直木賞のすべて
直木賞のすべて

第117回

=受賞者=
篠田節子
浅田次郎

=候補者=
藤田宜永
姫野カオルコ
黒川博行
宇江佐真理


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 平成9年/1997年上半期
 (平成9年/1997年7月17日決定発表/『オール讀物』平成9年/1997年9月号選評掲載)
選考委員  田辺聖子 黒岩重吾 阿刀田高 平岩弓枝 渡辺淳一 津本陽 井上ひさし 五木寛之
選評総行数  121 103 102 83 111 70 146 121
評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
篠田節子 『女たちのジハード』 評言 39 33 30 21 28 15 35 23
浅田次郎 『鉄道員』 評言 31 21 21 23 28 10 27 37
藤田宜永 『樹下の想い』 評言 13 7 15 18 21 15 16 20
姫野カオルコ 『受難』 評言 13 4 9 4 8 5 31 9
黒川博行 『疫病神』 評言 19 7 14 8 9 13 15 6
宇江佐真理 『幻の声』 評言 15 28 13 9 17 12 26 10
               
見方・注意点

このページの選評出典:『オール讀物』平成9年/1997年9月号
1行当たりの文字数:13字


選考委員田辺聖子×各候補作  見方・注意点
受賞作品と光背 総行数121 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
篠田節子 全委員 39 「このタイトルは一考を要す。」「いつも負の札を引き当てて苦戦するところに女の人生の詩情もロマンもあるのだが、巻末近いあたりの短篇群は、冒頭の作品群の文学性を失う。しかし〈女の子〉の立身マニュアル、と読めば、文学性の代りに面白さがサービスされたといっていい。氏の危うげのない才能が、立証されたといえよう。」
浅田次郎 全委員 31 「何とも気持よく泣ける小説が開巻からつづく。」「〈しんみりして泣かせる〉“しみじみ小説”というものは、甘ちゃんの人が書くと歯が浮くものだけれど、浅田さんは辛口作家でいられ、随所に〈根性悪〉(引用者中略)(作家的視線がきびしいこと)が仄見え、信頼できる。」
藤田宜永 全委員 13 「珍しい題材で、私は花道に昏いけれども興味がもてた。読みやすい文章、主人公に存在感があった。」「ただ私には主人公が四十八という年齢設定にしては渋すぎ、枯れすぎているように感じた。」
姫野カオルコ 全委員 13 「読んでる限りは面白い。結婚できない女の妄想のかたちとして人面瘡があるわけだろうけれど、その寓意がいま一つ私には把握しきれない。何より美的でないしなあ。」
黒川博行 全委員 19 「タイムリーな新しい素材、まずそれに敬服。それからコンビのつるみかげん、というのか、二人の相性が面白く、それだけで持たせる。ただし、人物の出し入れが複雑で、図解で示されても、悪役たちの人物像が画一的でみな同じにみえるから、つかみにくい。」「人物はよく書けているが、背後の事件の展開は物足らない。」
宇江佐真理 全委員 15 「何とも魅力的な主人公の男女。」「これだけ描ききれれば、背後の捕物帖めいたことはつけたしでいいかと思ったほど、私の評は甘くなった。しかし、やはり捕り物がしっかり書けていないと、小説宇宙が構築されないという他委員の意見に従う。」
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他の選考委員
黒岩重吾
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選考委員黒岩重吾×各候補作  見方・注意点
優れた二作 総行数103 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
篠田節子 全委員 33 「迫力には圧倒された。作者は数人のOL達に自己投入し、彼女達と共にのたうち廻ったような気がする。」「惹かれたのは男顔負けの強腕ではなく、恐怖に慄えながら前進する姿にリアリティを感じたからである。」「今回の氏の作品には、これまでの壁を突き破った強靭な小説の核が間違いなく存在している。」
浅田次郎 全委員 21 「収録された諸短篇は、計算されつくした作品で、余分な贅肉を削り落し、読者に夢を与える小説の揺り籠を作った。」「私は表題作以外、「ラブ・レター」、「角筈にて」、「伽羅」、「うらぼんえ」などに惹かれた。この種の短篇集で、五作に陶酔出来たのは珍しい。」
