芥川賞のすべて・のようなもの
芥川賞のすべて・のようなもの

第139回

=受賞者=
楊 逸

=候補者=
磯崎憲一郎
岡崎祥久
小野正嗣
木村紅美
津村記久子
羽田圭介


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Last Update[H20]2008/8/10

楊逸
Yan I
生没年月日【注】 昭和39年/1964年6月18日〜
受賞年齢 44歳0ヵ月
経歴 国籍、中国。中国ハルビン市生まれ。お茶の水女子大学文教育学部卒。中国語新聞社勤務を経て中国語教師。
受賞歴 第105回文學界新人賞(平成19年/2007年)「ワンちゃん」
備考
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芥川賞 138回候補  一覧へ
「ワンちゃん」(『文學界』平成19年/2007年12月号)
書誌
>>平成20年/2008年1月・文藝春秋刊『ワンちゃん』所収
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選評の概要
選考委員 評価 行数 評言
池澤夏樹 13 「問題作。国境を越え、言語の境界を越えて新鮮なストーリーを日本語文学にもたらしたことは高く評価する。」「この賞を出すにはもう何歩か洗練された日本語の文体が求められる。」
小川洋子 15 「日本語が、日本人が書いたのと変らない美しい文章である必要はないと思う。」「けれどワンちゃんが愛すべき人物であるのは間違いない。」
村上龍 26 「3作(引用者注:「ワンちゃん」「カツラ美容室別室」「乳と卵」)を推薦しようと思った。」「日本語表現が「稚拙」という理由で受賞には至らなかった。だがわたしは、移民二世や在日外国人による今後の日本語表現にモチベーションを与えるという意味でも受賞してほしかった。」「それにしても、ヒロインの中国人女性の視点で描かれた日本の地方の「惨状」はリアルだった。」
黒井千次 23 「結婚というものを何よりも生活上の必要として捉えるリアルな視点が新鮮である。」「主人公の夫が充分に描かれず、姑の病気や死の方にウェイトのかかった末尾に不満は覚えるが、日本人のあまり書かなくなってしまった世界を突きつけられたような感慨を覚えた。日本語の表現に致命的な問題があるとは感じなかった。」
高樹のぶ子 11 「私にはぎりぎり許容できたが、ぎりぎりアウトの選考委員もいた。その線引きは日本語としての文章への許容度だったと思う。あるいは盛り込まれた情報に対する、評価の軽重か。」「中身はあるのに技術が足りない。多くの新人の逆である。」
宮本輝 13 「とにもかくにも日本語が未熟すぎた。母国語以外で小説を書いたからといって、その粗さを大目に見るというわけにはいかない。小説の構成も粗くて、今日的な素材に対する作家としての繊細さに疑いを持たせてしまった。」
川上弘美 23 「少なくとも(引用者注:全候補作に登場する)三十人以上の人たちに会った。どの人にもう一度会いたいか、じっと考えた。」「緑子。ワンちゃん。その二人だと思った。」「(引用者注:ワンちゃんは)目が離せない。応援したくなる。弱いところがあって、そこが魅力的。」「二度め、そして三度めと会う回数が増えるにしたがって、こちらをなかなか向いてくれない、という印象があらわれはじめた。」
石原慎太郎 16 「日本語としての文章が粗雑すぎる。」「アーサー・ビナード氏の詩集の日本語としての完成度と比べれば雲泥の差である。選者の誰かが、「こうした素材を描いた小説が文藝春秋の本誌に載ることに意味がある」などといっていたがそれは本来文学の本質とは全く関わりない。」
山田詠美 9 「候補作の主人公の中で、一番応援したくなる〈ワンちゃん〉。でも、つたない。」「マスコミにひと言。文学は政治を題材に出来るが、政治は、文学を包容し得ない。選考と政治は無縁なり。」
選評出典:『文藝春秋』平成20年/2008年3月号
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芥川賞 139受賞  一覧へ

