| 魚は採集すればすぐに飼育が始まります。
その当時の水槽は、始めた頃の30センチ水槽からは少しは大きくなったものの40センチでした。
その小さな水槽に所狭しと魚やら海草が入っていて、1週間もすると海草は溶けてきて水を汚しました。
水の管理は物理ろ過しか頭になくて、水は汚れるもので定期的に交換するしかないものと思っておりました。
生物ろ過、化学ろ過などは、Oさんから借りた海水魚飼育の本で知りました。
本で見る水槽は小さくても60センチ、私のような40センチでは水の管理は難しいっと書かれていました。
それではと、早速ペットショップを訪れると60センチの4点セットが5千円を切る価格で売っていました。
これなら私の小遣いでも買える値段で、それにサンゴ砂、サンゴ砂の下に敷くスノコを買います。
いわゆる、ウェットろ過で、サンゴ砂の層を海水をゆっくり通せばサンゴ砂に自然に発生した好気性バクテリアが、海水の中に溶け込んだ汚れを食べて綺麗にしれくれるろ過方式です。
スノコを引いて、ポンプに通じるパイプを取りつけて、軽く洗ったサンゴ砂を引いて行きます。
水槽の上には上部ろ過で、物理ろ過のフィルターを入れて、これで配管の接続はおしまいです。
海水を注ぐとちょっと白く濁りますが、構わずにポンプのスイッチを入れると数分で水は綺麗に澄んできました。
ここで40センチ水槽から魚を移すのですが、以前に捕まえていれていたオキゴンベイやボラなどは海に戻して、フウライチョウチョウウオ1匹でのスタートとしました。
Oさんから借りた本には、水槽の立ち上げは始めから魚をいっぱいいれては駄目っと書いてあったからです。
生物ろ過とは
餌の残りや糞は有機物で、それからアンモニアが発生します。
すると自然にそのアンモニアを餌とする好気性のバクテリアが発生して亜硝酸に換えてくれます。
また、亜硝酸が発生するとそれを餌として硝酸塩に換えてくれるバクテリアも発生します。
アンモニアや亜硝酸は魚にとって猛毒ですが、硝酸塩はそれほど害は有りません。
しかし、その硝酸塩も蓄積してくるとストレスの原因となるので、定期的に海水を交換しなければなりません。
まあ、水槽が完全に立ちあがるには時間が必要で、魚は少しずつ増やして行けば良いっと、安直に考えて行きましょう。
次ぎは餌付けです。
アサリを剥いて包丁で小さく刻んでアサリの殻に盛って、O師匠が貸してくれた餌付け用の隔離箱にそーっと入れてやります。
チョウはまだ環境に慣れていなくて、相変わらず箱の隅っこにいて、まだ餌には見向きもしません。
それでも、たまに突っ突くようで、アサリが殻らこぼれ散っています。
アサリのミンチを食べるようになったら、次ぎは市販されている海水魚の、粒状の乾燥餌をミンチに混ぜて行き、最後は市販の乾燥餌だけでも食べるようになって餌付けは完了です。
このような情報は、O氏からも聞けましたが、私が急激に海水魚にはまり込んだのはパソコン通信があったからだと思います。
今ではインターネットでしょうが、その当時はパソコン通信からインターネットに移行し始めた時期でニフティサーブが最盛期だった時期です。
フウライを捕まえてから、パソコン通信巡回ソフトのニフティマネジャーで「海水魚」のキーワードで検索すると「採集」、「飼育、機具」などのフォーラムがありました。
ますます、私が採集と飼育にはまり込んで行ったのは言うまでも有りません。
第5話 岸壁採集
M湾で採集したチョウはフウライチョウチョウウオと言う名前だそうで、その他にもいろいろな魚がいるようです。
水槽が落ち着くのを待たないで、他のチョウを求めて私の岸壁めぐりが始まりました。
始めはM湾の隣のA湾に行って見ました、大きなタマとバケツを持って岸壁を行ったり来たりしていると地の漁師が不思議な顔をして話しかけて来ます。
漁師 「さっきから行ったり来たりして、何をさがしてるんだい。」
私 「南の海から来るって言われている熱帯魚を捕まえているんですよ。」
漁師 「ああ、真夏の時期になると、よく岸壁を突っ突いているのをみるなー」
私 「あ、やっぱりいますか、どの辺ですか、この岸壁は水が濁っていてあまりよく見えないんです。」
漁師と別れてゆっくりと岸壁を見て行くと蠣殻の間から、小さい綺麗な魚が岸壁を突っ突いているのが見えました。」
「いた!!!! 」
今回の魚は自分で見つけた魚で、「え、こんなに簡単に見つかるものなの。」っと言う気持ちと、「見つけちゃったけど、どうやって採ったらいいの。」っと言う気持ちで、しばらくその魚をながめていました。
いつまでながめていても仕方がないので、まず魚がいる所の上に立って魚に気づかれないように離れた所からタマ網を入れて近づけて行きます。
初めてのフウライの時のように2-3度逃げられはしたものの、そんなに労せずにタマにいれる事が出来ました。
タマからバケツに移してよく見ると初めてのチョウとは模様がちょっと違うようです、フウライに比べてオレンジの赤みが強いようです、
これは早い時期に魚の図鑑を買わなければいけないっと思いながら、船が繋いである岸壁から家族連れが魚釣りをしている岸壁に場所を移動すると、遥か海の底を白と黒の魚の群れが泳いでいるのが見えました。
