芥川賞のすべて・のようなもの
芥川賞のすべて・のようなもの

第49回

=受賞者=
後藤紀一
河野多恵子

=候補者=
多岐一雄
三原 誠
佐藤愛子
亀田由紀夫


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 昭和38年/1963年上半期
 (昭和38年/1963年7月23日決定発表/『文藝春秋』昭和38年/1963年9月号選評掲載)
選考委員  高見順 井上靖 瀧井孝作 中村光夫 永井龍男 石川淳 石川達三 川端康成 舟橋聖一 丹羽文雄 井伏鱒二
選評総行数  28 22 36 31 15 24 30 34 39 23  
評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 評言 選評なし
候補作 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数 評価 行数
後藤紀一 「少年の橋」 評言 6 8 12 8 5 7 1 15 14 10    
河野多恵子 「蟹」 評言 10 12 9 4 5 2 3 22 23 13    
多岐一雄 「離婚」 評言 3 3 4 7 4 0 1 0 0 1    
三原誠 「たたかい」 評言 5 3 4 5 1 7 2 0 0 2    
佐藤愛子 「ソクラテスの妻」 評言 3 2 5 7 5 8 3 2 6 5    
亀田由紀夫 「雪蛇」 評言 3 0 2 5 0 0 2 0 0 0    
                    欠席
見方・注意点

このページの選評出典:『芥川賞全集 第六巻』昭和57年/1982年7月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和38年/1963年9月号)
1行当たりの文字数:26字


選考委員高見順×各候補作  見方・注意点
尋常の才能ではない 総行数28 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 6 「自嘲のいやらしさ(少年に父親をなぐらせるあたりにややそれがある)のないのがいいが、一種の甘えが私には気になった。」
河野多恵子 全委員 10 「通読直後の印象としては前回の候補作より劣ると思われ当選作として推せる力に欠けているとも思われた。しかしこれにはこれまでの作品に眼立ったサディズムめいた毒々しさがなく、気質的なものからもみずからを放っている歩みの感じられる作品と逆に思い直されもした。」「もったいぶらないで、さりげなく書いている巧みさは、尋常の才能ではない。」
多岐一雄 全委員 3 「前作より大分見劣りがした。」
三原誠 全委員 5 「爽やかな印象が快く、「兵隊サン」の姿もよく書けてはいるが、あくまで傍観者の眼で書かれているのが小説を弱くしている。」
佐藤愛子 全委員 3 「リアリストとみずから思いこんでいる妻の眼に、むしろ観念的なものが感じられる。作者の眼が観念的なせいか。」
亀田由紀夫 全委員 3 「この若い才能が小説を文学的気取りで粧わせているのが残念だった。」
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他の選考委員
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選考委員井上靖×各候補作  見方・注意点
「蟹」を推す 総行数22 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 8 「はっきりした主題を持ち、それを執拗に追っている点では、こんどの候補作中この作品が目立っている。」「文章も荒いし、破綻も随所に指摘できるが、そうした点が寧ろこの作品の魅力となっていると思う。」
河野多恵子 全委員 12 「きちんとした乱れのない文章で、海岸に転地療養している女の心理の陰影をよく描いている。」「作品としては(引用者注:以前の候補作より)「蟹」が一番よくまとまっている。仕上がりがみごとなだけに弱い印象も受けるが、こうした破綻のない好短篇の授賞もまた久しぶりでいい。」「私は「蟹」を推した」
多岐一雄 全委員 3 「肝心の離婚の動機がはっきりせず、いい資質を感じさせながらも、失敗作というほかない」
三原誠 全委員 3 「(引用者注:受賞の二篇の)他の作品では三原誠氏の「たたかい」の読後の印象のよさをとる。」
佐藤愛子 全委員 2 「面白く読めるが、読後の感動というものはなかった。」
亀田由紀夫 全委員 0  
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選考委員瀧井孝作×各候補作  見方・注意点