とき にじ あさ
時が 滲む 朝」(『文學界』平成20年/2008年6月号)
書誌
>>平成20年/2008年7月・文藝春秋刊『時が滲む朝』
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選評の概要
選考委員 評価 行数 評言
石原慎太郎 13 「彼ら(引用者注:中国の学生たち)の人生を左右する政治の不条理さ無慈悲さという根源的な主題についての書きこみが乏しく、単なる風俗小説の域を出ていない。文章はこなれて来てはいても、書き手がただ中国人だということだけでは文学的評価には繋がるまい。」
高樹のぶ子 46 「久しぶりに人生という言葉を文学の中に見出し、高揚した。」「前回の候補作と全く違う素材で、前作より締まった日本語で書ききった力は信頼できる。何より書きたいことを持っている。」「中国の経済はいまや否応なく日本に大波をもたらしているが、経済だけではなく、文学においても、閉ざされた行動範囲の中で内向し鬱屈する小説や、妄想に逃げた作品は、生活実感と問題意識を搭載した中国の重戦車の越境に、どう立ち向かえるのか。今回の受賞が日本文学に突きつけているものは大きい。」
池澤夏樹 35 「授賞は、この人が書くものを我々はもっと読みたいという意思の表明である。」「その意味で、今回の候補作の中で最も授賞に値する」「巧拙を問うならば、これは最も完成度の高い作品ではなかったかもしれない。」「しかし、ここには書きたいという意欲がある。」「この二十年ほどの中国の庶民史を日本語で語ることに魅力があって、この人の書くものをもっと読みたいと思わせる。」
村上龍 64 「受賞にわたしは賛成しなかった。前作『ワンちゃん』のほうが、小説として優れていたと思った。」「主要登場人物の学生時代などに代表される「純粋さ」を評価するという意見もあった。だがわたしには、純粋さではなく、単なる無知に映った。」「『時が滲む朝』の受賞によって、たとえば国家の民主化とか、いろいろな意味で胡散臭い政治的・文化的背景を持つ「大きな物語」のほうが、どこにでもいる個人の内面や人間関係を描く「小さな物語」よりも文学的価値があるなどという、すでに何度も暴かれた嘘が、復活して欲しくないと思っている。」
川上弘美 7 「見知らぬ人たちなのに、この小説に出てくる人たちを、どんどん好きになってしまった。それは、あるようでいて、実際にはめったにないことです。受賞をとても嬉しく思います。」
黒井千次 32 「他の候補作とは質の異なる作品である、との印象を受けた。」「荒削りではあっても、そこには書きたいこと、書かれねばならぬものが充満しているのを感じる。」「ただ、激動する時代を生きる人間の歳月をこのような書き方で描くとしたら、それは長篇小説がふさわしかったろう。その素材を中篇といった長さに押し込んでしまったところに構成上の無理がある。」
宮本輝 29 「前作の「ワンちゃん」よりも優れているとは思えない。小説の造りという点においても、あまりにも陳腐で大時代的な表現においても、前作とさして差はないと思った。」「後半になればなるほど陰影は薄くなり、類型的な風俗小説と化していく。どうにも異和感をぬぐえない日本語と併わせて、私は授賞に賛成できなかった。」「楊逸氏が現代の日本人と比して、書くべき多くの素材を内包していることは確かである。」
小川洋子 21 「浩遠の苦悩は、内側に深まってゆかない。(引用者中略)外へ外へと拡散する方向にのみ動いてゆく。最初、その点が不満だったが、国家に踏みにじられる状況をただ単に嘆くのではなく、一歩でもそこから脱出しようとする彼の生気のあらわれだとすれば、納得できると思った。」「平成の日本文学では書き表すことが困難なさまざまな風景が、楊さんの中には蓄えられているに違いない。」
山田詠美 10 「女の子の瞳に〈泉にたゆたう大粒の葡萄〉などという大時代的な比喩を使われては困る。この、ページをめくらずにはいられないリーダブルな価値は、どちらかと言えば、直木賞向きかと思う。」
選評出典:『文藝春秋』平成20年/2008年9月号
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