直木賞のすべて
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第125回

=受賞者=
藤田宜永

=候補者=
奥田英朗
真保裕一
田口ランディ
東野圭吾
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 平成13年/2001年上半期
 (平成13年/2001年7月17日決定発表/『オール讀物』平成13年/2001年9月号選評掲載)
選考委員  井上ひさし 黒岩重吾 田辺聖子 渡辺淳一 宮城谷昌光 林真理子 阿刀田高 津本陽 北方謙三 平岩弓枝 五木寛之
選評総行数  147 80 117 64 114 85 117 94 122 104 68
評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
藤田宜永 『愛の領分』 評言 21 42 23 24 114 25 23 19 23 18 24
奥田英朗 『邪魔』 評言 28 18 17 10 0 13 11 20 15 9 12
真保裕一 『黄金の島』 評言 27 12 25 6 0 5 18 21 17 10 6
田口ランディ 『モザイク』 評言 17 0 14 13 0 26 14 20 24 8 29
東野圭吾 『片想い』 評言 26 8 15 6 0 9 13 5 27 15 7
山之口洋 『われはフランソワ』 評言 30 0 8 5 0 7 25 9 16 13 0
                     
見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成13年/2001年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員井上ひさし×各候補作  見方・注意点
比類なく美しい構造 総行数147 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 21 「どこをとっても寸分の瑕もない、みごとな作品」「過去と現在の、二つの時間が一つになるという構造が比類なく美しい。」「なによりも淳蔵という得恋の五十男が紙の中から立ち上がり、いまにも読者の体の寸法を採ってくれそうなほど、よく書かれている。」
奥田英朗 全委員 28 「刮目し、歎服もした」「おもしろい細部、巧みな会話で、東京の衛星都市に住む、ある平凡な一家庭の転落過程が活写され、それだけでも元のとれる小説だが、この作者は途方もない描写トリックを仕掛けている。」「結末へ近づくにつれて、一人の刑事の再生物語の様相を呈しはじめる。なんという描写トリック、なんというあざやかさ。『愛の領分』(藤田宜永)と併せてこの作品を推した」
真保裕一 全委員 27 「旺んな筆力にまず驚く。」「才筆の作者であるから、ときに読者を魅了する。」「だが、主人公が日本上陸の寸前に殺されてしまうのに呆然とした。読者の労にもう少し酬いてもらいたい。」
田口ランディ 全委員 17 「電子、電脳社会を宗教に見立てた、みごとな世界解釈物語である。ただし今回は文章も描写も展開も少し粗くなった気がする。中心軸を思考から描写へ、ほんのちょっとずらしてもらえないものか。」
東野圭吾 全委員 26 「〈男になりたい女〉と〈女になりたい男〉がたがいに戸籍を交換し合ったらどうなるかという、すばらしい設定のもとに物語が組立てられている。」「おもしろさを求めるあまり、作者に都合がいいように書かれている。」「いったんは「おもしろくすること」を忘れて主題にまともにぶつかる方が、よりすばらしい作品になったかもしれぬ。」
山之口洋 全委員 30 「本当に実在したかどうかも疑われているヴィヨンの伝記を(引用者中略)勇敢に試みる。(引用者中略)まことにその意図は壮である。新しい人はこうでなくてはならぬ。」「「おれ」の乱用が読む者の参加を拒んでいる。「自己中心」的文が林立してうるさくなった。」「語り口にもう一工夫あれば俄然雄大な作品になったはずで、そこが惜しまれる。」
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選考委員黒岩重吾×各候補作  見方・注意点
業火の魅力 総行数80 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 42 「「愛の領分」一作を推す積りで選考会に出席した。」「氏は本作によってこれまでの優等生的な化粧雲を突き破り、それぞれの業に身を灼く男女を描くことに成功した。」「精神異常や人格障害者、またバイオレンスに頼り切った小説の氾濫にいささかうんざりしていたせいか、本小説に奇妙な心の安らぎさえ覚えた。」