混沌とした味 総行数36 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 12 「かなり放縦な破ぶれかぶれの描写だが、ゴチャゴチャの描写に却って、家庭の崩れた容子がよく出ていた。結末の、安保反対のデモ行進の所など、時代相もハッキリして、うまいと思った。妙な混沌とした味のある小説だ。」
河野多恵子 全委員 9 「病身の心持と風景描写だけの短篇だが、前半の転地に赴くまでの心持は、おだやかなおっとりとした好い味の描写で、後半の浜辺の描写は長いわりに淡いと思った。」「佳作「美少女」が当選せずに見落されて、少し惜しかったので、今回は特別にこの人も推薦した。」
多岐一雄 全委員 4 「(引用者注:若夫婦の離婚の)心持も的確に描かれず、筆が派手なだけで、これは浮わついた作だと思った。」
三原誠 全委員 4 「かるいユーモアだが、この人のものは、他の作を読んだ上でと思った。」
佐藤愛子 全委員 5 「一応佳作で、(引用者中略)行届いた文章だが、当選作の「少年の橋」に比べて、熱が淡く少し平板で、今回の第三位の作と私は見た。」
亀田由紀夫 全委員 2 「幼稚で未熟なものだ。」
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選考委員中村光夫×各候補作  見方・注意点
二作より一作 総行数31 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 8 「少年の対人感情があまり一本調子で、しかも不自然なところがあり、そのために読後の印象が不純になります。しかしいわゆる文化人のおかしな生態をかなり生き生き描きだした点に、ある新しさがあることはたしかで、候補作のうちでは、これを第一に推しました。しかし文句のない当選作とは云えません。」
河野多恵子 全委員 4 「氏にしては尋常すぎる作品で、大きな傷もない代りにやや冗長で力の乏しいきらいがあります。しかし作品の完成度においては他をぬいているので、これが受賞したのも当然でしょう。」
多岐一雄 全委員 7 「できすぎて効果が散っています。」「氏のように物語をつくる作風の新人は我国では伸びにくいだけに人一倍の努力がのぞまれるのですが、今度は前作によほど劣ると思われます。」「全体が甘くたるんでいます。」
三原誠 全委員 5 「少し背丈がたりません。」「素直な筆致には、(引用者中略)ある資質が感じられますが、いずれも未成品です。」
佐藤愛子 全委員 7 「語り手である細君が自分の正しさを全く疑っていないために、諷刺が一方的になり、劇画が単調になりすぎます。せっかくの才筆について行けません。」
亀田由紀夫 全委員 5 「少し背丈がたりません。」「若い空想の氾濫(引用者中略)には、(引用者中略)ある資質が感じられますが、いずれも未成品です。」
  「一作でよいから、もっと積極的に推せる作品がほしいと、いつもながら思います。」
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選考委員永井龍男×各候補作  見方・注意点
消極的だった選考 総行数15 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 5 「(引用者注:「ソクラテスの妻」と)似たところの多い作品に思われた。」「筆力があり、なかなかの大芝居でもあった。」「採否の別れ目は、幕切れの効果にあったようだ。」
河野多恵子 全委員 5 「賞の対象になる強さを欠いていた。」「「分る人には分る」といった小粒な作品だが、純粋さを買われたようだ。」
多岐一雄 全委員 4 「技巧の勝った作品である。この作者は、ジャーナリズムに応じる充分な手腕を持っているだけに、現在危機に立っているようでもある。前回に続いて、私はきわめて消極的だった。」
三原誠 全委員 1 「素朴な作品だった。」
佐藤愛子 全委員 5 「(引用者注:「少年の橋」と)似たところの多い作品に思われた。」「筆力があり、なかなかの大芝居でもあった。」「採否の別れ目は、幕切れの効果にあったようだ。」
亀田由紀夫 全委員 0  
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選考委員石川淳×各候補作  見方・注意点
どうにもならぬ 総行数24 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 7 「わたしは(引用者中略)取る。」「わたしはこれを取りこれを推す側にまわったが、通ったとたんに捨てることにした。いろいろ文句をいうことがある。その文句の一つをいう。この作者はなにがおもしろくて小説なんぞを書くのか。」
