直木賞のすべて
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第120回

=受賞者=
宮部みゆき

=候補者=
服部まゆみ
久世光彦
東野圭吾
馳 星周
横山秀夫


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 平成10年/1998年下半期
 (平成11年/1999年1月14日決定発表/『オール讀物』平成11年/1999年3月号選評掲載)
選考委員  井上ひさし 田辺聖子 渡辺淳一 阿刀田高 黒岩重吾 平岩弓枝 津本陽 五木寛之
選評総行数  124 119 107 119 94 100 86 101
評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
宮部みゆき 『理由』 評言 35 44 29 26 23 72 20 37
服部まゆみ 『この闇と光』 評言 16 6 21 54 35 0 21 11
久世光彦 『逃げ水半次無用帖』 評言 21 23 26 9 20 0 9 10
東野圭吾 『秘密』 評言 18 12 4 13 7 0 13 26
馳星周 『夜光虫』 評言 20 30 16 7 5 0 12 10
横山秀夫 『陰の季節』 評言 14 5 11 10 4 0 11 7
               
見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成11年/1999年3月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員井上ひさし×各候補作  見方・注意点
巨きな作品 総行数124 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき 全委員 35 「バブル期の日本人のいくつかの典型を、もっと言えば、「世間が怖い、隣人が怖い」とおびえる日本人の現在を真正面から書き切った秀作である。」「つねに進んで現在と取り組もうという気丈な作家魂と、新工夫を怠たらぬ精進と、作者得意の定番の三つが一つになって、ここに巨きな作品が生まれたのである。」
服部まゆみ 全委員 16 「語り手もろとも物語の枠組みを根こそぎ引っくり返してしまう中段でのどんでん返しのあざやかさには感心した。」「原口の純文学っぽい見得の切り方が、そこまで古典的といっていいぐらい端正につくられていた世界に濁りを入れてしまったように見えた。」
久世光彦 全委員 21 「みごとな美文である。」「文章と事件との喰いちがいを感じてこれは単なる捕物帳ではあるまいとおもった。」「まことに絢爛たる作風だが、その過程で「江戸」が脱け、たとえば可憐な捕物娘お小夜の「思い」が落ちた。とりわけ後者はこの小説と読者との大事な通い路だったから、読む側としては途方に暮れてしまう。」
東野圭吾 全委員 18 「おもしろい設定だが、その設定は近親相姦の気配を孕んで次第に重みをまし、作者はついにたまりかねて「健全な常識」へ避難してしまったようなふし(原文傍点)がある。「本能としての性欲」と「文化としての恋愛」――この二つをはっきり区別して設定をぐいぐいと問いつめれば破天荒な小説になったはずだが。」
馳星周 全委員 20 「作者の熱気が途中で何度か物語を神話のように輝かせるが、やがて作中の人間関係が意外に、低調なときの大衆劇の筋立てのように型通りであることが判ってきて、その輝きは失われて行く。負のヒーローの創造と狂気を帯びた語り。二つの冒険をあえて試みた作者の意欲を買うが、その成果には疑問符をつける。」
横山秀夫 全委員 14 「ただひたすら警察の内部に、とくに人事問題に的を絞る。これは新鮮な切り口で、すぐれた発明である。」「余計な注文をつけると、文章にほんの少し艶がほしい。それから話の転換を担うトリックにもう少し工夫をしていただきたい。」
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選考委員田辺聖子×各候補作  見方・注意点
佳作多く楽しかった 総行数119 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき 全委員 44 「今回ようやく満場一致、各委員が積極的に支持されたのは喜ばしい。」「家族とはなにか。血縁とはなにか。そのテーマに説得力があるのは、作者の裡なる庶民感覚がすこやかでまっとうな点に、信頼感がもてるせいだろう。氏の小説的テクニックも完熟し、インタビューと証言でつないで事件の真実に迫っていくドキュメンタリータッチも、いやみなく興ふかい。」
服部まゆみ 全委員 6 「メルヘンと思い快く読み進んでいたら、どんでんにつぐどんでん、わざあり――という所。しかしラストに弱味あり。」
