芥川賞のすべて・のようなもの
芥川賞のすべて・のようなもの

第29回

=受賞者=
安岡章太郎

=候補者=
小田仁二郎
杉森久英
伊藤桂一
庄野潤三
和田芳恵
結城信一
豊田三郎
石濱恒夫


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安岡章太郎
Yasuoka Shotaro
生没年月日【注】 大正9年/1920年5月30日〜
受賞年齢 33歳1ヵ月
経歴 高知県高知市生まれ。慶應義塾大学文学部卒。大学在学中に応召、満洲での軍隊経験をもつ。昭和23年/1948年頃から創作を始め、『三田文学』に発表。
受賞歴 時事文学賞(昭和28年/1953年)「ハウスガード」
第10回芸術選奨文部大臣賞[文学部門](昭和34年/1959年度)『海辺の光景』
第13回野間文芸賞(昭和35年/1960年)『海辺の光景』
第21回毎日出版文化賞[文学・芸術部門](昭和42年/1967年)『幕が下りてから』
第25回読売文学賞[小説賞](昭和48年/1973年)『走れトマホーク』
第32回日本藝術院賞[文芸/小説・戯曲](昭和50年/1975年)
第14回日本文学大賞(昭和57年/1982年)『流離譚』
第41回野間文芸賞(昭和63年/1988年)『僕の昭和史』全3巻
朝日賞(平成3年/1991年)「1950年代より今日にいたる現代文学への貢献」
第18回川端康成文学賞(平成3年/1991年)「伯父の墓地」
第47回読売文学賞[随筆・紀行賞](平成7年/1995年)『果てもない道中記』
第27回大佛次郎賞(平成12年/2000年)『鏡川』
文化功労賞(平成13年/2001年)
個人全集 『安岡章太郎全集』全7巻(昭和46年/1971年1月〜7月・講談社刊)
『安岡章太郎集』全10巻(昭和61年/1986年11月〜昭和63年/1988年5月・岩波書店刊)
芥川賞
選考委員歴
第66回〜第96回(通算15.5年・31回)
備考
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芥川賞 25回候補  一覧へ

くつ
「ガラスの 靴」(『三田文學』昭和26年/1951年6月号)
書誌
>>昭和28年/1953年10月・文藝春秋新社刊『悪い仲間』所収
>>昭和30年/1955年8月・河出書房/河出新書『青馬館』所収
>>昭和30年/1955年4月・光文社刊『戦後十年名作選集 第2集』所収
>>昭和31年/1956年7月・角川書店/角川文庫『ガラスの靴・愛玩』所収
>>昭和35年/1960年9月・筑摩書房刊『新選現代日本文学全集32 戦後小説集1』所収
>>昭和36年/1961年4月・筑摩書房/新鋭文学叢書『安岡章太郎集』所収
>>昭和37年/1962年☆月・角川書店刊『角川版昭和文学全集 第20 安岡章太郎・遠藤周作』所収
>>昭和42年/1967年2月・講談社刊『われらの文学12 安岡章太郎』所収
>>昭和42年/1967年6月・筑摩書房刊『現代文学大系62 島尾敏雄・安岡章太郎・庄野潤三・吉行淳之介集』所収
>>昭和43年/1968年3月・学芸書林刊『全集・現代文学の発見 第15巻 青春の屈折(下)』所収
>>昭和43年/1968年7月・中央公論社刊『日本の文学74 安岡章太郎・吉行淳之介・曽野綾子』所収
>>昭和45年/1970年☆月・河出書房新社刊『日本文学全集45 安岡章太郎・吉行淳之介』所収
>>昭和46年/1971年☆月・河出書房新社刊『日本文学全集51 安岡章太郎・吉行淳之介・遠藤周作』[カラー版]所収
>>昭和46年/1971年3月・講談社刊『安岡章太郎全集3 ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>昭和47年/1972年6月・講談社刊『現代の文学17 安岡章太郎』所収
>>昭和47年/1972年10月・筑摩書房刊『現代日本文学大系90 島尾敏雄・安岡章太郎・小島信夫・吉行淳之介集』所収
>>昭和47年/1972年3月・新潮社刊『新潮日本文学52 安岡章太郎集』所収
>>昭和48年/1973年☆月・中央公論社刊『日本の文学74 安岡章太郎・吉行淳之介・曽野綾子』[アイボリーバックス]所収
>>昭和49年/1974年11月・角川書店/角川文庫『ガラスの靴 他16篇』[改版]所収
>>昭和50年/1975年☆月・牧羊社刊『ガラスの靴』所収
>>昭和51年/1976年5月・学芸書林刊『全集・現代文学の発見 第15巻 青春の屈折(下)』[愛蔵版]所収
>>昭和55年/1980年10月・新潮社刊『新潮現代文学38 海辺の光景』所収