河野多恵子 全委員 2 「賞に加わった。これは多数決である。いいもわるいもない。」
多岐一雄 全委員 0  
三原誠 全委員 7 「わたしは(引用者中略)取る。」「一種の持味がある。作者の身についたもののようだから、大切にするほかあるまい。ただ持味だけでは力がよわい。」
佐藤愛子 全委員 8 「わたしは(引用者中略)取る。」「のびのびと書く術をこころえてはいるが、わるくすると通俗に落ちるだろう。」「しかし、そのほうで活路がひらけるかも知れない。票はあつまらなかった。」
亀田由紀夫 全委員 0  
  「前回はなし。今回もまたなしにしてはいけないという理由はない。しかし、実際にはなにか出ることになるだろう。そういう予想がはじめからわたしにあって、銓衡の態度としてはあまくなるほうに傾いたようである。どうもすっきりしない。」
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選考委員石川達三×各候補作  見方・注意点
重量感に乏し 総行数30 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 1 「ひとり合点なところが多い。」
河野多恵子 全委員 3 「前半と後半とが分裂して居り、しつこく蟹を探し廻ることの意味がわかり兼ねる。」
多岐一雄 全委員 1 「作者の態度がやや軽薄な感じをうける。」
三原誠 全委員 2 「きれいごとで終っている。」
佐藤愛子 全委員 3 「男を見る女の眼がなかなか面白いが、面白おかしく書いて終っている。」
亀田由紀夫 全委員 2 「ムードだけで書いた作品であるようだ。」
  「六篇の候補作品をならべてみて、私の一番の不満は、重量感に乏しいということであった。新人の作品であり、長さも短篇ということになっているのだから、大きな事を期待する訳には行かないが、読後の感銘があまりに軽い。」「人の心を打たないような作品は、どんなに巧く書かれていても、書いて読ませる事の意味が無いではないか、と思う。」「私は、当選作無し、という意見であった。」
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選考委員川端康成×各候補作  見方・注意点
既存の作家にないもの 総行数34 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 15 「私の興味を惹いたのは、後藤紀一氏の「少年の橋」、一編だけであった。したがって、(引用者中略)票を入れた。」「読みはじめ、辻褄の合わぬような文章で困ったが、実は作品全体にそういうところがあり、分るような分らぬようなところがありながら、読み進むにつれておもしろくなった。私などは逆立ちしても書けぬ作品である。しかし冷めたく見れば、今時の文学の傾向を集めたようなところが、新しいのか、新しげなのか、多少の疑問は残る。」
河野多恵子 全委員 22 「授賞することはいいが、今期の「蟹」に授賞することも、「少年の橋」と二本にすることも、私はうなずきかねた。」「受賞ときまった後の夜ふけ、私は「蟹」に好意を向けて丁寧に読み直してみた。そして私も見直した。」「読み直すと、作意がよく伝わって来た。ただ河野氏は文章の細部にもっと注意を払ってほしい。」
多岐一雄 全委員 0  
三原誠 全委員 0  
佐藤愛子 全委員 2 「まちがいなく書けているという点では、(引用者中略)第一かもしれぬ。」
亀田由紀夫 全委員 0  
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選考委員舟橋聖一×各候補作  見方・注意点
二作同点 総行数39 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 14 「芥川賞によくあるズブの素人派で、そのために銓衡委員の点が甘くなるといういつもの習性が働いて、点数の上で上位を占めた。私もこの作を素直に支持した。魅せられるようなところはないけれど、その代り、鼻持ちならないイヤ味がない。」「両作(引用者注:「少年の橋」と「蟹」)とも授賞させることを、最初から提案した。」
河野多恵子 全委員 23 「今度の「蟹」はよく書き上っていて、抵抗なしに読めたから、これを支持しようと思った。」「もっとも、前半、後半の間に折れ目がありすぎて、席上佐佐木茂索氏がこれを衝いた。たしかにそのような構成上の欠陥が、他の諸作を通じ河野の弱味となっている。」「この作者は人の云うほど異常でも嗜虐でもなく、普通のモラルの中にいる腕達者な女流なのだろう。折れ目を意図したものではなくて、書いているうちに、おのずからこうなったものに相違ない。」「両作(引用者注:「少年の橋」と「蟹」)とも授賞させることを、最初から提案した。」