久世光彦 全委員 23 「時代考証がどうの、人物設定がどうの、と、野暮なことはいいっこなし、という面構えだ。」「ただ、この作品でいえば、その幻戯をかける力がやや稀薄だったといえるかもしれない。」「氏の新しい世界の可能性を証明されたと思う。」
東野圭吾 全委員 12 「超常現象を扱った文学作品の中で性を扱うのはとても危険で、だからこそ作家は挑戦したいのであろうが、ここではそれがナマのかたちで出て不消化だったのが惜しい。しかしそれをのぞくと、おのずからなるユーモアもあっておかしかった。」
馳星周 全委員 30 「前候補作の「不夜城」よりは私は佳いと思った。なぞときが複雑すぎるけれども、主人公が運命へなだれ落ちてゆく、血の冷えるような降下感覚が共感できる。」「しかし文句なく点を入れるにしては市民感覚的にさからうものがあった。小野寺由紀という日本人の女の子まで何で殺すのだろう。」「が、この作自体は、重ねていうが私には魅力的だった。」
横山秀夫 全委員 5 「珍らしい題材と、力ある描写力、まことに心強い新人の登場。」
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選考委員渡辺淳一×各候補作  見方・注意点
「理由」と「この闇と光」 総行数107 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき 全委員 29 「単なる推理をこえて、現代の家族というか、人間模様を書きこんでいく幅の広さが魅力的である。」「いい面を認めたうえで、あえて不満をいえば、現代のいろいろな問題をそれなりに過不足なく描きはするが、そこから一歩すすめて、作家的な執念というか、こだわりのようなものが立上ってこない。」
服部まゆみ 全委員 21 「受賞作とは別に、最も注目した」「後半にいたって、突如、謎解きに堕して魅力を失ってしまう。」「だがそうした欠陥を除いて、前半、いや三分の二くらいまでの、いわゆる闇の部分は巧みな構成と幻想的な緊張感に溢れて、秀逸である。」「今回の候補作のなかではこの作品だけが、文学的な感興に満ちていて、小説を読む楽しみを味わった。」
久世光彦 全委員 26 「探偵ものとしてはご都合主義が過ぎるし、妖しの小説としては話のすすめかたが捕りものに傾きすぎている。」「部分的にはいくつか光るところがある。」「それにしてもこのような妖しの世界が、著者の内的な世界とたしかにつながっているのか。もしそうならいま少し粘着なものを期待したいし、単に面白さとして書くのなら、このスタイルではいささかもの足りない。」
東野圭吾 全委員 4 「思いつきだけの小説で、内側で発酵していない欠陥が表れたようである。」
馳星周 全委員 16 「これだけの長編を書くエネルギーには感心するが、作品の仕上がりは前の候補作「不夜城」よりも落ち、無理なつくりすぎが目立つ。いかに怖いことを書き、次々と人を殺そうとも、そこに内的必然性がなければただのから騒ぎで、文章の単調さとともに、読むほどに退屈してしまう。」
横山秀夫 全委員 11 「警察の事情に詳しい人らしく、その内部を窺うという点ではそれなりに面白い。しかし最大の欠陥は小説をこねすぎることで、それは裏を返せば、人間を軽く見すぎていることにもなる。」
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選考委員阿刀田高×各候補作  見方・注意点
さまざまな家族 総行数119 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき 全委員 26 「あるマンションで起きた四人の殺人事件を提示し、その真相を探査していくうちに、さまざまな家族のありようが見えてくる、というフィクションである。この家族の設定が巧みで舌をまく。宮部さんの長所がよく現われ筆致もよどみなく伸びている。」
服部まゆみ 全委員 54 「不思議な作品だ。どう読むべきか、判断がむつかしい。結論を先に言えば、このわかりにくさはやはり弱点ではあるまいか。」「サラッと読んだ判断ではリアリティを欠く部分が多すぎる。表現力の巧みさを感じながらも、もう一つ納得がいかなかった。」
久世光彦 全委員 9 「捕物帖として読めば弱点が多すぎるし、さりとて「ほかのなんなんだ?」と自問しても答えるものがない。上手の手から水が漏れた、という印象が深い。」
東野圭吾 全委員 13 「小説家のルーティンとして、こういうほどのよい作品が書かれて多くの読者に読まれていることには充分に納得がいくし、それが小説を取り囲む読書界の姿だとは思うけれど、賞の対象として読むと、なにが訴えたいのか、ここまで書いた以上もっと踏み込むべき問題がないのか、ちょっと食い足りない。」