>>昭和60年/1985年8月・ほるぷ出版刊『日本の文学83 悪い仲間・海辺の光景』所収
>>昭和61年/1986年6月・岩波書店刊『安岡章太郎集1』所収
>>昭和62年/1987年6月・小学館刊『昭和文学全集20 梅崎春生・島尾敏雄・安岡章太郎・吉行淳之介』所収
>>平成1年/1989年8月・講談社/講談社文芸文庫『ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>平成5年/1993年2月・福武書店/福武文庫『バイトの達人』所収
>>平成7年/1995年7月・ぎょうせい刊『ふるさと文学館 第15巻 東京』所収
>>平成10年/1998年4月・中部日本教育文化会刊『短編で読む恋愛・家族』所収
>>平成16年/2004年7月・新潮社/新潮文庫『質屋の女房』[改版]所収
>>平成17年/2005年4月・学芸書林刊『全集現代文学の発見 第15巻 青春の屈折(下)』[新装版]所収
>>平成19年/2007年10月・藤原書店刊『戦後占領期短篇小説コレクション6 1951年』所収
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選評の概要
選考委員 評価 行数 評言
丹羽文雄 4 「この詩情は、心にのこる。素質のある人と思うが、前代未聞の素質とは思えない。どこかで見かけたような気がする。」
佐藤春夫 4 「よく纏ったいい短篇で割合に支持者はあったが、自分は何か「味をやっている」ような感じがあってこの一作だけでは安心してこの作者に授賞する気にはなれなかった。」
瀧井孝作 5 「子供っぽい。子供っぽいと云う事は、作家としては初い初いしい事で、わるくはないが、これは、また年の若い、幼稚をまる出しの子供っぽさで、まだ本当ではないように思われました。」
岸田國士 11 「推すことにした。」「他のどれよりもとび抜けて優れた作品だとは思わなかったが、まずこれが比較的新鮮味もあり、異な才能の芽も感じられ、ことに、その才能が過不足なく作品の調子を整えているスマートさに敬意を表したくなった。」「すこしお坊ちゃん臭い甘ったれ気分もみえるにはみえるが、これはこれで、青春のひとつの生き方として私は私なりにゆるせるのである。」
舟橋聖一 0  
川端康成 2 「特色があった。」
宇野浩二 2  
坂口安吾 27 「よいと思った。とにかく、新鮮で、おもしろい。」「まことに感性的な文章で手ごたえがないようだけれども、心理的でもあるし、即物的でもある。誌的の如くで、散文そのものである。」「とにかく時代的な新文章をひっさげて登場するということは凡庸なことではないのであるから、賞に選ばれてフシギと思われない。」「難を云えば、かたよった文章であるから、文章が内容を限定してしまう。」「二作、三作を見た上で、改めて採りあげるだけの新風を具備したものと思います。」
選評出典:『芥川賞全集 第四巻』昭和57年/1982年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和26年/1951年10月号)
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芥川賞 27回候補  一覧へ

しゅくだい
宿題」(『文學界』昭和27年/1952年2月号)
書誌
>>昭和28年/1953年10月・文藝春秋新社刊『悪い仲間』所収
>>昭和40年/1965年4月・新潮社/新潮文庫『海辺の光景』所収
>>昭和46年/1971年3月・講談社刊『安岡章太郎全集3 ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>昭和61年/1986年6月・岩波書店刊『安岡章太郎集1』所収
>>平成1年/1989年8月・講談社/講談社文芸文庫『ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>平成3年/1991年4月・埼玉福祉会/大活字本シリーズ『海辺の光景(下)』所収
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選評の概要
選考委員 評価 行数 評言
瀧井孝作 0  
丹羽文雄 0  
舟橋聖一 2 「前作「ガラスの靴」に、遙か及ばない。」
佐藤春夫 0  
川端康成 0  
石川達三 0  
宇野浩二 4 「(引用者注:「朝来川」と共に)回想小説のような形であるが、そうして、両方とも幼稚なところはあるけれど、『宿題』の方が、小説も文章も素直」
