<語義注釈>Kanon (オランダ語)【名詞】 大砲。 日本では長射程の直射砲を加農砲とも云う。
Kanon2(大嘘)番 外 編
第六十四話〜頭文字M〜
某半島南部の西海岸付近、UNTAK野戦陣地にて。
祐一達の野戦特科(砲兵)部隊は海岸を見下ろすこの陣地に展開を終えていた。
99式自走榴弾砲の砲身は海岸の方向を指している。対着上陸戦闘の態勢としては
些かというか完全に前進しすぎの態勢である。
「香里〜」
香里の横に止まった大型車の助手席から、北川が声を掛けた。
「俺のハチハチでドライブしようぜ」
「ドライブね、どこへ行くつもりなのかな北川君」
「…ヴァルハラとか」
「一人で行きなさい」
ぴしゃりとはねつける。
「北川君はいっぺん死んだ方が良さそうね、二階級特進したら敬礼の一つもしてあげるわ」
無言でさめざめと泣く北川。
無視して祐一の方を向き問いかける香里。
「どこから引っ張り出してきたのよ、アレ」
指さす先には6本の筒を背負った大型トラック。陸上自衛隊の誇る上陸阻止兵器、
88式地対艦誘導弾発射機である。
「ああ、88式の改良型が出たから使うんだって」
「ちょっと待ってよ、上陸阻止任務じゃなかったの?」
「間違いない、上陸阻止だ」
「目標は?」
「工作船」
「非合法活動の内容は?」
「旧北部地域のゲリラ支配地域で生産された白い粉を工作船が運んでいる。
旧政権の生産設備が無傷で残っていやがったようだぞ」
「ここが目的地なの?」
「いや、連中は日本に向かっている」
「だったら」
「地形に隠れやすい沿岸を航行する工作船を地上攻撃で撃破、というのが今回の任務だ」
「それにしても、わざわざ密輸工作船を88式改で叩くなんてどういう了見なんだか。
そもそも海で叩けばいいじゃないの」
「半島西方海域でのUNTAK海上部隊の行動に中国がいい顔をしていないそうだぜ」
「あ、香里。88式改は動作テストを兼ねて使うって話だよ」
傍らの99式自走榴弾砲から降りてきた名雪が云った。
「動作テスト?」
「うん、一刻も早く実戦使用したいんだって」
「市ヶ谷の連中が考えていることは分からないわね」
「そんなこと気にしてたら、この商売やってられないさ。なぁ…」
と、北川に同意を求めようとした祐一だったが北川の88式改は既に移動していた。
「作戦開始時刻です」
残照の海に向け、改良型88式地対艦誘導弾が放たれる。
数分後、2発目が空に向けて飛んでいく。それを見送った栞が云った。
「1発目は外れたようですね」
「ECMも積んでない、ステルスでもない工作船相手に外すか? 普通」
「2隻いるのかもしれないよ」
「名雪、そんな話は聞いていないぞ」
今度はそれ程間をおかずに3発目が発射された。
「どうなっているんだ?」
その直後、海岸から数百メートルの水面に水柱が上がった。
「で、私達はなぜ99式で待機してるんだっけ?」
99式自走榴弾砲の砲塔に腰掛けている香里。
「連中がダメージを受けたりして気が変わった場合の上陸阻止だろ」
「そうだったわね」
「でも祐一、さっきのアレで工作船の気が変わったりするかな」
「逆に油断するんじゃない?」
「ああ、つーか憲兵隊来てるぞ?」
「憲兵隊?」
治安維持を専門に行うUNTAK憲兵隊が陣地に到着したところだった。
90式戦車を装備した憲兵戦車隊のトレーラーが見えた。
「上陸させないなら憲兵隊は要らないんじゃないの?」
「佐祐理さん達には佐祐理さん達なりの事情があるんだろう」
陣地に着いた特大型セミトレーラから、戦車を降ろす作業が始まっていた。
舞が呟く。
「いた」
佐祐理が呼びかける。
「あははーっ、そこにいるのは88式改良型を3連発で外した北川さんですねーっ」
一瞬硬直した北川。佐祐理・舞・あゆ・美汐の戦車クルーを見た瞬間、88式地対艦
誘導弾発射機に飛び乗った。
「待ってくださーい、大人しく尋問を受けて下さいね〜」
誘導弾発射機が急発進する。舞が叫んだ。
「戦車!」
「無理です!」
即答する美汐。
「佐祐理、あれで!」