馳星周 全委員 7 「筆力を充分に感じながらも、どの登場人物にも心を揺すられることがなかった。この種の小説は、それがないと、セックスと殺人と陰謀とザワザワした印象しか与えてくれない。」
横山秀夫 全委員 10 「まだ不慣れのせいか無理に推理小説を作っている弱点が否めない。表題作はよいが、ほかは“こねた”ような感じがして、もう一息と思った。」
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田辺聖子
渡辺淳一
黒岩重吾
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選考委員黒岩重吾×各候補作  見方・注意点
満票の理由 総行数94 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき 全委員 23 「最終投票において満票となった。大抵の場合、一、二票欠けるから、今回は珍しい受賞といえよう。」「作者は、現代の病弊を徹底的に取材し、小説的に構築する手腕に優れている。」「ただ気になるのは、作者の人間に対するこだわり方である。奥深いところまで届いていない。それにも拘らず満票となったのは、作者の小説に対する執念の成果であろう。」
服部まゆみ 全委員 35 「大人のメルヘンとして惹かれた。誘拐犯がレイアを返すまでの、日常生活の無気味さには、息を呑むほどの緊迫感が漂っている。」「この作品のラストはそれなりに余韻を残しているが、一人二役の作家が、何故少女レイアとして育てた「僕」を誘拐したのかがどうしても納得できなかった。それにも拘らずこの作品をも推したのは、作者の才能に香気を感じたせいである。」
久世光彦 全委員 20 「氏の作品の特徴は凝りに凝った文章で読者を酔わすところにある。」「他の委員の中から江戸の匂いがしない、との批判もあり、最終的に推し切れなかったが、女性の怨念やそこから生じる理屈抜きの業火の描写は見事である。」
東野圭吾 全委員 7 「面白いアイディアだが、肉づけにはかなりの粘りが必要である。それがないとアイディアだけが目立ち、一見ふくよかのようで、痩せた作品になってしまう。」
馳星周 全委員 5 「今一つ主人公に乗り切れない。これでは殺人鬼的な人物になってしまう。才能のある作家だけに熱気の空廻りは惜しい。」
横山秀夫 全委員 4 「「鞄」が一番面白く読めた。ただ他の作品では味のない文章が多く、読後感が薄い。」
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田辺聖子
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選考委員平岩弓枝×各候補作  見方・注意点
「理由」について一言 総行数100 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき 全委員 72 「大変な力作だと私も思った。」「ここ数年の宮部さんのめざましい仕事ぶりからしても、今回の受賞は極めて妥当だと思い、賛成した。」「満一歳にもならない赤ん坊が、父親を母親に殺されたという怖しい十字架を背負ったということに対して、作者はどう考え、どう対処しようとしているのかが明らかにされていない。(引用者中略)「理由」という作品に唯一、私が不満を感じたのは、その点であることを書いておきたい。」
服部まゆみ 全委員 0  
久世光彦 全委員 0  
東野圭吾 全委員 0  
馳星周 全委員 0  
横山秀夫 全委員 0  
  「(引用者注:受賞作以外の候補作について)共通しているのは、才気が前面に強く押し出されている点だろうか。」「才気は作家にとって貴重な財産だが、それを抑えて書く姿勢のほうが成功するもので、才気に酔うのは、まことに危険だと私は考えている。」
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田辺聖子
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阿刀田高
黒岩重吾
津本陽
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選考委員津本陽×各候補作  見方・注意点
独特の工夫 総行数86 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき 全委員 20 「細部の書きこみがあまりにも多く、容易に話が進まないのにいらだつ思いであったが、実はそれが作者の狙いであるのであろうと、今度はじめて分った。」「読者は漠然としてとらえがたい社会環境の形をこの小説によってとらえたような気分になり、語り手を身近な訳知りの人のように感じる。」「こういう理解と共感を読者に与える独特の工夫を、作者はなしとげていたのである。」