多岐一雄 全委員 0  
三原誠 全委員 0  
佐藤愛子 全委員 6 「力作だが、題のソクラテスが大袈裟で、女主人公の夫をソクラテスともじったのが諧謔にもなっていない。」「この作者は、佐藤紅緑氏の娘で、ハチロー氏の妹だという。血統的にも将来書ける人になるだろうというので、各委員とも今回は授賞にまでは踏切れなかったようだった。」
亀田由紀夫 全委員 0  
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選考委員丹羽文雄×各候補作  見方・注意点
上質の文学と極彩色の小説 総行数23 (1行=26字)
候補 評価 行数 評言
後藤紀一 全委員 10 「極彩色の小説である。これはジャーナリズムの喜ぶ作品である。」「しかし、私は、そうしたジャーナリズムの傾向に抵抗がしたかった。そうでないと、とり返しがつかないことになると思った。」「私が主人公であるだけに、客観的ということにもっと慎重であってほしかった。」
河野多恵子 全委員 13 「上質の文学である。」「候補作品の中で群を抜いていた。彼女の作品にはマゾ的な傾向がある。」「しかし、これを機会にジャーナリズムが、河野君のそうした点を要求して、あやまらせないようにしてもらいたいと、私は思っている。」
多岐一雄 全委員 1 「前期の作品とは別人のような作品だった。」
三原誠 全委員 2 「私も好感を持ったけれども、弱い。」
佐藤愛子 全委員 5 「ジャーナリズムの喜ぶ作品である。しかし、私は、そうしたジャーナリズムの傾向に抵抗がしたかった。そうでないと、とり返しがつかないことになると思った。」
亀田由紀夫 全委員 0  
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後藤紀一「少年の橋」×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高見順 全候補 6 「自嘲のいやらしさ(少年に父親をなぐらせるあたりにややそれがある)のないのがいいが、一種の甘えが私には気になった。」
井上靖 全候補 8 「はっきりした主題を持ち、それを執拗に追っている点では、こんどの候補作中この作品が目立っている。」「文章も荒いし、破綻も随所に指摘できるが、そうした点が寧ろこの作品の魅力となっていると思う。」
瀧井孝作 全候補 12 「かなり放縦な破ぶれかぶれの描写だが、ゴチャゴチャの描写に却って、家庭の崩れた容子がよく出ていた。結末の、安保反対のデモ行進の所など、時代相もハッキリして、うまいと思った。妙な混沌とした味のある小説だ。」
中村光夫 全候補 8 「少年の対人感情があまり一本調子で、しかも不自然なところがあり、そのために読後の印象が不純になります。しかしいわゆる文化人のおかしな生態をかなり生き生き描きだした点に、ある新しさがあることはたしかで、候補作のうちでは、これを第一に推しました。しかし文句のない当選作とは云えません。」
永井龍男 全候補 5 「(引用者注:「ソクラテスの妻」と)似たところの多い作品に思われた。」「筆力があり、なかなかの大芝居でもあった。」「採否の別れ目は、幕切れの効果にあったようだ。」
石川淳 全候補 7 「わたしは(引用者中略)取る。」「わたしはこれを取りこれを推す側にまわったが、通ったとたんに捨てることにした。いろいろ文句をいうことがある。その文句の一つをいう。この作者はなにがおもしろくて小説なんぞを書くのか。」
石川達三 全候補 1 「ひとり合点なところが多い。」
川端康成 全候補 15 「私の興味を惹いたのは、後藤紀一氏の「少年の橋」、一編だけであった。したがって、(引用者中略)票を入れた。」「読みはじめ、辻褄の合わぬような文章で困ったが、実は作品全体にそういうところがあり、分るような分らぬようなところがありながら、読み進むにつれておもしろくなった。私などは逆立ちしても書けぬ作品である。しかし冷めたく見れば、今時の文学の傾向を集めたようなところが、新しいのか、新しげなのか、多少の疑問は残る。」
舟橋聖一 全候補 14 「芥川賞によくあるズブの素人派で、そのために銓衡委員の点が甘くなるといういつもの習性が働いて、点数の上で上位を占めた。私もこの作を素直に支持した。魅せられるようなところはないけれど、その代り、鼻持ちならないイヤ味がない。」「両作(引用者注:「少年の橋」と「蟹」)とも授賞させることを、最初から提案した。」
丹羽文雄 全候補 10 「極彩色の小説である。これはジャーナリズムの喜ぶ作品である。」「しかし、私は、そうしたジャーナリズムの傾向に抵抗がしたかった。そうでないと、とり返しがつかないことになると思った。」「私が主人公であるだけに、客観的ということにもっと慎重であってほしかった。」