とてもタマが届く距離ではなく、あきらめて場所をB湾に変えて探しますがチョウの姿はなく、場所をC湾に変えると、今までつかまえたチョウよりもひとまわり大きいフウライが岸壁の亀裂に隠れているのが見えました。
チョウがその亀裂から離れるのを待ちますが、丁度漁船が水揚げする場所なので船の出入りが多くて水面がゆれて、落ち着いて採集が出来ません。
場所を最後のD湾に移動します。
この漁港は今までの漁港に比べて一番大きくて、岸壁を全部見てまわるのに時間がかかりそうです。
コの字の岸壁の奥の方から見てまわります。
覗き始めてすぐに今までのチョウとは違って黄色い部分が多いチョウが見つかりました。
セビレやワキビレを広げる、なんとも言えないかわいい仕草をします。
これもあまり労せずにタマにいれ、バケツに移して良く見ると、このチョウは今までのチョウに比べてムナビレも黄色です。
バケツを持って2-3メートル場所を移動すると、今度はチョウが3匹まとまって泳いでいるのが見えました。
しかし、知らない間に太陽は大きく西に傾いて、まわりは暗くなってきていました。
この漁港の探索と採集は来週の楽しみとしてD港を後にしました。
帰りの車を運転しながら、今日まわった漁港を思い出しながら、チョウがいっぱいいたところ、そしてぜんぜんいなかったところ、この違いはなんなのか。
そう言えばD漁港の場合、離れた所に沖からの潮の流れをせき止めるような堤防が出来て、潮の流れが変わって防波堤に近い砂浜の砂が削り取られ、反対D漁港に近い砂浜の砂が増えてきていると言う話を思いだしました。
これは沖まで延びた防波堤に沿って、流されてきたチョウがD漁港に蓄積されているっと言う事にならないか。
これは来週の採集が期待できそうです。
第6話 岸壁採集U
朝食もそこそこに、車にタマ網の径が60センチ、柄の長さが6メートルのタマとバケツを積んで今日もD漁港を目指します。
途中にD漁港が見渡せる小高い丘を通る時「今日はどんなチョウチョウウオと会えるのか」心踊る一時です。
このような気持ちは社会人になってからは忘れかけていた感情です。
漁港に着くと早速岸壁を覗いてまわります。
岸壁の角は船がぶつかって、かけている所やロープなどが有って、チョウにばかり気を取られていると足元をすくわれて海に転落っと言う事も有るので注意しなければなりません。
また、岸壁は上から海底まで垂直なフラットな岸壁と、足の下奥深く入り組んだ、魚がそこに入ると手が出せない二通りの岸壁があるようです。
地元の漁師のおばさんが不審げに話しかけて来ます。
おばさん「さっきから何を探してるの。」
私「熱帯魚を探しているんですよ。」
おばさん「そんな熱帯魚なんかこんな所にいる訳がないだろう、わたしゃ何十年もここに住んでるんだ、バカにすんじゃないよ。」
私「じゃ、おばさんの足のずーっと下を良く見てみて。」
おばさん「え、そんな魚なんかぜんぜん... あ!居た!居た!! 本当に居るよ。」
っと言って知り合いの仲間のおばさん達にも教えて居ます。
教えられたあばさんはちょっと覗いただけで余り興味なさそうにその場を離れましたが、さっきのおばさんは心残りがありそに、その場を離れて行きました。
今日は天気も水の透明度も良くて、そして風がありません。
採集はこの三つの条件がそろう事はなかなか有りませんが、今日みたいにそろうと海の中が手に取るようにわかって、まるで水槽の中を覗いているようです。
反面見えすぎて困る事も有ります。
漁師が網に入って、商品にならなくなって捨てられた海底の魚まで見える事です。
んにしても、決して綺麗とは言えない漁港の岸壁を一生懸命突っ突いている、小さなチョウの姿はなんとも言えない気持ちにさせられます。
すでに採集している種類の魚でも、採集家のさがでタマを使いながら、魚と遊んでいると私と同じくタマとバケツを持ったご夫婦が岸壁を覗きながらこちらに向かってあるいてきます。
話を聞くと私はまだ採っていないチョウハンを最近採られたっと言う事、何年も採集と飼育をやっているが、水槽の掃除、水換えの時に魚を死なせている事など、旦那さんはあまり話をしませんが、奥さんがいろいろ話してくれました。
岸壁採集ではもう一組の方とお会いしました。
eさん親子で、がさつな私が遠慮なく話しかけてもいつもにこやかに応対してくれました。
きっかけは私が捕まえたカワハギの仲間の名前がわからず聞いたのが始まりで、翌週にはちゃんと名前を調べてきてくれて教えてくれました。
eさん親子は岩場採集から始められたようで、岸壁は私と同じで経験は浅いようでした。
大きなお世話でしたが、私がすでに捕まえている種のアケボノチョウチョウウオをさしあげました。
その日、家に帰って夜にインターネットで海水魚のHPを見ていると「岸壁採集で同じ採集家からアケボノチョウチョウウオをいただいた。」っというHPをみて早速メールを差し上げました。
eさんとはその後も良い関係維持は続いております、っと思っているのは私だけでしょうか??
