直木賞のすべて
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陳舜臣
Chin Shunshin
生没年月日【注】 大正13年/1924年2月18日〜
在任期間 第94回〜第110回(通算8.5年・17回)
在任年齢 61歳10ヶ月〜69歳10ヶ月
経歴 兵庫県生まれ。大阪外国語学校印度語科卒。
受賞歴 第7回江戸川乱歩賞(昭和36年/1961年)「枯草の根」
第23回日本推理作家協会賞(昭和45年/1970年)『玉嶺よふたたび』『孔雀の道』
第25回毎日出版文化賞[文学・芸術部門](昭和46年/1971年)『実録アヘン戦争』
神戸市文化賞(昭和49年/1974年)
第3回大佛次郎賞(昭和51年/1976年)『敦煌の旅』
第20回日本翻訳文化賞(昭和57年/1982年)『叛旗 小説・李自成』
第36回NHK放送文化賞(昭和59年/1984年度)
第40回読売文学賞[随筆・紀行賞](昭和63年/1988年)『茶事遍路』
第26回吉川英治文学賞(平成4年/1992年)『諸葛孔明』
朝日賞(平成4年/1992年)「中国と日本の歴史を踏まえた文学作品を通して日本文化に大きな貢献」
第51回日本藝術院賞[文芸/小説・戯曲](平成6年/1994年度)「作家としての業績」
第3回井上靖文化賞(平成7年/1995年)
大阪芸術賞(平成8年/1996年)
勲三等瑞宝章(平成10年/1998年)
処女作 『枯草の根』(昭和36年/1961年10月・講談社刊)
個人全集 『陳舜臣全集』全27巻(昭和61年/1986年5月〜昭和63年/1988年9月・講談社刊)
直木賞候補歴 第46回候補 『枯草の根』(昭和36年/1961年10月・講談社刊)
第56回候補 『炎に絵を』(昭和41年/1966年9月・文藝春秋/ポケット文春)
第60回受賞 「青玉獅子香炉」(『別冊文藝春秋』105号[昭和43年/1968年9月])
サイト内リンク 小研究-ミステリーと直木賞
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下記の選評の概要には、評価として◎か○をつけたもの(見方・注意点を参照)、または受賞作に対するもののみ抜粋しました。さらにくわしい情報は、各回の「この回の全概要」をクリックしてご覧ください。

直木賞 94 昭和60年/1985年下半期   一覧へ
選評の概要 親しみ深い小世界 総行数60 (1行=14字)
候補 評価 行数 評言
落合恵子 16 「最も印象にのこった」「連作の冒頭に、どうしようもない状況が示され、はたして救いはないのかと問いかけてくる。つづいて、さまざまな角度からの切りこみで、救いの可能性が暗示される。」「私はそこに清冽な熱気をかんじた。風俗もみごとに描けているし、この作家が大成することはまちがいない。」
島田荘司 11 「はじめから物語の展開がほぼ予想できたが、主人公の若さが最後まで魅力を失わなかった。」「設定がヒッチコックの「裏窓」に似ていることなどが減点法の好餌となったのは残念である。」
森田誠吾 10 「庶民の生きる場の縮図が歪みなく描かれ、そのあまりにも歪みのなさに、かえって不安さえおぼえた。ともあれ、人間の息吹きがたしかめられる一つの小世界が、親しみぶかくうかびあがり、私としてはこれを受賞作とするのに異存はない。」
林真理子 13 「登場する男に魅力がなく、読みながら、何の因果でこんなつまらない男の話につき合わねばならないのかと、腹立たしくなった。が、ひるがえって考えると、そんな読中感をおこさせるのも作家の手腕であろう。」
  「傾向として直木賞は完成度が重視され、減点法の選考が主流のようにおもえる。作品の構成が複雑になればなるほど不利となる。」
選評出典:『オール讀物』昭和61年/1986年4月号
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直木賞 95 昭和61年/1986年上半期   一覧へ
選評の概要 ビルドゥングスロマン 総行数58 (1行=14字)
候補 評価 行数 評言
皆川博子 33 「主人公ゆうの目が、全篇を通じていささかも乱れをみせていないのがみごとであった。」「ゆうは自分の世界のなかで、おぞましいことの多い現実と戦い、傷つきながら、彼女のなりの自己形成の道を行く。肩に力がはいりがちなその過程が、抑制のきいた筆でえがかれて、すばらしいビルドゥングスロマンであるとおもう。」「推理小説でない作品で受賞したことが、私にはいささか気になった。これからも皆川氏には推理小説をつづけて書いていただきたい。」