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河野多恵子「蟹」×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高見順 全候補 10 「通読直後の印象としては前回の候補作より劣ると思われ当選作として推せる力に欠けているとも思われた。しかしこれにはこれまでの作品に眼立ったサディズムめいた毒々しさがなく、気質的なものからもみずからを放っている歩みの感じられる作品と逆に思い直されもした。」「もったいぶらないで、さりげなく書いている巧みさは、尋常の才能ではない。」
井上靖 全候補 12 「きちんとした乱れのない文章で、海岸に転地療養している女の心理の陰影をよく描いている。」「作品としては(引用者注:以前の候補作より)「蟹」が一番よくまとまっている。仕上がりがみごとなだけに弱い印象も受けるが、こうした破綻のない好短篇の授賞もまた久しぶりでいい。」「私は「蟹」を推した」
瀧井孝作 全候補 9 「病身の心持と風景描写だけの短篇だが、前半の転地に赴くまでの心持は、おだやかなおっとりとした好い味の描写で、後半の浜辺の描写は長いわりに淡いと思った。」「佳作「美少女」が当選せずに見落されて、少し惜しかったので、今回は特別にこの人も推薦した。」
中村光夫 全候補 4 「氏にしては尋常すぎる作品で、大きな傷もない代りにやや冗長で力の乏しいきらいがあります。しかし作品の完成度においては他をぬいているので、これが受賞したのも当然でしょう。」
永井龍男 全候補 5 「賞の対象になる強さを欠いていた。」「「分る人には分る」といった小粒な作品だが、純粋さを買われたようだ。」
石川淳 全候補 2 「賞に加わった。これは多数決である。いいもわるいもない。」
石川達三 全候補 3 「前半と後半とが分裂して居り、しつこく蟹を探し廻ることの意味がわかり兼ねる。」
川端康成 全候補 22 「授賞することはいいが、今期の「蟹」に授賞することも、「少年の橋」と二本にすることも、私はうなずきかねた。」「受賞ときまった後の夜ふけ、私は「蟹」に好意を向けて丁寧に読み直してみた。そして私も見直した。」「読み直すと、作意がよく伝わって来た。ただ河野氏は文章の細部にもっと注意を払ってほしい。」
舟橋聖一 全候補 23 「今度の「蟹」はよく書き上っていて、抵抗なしに読めたから、これを支持しようと思った。」「もっとも、前半、後半の間に折れ目がありすぎて、席上佐佐木茂索氏がこれを衝いた。たしかにそのような構成上の欠陥が、他の諸作を通じ河野の弱味となっている。」「この作者は人の云うほど異常でも嗜虐でもなく、普通のモラルの中にいる腕達者な女流なのだろう。折れ目を意図したものではなくて、書いているうちに、おのずからこうなったものに相違ない。」「両作(引用者注:「少年の橋」と「蟹」)とも授賞させることを、最初から提案した。」
丹羽文雄 全候補 13 「上質の文学である。」「候補作品の中で群を抜いていた。彼女の作品にはマゾ的な傾向がある。」「しかし、これを機会にジャーナリズムが、河野君のそうした点を要求して、あやまらせないようにしてもらいたいと、私は思っている。」
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多岐一雄「離婚」×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高見順 全候補 3 「前作より大分見劣りがした。」
井上靖 全候補 3 「肝心の離婚の動機がはっきりせず、いい資質を感じさせながらも、失敗作というほかない」
瀧井孝作 全候補 4 「(引用者注:若夫婦の離婚の)心持も的確に描かれず、筆が派手なだけで、これは浮わついた作だと思った。」
中村光夫 全候補 7 「できすぎて効果が散っています。」「氏のように物語をつくる作風の新人は我国では伸びにくいだけに人一倍の努力がのぞまれるのですが、今度は前作によほど劣ると思われます。」「全体が甘くたるんでいます。」
永井龍男 全候補 4 「技巧の勝った作品である。この作者は、ジャーナリズムに応じる充分な手腕を持っているだけに、現在危機に立っているようでもある。前回に続いて、私はきわめて消極的だった。」
石川淳 全候補 0  
石川達三 全候補 1 「作者の態度がやや軽薄な感じをうける。」
川端康成 全候補 0  
舟橋聖一 全候補 0  
丹羽文雄 全候補 1 「前期の作品とは別人のような作品だった。」
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三原誠「たたかい」×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高見順 全候補 5 「爽やかな印象が快く、「兵隊サン」の姿もよく書けてはいるが、あくまで傍観者の眼で書かれているのが小説を弱くしている。」