藤田宜永 全委員 7 「家元の娘と花材に生命を賭ける主人公との恋を過不足なく描いている。読んでいて抵抗は感じないが、読後の感動と余韻がどうも薄い。」
姫野カオルコ 全委員 4 「感性が空転している。ただ観念的な舞台劇にすれば味が出るのではないかと感じた。」
黒川博行 全委員 7 「後半まで面白く読めたが、ゼネコンの顔が覗いたあたりから種が割れた感じで興味が半減した。暴力団とゼネコンの関係が複雑すぎるのも難である。」
宇江佐真理 全委員 28 「この作品群には暗い艶がある。それを感じさせただけでもかなりの才能の持ち主だ。だが、それぞれに見逃し難い瑕がある。」「作者はストーリー作りに溺れ、人間を描くことを忘れてしまっている。そのことに気づいたなら作者の才能が花開く日も近いのではないか。」
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田辺聖子
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選考委員阿刀田高×各候補作  見方・注意点
魅力あり 総行数102 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
篠田節子 全委員 30 「もっともおもしろく読んだ作品であった」「連作短篇集として統一性を欠いているように読んだが、その一方で、一切がこの作家の腕力の前では、許されて魅力となってしまう。」「「ゴサインタン」のような力技も持っている方だ。期待はとても大きい。」
浅田次郎 全委員 21 「八篇の短篇が収められているが、よい作品と、それほどでもない作品と、ばらつきが目立つ。」「表題作の「鉄道員」は、わるくはないけれど、あまりにも型通りで、涙腺をふくらませながらも、――こんなことで、泣けるか――と、しらけるところ、なきにしもあらず。」「しかし、よくもわるくも、これはこの作家の特質であろう。」
藤田宜永 全委員 15 「ちょっと古風な、型通りの作品である。」「が、その型を越えて訴えてくる魅力が乏しい。私としては、――一つの型をこれだけきっちりと書ければ、よいのではないのか――と、プラスの評価に傾いたが、同じことをマイナスに見る委員も多く、その意見は充分に首肯できるものであった。」
姫野カオルコ 全委員 9 「寓意性に富んだ作品で、その寓意がわからないでもなかったが、いかにも軽い。」「加えて、私はこの作家の文章になじめないものを多々、感じてしまった。」
黒川博行 全委員 14 「文章の確かさと会話のおもしろさと、二人の登場人物の存在感に長所があった。」「全篇を貫く物語が、わかりにくく、面白味が薄く、長さのわりには、――つまり、この程度の話なのか――と、鼻白んでしまうところがある」
宇江佐真理 全委員 13 「江戸市井の人情と気配を入念に、だが、さりげなく描く筆致は真実みごとである。ただ、必ずしも捕物帳としてのストーリイ性を求めるわけではないけれど、もう少し読者を楽しませ、納得させる“お話”の要素があってもよいだろう。」
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選考委員平岩弓枝×各候補作  見方・注意点
「女たちのジハード」を推す 総行数83 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
篠田節子 全委員 21 「良いと思った。」「登場人物はみな威勢よく、力強く、いきいきと呼吸してまことに快い。」「女たちがよく描けているから、男たちもそれを反映するかのように存在感があって各々に面白く読めた。」
浅田次郎 全委員 23 「最初に表題となっている「鉄道員」を読んで、この一冊はすべて、さまざまのぽっぽやさんを主人公とする作品を集めたのかと思い込んだら、そうではなかった。別にそのことに苦情があるわけではないが、(引用者中略)浅田さんなら、そうしたかつての愛すべき鉄道員をもっともっと書いて下さるのではないかと期待をこめてお願いしたい気持がある。」
藤田宜永 全委員 18 「戦後、順風満帆で全盛期を迎えた日本の華道界が、その後の時代の流れや変化になんの対応も出来ず、ここに至ってさまざまの問題が噴出し、或る意味では窮地に追いつめられつつある現状を正確に取材された上で、この作品を書かれたら、という無念の思いにも似た感情を持った。」
姫野カオルコ 全委員 4 「才能だけで人を感動させる作品を仕上げることは難しいと思う。」
