アフリカ体験 (ウガンダ編) - 4

         -- 青年海外協力隊 任国外研修旅行 --


■ピグミーの村訪問

 私の乗せた車は、車一台がやっと通れるような山道を砂煙を巻き上げながら進んだ。 コーナーにもほとんどそのまま突っ込むのだからたまらない。その度に私は「ぅあッ、 ギャーッ」と言葉にならない悲鳴をあげた。すぐ脇は遮るものもない深い谷である。 私の運転手は神妙にすぐ反省をするのだが、その反省がまったく長続きしない。

 とに かくアフリカ人と言うのは、一般にスイッチオンとオフしか知らないようだ。タクシーやバスもそうだが、発車の後は常に全開である。そうは言ってもここで事故にでも なったら大変である。運転手に何とかゆっくり走るように必死に説得するのであった。

 回りの景色と言えば、道路の上の斜面には大きな木は少なく、バナナなどの木が谷 底に沿ってVの字型に広がっている。所々山を焼いている煙が見える。運転手によれば、焼いた後で家畜などを飼うのだそうだ。驚いたことにこんな山奥の急な斜面にも ときどき家がある。それらの家はまるで斜面にしがみついているようだ。

 1時間ほど山道を登ると急に一面眼下が緑色に開けた。私は運転手にすぐ止まるよ うに言い、車が止まると同時に外に飛び出しその場に立ち尽くした。初めて見る本格的なジャングルである。

 手前にはくねくねと蛇行した泥色の川が見え、その奥は緑の海が地平線まで続いている。地平線に近いところは雨でぼんやり霞んでいる。ジャン グルは、見慣れたサバンナの緑とは比較にならないほど深い緑色であった。手前の川 がザイールとウガンダの国境、つまり東アフリカと中央アフリカとのまさに境なので ある。

 そのたった山一つ隔てたコントラストは、自然の不思議さをよく表しているよ うに思えた。そしてそのジャングルこそ目指すピグミーの住処なのである。

 そこから道は下り坂となった。しばらく行くと運転手が「見ろ、温泉だ」と指さした。下の方に木々の間から何やら白い所が見える。どうやらそこから温泉が湧き出しているらしい。

 車は平地に入り、可能な限り温泉に近づくと車を降りて行ってみた。 そこはジャングルの中の温泉湿原であった。中央部は温泉の成分が固まったためであろう白い岩のようになっており、もうもうと湯気をあげながらお湯が湧き出ている。 運転手によれば、このお湯を近くに住む人は料理に使うのだそうだ。

 車はさらにジャングルの中に入って行くと、少し開けたところに小さな村があった。住んでいるのはウガンダ人だ。そこでこの辺の役人らしき人にピグミーの村に行きた いことを伝えた。彼はピグミーからティーチャーと呼ばれており、彼を通さなければ ピグミーとは会えないのだそうだ。

 ティーチャーを私の車に乗せ5分ほどすると突然子供達が現れた。いやいやよく見るとほとんどが大人である。体格は身長が私の3分 の2、体積では2分の1程しかないようである。ピグミー達である。彼らは上半身は 皆裸だが、腰には布のようなものを巻いている。彼らは私たちの車を大騒ぎしながら 取り囲んだ。まずティーチャーが車から降り、私がピグミーに会いに来たことを伝え た。特に武器は持っていないようであるが、ある本によれば彼らは狩の名人らしいの で、下手な動きは禁物である。

 しばらくの間、私と運転手は車の中でじっとしているとピグミーの長老が現れた。 ティーチャーを通じて私の目的を伝える。どうやら長老はお金を要求しているらしい。 1万シリングで村を案内し写真も取っていいのだそうだ。

 いやいや、まさかこんなジ ャングルの中でもお金の交渉をするとは思わなかった。いったい何にそのお金を使うのであろうか? 「森の民」などとお金など縁のない素朴な生活をしていると思った ら、そうでもないらしい。しかし元をただせば私のような旅行者が原因であるのだろうから複雑な心境だ。

 ティーチャーを通訳とした交渉を続ける。長老はなかなか手ご わい。私がせっかく来たのだからなんとしても見学したい事を知っているのだ。結局 キャンディーをおみやげに持ってきているからということで、半分にまけてもらった。

 お金を払い車の外に出た。長老と握手すると村の中を案内してもらうことになった。 村は家が10軒程あるようである。どの家も草の陰に隠れているので、何軒あるのか正確にはわからない。家とは言っても小枝を三角に組み草の葉をのっけただけの簡素 なもので、2〜3人用のテント程の大きさしかない。

 ケニアの北部に住むツルカナ族 も驚くほど簡素な家に住むが、これは私の見た家の中でもっともシンプルな家であっ た。これに比べたらマサイ族の牛のフンでできた家はさながら御殿である。気温が一年中高いし、彼らは常に移動するような生活をしていることを考えれば、利にかなっているとも思える。私が興味深そうに見ていると、いつのまにか私の後には村中の人々がついている。私は数十人の行列の先頭になってぞろぞろと家々を見学して回った。

 どうやら私の後についてくるのは、おみやげのキャンディー目当てのようである。 一通り見て回ると、広場でお礼にキャンディーを配ることにした。すると私が手に持 っているキャンディーを狙って大人も子供も私を取り囲み、みんなでわめき散らし始 めた。なんだか大人のほうが真剣である。

 私はすっかり圧倒されて私の近くの子供数 人にキャンディーを配った。するともうみな蜂の巣を突っ突いたような大騒ぎになっ てしまった。大人の男達がどうして自分にくれないのかと怒り狂っている。顔を歌舞 伎の役者のように真っ白に塗ったおばあさんらしき人などは、口を泡だらけにしなが らなにやらわめいている。小さな赤ちゃんを抱いたお母さんは、赤ちゃんを指さしな がら、私にかみつこうかと言う剣幕である。私としたら子供から順番に配ろうとしたのだが、私の気持ちなんて完全に理解されていない。もう私の手にはおえなくなり、 ティーチャーにキャンディーを任せることにした。

 ゆっくり彼らの生活を見学するつもりであったが、彼らのお金やキャンディーに対する執着を見ると早々に引き上げたくなってしまった。おそらく元々あのような感じではなかったのであろう。こんな辺境の地でも私のような旅行者のせいでこうなったのかと思うと、なんとなく心苦しいものがあった。運転手にそのことを言うと、昔ながらの生活を守っているピグミーは外部との接触をたっているのだそうだ。私は後味の悪さを残しながらピグミーの村を離れたのであった。


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