法 律 雑 記 帖  第2話 異国で届かぬ無実の叫びーーメルボルン事件

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 海外旅行は楽しいもの。長引く不況もなんのその、毎年多くの人々が海外に出かける。
 日本とは全く異なる風景、社会、生活に新鮮な感動を満喫する醍醐味がたまらない。
 言葉の不自由も、日本社会の安穏さと違う社会の厳しさも、苦にならない。
 しかし、もし海外で思わぬ犯罪の嫌疑をかけられ、法廷に立つことになったとしたら、あなたはきちんと自分を防御する主張ができますか。

 以下は、本当にあった話。

   身に覚えのないヘロインがトランクから

 Aさんたち7人の日本人は、マレーシア経由でオーストラリア旅行を計画し、1992年6月、まずはマレーシアのクアラルンプールに入った。
 とあるレストランで食事中に、ちょっとした事件があった。ガイドの自動車に積んであったAさんたちの内4人のトランクが盗まれてしまったのである。
 やがてガイドが発見したトランクは、中身は無事だったもののズタズタに裂かれていた。
 ガイドから別のトランクをプレゼントされ、感謝しながら一行は気持ちも新たにオーストラリアに向かった。
 ところが…

 メルボルンの入国検査で、もらった4個のトランクが二重底になっており、そこに大量のヘロインが隠されていることが発見されたのである。
 くだんのガイドは、理由を構えて一行とは行動を別にしていた。
 もちろんAさんたちは、ヘロインの存在を知らなかったと主張、経過を説明してガイドの調べを求める。
 そして警察の求めにより、関係者からの連絡を待つために、ホテルに足止めされた。

 Aさんらは、当然無実は理解されるものと楽観、この時点では警察の捜査に協力しているつもりで、自分たちの身柄が拘束されているとは思いもよらなかった。
 しかし、危険を察知した真犯人が接触して来るはずもなく、結局スーツケースを所持していた4人と旅行を企画した1人、合計5人が起訴された。

   届かぬ無実の叫び

 裁判では、もちろん言葉もわからない。通訳はつけられたが、通訳に法律の知識があるとは限らない。
 黙秘権の告知も、国選弁護を受ける権利の告知も理解できない。検察官の質問とそれに対する回答などのやりとりもちぐはぐで、それどころか自分たちを防御してくれるはずの弁護人との意思疎通もままならない。
 日本との文化的な差、発想や習慣の違いなど、溝は限りなく大きい。

 地元の新聞が「ジャパニーズ・マフィア」と書きたてる中、スーツケース盗難の件は作り話と一蹴され、わけのわからないまま裁判は終わり、1人に懲役25年(控訴審で20年に減刑)、4人に懲役15年の実刑判決が下され、確定。今も5人は異国の刑務所に服役中である。

 事件が知られるにつれ、救済を求める人々の輪が広がり、オーストラリア在住の日本人を中心に支援組織ができ、日本にもオーストラリアにも弁護団が結成され、精力的に活動をしている(私も弁護団の末席に参加している)。

 無実の罪を晴らすひとつの方法は「再審」。日本でも、ひところ冤罪で死刑判決を受けた人が再審によって無罪判決を得たケースが4件ほど続き、話題を呼んだことがある。
 しかし、一度確定した判決を覆すのは、もちろん容易ではない。
 遠国で新たな証拠を得るというのは、五里霧中の試みとならざるを得ない。

 そこで、というわけではないが、日本の弁護団がチャレンジしているのが国際人権規約に基づく個人通報である。

   国際人権規約と個人通報制度

 1966年12月16日に国連総会で採択された「市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権規約・自由権規約)」は、9条において身柄拘束についての適正手続の保障を定め、14条は公正な裁判を受ける権利を規定する。
 とりわけ14条の3項は、「その理解する言語」による防御の権利を保障する。
 この事件では国際人権規約への違反を問題とする余地が大きい。

 しかし、国際人権規約は基本的には国家間の約束事で、これに対する違反があったからといって直ちにそれが救済されるわけではない。オーストラリアの裁判所では手続が完了しており、当然そこでこの主張をする機会は最早ない。

 人権の主体である「個人」を救済するためには、人権規約の実現を各国政府任せにしておくわけにはいかないのは自明の理である。
 そこで、国家の行為を監視するために2つの制度が設けられている。
 そのひとつは、5年毎に各国政府が人権保障の実施状況について規約人権委員会に報告し、その審査を受けるという制度である。日本では、政府が都合のいい報告をすることがないよう、日本弁護士連合会や労働組合他の市民団体が任意でレポート(カウンター・レポート)を提出する動きが近時定着し、規約人権委員会の審査が充実しつつある。
 もうひとつの制度が個人通報の制度である。

 国際人権規約・自由権規約とともに採択された「市民的及び政治的権利に関する国際規約についての選択議定書(第一選択議定書)」では、規約の当事国から人権侵害を受けた個人が、国内的な救済手段を尽くしてなおそれが是正されない場合には、規約人権委員会に人権侵害の事実を通報することを認めている。
 通報を受理した規約人権委員会は、これを審理し、「見解」をまとめて当事国にこれを送付することとなる。
 規約人権委員会の「見解」は、オーストラリアの裁判所の判決を無効にするような強力な効力をもっているわけではないが、もし国連機関から人権侵害を指摘されたならば、これを放置するわけにはいかないであろう。

 大阪の弁護団は、既にこの申立をしており、この夏には規約人権委員会がこの申立を受理するよう働きかけることを計画している。

  弁護団に支援を

 この事件、日本人初の「個人通報」のケースとして、若い弁護士を中心に全くの手弁当で取り組まれている。

 幸いオーストラリアは「第一選択議定書」を批准しているのでこの制度を利用できるが、日本はこれを批准しておらず、人権の国際的な水準に遅れをとっている。弁護団は、この事件を通じてその批准へと駒を進める一助とすることも射程に置いて奮闘している。
 壮大な取り組みではあるが、現地オーストラリア、関係地クアラルンプール、規約人権委員会の地ジュネーブなど、情報交換にも渡航にも財政負担は半端ではない。
 このページをご覧頂いた方々の支援を心から切望するものです。

 弁護団編による冊子「メルボルン事件を知っていますか(新版)」は頒価500円だが、カンパと併せてご協力頂ければ幸いです。
 お問合せや冊子のお申し込みは
   弁護団事務局長の
田中俊弁護士  Tel : (06)6456-0100  Fax : (06)6456-0101
   または
中西法律事務所まで      Tel : (06)6764-1970  Fax : (06)6764-1971

 カンパは
   三井住友銀行 堂島支店 普通預金 口座番号 6491999 メルボルン事件弁護団
   郵便局   口座番号 00930-6-147828 メルボルン事件弁護団

 弁護団のホームページは  http://www.melbosaka.com