Yagamiマガジン

読む人をかなり選ぶ内容になっていますので、無理をせずご笑覧ください。
このお話は、全ての事件が解決したあとの誕生日(10歳)を想定していますが、作者の不理解、あるいは作品演出上の都合から、公式設定と整合しない箇所が散在します。これらにつきましては、広い心でご了承いただければ幸いです。
面倒くさかったら、偽・後編だけ読んでいってください。ぶっちゃけ、これが書きたかっただけですので(笑)。


■誕生日は決戦のはじまりなの(前編)■
■誕生日は決戦のはじまりなの(真・後編)■
■誕生日は決戦のはじまりなの(偽・後編)■

■Fate/lyrical nanoha(予告編)■
■Fate/lyrical nanoha(本編)■
※本編と予告編は直接リンクしていません。

■作者からのご挨拶■

誕生日は決戦のはじまりなの(前編)
6月3日 1:28PM 海鳴市商店街
 はやての誕生日を翌日に控え、はやてとなのはとフェイト、それにすずかとアリサは、商店街まで買い出しに出かけていた。
「楽しみだね、明日」
「なのはは、プレゼント何買ったの?」
「はやてちゃんが居るところじゃ言えないよー」
「めっちゃ気になるなぁ」
 そんな他愛もない会話を交わしながら5人が歩いていると、道の向こうからエイミィが猛烈な勢いで駆け寄ってきた。
「あれ、エイミィじゃない?」
「どうしたのかな?」
「なのはちゃん、助けて!」
 なのはを見つけたエイミィは、非道く取り乱しながら、いきなりなのはに抱きついた。
「なんや、なんや? どないしたんや?」
 その様子に、はやてたちは慌ててエイミィを中心に集まる。
「どうしたんですか、エイミィさん?」
「たいへんなの! 艦長がいきなり、世界を征服するとか言い出して、アースラを乗っ取っちゃったんだよ!」
「それは、なんでまた?」
 と、はやて。
「じつは、回収したロストロギアを調査してたら、なんとそのロストロギアがいきなり暴走しちゃって。艦長、突然『地球を侵略して、我が帝国の宇宙征服の礎とするのだー!』とか言い出したんだよ」
「ロストロギアって、そんなのもあるんだ」
「まあ、ロストロギアとロストテクノロジーの前に、常識は無意味やからな」
「助けなきゃ。義母さんが心配だから」
 と、不安そうなフェイト。それに、アリサが応える。
「たしかに、フェイトは心配だよね」
「そやな。義を見てせざるは勇無きなり、や。行くで、リインフォース!」
『はい! マイスター・はやて!』
「夜天の光よ我が手に集え! 祝福の風リインフォース、セット・アップ!」
 その呪文とともに、はやての姿は魔法少女へと変わった。
「じゃあ、わたしたちも」
「うん」
 そして、なのはとフェイトも続く。
「レイジングハート・エクセリオン!」
「バルディッシュ・アサルト!」
『『Drive Ignition!』』
 なのはとフェイトもまた、魔法少女へと姿を変えた。
「じゃあ、あたしも」
 さらに、すずかも続く。
「準備はいい、フレイムロード?」
『Oui, Monsieur!』
 すずかの姿も、魔法少女へと変わった。
「って、ちょっと待ちなさいよ! なのはとフェイトとはやてはいいけど、なんですずかまで変身するのよっ!?」
「「「「……」」」」
 4人の不思議そうな視線が、アリサに集まった。
「なんでひとりだけ変身しないの?……みたいな目で見るな! わたしは変身しないから!」
「そんなことを言ったら、アラストールさんが可哀想よ」
「そんな奴、知らないわよ!」
 と、アリサはすずかにブチ切れてみる。
 とまれ、変身した4人とアリサは、要塞と化したアースラに乗り込んだ。