服部まゆみ 全委員 21 「誘拐されていた少年の闇のなかでの世界と、現実にひきもどされてからの世界との対比の点で、いろいろ納得できない部分があらわれてくるが、全篇に流れる詩情はいい。」
久世光彦 全委員 9 「ときどき雑誌で目にする短篇で、おどろくような切れ味を見せる作者のものにすれば、日頃の光りをひそめている。時代小説には、まだ手慣れていないように思える。時代の雰囲気に引きこんでくれない。」
東野圭吾 全委員 13 「女性むきの内容である。」「結末にいくらかの意外性と現実感を与えようとしている。長い平和な時代がつづいていることを、あらためて感じさせられる作品。」
馳星周 全委員 12 「愛を探し求める彼らの魂が、夜光虫のようにきらめくという筋立ては、たしかに若者たちの気をひく魅力をそなえている。だが、全篇をつらぬく血肉の因縁話には、新味はなかった。」
横山秀夫 全委員 11 「大きくひろげうる内容を、きわめてコンパクトに仕上げているところが、将来の展開の可能性を予感させる力づよさである。」「今後、大きな作品を仕上げるまでには、苦労をかさねたあげくの成熟を待たねばなるまいが。」
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渡辺淳一
阿刀田高
黒岩重吾
平岩弓枝
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選考委員五木寛之×各候補作  見方・注意点
「理由」を推す理由 総行数101 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮部みゆき 全委員 37 「発表当初から世評の高かった秀作で、今回の受賞も当然のことのような印象がある。」「宮部さんは、人間を社会に生きる存在として克明に描くという、小説の王道を臆することなくたどりながら、そのなかに人間の内面を鮮かに彫りおこすミステリーを創りあげることに成功した。」
服部まゆみ 全委員 11 「日本にはこのような世界をめざす書き手がまれなだけに、こころを惹かれるものが少くなかった。しかし、この作家ならばさらに完成度の高い佳作が期待できるのではないか、という意見もあって受賞にはいたらなかった。」
久世光彦 全委員 10 「久世さんの才華の一端が認められはするものの、久世光彦的世界の独特な持ち味を開花させるには、この舞台では酷としか言いようがない。」
東野圭吾 全委員 26 「独特の作風という点では際立っている小説だ。」「人間におけるエロスと禁忌の問題を、これほど際どく描こうとした作品を私は知らない。しかし、何かが足りない。踏み込みかた、だろうか。それとも私たちの心性を支える見えない力の不在なのだろうか。」
馳星周 全委員 10 「作者の共感と読者の共感に微妙なズレを感じるのは私だけだろうか。前作をしのぐ作品を書くことの困難さは、この作家が今後も背おっていかなければならない書き手の宿命かもしれない。」
横山秀夫 全委員 7 「警察小説のジャンルに新たな一ページを加えた佳作である。しかし、せっかくなら犯罪よりも、人事そのものの陰の部分を徹底的に描き切ってほしかったと思う。」
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他の選考委員
井上ひさし
田辺聖子
渡辺淳一
阿刀田高
黒岩重吾
平岩弓枝
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宮部みゆき『理由』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 35 「バブル期の日本人のいくつかの典型を、もっと言えば、「世間が怖い、隣人が怖い」とおびえる日本人の現在を真正面から書き切った秀作である。」「つねに進んで現在と取り組もうという気丈な作家魂と、新工夫を怠たらぬ精進と、作者得意の定番の三つが一つになって、ここに巨きな作品が生まれたのである。」
田辺聖子 全候補 44 「今回ようやく満場一致、各委員が積極的に支持されたのは喜ばしい。」「家族とはなにか。血縁とはなにか。そのテーマに説得力があるのは、作者の裡なる庶民感覚がすこやかでまっとうな点に、信頼感がもてるせいだろう。氏の小説的テクニックも完熟し、インタビューと証言でつないで事件の真実に迫っていくドキュメンタリータッチも、いやみなく興ふかい。」
渡辺淳一 全候補 29 「単なる推理をこえて、現代の家族というか、人間模様を書きこんでいく幅の広さが魅力的である。」「いい面を認めたうえで、あえて不満をいえば、現代のいろいろな問題をそれなりに過不足なく描きはするが、そこから一歩すすめて、作家的な執念というか、こだわりのようなものが立上ってこない。」