奥田英朗 全委員 18 「力作である。私は警察の組織や刑事たちの描写に惹かれた。」「ただラストが劇画的だ。」「折角のリアリティの迫力が、ラストの描写で台無しになる。」「多分、余計な人物も含めて余り長くなり過ぎ力がつきたのであろう。」
真保裕一 全委員 12 「本作品に魅力を感じなかった。冒頭に出てくる暴力団の組長の女と主人公の関係は中途半端で、主人公のベトナムでの悩みや正義感も理解はできるが迫力が薄い。」
田口ランディ 全委員 0  
東野圭吾 全委員 8 「現代のテーマを見つけるのが上手い作家だと思った。ただストーリーが初めから組み立てられていて強烈に惹かれる部分がない。小説にとって大事なのはそこなのだが。」
山之口洋 全委員 0  
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選考委員田辺聖子×各候補作  見方・注意点
大人の恋愛文学 総行数117 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 23 「堂々たる恋愛小説であった。」「人生の機微がよく捉えられた〈大人の小説〉となっていた。」「人間がよく書きこまれ、それによって土地の風色も生気を帯びて顕ちあがった。〈オトナの現代〉とでもいうべき、現実の風が作品のページに吹き、読後風はまことに清爽だった。」
奥田英朗 全委員 17 「(引用者注:「黄金の島」と「邪魔」は)私にとっては優劣つけがたい面白さに思える。」「いろんな要素が文字通り邪魔をして、これも読者をはぐらかすのに作者は夢中、というところがある。その混ざりぐあいが面白いのだが、時折りそれがママコ(原文傍点)になって充分混ぜられていない憾みあり。」「もっとこの作者のものを読みたい気にさせる。」
真保裕一 全委員 25 「(引用者注:「黄金の島」と「邪魔」は)私にとっては優劣つけがたい面白さに思える。」「文章が躍動して、映像やマンガの比ではない昂揚感を与えられる。それだけに、主人公の〈修司〉のあっけない死は、裏切られた思いである。」「〈ワルモン〉が〈エエモン〉にやっつけられて溜飲をさげる、というたのしみを奪われて、欲求不満だった。」
田口ランディ 全委員 14 「ミミ(耳)でなくても目で、肌で、匂いで、触感で、人は情報を得、人とつながろうとする。もっとそれをドラマにしてほしい。以前の作品『コンセント』より平坦。でも文章が先天的に巧くて美しい。」
東野圭吾 全委員 15 「素材によりかかりすぎ、――という印象があるが、性同一性障害という現代的テーマに挑戦する意欲を買いたい。」「努めて情緒や思い入れを排する作者の持ち味が、透明感のある文章(わるくない)と相まって、登場人物を影絵人形のようにみせてしまう。この書き方の長篇は読み通すのが、ややナンギ。」
山之口洋 全委員 8 「いろ(原文傍点)気のない小説だなあ、――というのが最初の印象だった。色気があるか、かわいげがあるか、どっちかあってほしい。これ、書きながら作者も、双方ないのに困られたんじゃないですか。」
  「近頃、回を追うに従って、芥川賞・直木賞への期待が過熱化しているような気がするのは私だけだろうか。」「この賞は新人ばかりでなく、すでにプロとしての地歩を占めていられる作家も候補にあがるというユニークなところが話題を呼ぶのか。」
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選考委員渡辺淳一×各候補作  見方・注意点
文章の艶 総行数64 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 24 「なによりも好ましいのは、文章にいい意味での気取りがあり、恋愛小説らしい艶が滲んできたことである。全体にやや古いという評もあったが、それは形の問題で、登場する女性たちはいずれもヴィヴィッドで、情熱的でもある。」「このところ、バイオレンスや推理小説が多いなかで、氏はひたすら恋愛小説を書き続けてきたが、なかでも今回のがもっとも充実して、優れている。」
奥田英朗 全委員 10 「安定した文章で、警察内部の人間関係や市井の人物などを書き分けて、それなりに読ませる。ただこれだけの長篇のわりには、最後に立上ってくるものが希薄でもの足りないが、力のある人だけに次に期待したい。」
真保裕一 全委員 6 「ストーリーは多彩だが、ただ面白おかしく書いたという域を出ず、人間関係や現代への視点もありきたりで、平板である。」
