アフリカ体験(エチオピア編3) - 5
-- 青年海外協力隊 --
■鱒釣り、そしてバーベキュー
なんとエチオピアにも鱒がいたのである。というのも、それまで私はエチオピアでは濁流しか見た事がなかったからである。
ある日隊員が中心になり、鱒を釣りに行こうと言う事になった。場所はアジスの南、約500キロにあるベールナショナルパークである。
さて、決まってからが大変であった。もちろん車で行くわけだが、アジスでさえなかなか手に入れる事のできないガソリンを、確保しなければならない。以前はソ連から破格の値段で原油を輸入していたという事だが、もうそれはなかった。そのため外貨が極端に少ないこの国では、ガソリンは配給制に近い状態なのであった。途中で全く給油できない最悪の場合を想定して、往復分のガソリンをアジスから持って行く事になった。ガソリン担当になった隊員は、それから数日間あらゆるコネを駆使しガソリンを集め回った。又、車が故障したら大変という事で、使用する車3台を自動車隊員たちが入念に整備した。
当日12月14日は、自動車の整備に手間取り、結局出発したのは11時であった。車は高原のアジスからグレートリフトバレー(大地溝帯)へ向かい南へ南へと駆け降りた。アジスから300キロほどのシャシャマンネまでは、比較的道もよく快適に走りながら、リフトバレーの湖などを楽しむ事ができた。
そこから約200キロの登りは山の中のラフロードで、私たちの完璧に整備した車は次々とパンクしてしまった。一台の車などは3回もパンクし、予備もなくなりタイヤを転がして数時間も村を探し回ったのだそうだ。景色の方は、車の窓からは底が見えないような深い渓谷があったり、岩山があったり、また太陽の光をキラキラと反射する湖があったりと、それぞれが私を強烈に引き付けるものがあった。驚いた事にその深い谷のあちらこちらにも小さな家があり、どうしてこんな所に住めるのか信じられないものがあった。
遅く出発したため、車から降りて景色を見ることができず本当に残念だった。やっと目的地に着いたのはおよそ7時で、あたりは真っ暗でほとんどなにも見えなかった。加えて異常に寒かった。それもそのはずで赤道に近いとはいえ、3000メートル級の山の中である。私たちは食事係とテント係りに分かれてすぐ作業を始めた。真っ暗なのでどの作業も大変であった。
食事が済むともう寝る支度である。アジスで見る星もきれいだが、ここからみる星は降ってきそうなくらい多く、すっかり感動してしまった。おそらく星がきれいなのは、空気がきれいな事と標高が高いせいであろう。あんまり上ばかり眺めていたため、首が痛くなったほどだ。テントに入り毛布2枚にくるまり寝ようとしたが、これが凍死するのではないかと思うくらい寒く、全然寝れなかった。しかたなく、ウイスキーをボトル1/3程ラッパ飲みし、持ってきた服をすべて着込んだ。それでも寒いので、 さらに毛布を2枚借りてやっと寝ることができた。
朝あまりの寒さで目が覚め、外に出たら驚いてしまった。テントの外は一面真っ白の銀世界である。一瞬、私は今どこにいるのかわからなくなってしまった。ここはアフリカのはずである。汲んでおいた水は完全に凍っており、車まで凍りつき全くエンジンもかからなかった。昨夜見ることのできなかった回りの景色は、一面の高原でそれを囲むようにさらに高い山があり、テントから50メートルも離れると深い谷とな っていた。谷の底は渓流となっていて、そこで釣りをするのである。
朝食の後、まず最初のグループとして私も釣竿や餌などを担ぎ、深い谷底へとおそるおそる下りて行った。そこには、エチオピアに来て初めて見る自然の透き通った渓流があった。渓流の幅は20〜30メートルでそんなに急流ではないが、水は十分にある。この国にも濁流以外のきれいな水があるのが、何かしら不思議な気すらした。
さっそく、私は大きな岩の近くの鱒のいそうなポイントを見つけて、釣りを開始した。意外にも初心者の私は、約10分ほどで30センチ程の鱒を釣り上げた。これだけですっかり満足してしまった私は、その後は物珍しさに集まってきたこの辺に住む子供達に釣りを任せると、渓流のさわやかな音を聞きながら、日向の岩の上で昼寝に精を出すのであった。他の人達が頑張ったため、私たちのグループは5人で15匹とまあまあの成果であった。
夜は釣ってきた鱒と途中で買ってきた肉や野菜で盛大にバーベキューである。キャンプしている場所の真ん中に穴を掘り、その中に薪を入れ火をつける。その回りに串に刺した新鮮な鱒をなれべ、火の上には鉄板を固定して食べ物を焼く。バーベキュー用に持ってきた鉄板やそれを固定する台など器具は、どれもこの日のために各隊員が職場のガラクタを利用して手作りしてきたものである。
食べ物からのジュウジュウという音となんとも言えないよい臭いが漂う。私などは火を見ながらその臭いを嗅ぐだけで、「生きていて善かったなぁ」としみじみ思ってしまった。とにかく食べ物も空気もみな新鮮なので、皆しばし言葉を忘れひたすら食べ続けるのであった。そして残りの鱒は、塩漬けにして正月用に保存しておくことにしたのであった。
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