坂口安吾 5 「将来性のある人々だと思った。」「しかし、授賞は作品に対してなされるのであるから、今回授賞にもれたのは仕方がないと思う。」
選評出典:『芥川賞全集 第四巻』昭和57年/1982年5月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和27年/1952年9月号)
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あいがん
愛玩」(『文學界』昭和27年/1952年11月号)
書誌
>>昭和28年/1953年10月・文藝春秋新社刊『悪い仲間』所収
>>昭和31年/1956年7月・角川書店/角川文庫『ガラスの靴・愛玩』所収
>>昭和36年/1961年4月・筑摩書房/新鋭文学叢書『安岡章太郎集』所収
>>昭和37年/1962年☆月・角川書店刊『角川版昭和文学全集 第20 安岡章太郎・遠藤周作』所収
>>昭和40年/1965年1月・新潮社刊『日本文学全集72 名作集第4 昭和篇(下)』所収
>>昭和40年/1965年4月・新潮社/新潮文庫『海辺の光景』所収
>>昭和43年/1968年1月・筑摩書房刊『日本短篇文学全集 第41巻 高見順・田宮虎彦・安岡章太郎』所収
>>昭和44年/1969年☆月・毎日新聞社刊『日本の短編(下)』所収
>>昭和46年/1971年3月・講談社刊『安岡章太郎全集3 ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>昭和47年/1972年10月・筑摩書房刊『現代日本文学大系90 島尾敏雄・安岡章太郎・小島信夫・吉行淳之介集』所収
>>昭和47年/1972年3月・新潮社刊『新潮日本文学52 安岡章太郎集』所収
>>昭和49年/1974年12月・成瀬書房刊『悪い仲間』[特装版]所収
>>昭和61年/1986年6月・岩波書店刊『安岡章太郎集1』所収
>>昭和62年/1987年6月・小学館刊『昭和文学全集20 梅崎春生・島尾敏雄・安岡章太郎・吉行淳之介』所収
>>平成1年/1989年8月・講談社/講談社文芸文庫『ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>平成3年/1991年4月・埼玉福祉会/大活字本シリーズ『海辺の光景(下)』所収
>>平成13年/2001年9月・講談社/講談社文芸文庫『戦後短篇小説再発見4 漂流する家族』所収
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選評の概要
選考委員 評価 行数 評言
丹羽文雄 0  
舟橋聖一 2 「やや有力視された」「「ガラスの靴」にくらべると数等下級品である。」
石川達三 2 「瀧井氏は「愛玩」をしきりに推奨したが、これは殆んど瀧井氏だけであった。」
瀧井孝作 4 「(引用者注:当選作を)強いて出すとすれば、安岡章太郎氏の「愛玩」は、うまい短篇だし、前回の「宿題」も、佳作で、これらを見て、短篇作家として、推薦してもよいのではないか、と考えていました。」
佐藤春夫 5 「この二三回前から毎回候補に挙げられその才能は十分に認めながらも(引用者中略)今度の作品にもまだどこか未熟な今一歩というもの――それが何かは両君(引用者注:安岡章太郎と吉行淳之介)自身考えてこの境地を脱出する努力を現在のこの人たちの課題として今度も授賞は割愛」
川端康成 7 「私は同感、あるいは同情を寄せた。」「実は候補作中最も名作かもしれないと、私には思われた。なんとも憂鬱な作品である。しかし、賞の出しにくい(妙な言い方だが)作品である。またしかし、最も動かせない作品としては、私は「愛玩」を取る。凡庸を超えた作品であろう。」
宇野浩二 5 「なかなか面白いが、一ばん初めの『ガラスの靴』から見ると、ずっと落ちる、(引用者中略)というように、ようやく、銓衡が、進んできた。」
坂口安吾 3 「独特の佳品、」「芥川賞をもらってよい実力をそなえた作品であると思った。」
選評出典:『芥川賞全集 第五巻』昭和57年/1982年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和28年/1953年3月号)
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芥川賞 29受賞  一覧へ

わる なかま
悪い 仲間」(『群像』昭和28年/1953年6月号)
書誌
>>『文藝春秋』昭和28年/1953年9月号