田口ランディ 全委員 13 「冒頭の部分や渋谷の雑踏の描写など秀逸で、改めて才能を感じさせる。だが前回と同様、後半になるにしたがって乱れ、一篇の小説として収斂していかないもどかしさを覚える。」
東野圭吾 全委員 6 「性同一性障害という重いテーマを扱っているわりには、全体の印象が薄く、ここでもストーリー優先の安易さが、作品を弱めている。」
山之口洋 全委員 5 「著者が面白がっているわりには退屈で、なにを書きたかったのか、わからなかった。」
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選考委員宮城谷昌光×各候補作  見方・注意点
悟性の活用 総行数114 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 114 「悟性によって決定された語句は、作品自体がもっている原理を超越するという特徴をもち、藤田氏の作品のみがそれを有し、他の作品は自身の原理にとどまっている。つまりそれは藤田氏のみが、作家としてではない生活をもおろそかにせず、周辺を凝視し観察してきたということである。」「藤田氏はちかごろの作家にしてはめずらしく風景描写をする。(引用者中略)風景にさわった手をひきもどす力が弱いようである。」
奥田英朗 全委員 0  
真保裕一 全委員 0  
田口ランディ 全委員 0  
東野圭吾 全委員 0  
山之口洋 全委員 0  
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選考委員林真理子×各候補作  見方・注意点
藤田さんのストライクゾーン 総行数85 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 25 「恋愛小説を読む醍醐味をたっぷり味わわせていただいた一作だ。」「静謐で、ねっとりとした魅力を持つ。ヒロインの官能的な描写も素晴らしい。」「強いて申し上げるとしたら、登場人物が年齢のわりにやや老けて見えることであろうか。」
奥田英朗 全委員 13 「大層面白かった。」「途中までいっきに読んだ。けれども後半があまりにも劇画的である。」「エンターテイメントの確かな才能をお持ちなだけに残念だ。」
真保裕一 全委員 5 「後味が悪いものとなった。現代のベトナムをよく調べていると思うものの、これでは救いがない。」
田口ランディ 全委員 26 「今回はいったいどうしたことであろうか。「コンセント」であれほど見せてくれた、小説的輝きがすっかり薄れているのだ。」「現代に対する鋭さ、ピュアな感性、弱者に対するまなざし、こういうものを充分お持ちなのはわかっている。けれどもこれをどう文章に変え、小説というものに組み立てていくかだ。」
東野圭吾 全委員 9 「あまり芳しくない読後感を持った。それは、「いいネタ見つけちゃった」という作者の筆のはずみのようなものが伝わるからだ。深刻なテーマをこんな一篇にするからには、もっと覚悟が必要だったろう。」
山之口洋 全委員 7 「あまり魅力を感じなかった。悪漢小説のギラギラしたものもなければ、歴史小説の畳みかけてくるような知識の楽しさもない。中途半端の印象を持った。」
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選考委員阿刀田高×各候補作  見方・注意点
古典的な恋愛小説 総行数117 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 23 「古典的な恋愛小説で、新しいところがないと言われれば、その通りだが、多くの人にとって恋愛は月並な形しか採りえないものではないのか。(引用者中略)月並ではあるけれど、それぞれにとって切実であり、ユニークであり、かけがえのないもの、それがこの世の恋ではあるまいか。「愛の領分」は、そんな恋愛を描いて、つきづきしい。」「小説を読む素朴な楽しさがある、と感じた。」
奥田英朗 全委員 11 「人物に対する目配りが冴えている。」「ただ、この作品の半分が、妻と子と妻の母とを交通事故で失った刑事の幻想談とするのは納得がいかない。そういう作品ならば、もっとべつな書き方があったのではなかろうか。」
真保裕一 全委員 18 「力作だが、ストーリーの展開と構成に配置を欠いているように感じた。」「充分に長い作品だが、これで前半、主人公たちが生きて日本に帰り、そこに後半があるような、そういうストーリーでなければカタルシスが乏しい。どことなく二階にあげられ梯子を取られたような印象の残る作品であった。」