黒川博行 全委員 8 「面白く読んだが、面白さの後に来るものが乏しかった。材料のよさに力が注がれて、情感に訴える部分が弱かったせいかも知れない。それにしても、話の広げ方のうまさはずば抜けていた。」
宇江佐真理 全委員 9 「佳品であった。状景はこれで充分だが、人間の書き方はまだまだ浅い。」「何故そうしたのか、何故そうなるのかを書き切らないと読者を納得させ、感動させるには至らない。」
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選考委員渡辺淳一×各候補作  見方・注意点
二人の作家 総行数111 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
篠田節子 全委員 28 「全体として連作風であるが、個々には独立した短篇になっていて、そこにはおのずから出来、不出来がある。」「後半の短篇は小説的ふくらみが失せて平板になり、ジハード(聖戦)というには、いささか常套的である。」「この作家は前回の「ゴサインタン」前々回の「カノン」と、常に水準以上の作品を発表して惜しくも賞を逸してきた。この意欲的なエネルギーと安定感を合わせたら、すでに受賞に価する充分な力をもっている作家と見て間違いないであろう。」
浅田次郎 全委員 28 「半ばまで読みすすんだところで、これなら間違いない、という確信を得た。冒頭の短篇から話が躍動して、人間がよく見えて説得力がある。」「小説づくりの巧さと裏腹にある、小説づくりのあざとさや、泣かせるツボを心得すぎていることからくる、仕上りの浅さなどが、長年小説を書いてきた者には気がかりである。」「それを越えて、この作家には、旬の作家だけがもつヴィヴィッドで艶な文章の魅力がある。」
藤田宜永 全委員 21 「はっきりいって、どこといって悪いところはないが、逆にいうと、どこといって抜きんでたところがない。」「藤田氏のこれまでの小説と比べ、こちらのほうが向いているように思えるが、この種の小説は、作家自身が裸になって書くような開き直りが必要である。」
姫野カオルコ 全委員 8 「主人公のマゾ的趣向に興味を抱いたが、それほど深まる気配がない。結局、小説というより、男女の文明批評として読んだが、それでも思いつき以上の、新鮮な刺戟は得られなかった。」
黒川博行 全委員 9 「関西弁のテンポがよく、話の切り換えも巧みで、文章には独特のリズム感がある。しかし読みすすむうちに、お話だけで、肝腎の人間が見えてこないので退屈する。小説はやはり人間を描くことが第一義である。」
宇江佐真理 全委員 17 「主人公が髪結いで同心の手下という設定が面白く、お文という辰巳芸者も生きている。しかしそうした人物を抜いて、小説の構成や説得力となると、いささかご都合主義で弱すぎる。」「ともかく、「野に遺賢あり」とでもいうべき新人の登場である。」
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他の選考委員
田辺聖子
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選考委員津本陽×各候補作  見方・注意点
技と心 総行数70 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
篠田節子 全委員 15 「作者よりもながく生きてきた私の知らなかった、社会の機構を綿密に取材し、現代に生きる女性のたたかいの様相を教えてくれた。」「作品の出来ばえについてはとりたてて疵がなく、切れ味がいい。最後のページまで読者をはなさない迫力がある。」
浅田次郎 全委員 10 「「ラブ・レター」は以前に雑誌で読み、印象に残っていた。」「どれも似た形の作品を読者に読ませるしたたかな根性が作者の値打ちかも知れない。」
藤田宜永 全委員 15 「相応の見せ場は幾ヵ所にもあり、練達の才腕により長篇恋愛小説を一貫して仕上げている。だが、作者は全体のバランスに注意をかけるあまり、感情を流露させるところがすくなかったのではなかろうか。かたくるしい技巧が目につく。」
姫野カオルコ 全委員 5 「寓意小説としておもしろく読めるが、思いつきが醗酵するまでに至らず、軽佻な筆はこびに終始している。」
黒川博行 全委員 13 「長い作品だが、さまざまの事件がおこってきて、後半まで飽きさせない。」「だが、事件のおもしろみで、人間像があまり浮かんでこない。疫病神というやくざの、えげつない性格にも、さほど存在感を覚えない。」
