アフリカ体験 (キリマンジャロ編) - 5

         -- 青年海外協力隊 任国外研修旅行 --


■3日目、キボハットへ(3729-4703m)

 朝起きるとまず自分の体をチェックしてみた。頭、よく眠れたので平地にいる時よりすっきりしている。足、全く何でもない。お腹、しっかりすいている。どうやらどこも異常がないようだ。今日からは私にとって完全に未知の標高になると思うと不安ではあるが、あとは運を天に任せるだけである。今夜、正確には明日の午前一時には、いよいよ頂上へのアタック開始である。成功の鍵は今日にあると言ってもいいかも知れない。

 バンガロウを出ると、目の前には昨日雲の下に隠れていた景色が広がっていた。私は思わずバンガロウがあるサイトの縁の所まで駆けた。手前には黄色の可憐な花をつけた高山植物、その奥には深緑のジャングル、そして遠くにはもやに霞んだ大平原がどこまでも続く。その光景は、しばらく時間のたつのを忘れてしまいその場に立ちつくしてしまうほどのものであった。

 朝8時頃、ひんやりとした空気の中を私たちはキボハットへ向かって出発した。出発してすぐは急な坂が続くが、それを越すと湿原が現れた。小さな流れはマウアリバー(3940m)である。ふつうはこの先にも水場があるのだが、今はここが最後の水場である。冷たい水を飲めるだけ飲み、水筒に水を補給した。しばらく湿原を歩き続けるとLast Water Pointである。やはりほとんど水はない。

 

 湿原を抜けると目の前には目指す最高峰のキボ峰、右手にはマウェンジ峰が迫ってくる。周りは徐々に赤土色の砂漠のような景色になり、その中を道はキボ峰へ一直線に続く。キボ峰は向かって左側が少し上がって傾斜しており、今の時期氷河はその高くなった部分にのみあるようだ。この道は右下の方に続いているので、最後は火口の縁を伝うようにして頂上へ行くことになるのだ。

 この頃になるとときどき他の登山者を追い抜くようになった。彼らのペースはかなり落ちて苦しそうだ。もう4000mは軽く越しているのだから仕方あるまい。私もまったく無理はせずのんびりと歩く。一日目から同じペースで歩いているのだが、さすがに呼吸が早くなってきている。

 いよいよキボ峰に近づくと周りは大きな岩がごろごろするガレ地となった。その中にトタン屋根のキボハット(4703m)が見えてきた。 結局この日も5時間の行程を3時間40分でハットに到着することができた。心地よい疲労を感じる。さっそくポーターがコーヒーをいれてくれた。

 夕方までは日向ぼっこをして過ごし、その間に他のパーティーも次々にハットに到着してきた。

 このハットは私が山小屋に持っていたイメージ通りのもので、いくつかの大部屋に分かれている。私が一緒になったのはドイツからケニア山とキリマンジャロを登りに来たグループであった。彼らは先週ケニア山に登ったらしいが、雨のため断念したそうだ。それだけに意気込みはあるのだろうが、高山病と疲労のため元気がない。

 けれども装備の方は万全で、厚手のジャンパーや登山靴、手袋と私の装備と比べたら完全武装である。何と中には大きなスーツケースを持参している人もいる。さぞかしポーターは大変だったことだろう。私の装備と比べたらとても同じ山に登っているとはとても思えないが、私は気力だけは負けていない。そう思いながら、私は大きくなってきたスニーカーの穴を日本から持参した瞬間接着剤で塞いで、頂上アタックに備えるのであった。

 夕方ビスケットなどの簡単な食事をすると翌日に備えて早めに寝袋に潜り込んだ。ところが日が暮れると気温はどんどん下がっていった。寝袋に入っていても寒くてとても眠れたものではない。頂上アタック用にぺらぺらジャケットなどは着ていなかったのだが、これではその前に凍えそうである。

 もうこうなると背に腹はかえられない。持ってきたジャケットを着込み、ジャージの上にGパンをはく。それでもこの寒さは予想以上である。体の芯まで染み込むような寒さだ。しまいには軍手、バンダナ、すでに汚れた下着や靴下まで身に付け寝袋に潜り込んだ。何とか眠ろうとするが、結局まったく眠れないのであった。

 とりあえずここは南半球なので、今は夏だから大丈夫だろうと思っていた私は甘かった。室内でもこの寒さである。まして外のことを考えると・・。眠れないことも気にかかる。徹夜で登って体力が持つのであろうか・・。

 頂上アタックは数時間後だ。自分でも驚いたことに、呼吸が早くなっていることを除けば高山病の症状は何もないことだけが救いであった。


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