田口ランディ 全委員 14 「前回に似ていて、だが劣っている、という印象を拭えなかった。この作家の描く思想は本当におもしろい。だが、そのアイデアが小説化されていないうらみが濃いのである。」
東野圭吾 全委員 13 「登場人物のそれぞれにアメリカン・フットボールのポジションに由来する役割をふり当てたところは、楽しめるアイデアであった。しかし、こういう遊戯的な技法とこの作品の深刻なテーマとが噛み合わない。」
山之口洋 全委員 25 「――むつかしいテーマに挑戦したなあ――と拍手を送りながらも、もの足りなさを覚えた。」「作者は該博な知識を駆使して中世フランスのくさぐさを描いているが、小説としての広がりを持たせることに不足があったように思う。一人称でこれだけほざかれると、読むほうは少しつらい。」
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選考委員津本陽×各候補作  見方・注意点
風音が聞える 総行数94 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 19 「平凡な内容ではない恋愛小説を、きわめて静かな調子で語り、数人の男女の姿を陰影ふかくえがきだした。」「低く尾をひく音色の調子は、しまいまで変らない。受賞作にふさわしい佳品である。」
奥田英朗 全委員 20 「読者を飽きさせないで、警察を舞台にした物語のなかへ引きこんでゆき、現実感をみなぎらせてくれる。」「まったくうまいものだと思うが、奥ゆきというか、残響というか、読後に陰影をのこしていってくれる部分が、すくない。九野という主人公が、狂気を秘めていたという点も、なにかつけたしのようで、説得力に欠けていた。」
真保裕一 全委員 21 「読者に飽きさせない筆力を、充分にそなえている。」「あまりおもしろい運びに乗って、欠点も目につかないまま、読みおえた。そこが、この小説の欠点といえばいえるのだろうか。」「しかし、この作者の話の運びのうまさは、尋常ではない。旨い酒か菓子のようである。いま一段苦味をそえれば、重さが増してくるだろう。」
田口ランディ 全委員 20 「小説としては、いわんとするところを読者に伝えることのできない、中途半端のまま終ったが、手法を工夫して、独得の魅力を生かせるように努力してほしい。」
東野圭吾 全委員 5 「精神的な両性具有の主人公を動かす小説で、相応の表現力はいつもの通りあるのだが、どうしても重みがそわない。」
山之口洋 全委員 9 「ヴィヨンという詩人の生涯をえがくために、こんな表現では適当とはいえないという感じがした。」「主人公の姿を鮮明にえがきだすための手練、感覚がまだ磨きだされていないのである。」
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選考委員北方謙三×各候補作  見方・注意点
ある境地 総行数122 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 23 「細かい欠点はいくつか指摘できるが、中年男の静かな情念を描いて、秀逸であった。過去の傷も、燃える思いも、晩年を迎えつつある人生の感慨も、静謐な日常の中に閉じこめるだけの抑制があり、恋愛小説としてひとつの境地を獲得したと感じた。」
奥田英朗 全委員 15 「日常の光景の中から立ちあがってくる人物の存在感は、息をのむほどである。その人物が、なぜか後半になって生きてこない。」「鮮やかだったものが、無彩色に変化していくという印象は、いかにも惜しい。その一点さえ克服できていれば、と強く思った。」
真保裕一 全委員 17 「修司という男の描き方、特に日本にいる場面での人物造形が甘い。ここに厳しさがあれば、もうひと皮剥けた作品になったであろうし、結末のつけ方も違ってきたはずだと感じた。取材が行き届いた作品であるのに、惜しいという思いは否めない。」
田口ランディ 全委員 24 「言葉にならない叫びというものが通底しているような感じがして、どこか不気味でさえあった。」「これを小説という表現形態で全うできるのだろうか、という疑問が前作と同様につきまとった。小説的普遍性に近づけようという努力が、この作品をやや説明過多なものにしたのではないだろうか。」
東野圭吾 全委員 27 「藤田氏と並んで、私が密かに二作受賞を期して選考会に臨んだのが、東野氏の『片想い』である。」「派手な技巧の中に紛れて見えにくいが、「私は男ではない。女でもない。私は私である」という陸上選手の述懐など胸を打つものがあり、決して題材を軽く扱ったとは私は感じなかった。」「受賞に値する、と私は思った。」
