人体への影響はどれくらい? 摂取しても安全な量は?
排出に関する我国の法規制 排出濃度に関する基準
ダイオキシンの人体への影響はどれくらい有るのですか?

環境庁の「ダイオキシンリスク評価検討会」の中間報告(1996年12月発表)では、以下のように報告されています。
 『人の疫学調査の結果から、ダイオキシン類はクロルアクネを除いては人の健康影響に関する明確な結論は得られておらず、発ガン性、生殖毒性及びその他の健康影響の有無に関しても、明確な結論は得られていない。
   (注)クロルアクネ:水疱様のできもの、塩素坐瘡。

その後、1997年2月、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、ダイオキシンの発ガン性について、従来のグループ2B(人に対して発ガンの可能性が有る物質)からグループ1(人に対して発ガン性がある物質)に評価替えを行いました。この変更は、20人の学者がフランスのリヨンで8日間討議し、11対9の僅差で決定されたものです。ダイオキシンの発ガン性についての、今回の討議から分かる事は、世界中のダイオキシン学者の意見が二分していると言う事です。それほど、ダイオキシンの評価を定める事は難しいと言う事でしょうか!安易な気持で、世間を震撼せしめるような事を言うのは困った事です。

参考までに「評価検討会」の最終報告(1997年5月)での個別コメントを以下に抜粋しておきます。

@ 一般毒性

 『1976年イタリアのセベソで発生した事故は大きな社会問題になった。住民の中毒症状は早い人で2日後に出はじめ、特に子供達に多数のクロルアクネの症状が見られた。急性中毒による死亡者は出ていない。妊娠中の女性をどうするかは大問題でしたが、人工中絶の結果では明らかな奇形発生率の上昇は見出されなかったようである。』

A 発ガン性

 『2,3,7,8-TCDDの発ガン性についての疫学的研究の結果については多くの議論がある。他の多くの疫学的研究と同様に、2,3,7,8-TCDDへの暴露の評価には不確実な点が多い。まとめると、 疫学的結果から得られている結果は、高濃度暴露を受けた人、特に男性の集団においてダイオキシン類は、各部にガンを発生させる可能性を持つ物質であると言う事である。』

 B 発ガン性機構ト閾値

 『現在のところ、2,3,7,8-TCDDはDNA付加体の生成などのDNAとの直接的な結合もなく、各種の変異原性、遺伝毒性試験にも陰性の結果が多い。このことから、2,3,7,8-TCDDの発ガン性は直接的な細胞の形質変換活性を持っているのではなく、間接的な作用か、あるいは細胞増殖作用(プロモーション作用)によるものと考えられている。また、現段階の知見は、2,3,7,8-TCDDの発ガン機構に閾値がある事を示唆している。』

 (注)ダイオキシンはプロモーターではあっても、イニシエーターではなく、また、或る値以上でなければ,プロモーター作用は起きない事を、ここでは結論している事になる。

 C 変異原性・遺伝毒性

 『現在のところ、2,3,7,8-TCDDあるいは2,3,7,8-TCDDの代謝物がDNAと直接、共有結合をすると言う報告はなく、一部で認められた染色体異常及びDNA傷害性は、2,3,7,8-TCDDによる代謝活性化を介したものであると考えられる。したがって、2,3,7,8-TCDDは直接の遺伝子突然変異、染色体異常及びDNA傷害性、即ち遺伝毒性(遺伝子毒性)を有しないものと考えられる。

 D 生殖毒性

  いくつかの報告書の紹介は有るが、人の生殖毒性に関する評価検討会としての明確な見解は出されていない。したがい、現状は明確な事は言えない段階にある。』


1997年5月に当評価検討会は最終報告を出しましたが、その総括内容は IARC の影響を受けてか、中間報告の総括文にくらべ、以下のように微妙に変化しています。

『人に対する影響については、今日までに報告された疫学調査の結果からは、ダイオキシン類への職業性、あるいは事故による過剰な暴露により、クロルアクネが強く現れ、また肝障害、神経症状、呼吸器系への影響などが報告されている。持続性の健康影響としては、クロルアクネが広く認められているが、生殖毒性については、正確に論証した報告が無いのが現状である。


 

摂取しても安全なダイオキシンの量はどの程度なのでしょうか?

世界の主要国が設定しているTDI(Tolerable Daily Intake:耐容一日摂取量)等は5-10pg/Kg/day程度です。TDIとは、健康影響の観点から、人間が一生涯摂取しても耐容されると判断される一日当り、体重1Kg当りの摂取量の事です。

 このような値が定められたのは、動物実験の結果にもとずくものです。実験動物を用いた長期の投与試験(105週)から、ラットの発ガンに対するNOAEL(無毒性量)は、1ng/Kg/dayである事が報告されています(1978、Kocibaら)。その後、この数値及びその他の多くの実験結果の幾つかが、専門家の認めるところとなり、現在では、これらをベースにして各国でTDIなどが求められています。下表は各国が設定している現状のTDI等ですが、それぞれの国による安全係数の見方(100〜1,000)の違いから数値には幾分差が出ています。

