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毎月のブックレビュー


☆スラップスティック!

スラップスティック カード・ヴォネガット 早川文庫

ハイホー!! 評判はよくないけど、わたしはこれが一番好きだ。ハイホー! 超老伝もだけど、繰り返し言葉に弱いのかもしれない、ハイホー。ディティールが寓話的にキュートで、読んでいるとビジュアルがガーンと浮き出てくるところがいい。双子好き、異様な家族好きという弱点にもヒットした。ハイホー。どんな悲劇的なことがあったとしても、それはたんなるめぐり合わせだという言葉がかたちを変えて繰り返し出てくるのに、妙に宗教的なカタルシスを感じさせるアンビバレントなところが面白い。神様っていうのは、西洋人の業なのかもとふと思う。

超老伝 カポエラをする人 中島らも 角川文庫

おむつおむつおむつ。婆さんになったらこんなカッコいい爺さんを口説き落とそう! カダラの豚の呪術的イメージの豊かさもよかったけど、中島らもで1冊選ぶならわたしはこれ。アフリカの呪術テーマだとどうしても「やし酒飲み」を思い出して、イマイチ深刻になれないから。ボルヘスな南米の呪術もの中島らも版を読んでみたい。ハードカバーではもうそういうのあるのかな。超老伝は、出てくるキャラが全員作者からの愛情につつまれていて、ディティールが最高に面白い。いれずみ師の父娘が特に好き。最後のアチャラカになるところがまた愛しい。おむつおむつおむつ。

悪魔の国からこっちに丁稚 L・スプレイグ・ディ・キャンプ 電撃文庫

爽快なまでの馬鹿馬鹿しさがツボにハマってしまった。ギャグのいちいちが好み。「一晩かけてゆっくり食べた」というフレーズが脳裏に残って思い出しては笑ってしまう。カラっと笑いたい時についパラパラ読んで、その度に笑える。ジュニア向けの小説って、けっこう掘り出し物があるから侮れない。田中哲弥の訳が特にハマったのかもしれない。

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☆COOL!

町でいちばんの美女 チャールズ・ブコウスキー 新潮文庫

やっと文庫になってうれしい!! ブコウスキーは最高にクールでカッコいい!! と、本人と主人公を混同させてしまうのも作者の力技。容貌魁偉な男ってセクシーだ。表題作の中で、恋人が自傷行為を繰り返すのをいさめるのに、「みているおれがつらいんだ」って主人公に言わせるなんて、女心の機微を知り過ぎ〜。いっしょに墜ちるとこまで墜ちてみたい作家No.1!  でももう亡くなっちゃったんだなぁ、哀しいなぁ。ウチのポスペ熊ぬいの名前にブコウスキーってつけたんだけど、お気楽な熊ぬいでなんか申し訳ない気がする。

不夜城 馳星周 角川文庫

無国籍でクールでため息が出るカッコよさ。最後の方の車の中の場面は、30回くらい繰り返し読んだ。その度に鳥肌が立った。何回読んでも、まだ面白い。センチメンタルな部分がこれっぽっちもないのに、こんなに切ないストーリーになるなんて奇跡みたいだ。物語のドライとウェットっていう区分けで言えばわたしは断然ウェットの方が好きなんだけど、ベルモットの壜を眺めながらジンを飲むっていう究極のマティーニみたいにドライなこの不夜城にはすっかりイカれてしまった。でも、これを読むと、次になごみ系の本を読む時に、よほど極上のなごみ系じゃないと「ケッ!」とか思ってやさぐれてしまうのでリハビリが必要。