山之口洋 全委員 16 「吟遊詩人を描いて、飽きさせないというところがあった。ややペダンチックなところと、翻訳調がいくらか気になる。そして、私には詩が無用であった。」「詩人を描くのに詩というのが、安直さに繋がったような気がしてならない。」
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選考委員平岩弓枝×各候補作  見方・注意点
「愛の領分」の魅力 総行数104 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 18 「一つ間違うとレトロと捕えられかねない素材と人間像を作者独特の情感でじっくりと練り上げて、その行間に現代の風をさわやかに流れ込ませている。私はもともと藤田さんの小説が好きで、小粋でダンディな作風を愛好していたのだが「愛の領分」ではそれとは異ったリリシズムを感じて、これはこれはと思っている。」
奥田英朗 全委員 9 「現在、ざらにある話を組み立てて、登場する人間達を描き切った腕は確かだと思う。ただ、正直のところ、あまりに息苦しい。小説にはちょっと風抜きの穴を作ってやるとテーマが一層、鮮烈に浮び上るという手法を学んで欲しい。」
真保裕一 全委員 10 「ヴェトナムはよく調べているし、細かなところにまで行き届いている。但し、ここに出て来るヴェトナム人の性格や心はヴェトナム人ではなく、むしろ、他の東南アジアの人々のものである。ヴェトナム人にとっては心外なことに違いない。」
田口ランディ 全委員 8 「相変らず凄い才能に感心しながらも、これを小説として読むのは苦しい。とりわけ、終りに近く長すぎる説明的会話をおいたのは構成上マイナスではなかったかと思った。」
東野圭吾 全委員 15 「まことに才筆で、連載中はさぞかし読者をひきずって行ったに違いない。ただ、作者が意識したにせよ無意識だったにせよ読者を飽きさせまいとして苦労した部分が一冊の本にまとめられると冗漫に感じられたり、不必要に見えたりする。」「単行本にまとめる際、一考を要されたい。」
山之口洋 全委員 13 「選考委員の票が集まらなかったが、私は楽しく読めた。」「主人公が、かつて自分と一緒に作品を書いた坊やが、主人公から贈られたフランソワ・ヴィヨンの名前で笑劇一座の座長となって作品を書いているのを知るあたり、エスプリがきいていると思ったのだが。」
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選考委員五木寛之×各候補作  見方・注意点
多作のすすめ 総行数68 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
藤田宜永 全委員 24 「今回ほどすんなりと決まった受賞作もめずらしい。」「私は『愛の領分』と、田口ランディさんの『モザイク』に一票を投じた」「古風な小説である。しかし、立原正秋とも、加堂秀三ともちがう独自の世界を創りだしているところがいいと思った。登場する人物たちひとりひとりに存在感があるのも、この作家の才能だろう。」
奥田英朗 全委員 12 「私は惜しいと思い、もう少し論じてみるべきだったかな、と、選考の終った後に後悔する感じがあった。この書き手には、どこか読者を惹きつける天与の才があるような気もする。」
真保裕一 全委員 6 「あまり積極的に評価する声がなかった。」「実績のある実力作家なので、これも意外な気がした。」
田口ランディ 全委員 29 「私は『愛の領分』と、田口ランディさんの『モザイク』に一票を投じたのだが、『モザイク』のほうは意外なほど不評で、ちょっとびっくりしたほどである。」「私などにはとてもこういうふうに渋谷の街を描くことはできない。」「新しさを感じさせる文章だった。」
東野圭吾 全委員 7 「あまり積極的に評価する声がなかった。」「実績のある実力作家なので、これも意外な気がした。」
山之口洋 全委員 0  
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藤田宜永『愛の領分』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 21 「どこをとっても寸分の瑕もない、みごとな作品」「過去と現在の、二つの時間が一つになるという構造が比類なく美しい。」「なによりも淳蔵という得恋の五十男が紙の中から立ち上がり、いまにも読者の体の寸法を採ってくれそうなほど、よく書かれている。」