宇江佐真理 全委員 12 「作品の構成については粗雑な点が目につき、完成度に劣ることが分っていたが、この作者の肉声を耳もとで聞いているような、圧倒的な語りかけの力はなんだろうと、たやすく引きこまれた。」「この作者の内部から溢れ出てくるゆたかな感情の魅力を、忘れたくはない。」
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田辺聖子
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選考委員井上ひさし×各候補作  見方・注意点
粒選りの中の粒選り 総行数146 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
篠田節子 全委員 35 「粒選りの中でも、さらに高い質を誇っていた。」「なにより感心するのは、現代女性が自分の人生をどう選ぶのか、あるいは選んでしまうのかを、人生の関頭に立つその姿を、もっと云えば、彼女たちの人生の大切な瞬間を、生き生きとしたリズムを内蔵する文章と弾みに弾む会話と軽やかなユーモアをもって描き出したことで、そこにこの作品の栄光がある。」
浅田次郎 全委員 27 「粒選りの中でも、さらに高い質を誇っていた。」「八つの短編が収められているが、うち四つは大傑作であり、のこる四つは大愚作である。大傑作群に共通しているのは、「死者が顕われて生者に語りかける」という趣向で、この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ。たとえば「角筈にて」を読まれよ。(引用者中略)この一編で、大愚作群の欠損は充分に埋められたと信じる。」
藤田宜永 全委員 16 「作者は、考えに考えて、小説的人物を、そして小説的筋を創っている。それには大いに感服するものの、じつは計算が行き届きすぎて、計算外のことが起こらないところに難点があるかもしれない。」
姫野カオルコ 全委員 31 「一見ばかばかしいような設定を通して、作者はじつはある種の哲学を論じているのである。評者は何度か吹き出して、充分に楽しませてもらったが、しかし文章が粗いのでよほど損をしている。」
黒川博行 全委員 15 「危険な珍道中をつづける二人の主人公の関西言葉による対話はすばらしい。」「産業廃棄物問題を作品の動力として仕込んでいるのも時宜にかなう。ここまでは満点だが、二人の主人公が巻き込まれ、同時に分け入って行く事件が曖昧である。」「読後感がなんだかすっきりしないのは惜しい。」
宇江佐真理 全委員 26 「細部が具体的でおもしろく、文章もいい。端倪すべからざる書き手の登場である。もっとも、肝心かなめの事件そのものに謎が乏しい。」
  「今回は粒選りが揃った。」
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他の選考委員
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阿刀田高
平岩弓枝
渡辺淳一
津本陽
五木寛之
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選考委員五木寛之×各候補作  見方・注意点
堂々の二作受賞 総行数121 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
篠田節子 全委員 23 「いまさら言うまでもない当然の受賞と思う。」「今回の「女たちのジハード」は、優れた作家は常にオールラウンド・プレイヤーであることを示している。作中の女たちへの温かい目と、冷徹な目とが見事に共存して、複眼というか、対位法的な作品の構造に舌を巻く思いがあった。」
浅田次郎 全委員 37 「どの作品も最近の世相のなかで私たちが見失ってしまっている人間の「情」というものが、たっぷり湛えられた鮮やかな物語で、この作家の大技、小技、ともに優れた実力をよく示す一冊だと感心した。」「「蒼穹の昴」で長蛇を逸した作家が、よくも再度の金的を射とめたものだ。強運も才能のうち、とあらためて思った。」
藤田宜永 全委員 20 「もしも三作受賞が可能ならば、私は迷わずに藤田宜永さんの「樹下の想い」を推しただろう。すこぶる古風な味わいを持つ恋愛小説で、欠点も多々あるものの、この作家の一筋の「想い」が読む側に強くつたわってくるのを感じた。」
姫野カオルコ 全委員 9 「四文字言葉が乱舞する放埓な作品に見えて、じつはすこぶる知的な構成をもつ古典的な小説である。私は大変おもしろく読んだが、そもそも直木賞になじまない作風で、むしろ芥川賞むきではないかと思った。」