阿刀田高 全候補 26 「あるマンションで起きた四人の殺人事件を提示し、その真相を探査していくうちに、さまざまな家族のありようが見えてくる、というフィクションである。この家族の設定が巧みで舌をまく。宮部さんの長所がよく現われ筆致もよどみなく伸びている。」
黒岩重吾 全候補 23 「最終投票において満票となった。大抵の場合、一、二票欠けるから、今回は珍しい受賞といえよう。」「作者は、現代の病弊を徹底的に取材し、小説的に構築する手腕に優れている。」「ただ気になるのは、作者の人間に対するこだわり方である。奥深いところまで届いていない。それにも拘らず満票となったのは、作者の小説に対する執念の成果であろう。」
平岩弓枝 全候補 72 「大変な力作だと私も思った。」「ここ数年の宮部さんのめざましい仕事ぶりからしても、今回の受賞は極めて妥当だと思い、賛成した。」「満一歳にもならない赤ん坊が、父親を母親に殺されたという怖しい十字架を背負ったということに対して、作者はどう考え、どう対処しようとしているのかが明らかにされていない。(引用者中略)「理由」という作品に唯一、私が不満を感じたのは、その点であることを書いておきたい。」
津本陽 全候補 20 「細部の書きこみがあまりにも多く、容易に話が進まないのにいらだつ思いであったが、実はそれが作者の狙いであるのであろうと、今度はじめて分った。」「読者は漠然としてとらえがたい社会環境の形をこの小説によってとらえたような気分になり、語り手を身近な訳知りの人のように感じる。」「こういう理解と共感を読者に与える独特の工夫を、作者はなしとげていたのである。」
五木寛之 全候補 37 「発表当初から世評の高かった秀作で、今回の受賞も当然のことのような印象がある。」「宮部さんは、人間を社会に生きる存在として克明に描くという、小説の王道を臆することなくたどりながら、そのなかに人間の内面を鮮かに彫りおこすミステリーを創りあげることに成功した。」
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他の候補作
服部まゆみ 『この闇と光』
久世光彦 『逃げ水半次無用帖』
東野圭吾 『秘密』
馳星周 『夜光虫』
横山秀夫 『陰の季節』
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服部まゆみ『この闇と光』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 16 「語り手もろとも物語の枠組みを根こそぎ引っくり返してしまう中段でのどんでん返しのあざやかさには感心した。」「原口の純文学っぽい見得の切り方が、そこまで古典的といっていいぐらい端正につくられていた世界に濁りを入れてしまったように見えた。」
田辺聖子 全候補 6 「メルヘンと思い快く読み進んでいたら、どんでんにつぐどんでん、わざあり――という所。しかしラストに弱味あり。」
渡辺淳一 全候補 21 「受賞作とは別に、最も注目した」「後半にいたって、突如、謎解きに堕して魅力を失ってしまう。」「だがそうした欠陥を除いて、前半、いや三分の二くらいまでの、いわゆる闇の部分は巧みな構成と幻想的な緊張感に溢れて、秀逸である。」「今回の候補作のなかではこの作品だけが、文学的な感興に満ちていて、小説を読む楽しみを味わった。」
阿刀田高 全候補 54 「不思議な作品だ。どう読むべきか、判断がむつかしい。結論を先に言えば、このわかりにくさはやはり弱点ではあるまいか。」「サラッと読んだ判断ではリアリティを欠く部分が多すぎる。表現力の巧みさを感じながらも、もう一つ納得がいかなかった。」
黒岩重吾 全候補 35 「大人のメルヘンとして惹かれた。誘拐犯がレイアを返すまでの、日常生活の無気味さには、息を呑むほどの緊迫感が漂っている。」「この作品のラストはそれなりに余韻を残しているが、一人二役の作家が、何故少女レイアとして育てた「僕」を誘拐したのかがどうしても納得できなかった。それにも拘らずこの作品をも推したのは、作者の才能に香気を感じたせいである。」
平岩弓枝 全候補 0  
津本陽 全候補 21 「誘拐されていた少年の闇のなかでの世界と、現実にひきもどされてからの世界との対比の点で、いろいろ納得できない部分があらわれてくるが、全篇に流れる詩情はいい。」
五木寛之 全候補 11 「日本にはこのような世界をめざす書き手がまれなだけに、こころを惹かれるものが少くなかった。しかし、この作家ならばさらに完成度の高い佳作が期待できるのではないか、という意見もあって受賞にはいたらなかった。」
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宮部みゆき 『理由』