黒岩重吾 全候補 42 「「愛の領分」一作を推す積りで選考会に出席した。」「氏は本作によってこれまでの優等生的な化粧雲を突き破り、それぞれの業に身を灼く男女を描くことに成功した。」「精神異常や人格障害者、またバイオレンスに頼り切った小説の氾濫にいささかうんざりしていたせいか、本小説に奇妙な心の安らぎさえ覚えた。」
田辺聖子 全候補 23 「堂々たる恋愛小説であった。」「人生の機微がよく捉えられた〈大人の小説〉となっていた。」「人間がよく書きこまれ、それによって土地の風色も生気を帯びて顕ちあがった。〈オトナの現代〉とでもいうべき、現実の風が作品のページに吹き、読後風はまことに清爽だった。」
渡辺淳一 全候補 24 「なによりも好ましいのは、文章にいい意味での気取りがあり、恋愛小説らしい艶が滲んできたことである。全体にやや古いという評もあったが、それは形の問題で、登場する女性たちはいずれもヴィヴィッドで、情熱的でもある。」「このところ、バイオレンスや推理小説が多いなかで、氏はひたすら恋愛小説を書き続けてきたが、なかでも今回のがもっとも充実して、優れている。」
宮城谷昌光 全候補 114 「悟性によって決定された語句は、作品自体がもっている原理を超越するという特徴をもち、藤田氏の作品のみがそれを有し、他の作品は自身の原理にとどまっている。つまりそれは藤田氏のみが、作家としてではない生活をもおろそかにせず、周辺を凝視し観察してきたということである。」「藤田氏はちかごろの作家にしてはめずらしく風景描写をする。(引用者中略)風景にさわった手をひきもどす力が弱いようである。」
林真理子 全候補 25 「恋愛小説を読む醍醐味をたっぷり味わわせていただいた一作だ。」「静謐で、ねっとりとした魅力を持つ。ヒロインの官能的な描写も素晴らしい。」「強いて申し上げるとしたら、登場人物が年齢のわりにやや老けて見えることであろうか。」
阿刀田高 全候補 23 「古典的な恋愛小説で、新しいところがないと言われれば、その通りだが、多くの人にとって恋愛は月並な形しか採りえないものではないのか。(引用者中略)月並ではあるけれど、それぞれにとって切実であり、ユニークであり、かけがえのないもの、それがこの世の恋ではあるまいか。「愛の領分」は、そんな恋愛を描いて、つきづきしい。」「小説を読む素朴な楽しさがある、と感じた。」
津本陽 全候補 19 「平凡な内容ではない恋愛小説を、きわめて静かな調子で語り、数人の男女の姿を陰影ふかくえがきだした。」「低く尾をひく音色の調子は、しまいまで変らない。受賞作にふさわしい佳品である。」
北方謙三 全候補 23 「細かい欠点はいくつか指摘できるが、中年男の静かな情念を描いて、秀逸であった。過去の傷も、燃える思いも、晩年を迎えつつある人生の感慨も、静謐な日常の中に閉じこめるだけの抑制があり、恋愛小説としてひとつの境地を獲得したと感じた。」
平岩弓枝 全候補 18 「一つ間違うとレトロと捕えられかねない素材と人間像を作者独特の情感でじっくりと練り上げて、その行間に現代の風をさわやかに流れ込ませている。私はもともと藤田さんの小説が好きで、小粋でダンディな作風を愛好していたのだが「愛の領分」ではそれとは異ったリリシズムを感じて、これはこれはと思っている。」
五木寛之 全候補 24 「今回ほどすんなりと決まった受賞作もめずらしい。」「私は『愛の領分』と、田口ランディさんの『モザイク』に一票を投じた」「古風な小説である。しかし、立原正秋とも、加堂秀三ともちがう独自の世界を創りだしているところがいいと思った。登場する人物たちひとりひとりに存在感があるのも、この作家の才能だろう。」
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他の候補作
奥田英朗 『邪魔』
真保裕一 『黄金の島』
田口ランディ 『モザイク』
東野圭吾 『片想い』
山之口洋 『われはフランソワ』
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奥田英朗『邪魔』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 28 「刮目し、歎服もした」「おもしろい細部、巧みな会話で、東京の衛星都市に住む、ある平凡な一家庭の転落過程が活写され、それだけでも元のとれる小説だが、この作者は途方もない描写トリックを仕掛けている。」「結末へ近づくにつれて、一人の刑事の再生物語の様相を呈しはじめる。なんという描写トリック、なんというあざやかさ。『愛の領分』(藤田宜永)と併せてこの作品を推した」