泡坂妻夫 17 「すみずみまで行き届いた作品である。」「現実と非現実のあいだを、文章がやや古風に渡り歩き、一種のムードを醸し出し、それによって一層あざやかな現実を洗い出すという、いつもながらの泡坂節に、ファンである私は堪能した。」「二作受賞の声もあったが、泡坂・逢坂両氏に票が割れ、けっきょく見送られたのは惜しかった。」
選評出典:『オール讀物』昭和61年/1986年10月号
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直木賞 96 昭和61年/1986年下半期   一覧へ
選評の概要 新しい小説を 総行数55 (1行=14字)
候補 評価 行数 評言
逢坂剛 15 「千枚以上の長篇にもかかわらず、構成の乱れをみせず、作品の世界に読者をひきこむ力を持続させた。ミステリーや冒険小説で直木賞を受賞するのは難しいという声がよく耳にはいる。そこに壁の如きものがあるという人もいる。逢坂氏の受賞は、そんな伝説の壁がもはや存在しないことを証明したといえよう。」
常盤新平 8 「すぐれた青春小説であり、昭和三十年代前半のムードをみごとに描いている。ただ東西のミステリーを読破した常盤新平氏が、なぜ骨組みのしっかりしたミステリーをひっさげて登場しないのか、それだけが不満である。」
  「今回は量的にも質的にもレベルの高い作品がそろっていたようにおもう。」
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年4月号
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直木賞 97 昭和62年/1987年上半期   一覧へ
選評の概要 たのしみ 総行数70 (1行=14字)
候補 評価 行数 評言
白石一郎 11 「登場人物に魅力があり、一気に読ませた。場面はよく変わるが、つねに船と海に収斂され、適当にひきしまった構成になっている。」「たのしい冒険物語である。」
山田詠美 25 「なによりも感心し、羨しくもかんじたのは、ことばが作者のからだに密着していることである。」「この言語の感性は天賦のものというほかなく、よけいなアドバイスは無用ではあるまいか。」「このひとは、十年二十年、そしてもっと先まで、どのように変わって行くにせよ、読者をたのしませつづける、たぐいまれな作家であることはまちがいない。」
選評出典:『オール讀物』昭和62年/1987年10月号
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直木賞 98 昭和62年/1987年下半期   一覧へ
選評の概要 共鳴し合う音 総行数133 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
阿部牧郎 26 「彼が直木賞候補にあげられたのは、これが八度目であるという。最初は第五十九回で、つぎが第六十一回であったそうだ。私が三度目の候補で受賞したのが第六十回のときであった。いわば肩をならべてきた戦友であり、その彼の作品を俎上にのせるのは奇妙なかんじである。」「群を抜いていて、正直いって私はほっとした。」「死の周辺に包みこまれた小宇宙のなかで、さまざまに共鳴し合う音を、読者はきくことができる。」
泡坂妻夫 10 「歳月の経過をじゅうぶんに埋め尽したかんじがあり、ミステリーの要素もわずらわしくないていどに組み入れられ、私には好ましい作品におもえた。たそがれへの愛惜の情とでもいうべきものを、読者の胸に宿らせる力をもっている。」
三浦浩 41 「私たちが生きている時代を、奇抜に角度をかえることによって、まばゆいほどの光量で照らし出してくれた。」「細部の欠点は、設定作業の困難をおもえば、許容限度をこえていないようにおもう。筋が錯綜してわかりにくいところもあるが、そもそも事件にまきこまれた主人公自身、状況がよくわからずにもがいているのだ。」「このような良質の小説が登場してきたことをよろこびたい。」
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年4月号
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直木賞 99 昭和63年/1988年上半期   一覧へ
選評の概要 快作と安定作 総行数70 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
景山民夫 27 「現実を遠く超えた荒唐無稽が、シュルレアリズムとして、最も鋭く現実を再構築する例もあろう。(引用者中略)そんな創作のいろは(原文傍点)を思い起こさせた。」「なによりもおもしろく読めるのがこの作品の強みである。」「後半、冒険談になってから、密度がややゆるんだかんじがする。エネルギーの持続がこれからの景山氏の課題になるだろう。」