6月3日 3:10PM 機動要塞アースラ
「って、エイミィさんは置いてきたのに、なんでわたしが普通に乗り込んでるのよ!?」
 と、アリサはご立腹だが、
「じゃあ、まずはみんなで集めた情報を整理せなな」
 誰も聞いてない。
 まず、なのは。
「最近、コボルドが住み着いた洞窟があって、町の人が困ってるみたいだよ」
「もう要塞に来てるのに、どこに洞窟があるのよっ!? だいたい、町の人って誰よ!?」
 次に、フェイト。
「村長の娘が何者かにさらわれて、行方を捜してるって話を聞いた」
「村長の娘って誰!?」
 そして、すずか。
「この冒険者の店のご主人が難病に倒れて、娘さんが貴重な薬草を取ってきてくれる人を捜してるそうよ」
「ここ、冒険者の店じゃないっ!」
 最後に、はやて。
「護衛の依頼を受けてきたんやけど、どないする?」
「受けてくるなーーーーーっ!!!!!」
 と、アリサは激しいツッコミに、ぜえぜえと肩で息をした。
「アリサちゃん、そない頭に血ぃ昇らせたら、血管切れるに」
「誰のせいだと思ってるのよっ!?」
 と、アリサが文句をたれている横で、フェイトは何かの気配を感じ取った。
「敵!」
 通路の奥のほうから、かなりの数の足音が聞こえてくる。4人はそれぞれに杖を持ち、戦闘の構えを取った。
 現れたのは、操られたアースラの乗組員たちだった。
「アレックスさんにランディさんも!」
「どうしよう?」
 戸惑う5人。そのとき、はやてが決意を胸に言った。
「交渉決裂や! 悪いけど、ここは実力行使で通させてもらうで!」
「交渉してないっ!」
 アリサのツッコミも虚しく、とにかく戦いが始まった。
「じゃあ、高町なのはとレイジングハート・エクセリオン、行きます!」
『All Right, Master! Drive Ignition! Divine Buster Extension!』
「こんな狭いところで、ディバイン・バスター!?」
「ディバイン・バスターーーーー!!!!!」
 放たれた光が、アースラの乗組員たちを容赦無く捉えた。
『It's a direct hit.』
「ちょっと、やり過ぎじゃない……?」
 容赦無く全てを吹き飛ばしたなのはの攻撃に、アリサは唖然とする。
『Don't Worry.』
「大丈夫だよ。こんな小説じゃ、誰も死なないし」
「そういう問題かなぁ……?」
 台詞も無く退場させられたアレックスとランディに対し、アリサは同情を禁じ得なかった。
「あれ、何かしら?」
 そのとき、すずかは何かが落ちているのを見つけた。駆け寄ったフェイトが、それを拾い上げる。
「クッキー?」
「占いクッキーみたいね。何が書いてあるのかな?」
 フェイトがクッキーを割ってみると、中から1枚の紙きれが出てきた。
「えっと……。“ふっしろうとが”って書いてあるよ」
「せやから、それは占いクッキーちゃうって。それより、このネタの意味わかる人、ホンマに居てるんかいな?」
 それはそれとして、さらにアースラの奥へと突き進む5人。通路の半ばにさしかかった、そのとき!
“ガゴンッ!”
 前を走っていたなのは、フェイト、すずかと、後ろを走っていたはやて、アリサとの間に隔壁が下り、5人は分断されてしまった。
「はやてちゃん! アリサちゃん!」
 なのはは、隔壁の向こう側に居る2人の名を呼ぶ。その横で、フェイトがバルディッシュを構えた。
「バルディッシュ、行ける?」
『Yes, Sir! Zanber Form!』
「スプライト・ザンバーーーーー!!!!!」
 しかし、その一撃でも隔壁はびくともしない。
「どうするの、はやて?」
 隔壁のこちら側、アリサは不安そうにはやてに話しかけた。
「この隔壁、そう簡単には破れそうにないな。ここは、別のルートを探して……」
 と、そのとき!
「そうはさせん! ここが、貴様らの墓場だ!」
 現れたのは、仮面の戦士。
「くっ!」
 アリサを背に、はやてはリインフォースを構える。緊張の時間が流れた。沈黙のあと、仮面の戦士が先に動きを見せる。
「来ないなら、こちらから行くぞ! 夜天の王! そして、炎髪灼眼!
うるさいうるさいうるさい! その名前で、わたしを呼ぶなーーーーーっ!!!!!」
 ブチ切れたアリサはいきなり駆け出すと、仮面の戦士を吹っ飛ばしてどこかへと走り去ってしまった。
「アリサちゃん! ど、どないしよ。アリサちゃんも心配やし、さっさと進んでなのはちゃんたちと合流もせなならんし……」
 しかし、その両方をひとりでこなすことはできない。
「アーチャー、居てるか?」
「どうした、はやて?」
「アリサちゃんを頼むわ。あたしは、なのはちゃんたちを追いかけるで」
「わかった」
 いきなり現れた男は、アリサを追って走り出した。
「よし、行くで! これからが、ホンマもんの戦いや!」
 はやては、新たな決意を胸に、別の道を走り出した。