第7話 メンテナンス
採集を始めた年はチョウチョウウオの寄り付きも多かったようで、ひとつの漁港の岸壁を覗くと必ずチョウを見つける事が出来ました。
なかでもD漁港は端から端まで廻ると数種、20匹位のチョウが確認出来ました。
すでに自分の水槽に入っている類のチョウでも、採集家の性で自然にタマが動いてしまうのでした。
っと言う事はスケールアップした60センチ水槽もあっと言う間に満員状態で、それに連れてきたばかりのチョウは餌付けの為に水槽をしきらなければならないので、その窮屈さはかなりなものです。
その当時の濾過方式は底面濾過で、海水魚関係の本には長い間には雑菌が繁殖して、濾材の清掃時にその雑菌が原因でチョウが全滅する事が書いてありました。
そんな時にNIFTYのフォーラムにエンビ管を使ったドライ濾過方式が話題に出ていました。
@、直径が10から15センチのパイプを立てて、濾材(サンゴ砂)を入れて上部から処理水をシャワー状に供給する。
A、高さは高ければ高いほうが良いようですが、ポンプの揚程能力があるのでそちらとの相談ですね。
B、ドライなので濾材で生きているバクテリヤの死骸やらウンチ?が濾材の隙間に溜まる事がないので雑菌が発生しにくく、また定期的な清掃の必要がない。
C、しかし、ここまでの処理ではチョウにとって、絶対的なダメージを与えるアンモニアや亜硝酸は処理されるが、長い間にはストレスの原因となる硝酸塩が蓄積されるので、定期的な水交換で水槽外に取り出す必要がある。
っと言う内容で、Cの問題は別にしてBの定期的な濾材の清掃、洗浄の必要がないっと言う所に魅力を感じ、その製作にとりかかりました。
その当時、我が家では海水魚はまだ市民権を得ておらず、製作の費用もままならない状態でしたので、そのエンビ管は近所から余っているものを頂いて、底の部分やフタの部分のみを購入しました。
しかし、問題はポンプです、パイプの高さは1メートル近くあり、60センチ水槽にセットで付いていたポンプではぜんぜん揚程が足りません。
そこで、近くのペットショップに行きました、置いてあるのは淡水魚だけで田舎のショップなので余り期待もせずポンプがあるかどうか聞いて見ました。
私「海水用のポンプが欲しいのですが。」
奥さん「どのような水槽に使うの。」
私「60センチですが、高さが1メートルまで揚げる必要があるんです。」
奥さん「ここにはないけど、倉庫に行けばあるわよ、家は卸しもやっているから、案内するから付いて来て。」
年の割りにはちょっと濃い目の化粧をしたその奥さんは、道の向うに見える古い倉庫を指差します。
横断歩道の信号が青に変わって、暗い倉庫に入って行くと、倉庫全体の容量の70−80%のスペースに所狭しとあらゆる水槽、器具が積み上げられていました。
それはほとんどが新品ですが、中には長期在庫でかなりデスカウントが期待できそうな商品もあったので、悪くても卸価格で買えると内心大喜びしました。
薄暗い倉庫の中から出てきたのは、チョビヒゲをはやした年のころ60は過ぎた爺さんでした。
爺さん「セニョール、何が欲しいんだい。」
セ!セ!セニョールっと来たもんだ!!