近くにあった73式小型トラック(新)に乗り込む佐祐理・舞・あゆ。
こちらも急発進で追いかける。
88式地対艦誘導弾発射機は、73式特大型トラック(後期型)の車体に
誘導弾の発射装置を架装した車両である。
あゆが運転する73式小型トラックが近づいたとき、突如トラックの車輪が脱落した。
「うぐぅぅぅっ!」
とっさに急ハンドルで回避する。
「…タイヤミサイル」
大きなタイヤが、73式小型トラックのすぐ横を勢いよく転がっていった。
「あゆさーん、確かタイヤが大好きでしたよねーっ、めげずにガンガン追いましょうね〜」
「ボ、ボクが好きなのはタイヤじゃなくてタイヤキだよっ!」
「追いつけなければ斬る」
「うぐぅ…」
しょげるあゆの横で通信器が鳴った。
『天野です。戦車を配置につけますので戻ってきて下さい』
「舞、仕方有りませんね〜」
「次は許さない…」
73式小型トラックはUターンし、陣地へと走り始めた。
その3分後。
「佐祐理、何だか焦げ臭い」
「はえ? 誰かこの辺でコミー相手にナパームでも使ったんですか?」
「うぐぅ、車輪が燃えてるよ〜」
「そこの川に!」
すぐそばにあった、それ程大きくない川に乗り入れて73式小型トラックは止まった。
美汐を無線で呼ぶ佐祐理。
「天野さーん、すぐ近くにいるんですけど、迎えに来ていただけますか〜」
暫くして、美汐の操縦で90式戦車がやってきた。
「すみません、そこの橋は重量制限無理なんで直接川に入っていいですか?」
「あははーっ、お任せしますよ〜」
それ程水深がなかったため、90式は佐祐理達のいる対岸まで川を通ってきた。
3人を載せ、戦車は陣地へ戻る。
陣地にて。
「うぐ?」
「どうかしましたかあゆさん」
「うぐぅ、おかしいよ。ガス欠みたい」
「まさか…」
戦車の下をのぞき込む美汐。
「すみません、さっき川底で床下をぶつけてしまったようです。燃料タンク破損です」
さっと顔色が変わった佐祐理。引きつった笑顔で応える。
「わかりましたーっ。では撤退ですよーっ」
「佐祐理、珍しい」
「あははーっ、佐祐理だって欠陥装備に乗って靖国の門をくぐるのは御免ですよ〜」
翌日。
「よう栞、結局待ちぼうけでご苦労さんだったな」
「あ、祐一さん。昨日の工作船、UNTAKの完敗でしたよ」
「取り逃がしたのか」
「沖縄海域で海保に捕まりました」
「栞、本当?」
「はい、ニュースでやってます」
「間の海域には護衛艦が警戒に当たっていたはずよ?
「それが、突風でマストが折れて通信不能だったって」
「まだあったの? 例の溶接不良」
「何とかしてほしいぞ、本当に」
「祐一、知ってた? 実は99式の足まわりが…」
「やめろききたくない」
東京、市ヶ谷 防衛庁。
とある会議室の一つで、ビデオ上映が終わる。
「ここで一息入れましょう。……ロシアンティーを如何ですか?」
「は、恐縮です」
某M重工と某M自動車の営業担当者は礼を述べる。
少しだけ紅茶の入ったカップの中に、瓶からすくいとった例の代物を
たっぷりと入れた秋子。
「御馳走になります」
秋子は聖母の笑みを浮かべた。
−Fin.−
<あとがき>
ぱたぱた…
「澪ちゃん澪ちゃん、何やってるの?」
『あのね』
『スケッチブックの虫干しなの』
「ここ最近出番が無かったもんね」
『作者の怠慢なの』
「ところで澪ちゃん、そのサインペン、菱形が三つついてるけど、大丈夫なのかな?」
『こっちの三菱は某財閥とは無関係なの』
「以上、豆知識でした〜」
そんなわけで、ここ最近某M重工&自動車がらみのトラブルが目についたので
不謹慎な気もしますがネタにしてみました。
しかしまあ、血税で購った装備が実は使い物にならないどころか自衛隊員の命まで
危険に曝しかねないのだとしたらこれはもう二重の犯罪。
まあ自衛隊の装備は優秀な武器科隊員によって日々入念な整備を受けているので、
現実にはこのよーな事は起こらないと思いますが。きっと。……多分。
蛇足ながら付け加えますと、本編に登場した誘導弾及び車両類は全てM重工or
M自動車の製品だったりします。