S・A・ドゥーゼ著作リスト(原題):Privatdetektiven Leo Carrings maerkvaerdiga upplevelser
私立探偵レオ・カリングの不思議な経験
※ウムラウト及びリング文字については代用表記としました。
S・A・ドゥーゼ邦訳著作リスト
初出一覧
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作品紹介
それは交換台が間違えて繋いだ一本の電話から始まった。女は間違い電話に気づかず、情夫が強盗の計画に荷担するのを止めようと説得を繰り返す。電話の向こうで聞いていた私立探偵バンゲは計画の全てを聞き出すと、名を上げるチャンスとばかり、狙われている手形交換所の支配人に電話をかけた……。
犯罪計画の裏をかき、悪漢を捕らえる筈があまりの段取りの悪さ、読みの無さにあっさりと逃亡を許してしまうバンゲ探偵実に情けなし。であるにも関わらずタイトルは「名探偵」。逆説か、と思いきや成る程、おしまいまで読めば確かに名探偵ものであった。探偵レオ・カリング譚の外伝的コント。
友人の弁護士ブロンゲを訪ねたリンクは、先客と思しき赤髭の男に出迎えられた。控え室に通され待たされる事半時間、一言の挨拶もないのを不審に思ったリンクが弁護士の部屋のドアを開けてみると、中には二人の男の射殺死体が。一人はブロンゲであり、もう一人の赤髭の男は先刻の客に違いない。リンクは慌てて知人である探偵カリングを呼び、警察の到着を待った。赤髭の男は有名な商人のメルトン。状況からすると二人は何らかのトラブルが原因で撃ち合いをやらかしたように見える。しかし外にいたリンクは一発の銃声も聞いてはいないという。警察とカリングによる丹念な現場の捜査が進む中、リンクの後に約束をしていたというアンゲルスという男がやって来た……。
記述の方法という点から言うと、手がかりは読者に対して明示されない。従って読者はカリングが「ここにこんな手がかりが残っていた」と唐突に導き出す解決を待つだけの立場で、推理に参加するような読み方は出来ない。ではプロットやトリック的に読み応えがあるのかと言えば、それもちょっと。メインとなるトリックもそうだが、探偵による誘導尋問めいた白々しい芝居など、どうにもとってつけた感が拭えず、楽しむのは難しい。カリング(というより作者ドゥーゼ)は犯罪者を罠に掛け、犯行を暴くという手をよく使うが、その安易な方法論も物語を幼稚で深みのないものにしている一因だろう。
工員のズンドは、工場の備品を持ち出して売った事がばれ、工場主のブレンゼルに呼び出された。窃盗で訴えるという工場主の言葉に逆上した彼は、金梃の一撃でブレンゼルを殺害してしまう。死体は階段を転がり落ち、地下室に置いてあった木箱の中に飛び込んだ。我に返り、証拠隠滅を謀るズンドの目の前には燃えさかる工場の炉。彼は必死で死体を炉に放り込み、夜のうちに燃やし尽くしてしまった。そしてブレンゼルの死体が飛び込み、血痕が付着してしまった木箱――元はといえばこれらの木箱に番号がふってあった為に、自分の窃盗が露見してしまったのだ――も又、ばらばらに分解して炉にくべる。全ての証拠は消えた……誰も知らぬ間に、工場主はこの世から消え失せてしまったのだ……。
一種の倒叙ものだが、一点の隙から完全犯罪が瓦解してゆく、というような本来倒叙ものにあるべき面白味はない。犯行が完全犯罪とはほど遠い、あまりにも隙だらけなものだから。その代わり、犯人ズンドの感情の動き――激情・恐怖・不安が実に面白い。犯行のショックで寝込んで一週間後に出勤したズンドを待っていたのは、地下室から匂ってくるという腐敗臭と、燃やした筈の三三二号の木箱……まるでホラー小説のような展開。勿論これも探偵カリングの仕掛けた罠(又か!)なのだが、そんなイージーな仕掛けも、ズンドの迫力溢れる熱演に免じて許したい。