西村望 10 「物語に迫力があり、ブルドーザーのように砂礫をはねとばして進む文章にも、独特の味がある。ただし、読む人によっては、それが文章の粗さと映るかもしれない。男性的なテーマを描き切ることのできる、貴重な才能であるとおもう。」
西木正明 12 「ひとくちでいえば、しっかりした作品である。」「前回の候補作とのはばを考えると、西木氏の実力は着実に拡大安定にむかっているといえる。すでに実績を積みあげたのだから、これからは思い切った冒険も試みてほしいとおもう。」
選評出典:『オール讀物』昭和63年/1988年10月号
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直木賞 100 昭和63年/1988年下半期   一覧へ
選評の概要 安定の美 不安定の美 総行数114 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
杉本章子 43 「文章によけいな細工をして、ある効果をもたせようという意図はないのに、全体にやさしさがにじみ出る効果をもたらしている。それは杉本氏の折り目正しい文章と、すなおな語り口によるものなのだ。」「もうすこし整理すれば、もっとよくなったであろうという声もあったが、持ち味まで削りとられたのでは元も子もない。私は杉本氏には、「この調子で」とアドバイスしたい。」
古川薫 14 「土地のもつ魔力のようなものが、風景描写ではなく、人物描写によって、うまくにじみ出ている。ホテルの主人、手伝いの女、娼婦など、いずれも土地に根をもつ濃密な人間性が、半透明な主人公に蔽いかぶさって、ともどもに存在感をあざやかにしている。受賞にいたらなかったのは残念である。」
藤堂志津子 26 「このまえの候補作『マドンナのごとく』にくらべると、格段によくなっている。」「藤堂氏の文章は、読者をうまく乗せてしまうリズムがある。そのリズムに頼りすぎると危険ではあるまいか。リズムは常に変化しなければ平板になる。藤堂氏の作品の醸し出すふしぎな魅力は、不安定の美、であるかもしれない。」「安定していないというのは、大成の可能性が大きいという意味である。」
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年3月号
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直木賞 101 平成1年/1989年上半期   一覧へ
選評の概要 粒ぞろい 総行数118 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
隆慶一郎 7 「いつものことながら、作者の世界にひきこまれて、あっというまに読んだ。作者の批評精神が、ときどき作中にのぞくが、私にはそれほど気にならなかった。」
古川薫 9 「贅肉のない文章で独特のムードを醸し出した作品である。」「このような良質の中篇が、日本のエンターテインメントに欠けているのではあるまいか。読んでいてふとシムノンを連想した。」
笹倉明 20 「前回の候補作「漂流裁判」から一歩も二歩も前進している。ただ話の進行のつなぎに、もうすこし工夫が欲しかった。」「強い問題意識をもった執筆姿勢に好感がもてる。じゃぱゆきさんの境遇というテーマが作者の正義感によって光っている。」
ねじめ正一 28 「淡彩スケッチふうの佳品である。少年の目を通して、家族や界隈の人たちがあざやかに描かれている。ところが、読んでいても、かんじんの少年の顔がみえてこない。あるいは少年の顔をみせないのが、この作品の基本的な姿勢かもしれない。」
  「私は選考の結果、どの作品が受賞しても異議はないという心構えで、選考会に臨んだ。一面からいえば、これでなければならないという突出した作品もなかったことになる。これは全体のレベルの高さをよろこぶべきであろう。」
選評出典:『オール讀物』平成1年/1989年9月号
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直木賞 102 平成1年/1989年下半期   一覧へ
選評の概要 困ったこと 総行数114 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
原ォ 15 「日本のハードボイルドも、やっとこのような作品をうむようになったかという感慨が先に立った。うれしい作品である。」「登場人物を含めて、もうすこし刈り込めたいのではないか、という不満もないではないが、近年、出色のミステリーであることにまちがいはない。」「瑕瑾の謗りを気にしないで、我が道を行ってほしい。」