誕生日は決戦のはじまりなの(真・後編)
6月3日 4:12PM 機動要塞アースラ
「そろそろ片づけて帰らな、夕飯の支度に間に合えへん」
 最終決戦を前に、はやてはそんなことを考えていた。
「ここまで来てお気楽なことね、八神はやて!」
「その声は、リンディ提督!?」
 はやてが部屋の奥に目を向けると、暗闇からひとりの女性が姿を現した。
「うわぁ……」
 見てはいけないものを見てしまったかのような、はやての表情。
 リンディが纏った漆黒のマントの下は、露出過多としか言いようが無い危険な衣装。明らかに布の面積が少なすぎるし、デザインが危なすぎる。
「9歳のお子様の教育には、よろしゅうないて。写メ撮って、正気に戻ったあとリンディ提督に見せたら、卒倒するやろなぁ」
 まあ、そんな感じ。
「それはそれとして、先に来てるはずのなのはちゃんたちは?」
 見回しても、なのはやすずかの姿は無い。
「はははっ! 残念だけど、彼女たちは私の下僕に片づけさせたわ!」
「なんやて!?」
「さあ、私の下僕よ。あの小生意気なガキをやっておしまい!」
 その声とともに現れたのは、魔法少女姿のすずかだった。すずかは、申しわけなさそうに肩を縮こまらせている。
「すずかちゃん!?」
「はやてちゃん、ごめんなさい……。あたし、やっぱり、なのはちゃんやフェイトちゃんとは一緒に戦えなかったの」
「どういうことや?」
「だって、あたし、なのはちゃんやフェイトちゃんより先にはやてちゃんとお友達になって、『A's』では結構重要なポジションのキャラクターかな〜って思ってたら、本筋には全然絡めなくて、最後のほうはほとんど放置されっぱなしだったから……」
「結構、根に持ってんねんね」
「うん。この小説の作者がね
 とまれ、はやてとすずかが、各々の魔法デバイスを手に対峙した。
「でも、すずかちゃん。なんで、リンディ提督やの? リンディ提督は、ロストロギアに操られてんねんで!」
「だって、リンディ提督の作る世界なら、あたし、主人公になれそうな気がするから!」
 すずかは、目を爛々と輝かせながら応えた。
「いや、たぶん、それはあれへん」
 はやては、呆れながら否定した。
「そんなことない! だって、魔法は全ての“想い”を“現実”に変えてくれるんだもの!」
「そんなん嘘や! それは魔法とちゃう! それに、たとえ魔法が想いを現実にしてくれたとしても、そんなんに頼てたらあかん!」
「でも、リンディ提督は約束してくれたの! 全ての“想い”が“現実”になる世界に、あたしを導いてくれるって!」
「せやから、そんなんはあかんのや! 考えるだけで何でも手に入るって、そんなん間違うてる! そんなモンのための魔法なんか、絶対間違うてる!」
 はやてとすずかは、互いの信念をぶつけ合った。しかし、互いに一歩も譲らない。
「ごめんなさい、はやてちゃん……。それでもあたしは、リンディ提督が作る新しい世界を見てみたいの!」
『Remplissez! Bruler Forme!』
 すずかのフレイムロードに、魔力がみなぎる。はやての魔力を凌駕するほどに。
「すずかちゃん……」
 はやては迷いながらも、リインフォースを握る手に力を込めた。しかし……
「あかん。魔法が全てやない。今は、魔法を使たらあかん」
 はやてはリインフォースを床に置き、すずかの全てを受け入れようとするかのように、両腕をいっぱいに広げた。
「はやて……ちゃん?」