黒川博行 全委員 6 「興味津々、一気に読まされた。物語の舞台を丹念に書き込む手法につよさがある。この人も才能のある作家だと思う。」
宇江佐真理 全委員 10 「新人とは思えない筆さばきで、これはまちがいなく本物の小説家だ。無理に推理小説に仕立てずに、ミステリーの手法を生かした物語を考えたほうが、この人の才能を生かすことになりそうな気がする。」
  「今回は会心の選考会だった。いかにも直木賞作家らしい受賞者二人を得て、すこぶる高揚した気分で帰途についた。それだけではない。惜しくも受賞を逸した他の候補作も、それぞれに魅力的な作品ぞろいだったこともあって、ひさしぶりに選者冥利につきる感じをおぼえさせられたのだ。」
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他の選考委員
田辺聖子
黒岩重吾
阿刀田高
平岩弓枝
渡辺淳一
津本陽
井上ひさし
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篠田節子『女たちのジハード』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子 全候補 39 「このタイトルは一考を要す。」「いつも負の札を引き当てて苦戦するところに女の人生の詩情もロマンもあるのだが、巻末近いあたりの短篇群は、冒頭の作品群の文学性を失う。しかし〈女の子〉の立身マニュアル、と読めば、文学性の代りに面白さがサービスされたといっていい。氏の危うげのない才能が、立証されたといえよう。」
黒岩重吾 全候補 33 「迫力には圧倒された。作者は数人のOL達に自己投入し、彼女達と共にのたうち廻ったような気がする。」「惹かれたのは男顔負けの強腕ではなく、恐怖に慄えながら前進する姿にリアリティを感じたからである。」「今回の氏の作品には、これまでの壁を突き破った強靭な小説の核が間違いなく存在している。」
阿刀田高 全候補 30 「もっともおもしろく読んだ作品であった」「連作短篇集として統一性を欠いているように読んだが、その一方で、一切がこの作家の腕力の前では、許されて魅力となってしまう。」「「ゴサインタン」のような力技も持っている方だ。期待はとても大きい。」
平岩弓枝 全候補 21 「良いと思った。」「登場人物はみな威勢よく、力強く、いきいきと呼吸してまことに快い。」「女たちがよく描けているから、男たちもそれを反映するかのように存在感があって各々に面白く読めた。」
渡辺淳一 全候補 28 「全体として連作風であるが、個々には独立した短篇になっていて、そこにはおのずから出来、不出来がある。」「後半の短篇は小説的ふくらみが失せて平板になり、ジハード(聖戦)というには、いささか常套的である。」「この作家は前回の「ゴサインタン」前々回の「カノン」と、常に水準以上の作品を発表して惜しくも賞を逸してきた。この意欲的なエネルギーと安定感を合わせたら、すでに受賞に価する充分な力をもっている作家と見て間違いないであろう。」
津本陽 全候補 15 「作者よりもながく生きてきた私の知らなかった、社会の機構を綿密に取材し、現代に生きる女性のたたかいの様相を教えてくれた。」「作品の出来ばえについてはとりたてて疵がなく、切れ味がいい。最後のページまで読者をはなさない迫力がある。」
井上ひさし 全候補 35 「粒選りの中でも、さらに高い質を誇っていた。」「なにより感心するのは、現代女性が自分の人生をどう選ぶのか、あるいは選んでしまうのかを、人生の関頭に立つその姿を、もっと云えば、彼女たちの人生の大切な瞬間を、生き生きとしたリズムを内蔵する文章と弾みに弾む会話と軽やかなユーモアをもって描き出したことで、そこにこの作品の栄光がある。」
五木寛之 全候補 23 「いまさら言うまでもない当然の受賞と思う。」「今回の「女たちのジハード」は、優れた作家は常にオールラウンド・プレイヤーであることを示している。作中の女たちへの温かい目と、冷徹な目とが見事に共存して、複眼というか、対位法的な作品の構造に舌を巻く思いがあった。」
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他の候補作
浅田次郎 『鉄道員』
藤田宜永 『樹下の想い』
姫野カオルコ 『受難』
黒川博行 『疫病神』
宇江佐真理 『幻の声』