>>昭和28年/1953年10月・文藝春秋新社刊『悪い仲間』所収
>>昭和28年/1953年12月・大日本雄弁会講談社刊『創作代表選集12 昭和28年前期』所収
>>昭和31年/1956年☆月・長島書房刊『戦後芥川賞作品集 第2』所収
>>昭和31年/1956年11月・修道社刊『芥川賞作品集 第2巻』所収
>>昭和36年/1961年4月・筑摩書房/新鋭文学叢書『安岡章太郎集』所収
>>昭和37年/1962年☆月・角川書店刊『角川版昭和文学全集 第20 安岡章太郎・遠藤周作』所収
>>昭和38年/1963年6月・学習研究社/学研新書『日本青春文学名作選6』所収
>>昭和38年/1963年☆月・現代芸術社刊『芥川賞作品全集 第4巻』所収
>>昭和42年/1967年2月・講談社刊『われらの文学12 安岡章太郎』所収
>>昭和43年/1968年7月・中央公論社刊『日本の文学74 安岡章太郎・吉行淳之介・曽野綾子』所収
>>昭和44年/1969年6月・講談社刊『日本現代文学全集106 現代名作選2』所収
>>昭和45年/1970年☆月・河出書房新社刊『日本文学全集45 安岡章太郎・吉行淳之介』所収
>>昭和46年/1971年☆月・河出書房新社刊『日本文学全集51 安岡章太郎・吉行淳之介・遠藤周作』[カラー版]所収
>>昭和46年/1971年3月・講談社刊『安岡章太郎全集3 ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>昭和47年/1972年6月・講談社刊『現代の文学17 安岡章太郎』所収
>>昭和47年/1972年3月・新潮社刊『新潮日本文学52 安岡章太郎集』所収
>>昭和48年/1973年☆月・中央公論社刊『日本の文学74 安岡章太郎・吉行淳之介・曽野綾子』[アイボリーバックス]所収
>>昭和49年/1974年12月・成瀬書房刊『悪い仲間』[特装版]所収
>>昭和54年/1979年12月・講談社/講談社文庫『現代短編名作選4 1953-1954』所収
>>昭和55年/1980年5月・講談社刊『日本現代文学全集106 現代名作選2』[増補改訂版]所収
>>昭和57年/1982年6月・文藝春秋刊『芥川賞全集 第5巻』所収
>>昭和60年/1985年8月・ほるぷ出版刊『日本の文学83 悪い仲間・海辺の光景』所収
>>昭和61年/1986年6月・岩波書店刊『安岡章太郎集1』所収
>>昭和62年/1987年6月・小学館刊『昭和文学全集20 梅崎春生・島尾敏雄・安岡章太郎・吉行淳之介』所収
>>平成1年/1989年8月・講談社/講談社文芸文庫『ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>平成16年/2004年7月・新潮社/新潮文庫『質屋の女房』[改版]所収
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選評の概要
選考委員 評価 行数 評言
丹羽文雄 15 「「悪い仲間」より「陰気な愉しみ」の方を、私はとる。このひとの受賞は妥当であった。戦後にあらわれた作家のなかで、私にはこのひとほど才能のゆたかな、ユニークな作家を知らない。こういう作風はえてして借りものが多いのだが、このひとのは素質だ。」「このひと独自の才能がじっくり腰をおちつけ、己の才能を十二分につかうことが出来るようになった点では、今度の作品にしてはじめて言われることである。一作一作とよくなっていくのはたのもしい。」
宇野浩二 14 「私はこの二つの作品(引用者注:「悪い仲間」「陰気な愉しみ」)にも頸をひねるのである、簡単に云うと、『陰気な愉しみ』は、すっと読めるが、たよりなさ過ぎ、『悪い仲間』は、『愛玩』よりずっと落ちる上に、趣向は面白いけれど、荷が勝ち過ぎているように思われるのが気になるからである。しかし、又大冒険をした藤井がミソとニボシを買ってくるところなどを読むと、なかなか味をやる人だ、と思った、そうして、こういう『味』はこの人独得のものである。」
石川達三 27 「安岡君の二つの作品は特に問題にはなるまいと思っていた。それが当選ときまったのは意外であった。」「「陰気な愉しみ」は感覚だけの作品と云ってもいい。それが、末梢神経だけの感覚であって、それだけで終っている。」「「悪い仲間」について(引用者中略)私はちっとも新しいとは思わないのだ。」「前作「愛玩」についても言えることだと思うが、この作者の作品は、描写が地べたを這っている。」「この種の作品を推奨することは、純文学を面白くないものにしてしまう危険がありはしないだろうか。」
