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私が生まれて初めて買ったレコードは、映画「夕陽のガンマン」のサウンド・トラック。中学生のころのこと。
エンニオ・モリコーネ楽団による、軽快なギターに口笛や鞭の音、コーラスを加えた面白いコンビネーションを用い、哀愁感と静かな盛り上がりを持った印象深い曲である。
もちろん、映画そのものが印象深かったからこそ、それまで買ったことのないレコードを買う気になったものであることは言うまでもない。
今の中高生にとって1,000円のシングルCDを買うのはなんてことのないことだろうが、当時の中学生にとっては、思い切った買い物だった。
ハリウッドを代表するスターのひとり、クリント・イーストウッドが監督・主演をつとめ、アカデミー賞を得た映画「許されざる者」のエンディングに「セルジオ・レオーネとドン・シーゲルに捧げる。」というクレジットが流れる。
前者は表題の3部作で、後者は「ダーティ・ハリー」シリーズで、イーストウッドを押しも押されぬ大スターに押し上げた監督で、これに対する謝辞である。
表題の3部作は、セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演、エンニオ・モリコーネ音楽というトリオで、当時イタリア製西部劇=「マカロニ・ウェスタン」が一世を風靡する端緒となった。
とりわけ「荒野の〜」の大ヒットは、それまで映画市場で全くメジャーでなかったイタリア製西部劇をメジャーにした作品であるが、当然最初はイタリア語であったのが、このヒットにより、急遽英語版がつくられたという。このテーマ曲もサウンドトラック版を買ったが、途中入っているセリフは、もちろんイタリア語だった。
またこの作品は、黒澤明監督の「用心棒」をそのまま西部劇にしたもので、盗作騒ぎもあったが、これも予想をはるかに超えるヒットという現象の副産物としてのご愛嬌エピソードである(法律家がこんなことを言ってはいけない?)。
ところで、映画「用心棒」に対するハリウッドでの評価はかなりのもので、ブルース・ウィリス主演で「ラストマン・スタンディング」としてリメイクされたほか、ケビン・コスナー主演の「ボディ・ガード」では、プロのボディ・ガードである主人公がこの映画が好きで、「何十回も見た。」と語るシーンがあるし、「用心棒」の一場面が流されさえもする。そういえば、「ボディガード」は、日本語訳すれば「用心棒」。
ジャン・クロード・バンダム主演の「バンダムINコヨーテ」という作品でも、「用心棒」に対するオマージュを感じさせる場面がある。
「バック・トゥ・ザ・フューチャーV」では、タイムマシンで西部開拓時代にタイムスリップした主人公が、問われてクリント・イーストウッドと名乗り、「荒野の〜」の1シーンを思い出して危機を逃れる場面があるなど、興趣を添えている。
話を元に戻して、「夕陽の〜」は、「荒野の〜」に続いてジャン・マリア・ボロンテが敵役を演じ、さらにリー・バン・クリーフが相棒役として新登場する。
「続・夕陽の〜」では、リー・バン・クリーフが敵役に回り、エーライ・ウォラックが油断のできない相棒として登場する。
「荒野の〜」では職業不明の流れ者だった主人公は「夕陽の〜」では賞金稼ぎ、「続・夕陽の〜」では賞金首であるエーライ・ウォラックと組んで、これを保安官に突き出して賞金を受け取った後、縛り首のされるウォラックをあわやというところで縄を撃ち抜いて助けるということを繰り返して稼ぐという、いささかせこい稼業になっている。
ただ金のためにだけ生きている主人公を描く3作品の原題は、「荒野の〜」が「Fistful of Dollars」(ひとにぎりのドル)、「夕陽の〜」が「A Few Dollars More」(もう少しドルを)、「続・荒野の〜」が「The Good, The Bad And The Ugly」(善い奴、悪い奴、みっともない奴)。
「荒野の〜」に続いて「続・荒野の用心棒」という作品が公開されたが、ストーリーはもちろんのこと、スタッフ、キャストなどを含めて、両作品にはイタリア製西部劇という以外に何の共通点もない。
後者の題名は日本公開時に配給会社がつけた邦題で、前者の大ヒットから、2匹目のどじょうを狙った命名であること明らかである。
もっとも、後者も、冒頭主人公が棺桶を引きずりながらある町に現れるという意表をついたスタートで始まり、面白い作品になっていたから、こんな見え見えの命名をしなくても、マカロニ・ウェスタンブームに乗ってヒットしていたと思う。
ちなみに、「新・夕陽のガンマン」という作品もあったが、これも表題の3部作とは何の関連性もない作品である。
最後の主人公と敵役の対決シーンは、オルゴールの静かなメロディをはさみながら徹底的に盛り上げる音楽と演出で強い印象を与える。
そう言えば、黒澤明監督の「用心棒」、その続編である「椿三十郎」、小林正樹監督の「切腹」「上意討ち」など、当時の時代劇でも、最後のクライマックスは主人公と敵役の対決シーンというのが「お約束」だったようである。
「続・荒野の〜」は、南北戦争末期を時代背景とし、壮大な画面つくりと戦争に疲れた時代の雰囲気の描写は、大作の風格さえ持っている。
イーストウッドだけでなく、この3部作はレオーネ監督の名も一躍有名にし、その後同監督は、ハリウッドに招かれ、ヘンリー・フォンダ、チャールズ・ブロンソン、クラウディア・カルディナーレというそうそうたる大スターの出演で、その名も「ウェスタン」(原題Once Upon A Time in the West
)という西部劇と、禁酒法時代のギャング映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」という映画を撮っている。
脇役だったリー・バン・クリーフも、この作品で売れ、いくつかのマカロニ・ウェスタンに出演したほか、黒澤明監督の「七人の侍」を西部劇にした「荒野の7人」シリーズ(5作品くらいある)のうちのひとつで、7人のガンマンのリーダー役を演じている。
今でも、マカロニ・ウェスタン風のあざとい演出を楽しんでいるかのような場面を取り入れている映画はよく見かける。
人を簡単に殺すシーンなどが残酷だという批判も当時あったが、この3作品とこれに続くマカロニ・ウェスタンが一時代を築いたこと、演出などで今でも影響を残していることは間違いない。