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浅田次郎『鉄道員』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子 全候補 31 「何とも気持よく泣ける小説が開巻からつづく。」「〈しんみりして泣かせる〉“しみじみ小説”というものは、甘ちゃんの人が書くと歯が浮くものだけれど、浅田さんは辛口作家でいられ、随所に〈根性悪〉(引用者中略)(作家的視線がきびしいこと)が仄見え、信頼できる。」
黒岩重吾 全候補 21 「収録された諸短篇は、計算されつくした作品で、余分な贅肉を削り落し、読者に夢を与える小説の揺り籠を作った。」「私は表題作以外、「ラブ・レター」、「角筈にて」、「伽羅」、「うらぼんえ」などに惹かれた。この種の短篇集で、五作に陶酔出来たのは珍しい。」
阿刀田高 全候補 21 「八篇の短篇が収められているが、よい作品と、それほどでもない作品と、ばらつきが目立つ。」「表題作の「鉄道員」は、わるくはないけれど、あまりにも型通りで、涙腺をふくらませながらも、――こんなことで、泣けるか――と、しらけるところ、なきにしもあらず。」「しかし、よくもわるくも、これはこの作家の特質であろう。」
平岩弓枝 全候補 23 「最初に表題となっている「鉄道員」を読んで、この一冊はすべて、さまざまのぽっぽやさんを主人公とする作品を集めたのかと思い込んだら、そうではなかった。別にそのことに苦情があるわけではないが、(引用者中略)浅田さんなら、そうしたかつての愛すべき鉄道員をもっともっと書いて下さるのではないかと期待をこめてお願いしたい気持がある。」
渡辺淳一 全候補 28 「半ばまで読みすすんだところで、これなら間違いない、という確信を得た。冒頭の短篇から話が躍動して、人間がよく見えて説得力がある。」「小説づくりの巧さと裏腹にある、小説づくりのあざとさや、泣かせるツボを心得すぎていることからくる、仕上りの浅さなどが、長年小説を書いてきた者には気がかりである。」「それを越えて、この作家には、旬の作家だけがもつヴィヴィッドで艶な文章の魅力がある。」
津本陽 全候補 10 「「ラブ・レター」は以前に雑誌で読み、印象に残っていた。」「どれも似た形の作品を読者に読ませるしたたかな根性が作者の値打ちかも知れない。」
井上ひさし 全候補 27 「粒選りの中でも、さらに高い質を誇っていた。」「八つの短編が収められているが、うち四つは大傑作であり、のこる四つは大愚作である。大傑作群に共通しているのは、「死者が顕われて生者に語りかける」という趣向で、この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ。たとえば「角筈にて」を読まれよ。(引用者中略)この一編で、大愚作群の欠損は充分に埋められたと信じる。」
五木寛之 全候補 37 「どの作品も最近の世相のなかで私たちが見失ってしまっている人間の「情」というものが、たっぷり湛えられた鮮やかな物語で、この作家の大技、小技、ともに優れた実力をよく示す一冊だと感心した。」「「蒼穹の昴」で長蛇を逸した作家が、よくも再度の金的を射とめたものだ。強運も才能のうち、とあらためて思った。」
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他の候補作
篠田節子 『女たちのジハード』
藤田宜永 『樹下の想い』
姫野カオルコ 『受難』
黒川博行 『疫病神』
宇江佐真理 『幻の声』
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藤田宜永『樹下の想い』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子 全候補 13 「珍しい題材で、私は花道に昏いけれども興味がもてた。読みやすい文章、主人公に存在感があった。」「ただ私には主人公が四十八という年齢設定にしては渋すぎ、枯れすぎているように感じた。」
黒岩重吾 全候補 7 「家元の娘と花材に生命を賭ける主人公との恋を過不足なく描いている。読んでいて抵抗は感じないが、読後の感動と余韻がどうも薄い。」
阿刀田高 全候補 15 「ちょっと古風な、型通りの作品である。」「が、その型を越えて訴えてくる魅力が乏しい。私としては、――一つの型をこれだけきっちりと書ければ、よいのではないのか――と、プラスの評価に傾いたが、同じことをマイナスに見る委員も多く、その意見は充分に首肯できるものであった。」