黒岩重吾 全候補 18 「力作である。私は警察の組織や刑事たちの描写に惹かれた。」「ただラストが劇画的だ。」「折角のリアリティの迫力が、ラストの描写で台無しになる。」「多分、余計な人物も含めて余り長くなり過ぎ力がつきたのであろう。」
田辺聖子 全候補 17 「(引用者注:「黄金の島」と「邪魔」は)私にとっては優劣つけがたい面白さに思える。」「いろんな要素が文字通り邪魔をして、これも読者をはぐらかすのに作者は夢中、というところがある。その混ざりぐあいが面白いのだが、時折りそれがママコ(原文傍点)になって充分混ぜられていない憾みあり。」「もっとこの作者のものを読みたい気にさせる。」
渡辺淳一 全候補 10 「安定した文章で、警察内部の人間関係や市井の人物などを書き分けて、それなりに読ませる。ただこれだけの長篇のわりには、最後に立上ってくるものが希薄でもの足りないが、力のある人だけに次に期待したい。」
宮城谷昌光 全候補 0  
林真理子 全候補 13 「大層面白かった。」「途中までいっきに読んだ。けれども後半があまりにも劇画的である。」「エンターテイメントの確かな才能をお持ちなだけに残念だ。」
阿刀田高 全候補 11 「人物に対する目配りが冴えている。」「ただ、この作品の半分が、妻と子と妻の母とを交通事故で失った刑事の幻想談とするのは納得がいかない。そういう作品ならば、もっとべつな書き方があったのではなかろうか。」
津本陽 全候補 20 「読者を飽きさせないで、警察を舞台にした物語のなかへ引きこんでゆき、現実感をみなぎらせてくれる。」「まったくうまいものだと思うが、奥ゆきというか、残響というか、読後に陰影をのこしていってくれる部分が、すくない。九野という主人公が、狂気を秘めていたという点も、なにかつけたしのようで、説得力に欠けていた。」
北方謙三 全候補 15 「日常の光景の中から立ちあがってくる人物の存在感は、息をのむほどである。その人物が、なぜか後半になって生きてこない。」「鮮やかだったものが、無彩色に変化していくという印象は、いかにも惜しい。その一点さえ克服できていれば、と強く思った。」
平岩弓枝 全候補 9 「現在、ざらにある話を組み立てて、登場する人間達を描き切った腕は確かだと思う。ただ、正直のところ、あまりに息苦しい。小説にはちょっと風抜きの穴を作ってやるとテーマが一層、鮮烈に浮び上るという手法を学んで欲しい。」
五木寛之 全候補 12 「私は惜しいと思い、もう少し論じてみるべきだったかな、と、選考の終った後に後悔する感じがあった。この書き手には、どこか読者を惹きつける天与の才があるような気もする。」
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他の候補作
藤田宜永 『愛の領分』
真保裕一 『黄金の島』
田口ランディ 『モザイク』
東野圭吾 『片想い』
山之口洋 『われはフランソワ』
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真保裕一『黄金の島』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 27 「旺んな筆力にまず驚く。」「才筆の作者であるから、ときに読者を魅了する。」「だが、主人公が日本上陸の寸前に殺されてしまうのに呆然とした。読者の労にもう少し酬いてもらいたい。」
黒岩重吾 全候補 12 「本作品に魅力を感じなかった。冒頭に出てくる暴力団の組長の女と主人公の関係は中途半端で、主人公のベトナムでの悩みや正義感も理解はできるが迫力が薄い。」
田辺聖子 全候補 25 「(引用者注:「黄金の島」と「邪魔」は)私にとっては優劣つけがたい面白さに思える。」「文章が躍動して、映像やマンガの比ではない昂揚感を与えられる。それだけに、主人公の〈修司〉のあっけない死は、裏切られた思いである。」「〈ワルモン〉が〈エエモン〉にやっつけられて溜飲をさげる、というたのしみを奪われて、欲求不満だった。」
渡辺淳一 全候補 6 「ストーリーは多彩だが、ただ面白おかしく書いたという域を出ず、人間関係や現代への視点もありきたりで、平板である。」
宮城谷昌光 全候補 0  
林真理子 全候補 5 「後味が悪いものとなった。現代のベトナムをよく調べていると思うものの、これでは救いがない。」
阿刀田高 全候補 18 「力作だが、ストーリーの展開と構成に配置を欠いているように感じた。」「充分に長い作品だが、これで前半、主人公たちが生きて日本に帰り、そこに後半があるような、そういうストーリーでなければカタルシスが乏しい。どことなく二階にあげられ梯子を取られたような印象の残る作品であった。」