画家のトレイエが自分のアトリエで刺殺死体で発見された。被害者は背後から心臓を一突きされて即死。アトリエからは一枚の裸婦画が消えていた。その絵には十万クローネという破格の金額がつけられていたが、その絵を売らないという約束でモデルとなったレオノラは、金に眼が眩んで絵を売ろうとするトレイエに対して非常に腹を立てていた。前夜、二人が猛烈な口論をしているのを近所の者が立ち聞きしており、凶器の短刀はレオノラの家の壁にかけてあったものだった。しかもトレイエの家の鍵がレオノラの家のごみ箱から発見されるに及んで、彼女はトレイエ殺害の容疑者として拘引される。しかし検事のザンデルゾンは彼女が殺人犯人だとはどうしても思えず、私立探偵レオ・カリングの許に相談に訪れる。カリングは検事の言葉を聞き終わるとすぐに、レオノラを釈放するように検事に指示を出した……。
トレイエ殺害の謎を解くには彼女を釈放するしかない、とカリングは言う。相変わらずの一人合点に検事も読者も面食らい、解決をカリングに任せる他ない。作者ですら描写していない容疑者達の態度・顔色からカリングは手がかりを読み取り、誰にも知らせずに現場や容疑者宅から遺留品を見つけだして推理を展開する。「推理」する小説としては初めから条件を満たしておらず失格、されど天才探偵カリング讃の物語であるとすれば、誰も(登場人物ばかりか、作者・読者まで含めて)気がつかぬ手がかりを瞬時に見つけだすカリングの神通力を証明する最上の方法論であるともいえる。登場人物のまなざし、作者のまなざし、読者のまなざしは全て混同され、探偵のみに神のまなざしが宿る。メタレベルでの実験作でもあるまいに、これは作者ドゥーゼの天性なのか、ページの都合で訳者が端折りでもしたが故の事故なのか。
探偵レオ・カリングを訪ねて来た青年ユングウは、ポケットから黒い小罎を取り出すと、中身の鑑定を依頼した。彼はヘレネという娘と恋仲になったが、彼女の継父は非常に嫉妬深い人物で、二人の関係を快く思っていない。何とか二人で一夜を過ごしたいと考えたユングウが彼女に相談すると、彼女は手持ちの眠り薬を差し出した。薬を飲ませる役目を引き受けたユングウは、帰り際、ヘレネと継父のデフール氏とが激しい諍いをしているのを立ち聞きしてしまい、不安に駆られてカリングを訪ねたのだった。薬品を鑑定したカリングは、強力な眠り薬だが人体に害はない、といって薬をユングウに返す。そして晩餐会の夜、デフール氏に一服盛ったユングウだったが、氏はその場で卒倒し屋敷に運ばれる。同席していた医師の診断はアトロピン中毒、ユングウは図らずも殺人者の立場に立たされてしまった……。
前例はそれこそ山のようにありそうなストーリーだが、今回の場合は隠された人間関係、意外な真犯人が秘めた動機についての手がかりが読者にもわかるように書いてあるという点で、ドゥーゼとしては画期的な作品といえる。筋立てや作者の施すトリックはそれほど見栄えのするものではないが、天才カリングの観察力と推理力はここでも健在である。
S・A・ドゥーゼ参考文献
著作リスト作成にあたり下記の文献を参照しました。
「翻訳短篇探偵小説目録」江戸川乱歩・編(『1951年版探偵小説年鑑』岩谷書店・昭和26年10月)
『大衆文学大系別巻 通史 資料』(講談社・昭和55年4月)
「「新青年」全巻総目次」「新青年」研究会編(『「新青年」読本』作品社・昭和63年2月)
原題リストについては、横井司さんとご友人の調査記録(スウェーデン王立図書館所蔵目録より)を利用させて頂きました。