「あたしは、魔法は使わん。魔法使わんと、すずかちゃんを止めてみせたる。もし、すずかちゃんが言うように、魔法が全ての想いを叶えられるんやったら、その魔法で、あたしを止めてみせ!」
「……」
 迷うすずか。フレイムロードを持つ手が震える。
「何をやっている! そんな小娘、さっさと片づけてしまえ!」
 苛立ちをあらわにした、リンディの声。
「でも……」
 すずかは迷う。魔法を使って、はやてを傷つけることは……できない。
「くっ! もういい! この私が、直々に片づけてくれるわ! アルカンシェル!」
 その声に合わせ、リンディの足下にひとつの砲台が出現した。
「それは?」
「対人用アルカンシェル。どれほど強力な防御結界だろうと、一撃で吹き飛ばす。現実には存在しないこの兵器も、私が望めばすぐに生み出すことができる」
「想像するだけで、それが現実になるっちゅうことか……」
 ここは、“想い”が“現実”になる世界。
「これで終わりだ! 八神はやて!!!!!」
 アルカンシェルが発射されようとした、そのとき!
「げふっ!!!!!」
 そんな声を残して、いきなりリンディが気を失った。リンディの背後に突然現れた女が、倒れ落ちようとするリンディの体を片腕で受け止めた。
「まったく、世話を焼かせるんだから」
「レティ提督!?」
 現れたのは、レティ提督だった。
「ごめんね、はやてちゃん、すずかちゃん。面倒なことに巻き込んじゃって。ここまでたどり着くのに苦労したもんだから、遅くなっちゃった」
「リンディ提督は大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。ここのところを斜め45度の角度で叩くと、正気に戻るのよ」
「提督。それは、映りの悪なったテレビの直しかたですわ」
 とまあ、そんなやくたいも無い会話を交わしたあと、リンディとロストロギアを回収したレティは、時空管理局へ戻っていった。
 残されたすずかは力尽き、地べたにへたり込む。そんな彼女に、はやては駆け寄った。
「すずかちゃん!」
「はやてちゃん、ごめんなさい。あたし、もう……」
 俯くすずかの声は、とても頼りない。はやては、すずかの傍で膝をつくと、彼女の肩に優しく手を置いた。
「ええんや。魔法は万能やない。想うだけで全部が現実になるなんて、そんなこと絶対にあらへん。魔法で幸せになれる人も居てるかもしれへんけど、魔法で傷つく人も誰かを傷つける人も居てる。それはべつに魔法やなくても、何でも同じことやと思う」
「はやてちゃん……」
 ようやく顔を上げたすずかは、はやての笑顔を見つめる。
「それでな、あたし思うねん。魔法は万能やない。でも、あたしは魔法を使える。魔法を使って、“何か”をすることはできる。せやからな、あたしの魔法で、幸せになれる人をひとりでも多くできるかもしれへんし、傷つく人をひとりでも少なくできるかもしれへん。そうやっていったら、時間はかかるやろうけど、本当に、“今の想い”を“現実”にできるときが来るかもしれへん。せやから、もうちょっとだけ待ってくれん?」
「……」
 はやてのかぎりなく澄み切った笑顔に、すずかの相好も自然とほころんだ。
「うん。見てみたいな、はやてちゃんが作った世界を」
「あたしもや」
 二人の少女は、互いに笑みを交わし合う。それは、未来を創ろうとする少女たちの、優しくも力強い笑顔。
 いつか来る未来への夢を胸に、はやては強く思いを馳せる。
「そのときが来たら、本当に……」


