じられた合理のなかで物語が展開し、読者のなぜという問いかけはうけつけず、作者の自問自答で終始する。その形式がとくに堅牢につくられているのが恒川氏の作品である。」「幻想小説を嫌っているわけではないが、それらの小説が私のなかで重みを失ってきたのは、小説の動力となっている都合のよさに疑いをもたざるをえなくなったからである。」
井上ひさし 全候補 28 「いたるところに才能がきらめいていた。」「作者の発明による意外な趣向と精緻な細部が、簡潔で節度のある文章で綴られて行くうちに、人間存在の寂しさ、いとしさが不意に浮かび上がってくる。」「「風の古道」もまったく同趣の作でみごとなものだが、やはり同趣というところが気にかからぬでもない。」
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他の候補作
東野圭吾 『容疑者Xの献身』
伊坂幸太郎 『死神の精度』
荻原浩 『あの日にドライブ』
恩田陸 『蒲公英草紙』
姫野カオルコ 『ハルカ・エイティ』
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姫野カオルコ『ハルカ・エイティ』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
阿刀田高 全候補 8 「戦後生まれの作者が、――よく調べて綴ったなあ――と感心したけれど、私たちの世代を感動させるには薄かった、と思う。」
平岩弓枝 全候補 14 「才能は感じられるものの、完成度は今一つの感がある。」
五木寛之 全候補 0  
渡辺淳一 全候補 0  
林真理子 全候補 14 「かなり肩すかしであった。作者の視点にこの高齢の女性と時代に対しての尊敬がない。高所からの茶化しや皮肉が生きていないのだ。」「彼女が性的な世界に導かれるシーンが全くない」「私も経験があるが、ここが身内の女性をモデルにした時の限界になってしまうのだろう。」
津本陽 全候補 7 「作者にとっては得にならない小説であったと思う。充分に才気はあるのだが、第二次大戦前(原文傍点)から生きていた者が見れば、杜撰な叙述が多く眼についたからだ。」
北方謙三 全候補 16 「現代から見るとすでに歴史小説の分野に入ると考えてよく、その配慮がどの程度なされたのか、首を傾げるところがあった。」「エイティのハルカさんの魅力が作り出されたに違いない、六十歳以降がほとんど書かれていないのも、大いに気になった。」
宮城谷昌光 全候補 13 「文体は大切なもので、言語が無機質になることをふせぎ、観念の力を保存してくれる。」「「ハルカ・エイティ」の場合、言語に質感がとぼしく、その痩容を新鮮な観念がきれいに粧点しているともおもわれなかった。」
井上ひさし 全候補 27 「とくに後半は年表に肉をつけたような筆の運びで、ずいぶん痩せている。なによりも彼女(引用者注:主人公のハルカ)が、彼女自身の運命とどのように渡り合って血と涙を流したのか、どんなことに喜び、そして笑ったのか、そういったことがうまく書き込まれていない。」
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他の候補作
東野圭吾 『容疑者Xの献身』
伊坂幸太郎 『死神の精度』
荻原浩 『あの日にドライブ』
恩田陸 『蒲公英草紙』
恒川光太郎 『夜市』
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