久世光彦 『逃げ水半次無用帖』
東野圭吾 『秘密』
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久世光彦『逃げ水半次無用帖』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 21 「みごとな美文である。」「文章と事件との喰いちがいを感じてこれは単なる捕物帳ではあるまいとおもった。」「まことに絢爛たる作風だが、その過程で「江戸」が脱け、たとえば可憐な捕物娘お小夜の「思い」が落ちた。とりわけ後者はこの小説と読者との大事な通い路だったから、読む側としては途方に暮れてしまう。」
田辺聖子 全候補 23 「時代考証がどうの、人物設定がどうの、と、野暮なことはいいっこなし、という面構えだ。」「ただ、この作品でいえば、その幻戯をかける力がやや稀薄だったといえるかもしれない。」「氏の新しい世界の可能性を証明されたと思う。」
渡辺淳一 全候補 26 「探偵ものとしてはご都合主義が過ぎるし、妖しの小説としては話のすすめかたが捕りものに傾きすぎている。」「部分的にはいくつか光るところがある。」「それにしてもこのような妖しの世界が、著者の内的な世界とたしかにつながっているのか。もしそうならいま少し粘着なものを期待したいし、単に面白さとして書くのなら、このスタイルではいささかもの足りない。」
阿刀田高 全候補 9 「捕物帖として読めば弱点が多すぎるし、さりとて「ほかのなんなんだ?」と自問しても答えるものがない。上手の手から水が漏れた、という印象が深い。」
黒岩重吾 全候補 20 「氏の作品の特徴は凝りに凝った文章で読者を酔わすところにある。」「他の委員の中から江戸の匂いがしない、との批判もあり、最終的に推し切れなかったが、女性の怨念やそこから生じる理屈抜きの業火の描写は見事である。」
平岩弓枝 全候補 0  
津本陽 全候補 9 「ときどき雑誌で目にする短篇で、おどろくような切れ味を見せる作者のものにすれば、日頃の光りをひそめている。時代小説には、まだ手慣れていないように思える。時代の雰囲気に引きこんでくれない。」
五木寛之 全候補 10 「久世さんの才華の一端が認められはするものの、久世光彦的世界の独特な持ち味を開花させるには、この舞台では酷としか言いようがない。」
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他の候補作
宮部みゆき 『理由』
服部まゆみ 『この闇と光』
東野圭吾 『秘密』
馳星周 『夜光虫』
横山秀夫 『陰の季節』
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東野圭吾『秘密』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 18 「おもしろい設定だが、その設定は近親相姦の気配を孕んで次第に重みをまし、作者はついにたまりかねて「健全な常識」へ避難してしまったようなふし(原文傍点)がある。「本能としての性欲」と「文化としての恋愛」――この二つをはっきり区別して設定をぐいぐいと問いつめれば破天荒な小説になったはずだが。」
田辺聖子 全候補 12 「超常現象を扱った文学作品の中で性を扱うのはとても危険で、だからこそ作家は挑戦したいのであろうが、ここではそれがナマのかたちで出て不消化だったのが惜しい。しかしそれをのぞくと、おのずからなるユーモアもあっておかしかった。」
渡辺淳一 全候補 4 「思いつきだけの小説で、内側で発酵していない欠陥が表れたようである。」
阿刀田高 全候補 13 「小説家のルーティンとして、こういうほどのよい作品が書かれて多くの読者に読まれていることには充分に納得がいくし、それが小説を取り囲む読書界の姿だとは思うけれど、賞の対象として読むと、なにが訴えたいのか、ここまで書いた以上もっと踏み込むべき問題がないのか、ちょっと食い足りない。」
黒岩重吾 全候補 7 「面白いアイディアだが、肉づけにはかなりの粘りが必要である。それがないとアイディアだけが目立ち、一見ふくよかのようで、痩せた作品になってしまう。」
平岩弓枝 全候補 0  
津本陽 全候補 13 「女性むきの内容である。」「結末にいくらかの意外性と現実感を与えようとしている。長い平和な時代がつづいていることを、あらためて感じさせられる作品。」
五木寛之 全候補 26 「独特の作風という点では際立っている小説だ。」「人間におけるエロスと禁忌の問題を、これほど際どく描こうとした作品を私は知らない。しかし、何かが足りない。踏み込みかた、だろうか。それとも私たちの心性を支える見えない力の不在なのだろうか。」
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他の候補作