6月4日 8:45AM 八神邸
「はやてちゃん。起きて」
「う、ん……」
 その日、はやては珍しくシャマルの声で目を覚ました。目を開けると、いつものエプロン姿のシャマルが、いつもどおりの優しい笑顔でベッドの傍に立っていた。
「おはようさん、シャマル」
 はやても、とびっきりの笑顔でシャマルに応えた。
「はやてちゃん。朝からごきげんみたいね」
「なんや、めっちゃおもろい夢見てしもたわ。オールスター総出演やったで」
「そうなの」
 はやてのごきげんっぷりに、シャマルも笑顔で応える。
「はやてーーーっ!」
 はやてがベッドで体を起こすと、すでに起きていたヴィータが待っていたかのようにはやてに飛びついてきた。
「ヴィータ、どないしたん?」
「だって、今日ははやての誕生日だろ? ずっと待ってたんだ! だから、早く! 早く!」
 心の底から嬉しそうに言って、ヴィータははやての腕を引っ張る。
「もう、ホンマに気ぃが早いな、ヴィータは。先に着替えさせてぇな」
 はやては困りながらも、ヴィータのはしゃぎように笑みがこぼれた。
 ヴィータに急かされながら着替え終えたはやては、車椅子でリビングへ向かった。脚は少しずつ自由に動かすことができるようになっているけれど、歩くことを忘れた体では、まだ2本の足で大地に立つことができない。だから、まだ車椅子無しでの生活は無理だ。
 リビングへ行くと、やはりいつものとおりシグナムがソファーに座り、小型犬の姿のザフィーラはフローリングに体を横たえていた。
「おはようさん。シグナム、ザフィーラ」
『おはようございます』
「おはようございます、主はやて。今日は、とてもいい天気ですよ」
「ホンマや〜」
 窓から見える空は、どこまでも蒼く澄み渡り、その日の訪れを祝福しているかのようだった。
「パーティーはお昼からよ。ヴィータもちゃんと手伝ってね」
「ああ!」
 6月4日。今日は、はやての誕生日。
 はやてが、この新しい家族と出会った日。
 楽しいこと、嬉しいこと、悲しいこと、つらいこと……。そんな、昨日までとは違う日々に出会った誕生日。
 全てが始まり、そして全てが変わった誕生日。
 新しい家族と出会い、共に過ごした1年間。いろんなことがあったし、たぶん、これからはもっといろんなことがある。
 でも……
 闇の書なんて存在しなければ……、魔法なんて存在しなければ、もっと自由に遊び回って、もっと普通の生活を送れていたのかもしれない。普通の小学生として、普通に暮らしていけたのかもしれない。
 魔法さえ無かったら……。
「はやてちゃん!?」
 シャマルは、車椅子から自力で立ち上がろうとするはやての姿に、驚きの声を上げた。
「大丈夫や。ソファーに座るだけやから、介助はいらんよ。これくらい、自分でできるようにならんとな」
「でも、まだ無理よ!」
 不安そうなシャマルの声。はやては、徐々にリハビリを始めてはいるけれど、まだ自力だけで歩くどころか、立つことさえ難しい。
「大丈夫。あたしな、確かめたいんや。1年前とは違う、今のあたしを。今のあたしは、これだけのことができるんや……って」
「……」
 笑顔のはやてに、シャマルは制するための言葉を見つけられなかった。
 はやては両手でしっかりと車椅子を掴み、ゆっくり体を浮き上がらせる。そして、シャマルとヴィータ、シグナムとザフィーラが見つめる中、車椅子を掴んだ両腕で体を支えながら、まず1歩目を踏み出した。
「行くで」
 慎重にバランスを取り、2歩目で車椅子から完全に手が離れる。そして……
「あっ!」
 3歩目を踏み出すこともできず、バランスを失ったはやては、そのまま床に転んでしまった。
「はやて!」
「やっぱ、まだまだあかんなぁ。もっと頑張らなあかんわ」
 ごろんと仰向けになったはやての声は明るい。
「大丈夫か、はやて!?」
「はやてちゃん!」
 ヴィータがシャマルがシグナムがザフィーラが、はやてに集まり、心配そうに主の顔をのぞき込んだ。
「大丈夫。あたしは大丈夫や。そんなに心配そうな顔せんでもええから」
 闇の書なんて存在しなければ……、魔法なんて存在しなければ、もっと自由に遊び回って、もっと普通の生活を送れていたのかもしれない。普通の小学生として、普通に暮らしていけたのかもしれない。
 でも……
「ヴィータ」
「シグナム」
「シャマル」
「ザフィーラ」
 はやては、ひとりずつ、かけがえの無い家族の名前を呼ぶ。そして、仰向けになったまま、この新しい家族たちに向けて両腕をいっぱいに伸ばした。
「ホンマに……」
 はやての満面に、笑みが浮かぶ。