平岩弓枝 全候補 18 「戦後、順風満帆で全盛期を迎えた日本の華道界が、その後の時代の流れや変化になんの対応も出来ず、ここに至ってさまざまの問題が噴出し、或る意味では窮地に追いつめられつつある現状を正確に取材された上で、この作品を書かれたら、という無念の思いにも似た感情を持った。」
渡辺淳一 全候補 21 「はっきりいって、どこといって悪いところはないが、逆にいうと、どこといって抜きんでたところがない。」「藤田氏のこれまでの小説と比べ、こちらのほうが向いているように思えるが、この種の小説は、作家自身が裸になって書くような開き直りが必要である。」
津本陽 全候補 15 「相応の見せ場は幾ヵ所にもあり、練達の才腕により長篇恋愛小説を一貫して仕上げている。だが、作者は全体のバランスに注意をかけるあまり、感情を流露させるところがすくなかったのではなかろうか。かたくるしい技巧が目につく。」
井上ひさし 全候補 16 「作者は、考えに考えて、小説的人物を、そして小説的筋を創っている。それには大いに感服するものの、じつは計算が行き届きすぎて、計算外のことが起こらないところに難点があるかもしれない。」
五木寛之 全候補 20 「もしも三作受賞が可能ならば、私は迷わずに藤田宜永さんの「樹下の想い」を推しただろう。すこぶる古風な味わいを持つ恋愛小説で、欠点も多々あるものの、この作家の一筋の「想い」が読む側に強くつたわってくるのを感じた。」
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他の候補作
篠田節子 『女たちのジハード』
浅田次郎 『鉄道員』
姫野カオルコ 『受難』
黒川博行 『疫病神』
宇江佐真理 『幻の声』
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姫野カオルコ『受難』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子 全候補 13 「読んでる限りは面白い。結婚できない女の妄想のかたちとして人面瘡があるわけだろうけれど、その寓意がいま一つ私には把握しきれない。何より美的でないしなあ。」
黒岩重吾 全候補 4 「感性が空転している。ただ観念的な舞台劇にすれば味が出るのではないかと感じた。」
阿刀田高 全候補 9 「寓意性に富んだ作品で、その寓意がわからないでもなかったが、いかにも軽い。」「加えて、私はこの作家の文章になじめないものを多々、感じてしまった。」
平岩弓枝 全候補 4 「才能だけで人を感動させる作品を仕上げることは難しいと思う。」
渡辺淳一 全候補 8 「主人公のマゾ的趣向に興味を抱いたが、それほど深まる気配がない。結局、小説というより、男女の文明批評として読んだが、それでも思いつき以上の、新鮮な刺戟は得られなかった。」
津本陽 全候補 5 「寓意小説としておもしろく読めるが、思いつきが醗酵するまでに至らず、軽佻な筆はこびに終始している。」
井上ひさし 全候補 31 「一見ばかばかしいような設定を通して、作者はじつはある種の哲学を論じているのである。評者は何度か吹き出して、充分に楽しませてもらったが、しかし文章が粗いのでよほど損をしている。」
五木寛之 全候補 9 「四文字言葉が乱舞する放埓な作品に見えて、じつはすこぶる知的な構成をもつ古典的な小説である。私は大変おもしろく読んだが、そもそも直木賞になじまない作風で、むしろ芥川賞むきではないかと思った。」
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他の候補作
篠田節子 『女たちのジハード』
浅田次郎 『鉄道員』
藤田宜永 『樹下の想い』
黒川博行 『疫病神』
宇江佐真理 『幻の声』
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黒川博行『疫病神』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子 全候補 19 「タイムリーな新しい素材、まずそれに敬服。それからコンビのつるみかげん、というのか、二人の相性が面白く、それだけで持たせる。ただし、人物の出し入れが複雑で、図解で示されても、悪役たちの人物像が画一的でみな同じにみえるから、つかみにくい。」「人物はよく書けているが、背後の事件の展開は物足らない。」
黒岩重吾 全候補 7 「後半まで面白く読めたが、ゼネコンの顔が覗いたあたりから種が割れた感じで興味が半減した。暴力団とゼネコンの関係が複雑すぎるのも難である。」