井上靖 全候補 3 「(引用者注:受賞の二篇の)他の作品では三原誠氏の「たたかい」の読後の印象のよさをとる。」
瀧井孝作 全候補 4 「かるいユーモアだが、この人のものは、他の作を読んだ上でと思った。」
中村光夫 全候補 5 「少し背丈がたりません。」「素直な筆致には、(引用者中略)ある資質が感じられますが、いずれも未成品です。」
永井龍男 全候補 1 「素朴な作品だった。」
石川淳 全候補 7 「わたしは(引用者中略)取る。」「一種の持味がある。作者の身についたもののようだから、大切にするほかあるまい。ただ持味だけでは力がよわい。」
石川達三 全候補 2 「きれいごとで終っている。」
川端康成 全候補 0  
舟橋聖一 全候補 0  
丹羽文雄 全候補 2 「私も好感を持ったけれども、弱い。」
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他の候補作
後藤紀一 「少年の橋」
河野多恵子 「蟹」
多岐一雄 「離婚」
佐藤愛子 「ソクラテスの妻」
亀田由紀夫 「雪蛇」
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佐藤愛子「ソクラテスの妻」×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高見順 全候補 3 「リアリストとみずから思いこんでいる妻の眼に、むしろ観念的なものが感じられる。作者の眼が観念的なせいか。」
井上靖 全候補 2 「面白く読めるが、読後の感動というものはなかった。」
瀧井孝作 全候補 5 「一応佳作で、(引用者中略)行届いた文章だが、当選作の「少年の橋」に比べて、熱が淡く少し平板で、今回の第三位の作と私は見た。」
中村光夫 全候補 7 「語り手である細君が自分の正しさを全く疑っていないために、諷刺が一方的になり、劇画が単調になりすぎます。せっかくの才筆について行けません。」
永井龍男 全候補 5 「(引用者注:「少年の橋」と)似たところの多い作品に思われた。」「筆力があり、なかなかの大芝居でもあった。」「採否の別れ目は、幕切れの効果にあったようだ。」
石川淳 全候補 8 「わたしは(引用者中略)取る。」「のびのびと書く術をこころえてはいるが、わるくすると通俗に落ちるだろう。」「しかし、そのほうで活路がひらけるかも知れない。票はあつまらなかった。」
石川達三 全候補 3 「男を見る女の眼がなかなか面白いが、面白おかしく書いて終っている。」
川端康成 全候補 2 「まちがいなく書けているという点では、(引用者中略)第一かもしれぬ。」
舟橋聖一 全候補 6 「力作だが、題のソクラテスが大袈裟で、女主人公の夫をソクラテスともじったのが諧謔にもなっていない。」「この作者は、佐藤紅緑氏の娘で、ハチロー氏の妹だという。血統的にも将来書ける人になるだろうというので、各委員とも今回は授賞にまでは踏切れなかったようだった。」
丹羽文雄 全候補 5 「ジャーナリズムの喜ぶ作品である。しかし、私は、そうしたジャーナリズムの傾向に抵抗がしたかった。そうでないと、とり返しがつかないことになると思った。」
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他の候補作
後藤紀一 「少年の橋」
河野多恵子 「蟹」
多岐一雄 「離婚」
三原誠 「たたかい」
亀田由紀夫 「雪蛇」
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亀田由紀夫「雪蛇」×各選考委員  見方・注意点
選考委員 評価 行数 評言
高見順 全候補 3 「この若い才能が小説を文学的気取りで粧わせているのが残念だった。」
井上靖 全候補 0  
瀧井孝作 全候補 2 「幼稚で未熟なものだ。」
中村光夫 全候補 5 「少し背丈がたりません。」「若い空想の氾濫(引用者中略)には、(引用者中略)ある資質が感じられますが、いずれも未成品です。」
永井龍男 全候補 0  
石川淳 全候補 0  
石川達三 全候補 2 「ムードだけで書いた作品であるようだ。」
川端康成 全候補 0  
舟橋聖一 全候補 0  
丹羽文雄 全候補 0  
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他の候補作
後藤紀一 「少年の橋」
河野多恵子 「蟹」
多岐一雄 「離婚」
三原誠 「たたかい」
佐藤愛子 「ソクラテスの妻」
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