 魔法があってよかった

(了)





誕生日は決戦のはじまりなの(偽・後編)
 ついに、秘密結社アースラとの最終決戦を迎えたはやて。もう、あとに退くことはできない。決意を胸に秘めたはやては、グッと拳を握りしめ、仲間たちに力強い言葉を向けた。
「変身して戦うで!」
「おおっ!」
 ヴォルケンリングが生み出す夜天の光。
「エクスプロジオン!」
 夜天の光が5人の体を包み込み、その姿を夜天の騎士へと変貌させた!

「ヴォルケン・ブラック!」(注:はやて)
「ヴォルケン・レッド!」(注:ヴィータ)
「ヴォルケン・ブルー!」(注:ザフィーラ)
「ヴォルケン・イエロー!」(注:シャマル)
「ヴォルケン・ピンク!」(注:シグナム)

「蒐集! 夜天戦隊!」

「ヴォルケンファイブ!」


羽ばたけ! 夜天戦隊ヴォルケンファイブ
きらめく青い地球に 下り立つ5人の騎士
迷い無いその瞳に 映るはるかな未来
信じる心を胸に 仲間の声を力に
明日への道を歩めば そこに光が見える

傷つくことを怖れずに進め!
戦いのその先には 果てない愛と希望の世界

その胸に刻まれた ゆるぎの無い誓い
真っ直ぐに突き進む 気高き夜天の戦士
母なる大地を守り 平和を手にするため

その力解き放て! 夜天戦隊ヴォルケンファイブ!
強く雄々しく 羽ばたけ!


前回までのあらすじ
 ついに、秘密結社アースラの本拠を突き止めたヴォルケンファイブ。囚われの姫リインフォースを救い出し、地球の未来を守るため、ヴォルケンファイブはその本拠地へ総攻撃をかけようとしていた。
 しかし、彼らの前に立ちはだかった時空怪獣アルフとの戦いにより、相討ちとなったヴォルケン・ブルー(ザフィーラ)が戦場の露と消えた。仲間の屍を越え、それでも突き進むヴォルケンファイブ。そして、次に彼らの前に立ちはだかったのは、敵幹部レー・ナノハだった。


最終回『羽ばたけ! 夜天の騎士!』
「ここから先は、一歩も通さないんだから!」
 立ちはだかったレー・ナノハ。ヴィータが先頭に立ち、レー・ナノハに向けてハンマーを振りかざした。
「この、悪魔め!」
「悪魔でいいよ。悪魔らしいやりかたで、あなたたちを止めてみせるから!」
 そしてレー・ナノハは、懐からなにやら取り出してみせる。それを見たヴォルケンファイブは驚愕した。
「それ、ザフィーラの騎士服ちゃうか?」
「……」
「……」
「……」
「って、なんてコトしやがるんだっ! この悪魔め! お前は、ダイナピンクか!?」
「だから、悪魔だって言ったよ」
「グラーフアイゼン! カートリッジ・ロード!」
『Explosion!』
 怒りを爆発させたヴィータが、グラーフアイゼンを振りかざした。そして、レー・ナノハめがけて、全身全霊の攻撃をかける!
「目からビィーーーム!!!!!」
 何かがかなり違う気もするが、レー・ナノハはその攻撃を受けながらも、レイジングハートの照準をヴィータに合わせた。