重力が衰える時 ジョージ・A・エフィンジャー 早川文庫

SFだったらなんでも好きだけど、これは読んだ時、人生2番目に「バーチャル」な感じが痛切に迫ってきてショッキングだった。ちなみに、1番「バーチャル」と思ったのは、現実の誰かのを忠実に再現した「大人のオモチャ」があるって聞いた時(笑)。重力が衰える時は、アラブ世界でハードボイルドでしかも脳味噌をがんがんいじっちゃうようなSFだったから余計わくわくした。できれば、最強のアンドロイドに自分の記憶を全部ダウンロードして、宇宙空間でも太陽の核の中でもブラックホールでもずんずん観光散歩できちゃって、いろんな知識もダンロードし放題になれたらなぁとまで想像が広がる。さらに、ハードボイルドはレイモンド・チャンドラーにハマってからどうしても抜けられない。

愛と幻想のファシズム 村上龍 角川文庫

SMものも捨て難いけど、ボリュームや設定のドラマチックさからもこっち。『コインロッカー』と比べても、泥臭さとセンチメンタルな部分とのバランスが気持ちいい。ファシズムの部分を切り捨てる冷酷さは、生物学的に必要悪なのではというような(うろ覚え)晩年のローレンツ博士の発言を思い出したりして、面白さだけではなくいろいろ啓発される1冊。読み出すと中だるみなしでスピードがラストに向けてどんどん加速していくのはいいんだけど、けっこう分厚い本なので体力がない時に読むと具合が悪くなる。村上龍は、評判の悪い『大丈夫マイフレンド』も、設定が好きでたまらない。

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☆おしゃれでなごむ!

ブロードウェイの天使 ディモン・ラニアン 新潮文庫

20年代NY、やさぐれてはいるけど心優しい人間達の、オシャレでちょっと泣かすハートウォーミングなドラマの数々…、って説明するとクサいだけなんだけど、こんなに楽しくて切なくてうれしくて哀しい面白い本はない!! すごく身も蓋もない表現をすれば、めっちゃカッコいい寅さんシルーズなのかもしれない。新書館でも、「野郎どもと女たち」など4冊くらい出ているんだけど、ほとんど本屋で見かけないのが寂しい。これは唯一文庫に入っているので、比較的手に入れやすいかも。赤ん坊を連れて金庫破りに行く話とか、博打打ちが伝道師の女性を好きになってしまう話とか、よくできた映画のような話がいっぱいあるのになんで日本では人気が出ないのか不思議。

ママ アイラブユー W・サローヤン れんが書房新社

キュートで元気が出てお洒落で面白い!! サローヤンの中で珍しくディモン・ラニアンテイストのあるもの。とっても昔の話なのに古臭さがなくて、いい感じに懐かしい。ママ・ガールのワガママぶりが最高! 風邪引いた時に読み返したくなる。運転手付の車で、ピクニックバスケットにごちそういっぱいにつめて、ママ・ガールと主人公の女の子がコニーアイランドに行く場面は、一緒に車に乗っているようなワクワク感があって好き。ラストの1行の爽快感はちょっと他にはない。ちょっと体調の悪い時とか、気分がダウンしかかっている時に読むと、ほんわかと足元から暖かくなる。文庫でも出ている気がする。

草の竪琴 トルーマン・カポーティ 新潮文庫

カポーティは全部好きだけど、どれか1冊と言われればこれ。というのも、カポーティが大好きだったのに、この新潮文庫版が出るまでアメリカ文学全集とかでしか「草の竪琴」読めなくて、とってもクヤシイ思いをしたので、その分もつい加算してしまう。カポーティはディティールが寓話的で南部の泥臭いタームを散りばめた短編が多いけれど、全体の印象がとても洗練されているから、読み終わった時に重たくならないところがキモ。キャラクターや設定でもっともっと突っ込めるところを、ベタにならないようにすっと外すんだけど、余韻があって物足りない気持ちにならないしね。