津本陽 全候補 21 「読者に飽きさせない筆力を、充分にそなえている。」「あまりおもしろい運びに乗って、欠点も目につかないまま、読みおえた。そこが、この小説の欠点といえばいえるのだろうか。」「しかし、この作者の話の運びのうまさは、尋常ではない。旨い酒か菓子のようである。いま一段苦味をそえれば、重さが増してくるだろう。」
北方謙三 全候補 17 「修司という男の描き方、特に日本にいる場面での人物造形が甘い。ここに厳しさがあれば、もうひと皮剥けた作品になったであろうし、結末のつけ方も違ってきたはずだと感じた。取材が行き届いた作品であるのに、惜しいという思いは否めない。」
平岩弓枝 全候補 10 「ヴェトナムはよく調べているし、細かなところにまで行き届いている。但し、ここに出て来るヴェトナム人の性格や心はヴェトナム人ではなく、むしろ、他の東南アジアの人々のものである。ヴェトナム人にとっては心外なことに違いない。」
五木寛之 全候補 6 「あまり積極的に評価する声がなかった。」「実績のある実力作家なので、これも意外な気がした。」
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他の候補作
藤田宜永 『愛の領分』
奥田英朗 『邪魔』
田口ランディ 『モザイク』
東野圭吾 『片想い』
山之口洋 『われはフランソワ』
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田口ランディ『モザイク』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 17 「電子、電脳社会を宗教に見立てた、みごとな世界解釈物語である。ただし今回は文章も描写も展開も少し粗くなった気がする。中心軸を思考から描写へ、ほんのちょっとずらしてもらえないものか。」
黒岩重吾 全候補 0  
田辺聖子 全候補 14 「ミミ(耳)でなくても目で、肌で、匂いで、触感で、人は情報を得、人とつながろうとする。もっとそれをドラマにしてほしい。以前の作品『コンセント』より平坦。でも文章が先天的に巧くて美しい。」
渡辺淳一 全候補 13 「冒頭の部分や渋谷の雑踏の描写など秀逸で、改めて才能を感じさせる。だが前回と同様、後半になるにしたがって乱れ、一篇の小説として収斂していかないもどかしさを覚える。」
宮城谷昌光 全候補 0  
林真理子 全候補 26 「今回はいったいどうしたことであろうか。「コンセント」であれほど見せてくれた、小説的輝きがすっかり薄れているのだ。」「現代に対する鋭さ、ピュアな感性、弱者に対するまなざし、こういうものを充分お持ちなのはわかっている。けれどもこれをどう文章に変え、小説というものに組み立てていくかだ。」
阿刀田高 全候補 14 「前回に似ていて、だが劣っている、という印象を拭えなかった。この作家の描く思想は本当におもしろい。だが、そのアイデアが小説化されていないうらみが濃いのである。」
津本陽 全候補 20 「小説としては、いわんとするところを読者に伝えることのできない、中途半端のまま終ったが、手法を工夫して、独得の魅力を生かせるように努力してほしい。」
北方謙三 全候補 24 「言葉にならない叫びというものが通底しているような感じがして、どこか不気味でさえあった。」「これを小説という表現形態で全うできるのだろうか、という疑問が前作と同様につきまとった。小説的普遍性に近づけようという努力が、この作品をやや説明過多なものにしたのではないだろうか。」
平岩弓枝 全候補 8 「相変らず凄い才能に感心しながらも、これを小説として読むのは苦しい。とりわけ、終りに近く長すぎる説明的会話をおいたのは構成上マイナスではなかったかと思った。」
五木寛之 全候補 29 「私は『愛の領分』と、田口ランディさんの『モザイク』に一票を投じたのだが、『モザイク』のほうは意外なほど不評で、ちょっとびっくりしたほどである。」「私などにはとてもこういうふうに渋谷の街を描くことはできない。」「新しさを感じさせる文章だった。」
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他の候補作
藤田宜永 『愛の領分』
奥田英朗 『邪魔』
真保裕一 『黄金の島』
東野圭吾 『片想い』
山之口洋 『われはフランソワ』
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