アフリカ体験 (キリマンジャロ編) - 6

         -- 青年海外協力隊 任国外研修旅行 --


■4日目、ギルマンズピークへ(4703-5685m)

「Mr. Masa、そろそろ時間です、準備をしてください」

 午前0時半、ポーターが私を起こしにきた。私の方はこの6時間、寝袋の中で必死に寒さに耐えていたので、目を覚ます必要はなかった。準備と言っても持ってきた服は既にすべて身につけていたので、後は寝袋を出てスニーカーを履くだけである。寝袋から出るのが一瞬ためらわれたが、思い切って這い出す。同じ部屋のドイツ人のグループもごそごそと起き出してきた。

 ポーターが部屋まで運んできてくれたビスケットと紅茶の朝食?をとる。標高の為だろうか紅茶はぬるい。まったく食欲はないが、体を内側から暖めようと無理矢理胃に押し込んだ。今からが本当の勝負だと自分に言い聞かせ何とか気合いをいれる。しかし徹夜と寒さのためか体調はよいとは言えない。じっとしていると寒さがたまらないので、常に体を動かし続ける。

 ガイドのサファエリが現れた。彼も昨日までとは違って、とっておきの登山靴を履き毛糸の帽子、手袋、ジャンパー、ウインドブレイカーなどの完全武装である。昨日までのあの”おっさん”と言った雰囲気はない。彼は余りにも貧相な私の格好を見て思案顔である。なにしろ私の格好は、基本的にはナイロビで勤務先への通うのと変わらないのであるから・・。

 彼はおもむろにジャンパーの上に着ていたウインドブレイカーを脱ぐと自分の手袋とともに「これを身につけるように」と差し出してきた。余りの寒さにめげそうになっていた私である。この申し出は何物にも代えられないほどうれしかった。けれども、ウインドブレイカーはともかく手袋無しでは彼だって辛いだろう。彼にそのことを言い、いったんは申し出を断った。それでも彼は「自分は平気だ」と言うので、ちょっと心苦しかったが、彼の温もりが残るウインドブレイカーと手袋を借りることになった。まだまだほかの人に比べたら頼りない装備ではあったが、ウインドブレイカーと手袋、そしてサファエリの気遣いで私は精神的にも非常に楽になった。

 ここから先はサファエリと私のみで頂上へ向かう。午前1時、他のパーティーに先駆けて私たちはポーターに見送られて頂上を目指し始めた。

 外は星もなく真っ暗である。私の目ではほとんど何も見えないに等しい。サファエリはさすがにアフリカ人であるから夜でも目が見える。私は彼の背中だけを頼りに一歩一歩登り始めた。

 今までの登りに比べ勾配は比較にならないほどきつく、道は勾配を避けるために斜面をジグザグに刻んでいる。火山レキのため下は崩れやすく歩きにくい。スニーカーではなおさらである。ときどき足を滑らせ思わず両手で斜面をおさえる。火山レキを崩して大きな音を立てる度に、サファエリが振り向き注意を促した。

 あたりは真っ暗であるのでどのくらい登ったかは、全くわからない。ただ登り始めた頃は、次々登ってくるパーティーの懐中電灯の明かりが下の方に見えていたのだが、それもいつのまにか見えなくなってしまった。

 空気が薄いため私の呼吸はまるでマラソンでもしているようである。体力にはある程度自信のあった私ではあったが、20分も歩き続けると休まざるをえない。学生時代は肺活量の測定器を振り切ったこともあった自慢の肺だが、空気を求めて喘ぐ。

 登り続けているときは寒さもさして気にならないのだが、休憩のため立ち止まると猛烈に寒い。困ったことに昨日の夜冷えたのであろうか、お腹が猛烈に痛くなってきた。よりによってこんな標高でそれも夜中である。しばらく我慢していたが、もう限界である。私はなるべく風の当たらないところを探して、思いきって用を足した。風は容赦なく私のお尻に襲いかかる。まさに身をもって寒さを感じることになってしまった。

 私が斜面と格闘しているときもサファエリと言えば、手袋がないので両手をズボンの後ろのポケットに入れて、あたかも公園でも散歩するかのように軽々と登っている。私が休憩の時ゼイゼイと呼吸しているのに、彼はこの空気の薄い中でタバコをうまそうに吸うのだから、彼の肺はどんな構造になっているかと目を疑ってしまった。

 いつまでこの登りが続くのだろうと思われたが、 5時頃にはギルマンズピーク(5685m)に到着した。 ここは火口の縁にあるはずだが、あたりはまだ真っ暗でほとんど何も見えない。知り合いの協力隊員も何人かキリマンジャロには挑戦しているが、多くはこのピークまでである。本当のピークであるウフルピークまではあと標高差200m程なのだが、ここからが根性のみせどころである。ふつうはここで御来光を見ることになる。しかしこのまま登れば頂上で見ることができそうだ。サファエリにそのことを伝え少し休むといよいよ最高峰を目指し最後の歩を進めた。


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