佐藤春夫 18 「すくなくとも今回のところ安岡の作品が最も賛成、」「「陰気な愉しみ」はあまりに断片的な小品ではないか、これに比べて「悪い仲間」の方にはたくましく大きな、というよりは太々しく投げ出したような面白さのうちに一種立体派的のスタイルもあり、短篇ながらよく圧搾されて膨脹率の多いもので「陰気な愉しみ」とは到底同日の談ではない。」「「もし陰気な愉しみ」だけなら余人は知らず僕はむしろ庄野を推したろう。」
岸田國士 11 「「悪い仲間」と「陰気な愉しみ」は、いずれも稀にみるすぐれた才能を示した短篇小説だが、これだけとしては出来栄えにやや物足りないところがある。この作者の仕事を私は「ガラスの靴」以来注目していたので、(引用者中略)以上の二篇に授賞してもだいたい間違いはないと考えた。しかし、この作者は、もっといいものの書ける人だ。」
瀧井孝作 10 「安岡章太郎氏の短篇は、前にいくつか佳いのを読んだ。こんどの二つも悪くない。それで、こんどこの人が当選することには、賛成した。」「確かりして活きいきした所があり、何か噛附いて行くような強い所があった。確かりした独自の観察眼があるから、尚この上、視野が、ひろがれば、結構だと思った。」
舟橋聖一 15 「「悪い仲間」という作品は、一応、面白く読んだ。」「無銭飲食の場面も、手に入っている。」「これに反して「陰気な愉しみ」のほうは、未熟なもので、安岡の欠点ばかりのようなものだ。前者を授賞作品にすることは、前々から度々候補になった彼の経歴によって、納得出来るが、後者まで一緒に採用したのは、安岡にのみ、点が甘いようで、公平とは云えない。」
坂口安吾 25 「独特の観察とチミツな文章でもっている作風であるから、流行作家には不適格かも知れないが、それだけに熱心な愛読者には本がすりきれるほど読まれるような人だ。」「「陰気な愉しみ」と「悪い仲間」は氏の作品のうちで出色のものとは思わないが(過去にもっと傑れたのが二三あった)この作家はいかにも芥川賞の作品でございというような物々しい大作には縁遠い人なのだから、このような独特な作家の場合は一作について云々すべきではない。」「実に淋しい小説だ。せつない小説である。しかし、可憐な、愛すべき小説である。」
川端康成 7 「授賞には賛成である。しかし、今回の「悪い仲間」「陰気な愉しみ」よりは、前回の「愛玩」の方が、作品としてよほどすぐれていたと、私は考える。」「前回の「愛玩」より悪いと考える作品に賛成するのは幾分ためらうが、安岡氏という特異な作家を推すのにはためらわなかった。」
選評出典:『芥川賞全集 第五巻』昭和57年/1982年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和28年/1953年9月号)
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芥川賞 29受賞  一覧へ

いんき たの
陰気な 愉しみ」(『新潮』昭和28年/1953年4月号)
書誌
>>昭和28年/1953年10月・文藝春秋新社刊『悪い仲間』所収
>>昭和31年/1956年11月・修道社刊『芥川賞作品集 第2巻』所収
>>昭和36年/1961年4月・筑摩書房/新鋭文学叢書『安岡章太郎集』所収
>>昭和37年/1962年☆月・角川書店刊『角川版昭和文学全集 第20 安岡章太郎・遠藤周作』所収
>>昭和38年/1963年☆月・現代芸術社刊『芥川賞作品全集 第4巻』所収
>>昭和42年/1967年2月・講談社刊『われらの文学12 安岡章太郎』所収
>>昭和46年/1971年3月・講談社刊『安岡章太郎全集3 ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>昭和47年/1972年3月・新潮社刊『新潮日本文学52 安岡章太郎集』所収
>>昭和48年/1973年☆月・中央公論社刊『日本の文学74 安岡章太郎・吉行淳之介・曽野綾子』[アイボリーバックス]所収
>>昭和49年/1974年12月・成瀬書房刊『悪い仲間』[特装版]所収
>>昭和57年/1982年6月・文藝春秋刊『芥川賞全集 第5巻』所収
>>昭和60年/1985年8月・ほるぷ出版刊『日本の文学83 悪い仲間・海辺の光景』所収
>>昭和61年/1986年6月・岩波書店刊『安岡章太郎集1』所収
>>昭和62年/1987年6月・小学館刊『昭和文学全集20 梅崎春生・島尾敏雄・安岡章太郎・吉行淳之介』所収
>>平成1年/1989年8月・講談社/講談社文芸文庫『ガラスの靴・悪い仲間』所収
>>平成16年/2004年7月・新潮社/新潮文庫『質屋の女房』[改版]所収