宮部みゆき 『理由』
服部まゆみ 『この闇と光』
久世光彦 『逃げ水半次無用帖』
馳星周 『夜光虫』
横山秀夫 『陰の季節』
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馳星周『夜光虫』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 20 「作者の熱気が途中で何度か物語を神話のように輝かせるが、やがて作中の人間関係が意外に、低調なときの大衆劇の筋立てのように型通りであることが判ってきて、その輝きは失われて行く。負のヒーローの創造と狂気を帯びた語り。二つの冒険をあえて試みた作者の意欲を買うが、その成果には疑問符をつける。」
田辺聖子 全候補 30 「前候補作の「不夜城」よりは私は佳いと思った。なぞときが複雑すぎるけれども、主人公が運命へなだれ落ちてゆく、血の冷えるような降下感覚が共感できる。」「しかし文句なく点を入れるにしては市民感覚的にさからうものがあった。小野寺由紀という日本人の女の子まで何で殺すのだろう。」「が、この作自体は、重ねていうが私には魅力的だった。」
渡辺淳一 全候補 16 「これだけの長編を書くエネルギーには感心するが、作品の仕上がりは前の候補作「不夜城」よりも落ち、無理なつくりすぎが目立つ。いかに怖いことを書き、次々と人を殺そうとも、そこに内的必然性がなければただのから騒ぎで、文章の単調さとともに、読むほどに退屈してしまう。」
阿刀田高 全候補 7 「筆力を充分に感じながらも、どの登場人物にも心を揺すられることがなかった。この種の小説は、それがないと、セックスと殺人と陰謀とザワザワした印象しか与えてくれない。」
黒岩重吾 全候補 5 「今一つ主人公に乗り切れない。これでは殺人鬼的な人物になってしまう。才能のある作家だけに熱気の空廻りは惜しい。」
平岩弓枝 全候補 0  
津本陽 全候補 12 「愛を探し求める彼らの魂が、夜光虫のようにきらめくという筋立ては、たしかに若者たちの気をひく魅力をそなえている。だが、全篇をつらぬく血肉の因縁話には、新味はなかった。」
五木寛之 全候補 10 「作者の共感と読者の共感に微妙なズレを感じるのは私だけだろうか。前作をしのぐ作品を書くことの困難さは、この作家が今後も背おっていかなければならない書き手の宿命かもしれない。」
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他の候補作
宮部みゆき 『理由』
服部まゆみ 『この闇と光』
久世光彦 『逃げ水半次無用帖』
東野圭吾 『秘密』
横山秀夫 『陰の季節』
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横山秀夫『陰の季節』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
井上ひさし 全候補 14 「ただひたすら警察の内部に、とくに人事問題に的を絞る。これは新鮮な切り口で、すぐれた発明である。」「余計な注文をつけると、文章にほんの少し艶がほしい。それから話の転換を担うトリックにもう少し工夫をしていただきたい。」
田辺聖子 全候補 5 「珍らしい題材と、力ある描写力、まことに心強い新人の登場。」
渡辺淳一 全候補 11 「警察の事情に詳しい人らしく、その内部を窺うという点ではそれなりに面白い。しかし最大の欠陥は小説をこねすぎることで、それは裏を返せば、人間を軽く見すぎていることにもなる。」
阿刀田高 全候補 10 「まだ不慣れのせいか無理に推理小説を作っている弱点が否めない。表題作はよいが、ほかは“こねた”ような感じがして、もう一息と思った。」
黒岩重吾 全候補 4 「「鞄」が一番面白く読めた。ただ他の作品では味のない文章が多く、読後感が薄い。」
平岩弓枝 全候補 0  
津本陽 全候補 11 「大きくひろげうる内容を、きわめてコンパクトに仕上げているところが、将来の展開の可能性を予感させる力づよさである。」「今後、大きな作品を仕上げるまでには、苦労をかさねたあげくの成熟を待たねばなるまいが。」
五木寛之 全候補 7 「警察小説のジャンルに新たな一ページを加えた佳作である。しかし、せっかくなら犯罪よりも、人事そのものの陰の部分を徹底的に描き切ってほしかったと思う。」
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他の候補作
宮部みゆき 『理由』
服部まゆみ 『この闇と光』
久世光彦 『逃げ水半次無用帖』
東野圭吾 『秘密』
馳星周 『夜光虫』
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