木のぼり男爵 イタロ・カルビーノ 白水社新書

冷静に考えてみるとすごく馬鹿馬鹿しい設定なんだけど、少しも無理を感じさせない文章力。寓話とかファンタジーを読むっていう心構えがなくても違和感なく読める。寒い冬、ヨーロッパのあんまり高い爵位はなさそうな貴族の別荘で、暖炉の傍にある安楽椅子に座って邸の主にお話してほしい。でもイタリア語じゃぁサッパリわからないけどな。ヨーロッパって伝統的にすごくヘンな人が一定量湧くみたいだけど、結局それが文化っていうものなのかもしれない。日本にも最近、地道にヘンな人が増えてきてわくわくする。

ゲイルズバーグの春を愛す ジャック・フィニイ 早川文庫

福島正美の訳は嫌いだけど、ジャック・フィニイならなんでも許す。性善説な世界だった古きよきアメリカが濃縮されてぎゅうぎゅうに詰まっている。ジャック・フィニィのゲイルズバーグものは全部好きだけど、わたしが持っているこの本は内田善美の絵が表紙なのでつい選んでしまう。フィニイのゲイルズバーグものは、夢は叶えるものという強い信念を過去への憧憬にからめて描いているから、現実を否定しているだけのレトロ趣味っていうのとは違うし、ベースがとても健全で強靭だ。小さい幸せにピンクのリボンかけて持たせてもらったような、少しこそばゆい心地よさがある。

たんぽぽのお酒 レイ・ブラッドベリ 晶文社

テニスシューズ、老人と子供、夏休みと、好きなテーマてんこもり。レイ・ブラッドベリは全部好きだけど、一番最初に読んだこれが一番印象深い。「とりかえしのつかない夏」というパターンには抵抗できない。しかも、ストーリーの中に、立派な短編にできそうなエピソードがぎっしり詰まっていて、それが立ちあがってお互いに絡み合うにしたがって物語が収斂していくという豪華さ。中でも、おばあちゃんの台所のエピソードがすごく好き。ブラッドベリは、読んでいるうちに濃密なビジュアルがもやのようにじわじわカラダにからんでくる感じがする。なごむっていうのとは少し違う気もするけどまぁいいや、ココで。

夏の庭 湯本香樹実 新潮文庫

三國連太郎主演の映画にもなったので、ストーリーを知っている人は多いかも。古びた家に住んでいる偏屈なお爺さんと小学生の男の子達グループが一夏を共に過ごすという、どこかにありそうな設定で、とても短いお話なのに心に残る。上品で優しくて、芯の強いところがあって好き。自分を省みてもそうだけれど、時代も悪い意味での本音とか正直さを追求し過ぎている気がする。自由にできる金額とは関連のない品の良さとか、矜持、含羞(恥ではなく羞ね)、経済的なものではなく誰にも精神的に依存していない状態という意味での自立とか、読んでしばらく経ってから、ふとそういうまっとうな事を考えてしまう。

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☆イヤ!

嘘、そして沈黙 D・マーティン 扶桑社文庫

生理的嫌悪を誘う本ってなんで無性に読みたくなるのか? こんなイヤな話ってあり? と思いながら読んでいて、「あぁ、こうなったらもっとイヤかも」と思う通りになっていき、想像もつかないくらいイヤな展開が待ち受ける。この人のって他の作品も全部ヤな話ばっかり。でも読んでしまう。思い出すだけでイヤなのにたまにパラパラしているうちに読んでいる。終わりよくても全てよくならないくらいイヤな話だ。なのに読む。そういう自分が少しイヤかもしれない。日本のでイヤな小説ベストは、「ループ」だ。これは読み返すのも思い出すのもイヤだ。

シャイニング スティーブン・キング 文春文庫

スティーブン・キングの中ではやっぱりコレ。初期の頃のだから救いがあった。でも救いがあるのに思い出すと身の毛がよだつ。バスルームの場面の話をする人とは友達になりたくない。読んで5年くらい、背表紙を見るのも恐くて、本棚の奥に隠しておいた。それでもそこらあたりからオーラがでてくる気がして怖かった。いまだに再読する時、バスルーム場面は飛ばしてしまう。なのにやっぱり好きで泣けて、わくわくする。キングはすごい。

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