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選評の概要
選考委員 評価 行数 評言
丹羽文雄 15 「「悪い仲間」より「陰気な愉しみ」の方を、私はとる。このひとの受賞は妥当であった。戦後にあらわれた作家のなかで、私にはこのひとほど才能のゆたかな、ユニークな作家を知らない。こういう作風はえてして借りものが多いのだが、このひとのは素質だ。」「このひと独自の才能がじっくり腰をおちつけ、己の才能を十二分につかうことが出来るようになった点では、今度の作品にしてはじめて言われることである。一作一作とよくなっていくのはたのもしい。」
宇野浩二 14 「私はこの二つの作品(引用者注:「悪い仲間」「陰気な愉しみ」)にも頸をひねるのである、簡単に云うと、『陰気な愉しみ』は、すっと読めるが、たよりなさ過ぎ、『悪い仲間』は、『愛玩』よりずっと落ちる上に、趣向は面白いけれど、荷が勝ち過ぎているように思われるのが気になるからである。しかし、又大冒険をした藤井がミソとニボシを買ってくるところなどを読むと、なかなか味をやる人だ、と思った、そうして、こういう『味』はこの人独得のものである。」
石川達三 27 「安岡君の二つの作品は特に問題にはなるまいと思っていた。それが当選ときまったのは意外であった。」「「陰気な愉しみ」は感覚だけの作品と云ってもいい。それが、末梢神経だけの感覚であって、それだけで終っている。」「「悪い仲間」について(引用者中略)私はちっとも新しいとは思わないのだ。」「前作「愛玩」についても言えることだと思うが、この作者の作品は、描写が地べたを這っている。」「この種の作品を推奨することは、純文学を面白くないものにしてしまう危険がありはしないだろうか。」
佐藤春夫 18 「すくなくとも今回のところ安岡の作品が最も賛成、」「「陰気な愉しみ」はあまりに断片的な小品ではないか、これに比べて「悪い仲間」の方にはたくましく大きな、というよりは太々しく投げ出したような面白さのうちに一種立体派的のスタイルもあり、短篇ながらよく圧搾されて膨脹率の多いもので「陰気な愉しみ」とは到底同日の談ではない。」「「もし陰気な愉しみ」だけなら余人は知らず僕はむしろ庄野を推したろう。」
岸田國士 11 「「悪い仲間」と「陰気な愉しみ」は、いずれも稀にみるすぐれた才能を示した短篇小説だが、これだけとしては出来栄えにやや物足りないところがある。この作者の仕事を私は「ガラスの靴」以来注目していたので、(引用者中略)以上の二篇に授賞してもだいたい間違いはないと考えた。しかし、この作者は、もっといいものの書ける人だ。」
瀧井孝作 10 「安岡章太郎氏の短篇は、前にいくつか佳いのを読んだ。こんどの二つも悪くない。それで、こんどこの人が当選することには、賛成した。」「確かりして活きいきした所があり、何か噛附いて行くような強い所があった。確かりした独自の観察眼があるから、尚この上、視野が、ひろがれば、結構だと思った。」
舟橋聖一 15 「「悪い仲間」という作品は、一応、面白く読んだ。」「無銭飲食の場面も、手に入っている。」「これに反して「陰気な愉しみ」のほうは、未熟なもので、安岡の欠点ばかりのようなものだ。前者を授賞作品にすることは、前々から度々候補になった彼の経歴によって、納得出来るが、後者まで一緒に採用したのは、安岡にのみ、点が甘いようで、公平とは云えない。」
坂口安吾 25 「独特の観察とチミツな文章でもっている作風であるから、流行作家には不適格かも知れないが、それだけに熱心な愛読者には本がすりきれるほど読まれるような人だ。」「「陰気な愉しみ」と「悪い仲間」は氏の作品のうちで出色のものとは思わないが(過去にもっと傑れたのが二三あった)この作家はいかにも芥川賞の作品でございというような物々しい大作には縁遠い人なのだから、このような独特な作家の場合は一作について云々すべきではない。」「実に淋しい小説だ。せつない小説である。しかし、可憐な、愛すべき小説である。」
川端康成 7 「授賞には賛成である。しかし、今回の「悪い仲間」「陰気な愉しみ」よりは、前回の「愛玩」の方が、作品としてよほどすぐれていたと、私は考える。」「前回の「愛玩」より悪いと考える作品に賛成するのは幾分ためらうが、安岡氏という特異な作家を推すのにはためらわなかった。」
選評出典:『芥川賞全集 第五巻』昭和57年/1982年6月・文藝春秋刊 再録(初出:『文藝春秋』昭和28年/1953年9月号)
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