各国及び国際機関におけるダイオキシンのTDI等 [pg-TEQ/Kg/day]
国  名 設定時期 位置付け 数 値 備  考
ドイツ 1985 TDI
目標
10
1
 
スウェーデン 1988 TDI
TWI
0-5
0-35
一週間
デンマーク 1988 TDI
TWI
0-5
0-35
一週間
カナダ 1990 TDI 10  
WHO 1990 TDI 10
オランダ 1991 TDI 10  
イギリス 1992 TDI 10  
スイス 1993 TDI 10  
アメリカ 1994   0.01 提案中
日 本 厚生省 1996 TDI 10 厚生省
環境庁 1997 (*) 5 環境庁

(*)健康リスク評価指針値。

日本では、厚生省の「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究班」が、1996年6月に出した中間報告の中で、TDI 10pg/Kg/dayを提案しています。これとは別に、環境庁が設置した「ダイオキシン類の排出抑制対策のあり方に関する中央環境審議会」は、1997年6月の答申において、「健康リスク評価指針」として5pg/Kg/dayを定め、これをベースとした大気環境濃度の指針を提案しています。これらの数値が今後我国において、法的に位置付けられる事は無いようですが、ダイオキシンと人の安全に関する基本的な数値になる事は間違い無いものと思われます。

表中アメリカの数値が極めて小さな数値になっているのは、「閾値なし」という他国では採用されていない考え方を取り入れているためです。「閾値あり」とするか「閾値なし」とするかによって、TDIの考え方は大きく分かれますが、アメリカ以外の主要各国は「閾値あり」の立場に立っています。米国のEPAにおいては、数年前から設定値の見直し作業が進められ、「閾値あり」の方向に傾いているようですが、未だに結論が出ていないのが実情です。

 

ダイオキシンの排出に関する、我国の法的規制はあるのですか?

従来、法的規制はありませんでしたが、この度、関係法令が改正されて、ダイオキシンの排出が法的に規制される事になりました。

ダイオキシンは、今まで「大気汚染防止法」上の規制対象物質に指定されていませんでしたが、施行令が改正(H9.8.29公布、H9.12.1施行)され、規制対象物質となりました。これを受けて「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃掃法)の施行令等も改正(H9.8.29施行)され、ダイオキシンの排出基準等が定められました。改正の要点は以下の通りです。

@規制対象焼却炉を、従来の処理能力5t/日から、200Kg/日又は、火格子面積2平方ートル 以上のものとする。
       (注:これより小規模産廃処理用の焼却炉も対象となる。)

A焼却炉中の燃焼ガス温度を、800℃以上の状態で2秒以上滞留させる事
       (注:完全燃焼のため)

B燃焼ガス温度を200℃以下に冷却出来る設備を設置する事。
      (注:ダイオキシン再合成防止のため。)

C排ガス中のダイオキシン濃度を次の基準以下にする事。

排ガス中の要求ダイオキシン濃度  [ng-TEQ/m3]
燃焼室 新設炉 既設炉
1年後まで 5年後まで 5年後以降
4t/H以上 0.1 基準の適用せず 80 1
4t/H未満
2t/H以上
1 基準の適用せず 80 5
2t/H未満 5 基準の適用せず 80 10

            <注>1年後まで:1997.12.1-1998.11.30
              5年後まで:1998.12.1-2002.11.30
               5年後以降:2002.12.1-

 ダイオキシンの排出基準は、どのような考え方で決められたのですか?
      (排出基準:80ng-TEQ/Nm3と0.1ng-TEQ/Nm3)

厚生省の「ゴミ処理に係わるダイオキシン削減対策検討会」がまとめた報告書(H9.1)の中で基準設定の考え方が、次のように明確に述べられています。『ダイオキシン類の排出濃度の基準を設定するに当っては、二つの考え方がある。ひとつは、人体に対する健康の観点からの設定である。TDIを指標とし、既設の焼却炉の緊急対策の必要性の判断基準としての80ng-TEQ/Nm3という基準を示している。もうひとつは、技術的に実施可能な観点からの基準である。旧ガイドラインにおいて、新設の全連続炉について提示した0.5ng-TEQ/Nm3や、新ガイドラインで示している恒久対策の基準(新設の全連続炉0.1ng-TEQ/Nm3など)はこれに該当する。

以上のような考え方から、厚生省が定めた80ng-TEQ/Nm3の基準値は、基本的にTDI,10pg-TEQ/Kg/dayを基礎として算出されたものです。私達が、日常食物等から摂取するダイオキシン量と、この拡散された排ガス中のダイオキシンを更に摂取する量の合計が,10pg-TEQ/Kg/dayとなるよう、焼却施設からの出口濃度を逆算したわけです。厚生省の上記対策検討会は、この関係を分かりやすく図示しています(下記)。また、この基準値を定めるにあたっての拡散倍率は20万倍となっていますが、これは、ゴミ焼却施設の周辺地域において最も濃度が高くなる地点(最大着地濃度地点)における拡散倍率になっており、このような事から80ng-TEQ/Nm3は、かなり安全を見込んだ数値になっていると言えます。次に0.1ng-TEQ/Nm3の基準値ですが、これは、ヨーロッパ諸国においても同じ数値が設定されており、現状の技術で達成可能と考えられている数値です。


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