酒見賢一 26 「ほとんど作者の頭脳からうみ出された物語で、それに敬意を表したいとおもう。」「純架空物語はすくなくないが、「後宮小説」はそれに比肩しうる佳作であろう。登場人物の性格が、あざやかに書き分けられ、最後まで破綻がないのはみごとである。」
星川清司 11 「うまい作品である。文章と話し口のうまさのわりには、感銘度が浅かった。小伝という女性の燃えるすがたを期待しすぎたかもしれない。この作品はむしろ「権八抄」として読むべきであろう。」
  「このたびの候補作で、これは困る、という作品は一作もなく、そのために選考にあたって、こちらが困ってしまったのが正直なところである。」
選評出典:『オール讀物』平成2年/1990年3月号
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直木賞 103 平成2年/1990年上半期   一覧へ
選評の概要 すばらしい記録 総行数96 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
泡坂妻夫 37 「昭和時代の東京のすばらしい記録になっている」「いずれも短篇だが、さまざまな工夫をこらして、それぞれの味を出している。時間のいれかえが、読んでいて、いささかわずらわしい場面もあるが、短篇のことだから、これも工夫の一種であろう。その人にしか書けないという分野をもつのは、作家として大きなメリットである。」
選評出典:『オール讀物』平成2年/1990年9月号
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直木賞 104 平成2年/1990年下半期   一覧へ
選評の概要 心強いこと 総行数111 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
古川薫 33 「フィクションをまじえないという原則をつらぬき、藤原義江にまつわる大量の資料をみごとに処理している。」「作者の視線のあたたかさがかんじられる。伝記小説には、よくべったりと寄りかかった姿勢のものがあるが、この作品は主人公をつきはなしている。(引用者中略)その適当な間隔に好意がもてた。」
  「今回の候補作諸篇は、ぜんたいに前回にくらべてレベルが高かったようにおもう。」
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年3月号
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直木賞 105 平成3年/1991年上半期   一覧へ
選評の概要 期待 総行数96 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
宮城谷昌光 42 「宮城谷氏は『春秋左氏伝』の忠実な読者として、夏姫の部分を小説化したといえる。」「このたびは史実の骨組みがきっちりと記録されている時代を、情熱的に肉づけした作品である。両作(引用者注:前回候補の「天空の舟」と今回の「夏姫春秋」)をあわせて、作者は想像力も構成力もともにすぐれていることを証明してみせた。」
芦原すなお 16 「たしかにおもしろいが、少年たちのハートを揺すったのがなにであったか、それを知りたいとおもう。」「知的な文章が、登場人物の知的レベルと微妙に食いちがい、私にはそれがおもしろかった。」
選評出典:『オール讀物』平成3年/1991年9月号
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直木賞 106 平成3年/1991年下半期   一覧へ
選評の概要 実力派に期待する 総行数109 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高橋義夫 13 「人間生活のある切断面をのぞかせて、読者の頭に人生の全体像を刻みこむのが中短篇の基本であるとおもう。この作品はそれに成功している。ひきしまって、「完結感」とでもいうべきものをかんじた。」
高橋克彦 33 「通しのテーマをもつ作品集は、同工異曲におちいりやすい危険性と、同工異曲に読まれやすい不安をはらんでいる。それに挑戦した勇気に敬意を払いたい。」「「ねじれた記憶」がとくにすぐれている。「冥い記憶」は登場人物よりも作者の苦しげな息づかいがかんじられた。」「私は氏の将来に一点の疑念も抱いていない。」
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年3月号