阿刀田高 全候補 14 「文章の確かさと会話のおもしろさと、二人の登場人物の存在感に長所があった。」「全篇を貫く物語が、わかりにくく、面白味が薄く、長さのわりには、――つまり、この程度の話なのか――と、鼻白んでしまうところがある」
平岩弓枝 全候補 8 「面白く読んだが、面白さの後に来るものが乏しかった。材料のよさに力が注がれて、情感に訴える部分が弱かったせいかも知れない。それにしても、話の広げ方のうまさはずば抜けていた。」
渡辺淳一 全候補 9 「関西弁のテンポがよく、話の切り換えも巧みで、文章には独特のリズム感がある。しかし読みすすむうちに、お話だけで、肝腎の人間が見えてこないので退屈する。小説はやはり人間を描くことが第一義である。」
津本陽 全候補 13 「長い作品だが、さまざまの事件がおこってきて、後半まで飽きさせない。」「だが、事件のおもしろみで、人間像があまり浮かんでこない。疫病神というやくざの、えげつない性格にも、さほど存在感を覚えない。」
井上ひさし 全候補 15 「危険な珍道中をつづける二人の主人公の関西言葉による対話はすばらしい。」「産業廃棄物問題を作品の動力として仕込んでいるのも時宜にかなう。ここまでは満点だが、二人の主人公が巻き込まれ、同時に分け入って行く事件が曖昧である。」「読後感がなんだかすっきりしないのは惜しい。」
五木寛之 全候補 6 「興味津々、一気に読まされた。物語の舞台を丹念に書き込む手法につよさがある。この人も才能のある作家だと思う。」
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他の候補作
篠田節子 『女たちのジハード』
浅田次郎 『鉄道員』
藤田宜永 『樹下の想い』
姫野カオルコ 『受難』
宇江佐真理 『幻の声』
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宇江佐真理『幻の声』×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
田辺聖子 全候補 15 「何とも魅力的な主人公の男女。」「これだけ描ききれれば、背後の捕物帖めいたことはつけたしでいいかと思ったほど、私の評は甘くなった。しかし、やはり捕り物がしっかり書けていないと、小説宇宙が構築されないという他委員の意見に従う。」
黒岩重吾 全候補 28 「この作品群には暗い艶がある。それを感じさせただけでもかなりの才能の持ち主だ。だが、それぞれに見逃し難い瑕がある。」「作者はストーリー作りに溺れ、人間を描くことを忘れてしまっている。そのことに気づいたなら作者の才能が花開く日も近いのではないか。」
阿刀田高 全候補 13 「江戸市井の人情と気配を入念に、だが、さりげなく描く筆致は真実みごとである。ただ、必ずしも捕物帳としてのストーリイ性を求めるわけではないけれど、もう少し読者を楽しませ、納得させる“お話”の要素があってもよいだろう。」
平岩弓枝 全候補 9 「佳品であった。状景はこれで充分だが、人間の書き方はまだまだ浅い。」「何故そうしたのか、何故そうなるのかを書き切らないと読者を納得させ、感動させるには至らない。」
渡辺淳一 全候補 17 「主人公が髪結いで同心の手下という設定が面白く、お文という辰巳芸者も生きている。しかしそうした人物を抜いて、小説の構成や説得力となると、いささかご都合主義で弱すぎる。」「ともかく、「野に遺賢あり」とでもいうべき新人の登場である。」
津本陽 全候補 12 「作品の構成については粗雑な点が目につき、完成度に劣ることが分っていたが、この作者の肉声を耳もとで聞いているような、圧倒的な語りかけの力はなんだろうと、たやすく引きこまれた。」「この作者の内部から溢れ出てくるゆたかな感情の魅力を、忘れたくはない。」
井上ひさし 全候補 26 「細部が具体的でおもしろく、文章もいい。端倪すべからざる書き手の登場である。もっとも、肝心かなめの事件そのものに謎が乏しい。」
五木寛之 全候補 10 「新人とは思えない筆さばきで、これはまちがいなく本物の小説家だ。無理に推理小説に仕立てずに、ミステリーの手法を生かした物語を考えたほうが、この人の才能を生かすことになりそうな気がする。」
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他の候補作
篠田節子 『女たちのジハード』
浅田次郎 『鉄道員』
藤田宜永 『樹下の想い』
姫野カオルコ 『受難』
黒川博行 『疫病神』
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