「レイジングハート! カートリッジ・ロード!」
『Load Cartridge!』
「愕天王!!!!!」
 大地から出現した愕天王の角が、ヴィータの体を貫く!
「あ、相討ち……」
 一瞬の戦いは、相討ちという形で決着を迎えた。ヴィータとレー・ナノハは、共に大地に崩れ落ちた。
「ヴィータ!」
 ヴィータに駆け寄るはやて。
「はやて……」
 はやてに笑顔を見せたヴィータは、直後、静かに目を閉じた。
「なかなか良い相手だった。もしかしたら、これで良かったのかもしれん。提督は、随分と変わられてしまった。本来なら、我ら幹部がお諌めすべきだったのだろうが……。ふっ。いまさら言ったところで、せん無いことだな」
 大地に倒れ落ちたレー・ナノハは、とうとうと語る。
「仲間を道連れにしておきながら、こんなことを頼むのは筋違いだろうが……。頼む、提督を止めてくれ。お前たちなら、必ず……でき……る……」
 レー・ナノハは安らかに、その目を閉じた。
「えーけど、あんた誰やねん」
 すでにキャラクターが混濁しまくっている。
 とにかく、これで敵の最強幹部のひとりレー・ナノハが倒れた。
「ナノハ……!」
 そこへ現れる、もうひとりの敵幹部。
「許さない……」
 最強幹部のひとりサー・フェイトは、怒りの眼差しをヴォルケンファイブに向けた。
「サー・フェイト……。いや、フェイト・テスタロッサ……。主はやて。ここは、私にお任せください」
 シグナムはレヴァンティンを握りしめ、フェイトと対峙する。
「ヴォルケン・ピンク、シグナム……」
「テスタロッサ……」
「……」
 そのとき、何かにこらえきれず、サー・フェイトはとっさに顔を背けた。
「ぷっ、ピンク……」
 笑ってる。
「(プチッ)」
 シグナムの頭の中で、何かとても大事なものが音を立てて切れたらしい。
「主はやて。今宵のレヴァンティンは血に飢えているようです。ここは私に任せて、先を急いでください」
「シグナム。キャラ変わってるで」
「私は、悪人ですから」
 言ってシグナムは、レヴァンティンを上段に構える。
「行くぞ、レヴァンティン!」
『Jawohl!』
 サー・フェイトもまた、バルディッシュを下段に構えた。
「行くよ、バルディッシュ!」
『Yes, Sir!』
 そして相対する剣士たち。
「いざっ!」
「いざっ!」
 刹那、二人の剣撃が閃光とともに交差する!
 渾身の一撃を放ち、互いに背を向ける二人。そして訪れる沈黙。
「最初から、防御を捨てて一撃に賭けた、か……」
「強いあなたに立ち向かうには、これしか無いと思ったから……」
「そうか……」
 口元に笑みを浮かべたシグナムは、ゆっくりと膝を折り、その場に倒れ落ちた。そして、やや遅れてサー・フェイトも満足そうに微笑みながら、大地にその身を預ける。
「シグナムーーーーー!!!!!」
 はやての叫び。しかしその声は、もう、シグナムには届かない。
 二人の剣士の、壮絶な相討ちであった。