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直木賞 107 平成4年/1992年上半期   一覧へ
選評の概要 作品のふくらみ 総行数116 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
伊集院静 49 「ふくらみをかんじさせるものが多く、きめどころが浅いという批判もあったが、私には好感がもてた。」「だが、どうもこの作家は読者の想像力に大きく頼りすぎているかんじがする。」「ほめて言えば、伊集院氏はすでに手だれの作家で、その作品に安心感とともに一抹の不満もおぼえる。」
  「今回はとくに群を抜いた作品はなかったようにおもう。」
選評出典:『オール讀物』平成4年/1992年9月号
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直木賞 108 平成4年/1992年下半期   一覧へ
選評の概要 僅かの差 総行数71 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
東郷隆 15 「中世の雰囲気がよく出ていた。妖術や幻術のたぐいは、中世をいろどるおもなトーンといってよい。小説に登場させるのはかなり危険だが、東郷氏は大手を振ってそれをやってのけた。その度胸のよさを買いたい。構成にもさしたる破綻はなく、良質のエンターテインメントになっている。」
宮部みゆき 14 「今日的なテーマを、掘り下げて描いた秀作だが、すこし肥満気味である。会話などにやや冗長な部分があり、それを苅りこんで、もっとスリムにできたのではないか。いずれにしても、宮部氏の力量が安定感を増したことを証明する作品といえるだろう。」
出久根達郎 14 「きめのこまかい文章で、前半はみごとで、これはと思わせたが、幸徳秋水や管野スガといった実在の人物が出てくると、とみに厚みを失ったかんじがした。自分ひとりで面白がっていて、その面白さが読者に伝わってこないうらみがある。」
  「今回の候補作五作は、あまり優劣の差はないようにおもえた。」「選考委員会に出席することができず、やむをえず書面回答となった。各作品僅差とおもったので、どの作品が受賞作になっても反対しないことを、選考委員会にお伝えした。」
選評出典:『オール讀物』平成5年/1993年3月号
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直木賞 109 平成5年/1993年上半期   一覧へ
選評の概要 減点・加点 総行数84 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
高村薫 31 「減点法で品評すれば、多くの点を失うであろう。」「動機についてかなりマイナス点をつけねばならない。」「だが、加点式で得た点は、減点数をはるかに越える。犯人の異常性がみごとにえがかれ、これが動機の弱さを補ってあまりあるものがあった。難をいえば、会話が概して長すぎる。」
北原亞以子 16 「減点のすくない堅実な作品である。ただし、加点法で行けば、それほど得点がなかったであろう。なによりもこの作品群は文章がすぐれていた。それぞれ仕事をもつ江戸の女性をえがき、その哀歓が、過不足なくにじみ出ている。」
選評出典:『オール讀物』平成5年/1993年9月号
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直木賞 110 平成5年/1993年下半期   一覧へ
選評の概要 粒ぞろい 総行数77 (1行=13字)
候補 評価 行数 評言
佐藤雅美 37 「真正面から江戸時代の裁判をとりあげ、エンターテインメントとして水準をこえた作品になっている。」「最近ようやく法廷小説も脚光を浴びはじめたが、そんなとき、時代小説で裁判物を成功させた佐藤氏の功績は大きい。」「新しい分野を拓いたというポイントが加わって、(引用者注:選考においては)最初から有利であった。」
大沢在昌 18 「設定にやや無理があるという意見もあったが、ハードボイルドでは、不条理性が登場人物をよりあざやかに造型する素材でもあるので、大きく減点するにあたらないとおもう。この作家の『毒猿』という作品に感心したおぼえがあるが、ハードボイルドの新しい星として活躍が期待できる。」
  「秀作ぞろいなので、二作受賞ではないかと思って選考会に出たが、はたしてその予感もあたった。」
選評出典:『オール讀物』平成6年/1994年3月号
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