秘密結社アースラ本拠地
 2人の幹部を相次いで失った提督リンディは、怒りに打ち震えていた。
「おのれ、ヴォルケンファイブめ……。よし、ベルカ時空に引きずり込め!」
「ヒュー!」


再び戦地
「なんや、シャマル。えらいパースが狂ってきてるで」
「そう言うはやてちゃんも、頭身のバランスが悪くなってますよ」
「なんやこれ。動きはええけど、人間のバランスがめっちゃおかしなってる」
「これって、まさか《ベルカ時空》!?」
 ベルカ時空では、人は通常の3倍《ベルカ式》になってしまうのだ!
「クラールヴィントーーー!!!!!」
 シャマルは、その右手を天空に掲げた。すると、それに導かれ、暗雲を突き破ってクラールヴィントが出現する!
「蒐集!」
 その掛け声とともにシャマルは、特殊軽合金ヴォルケニウム製のコンバットスーツ、ヴォルケンスーツを装着した!
「時空騎士シャマル!!!!!」
 時空騎士シャマルがヴォルケンスーツを蒐集するタイムは、わずかコンマ05秒にすぎない。では、蒐集プロセスをもう一度見てみよう!
「いちいちリプレイするな!」
 そのとき、彼らの前に、ついに最大にして最強の敵が姿を現したのだった。
 秘密結社アースラの提督リンディ。
「よく、ここまで来ましたね。そのことは褒めてあげましょう。しかし、5人揃わなければ力を発揮できないヴォルケンファイブも、今は2人を残すのみ。もはや、あなたたちに勝ち目はありません。ここが、あなたたちの墓場になるのです!」
「はやてちゃん……。わたし、攻撃手段が無いから、はやてちゃんお願い!」
「だったらいちいち変身するなっ!」
 つっこむ提督リンディ。一方、シャマルに頼まれたはやては、決意を胸にこう言った。
「しゃーない。巨大ロボで戦うで!」
「えっ!? 相手、巨大化してないのに!?」
「リインフォーーーーースッ!!!!!」
 シャマルのツッコミは無視して、はやては右手を空に突き上げた。暗雲を突き破って飛んできたリインフォースが、大地に降り立つ!
 全高38メートル、装備重量2,800トン。リンカーコアを動力源に使用した、それを操る者を神にも悪魔にもする兵器、それがリインフォース!
「パイルダー・オン!」
 はやてが搭乗し、リインフォースが提督リンディに向かってその一歩を踏み出した。
「ちょっと待ちなさい! 敵より先に巨大ロボを登場させる正義の味方が居るわけないでしょう!?」
「ここに居てる!」
「そもそも、リインフォースは囚われの姫だったじゃない!」
「知らん!」
 断言したはやてはリインフォースを操り、提督リンディにとどめの一撃を放つ!
「響け終焉の笛! ラグナロク・ブレイカー!!!!!」
 それは、神々の黄昏の光。
「私の時代は終わった……」
 断末魔の叫びとともに、提督リンディは滅び去った。
「はやてちゃん、たいへん!」
 しかし、シャマルの鬼気迫る声が。
「どないしたんや、シャマル?」
「アリサちゃんが暴走して、すずかちゃんをさらった上に、この世界を滅ぼそうとしてるの!」
「なんやて? なんで、そないなことに……」
 そのとき、彼方からアリサの叫び声が届いた。
「こんなふざけた世界、やってられるかーっ!!!!!」
 まあ、そういうわけで。
「アリサちゃん、まだ馴染んでなかったんやなー。でも、アリサちゃんを鎮めてすずかちゃんも助けよう思ったら、5人の力を結集せなあかんし……」
 しかし、すでに3人の仲間を失ってしまった。
 だが、そのとき!
「お呼びですか、主はやて?」
「わたしは、はやてが居るかぎり、絶対にはやてを助けるからな!」
 シグナムとヴィータの声。2人は、それぞれなのはとフェイトに支えられながら、はやての前に現れた。
「2人とも、生きてたんか!?」
「こんな小説で人が死ぬわけがありません」
「でも、ザフィーラが居てへんな」
「……」
「……」
「……」
「きっと、来たくても来られないんじゃないかと……」
 と、微妙な笑顔のシャマル。すると、なのはとフェイトの2人が進み出た。
「大丈夫だよ。わたしたち2人が、ザフィーラさんの代わりになるから」
 そう言うなのはは、ザフィーラを来られなくした張本人。
「でも、足らんのは1人やけど」
「あの……。わたしとなのはは一心同体。だから、2人で1人……」
「あ、さよかー」
 恥ずかしそうなフェイトに、はやては生温かい視線を送った。
「とにかく、これからも戦いは続くんやな」
「わたしは、はやてが行くならどこまでもついていくからな!」
 と、ヴィータ。
「それは、私も同じです。私たちは、常に主はやてとともに在ります」
 と、シグナム。
「頑張りましょう、はやてちゃん!」
 と、シャマル。
「わたしも」
「わたしも」
 と、なのはとフェイト。
「うん!」
 5人の言葉に、はやてはにっこりと笑った。
「ほな、行くで、リインフォース!」
『はい! マイスター・はやて!』
 そして、はやては先頭に立ち、夕陽に向かって駆け出した。
 明日の地球を守るため、ヴォルケンファイブの戦いはまだまだ続く。
 頑張れ、ヴォルケンファイブ! 負けるな、ヴォルケンファイブ!
 羽ばたけ! 夜天戦隊ヴォルケンファイブ!


この世界のどこかで……
「あ、クロノ」
「ん? どうしたんだ、ユーノ?」
 背後からユーノに呼び止められたクロノは、足を止めてふと振り返った。すると、ユーノは嬉しそうに……しかし恥ずかしそうに、こう言った。
「あのね」

(了)





作者からのご挨拶
魔法があってよかった

この台詞は、非勧善懲悪型・友情系格闘魔法少女作品の先駆的作品である『魔法少女プリティサミー』で、象徴的に使われたキーワードです。

誰かのために何かをしたいという気持ち。でも、それを具現化するためには、何か特別な力が必要。そんなとき、魔法があれば……。魔法があれば、そんな“想い”を“現実”にすることができる。だから……

魔法があってよかった

はやてとなのは、そしてフェイトの作る未来が、虹色の世界でありますように。

2006年6月4日 MyS拝

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