一瞬度肝を抜かれ、気を持ち直してポンプがほしい旨を伝えます。
私「揚程が2メートル位のポンプが欲しいんだけど。」
爺さん「2メーターか、じゃあレイシーだろう。」
っと行って新品の350を出して来ました。値段を聞くとうん万円するらしい。
私「60センチの水槽で使うのでもっと安い奴はないの。」
爺さん「2メーターだろう、じゃーレイシーしかないぞ、あ!!そうだ中古があったな。」
っと言って自分が座っていた机の下から一度は使ったであろうレイシーのポンプを出して来ました。
爺さんは配線プラグをコンセントに繋ぎながら「ほら、CRCのような潤滑剤をさせばチャンと廻るようになるぜ。」っと言ってとろとろと、かろうじてまわっているポンプを私に見せます。
見た感じではそんなに使っていないようで塗装の色も焼けていないし、これは電気的な問題ではなくて多分ベアリングなどの機械的な問題と判断して価格交渉に入ります。
私「本当に大丈夫なの、そんな事言って、持ちかえっても使えないようだとゴミになるだけだしなー。」
爺さん「こりゃー絶対大丈夫さ。」
っと言って道具を取り出して分解、修理をやりだしそうなのでやばいっと思って値段を聞きます。
私「わかったよ、それでいくらなの。」
爺さん「ウーン、千円、いや500円でいいや、初めてだしな。」
私「500円か、じゃー駄目もとで買って行くよ。」
さっきの新品はうん万円もしましたが、中古(まだ使えるかは未定)は500円、すぐに持ちかえって分解すると、やっぱりベアリングがいたんでいました。
近くの船舶の部品を販売している店で型式を言うとベアリングは2個で500円、取替えてコンセントを差し込むとポンプは静かに高速でまわり出しました。
水道の蛇口の先に付けて水をシャワー状にするものと、ビニールホースを買って、これで準備は出来ました。
家族の冷たい視線を感じつつ、早速システムの変更にかかります。
魚をバケツに移して、サンゴ砂を今まで入っていた海水で簡単に洗って、他から調達した軽石と混ぜてエンビ管で出来たドライ槽に詰めます。
そして、ポンプからのビニールホースをドライ層の上部に繋いで水がシャワー状にサンゴ砂におちるように繋ぎます。
そして均一にサンゴ砂の間を通って来た水を水槽の上にある上部濾過のフェルトの上に降りる様にビニールホースを繋いで、水槽に海水を張ります。
さあ、緊張の一瞬です。
スイッチを入れたり切ったりしながら、海水の漏洩がないかどうか確認します。
問題はないようです、スイッチを入れっぱなしにすると上部濾過のフェルトの上のホースから海水が出てきました。
しばらく監視してから問題がない事を確認し、バケツに入れていたチョウ達を水槽に戻します。
水槽は2階の窓際にあって、窓が開いていました、チョウが入った20リットルのバケツを持ち上げて水槽に傾けた時です。
そうです、バケツからハタタテが飛び跳ねて窓から落ちて行きました。
家族の冷たい視線も気にせづに「チョウが飛んでった。」っとわめきながら階段を駆け下りて地面の上で跳ねているハタタテを手で軽くつかんで、また2階の水槽にかけ戻って水槽に戻すと、ハタタテは何にもなかったように泳ぎ出しました。
安心して、今回使った道具やらバケツなどを片付けて、改めて水槽の前に座った時に、なんか魚が足りない気がして良く見るとカクレクマノミの姿が見えません。
いない!!クマノミがいない!!ではさっき飛び跳ねたのはハタタテだけではなかったか!!
また、階段をかけ降りてさっきハタタテが落ちた場所を探すと、すっかり水分が乾燥して、ピクリともしないクマノミがセメントの上に横たわっていました。
指で軽くつまんで2階に戻って水槽に入れると、硬直したままずぶずぶ沈んでいきます。
時間にして15分は空気にさらされていた事になり、やっぱり駄目かっと思った時に、niftyのフォーラムで魚の人工呼吸の事が話題に上がっていた事を思い出しました。
新鮮な酸素を含んだ海水を、口からいれてやる事によって魚が蘇生するっと言う事で、駄目もとで上部濾過から落ちてくる水の下に、口を開けたクマノミを持って行きます、その態勢で5分してから、そーっと水槽に放しますが動く気配はありません。
やっぱり駄目かと諦めかけたとき、エラがちょっと動くのが見えました。
生きている、まだクマノミは生きている、更に人工呼吸を10分、15分と続けていると家族も寄ってきて心配そうに見ています。
だんだんと元気が戻ってきて、水槽の中を泳ぎ出した時、水槽の中のお魚が市民権を得た一瞬でもありました。
第8話 ウェットスーツ
私の60センチの水槽はすぐに魚で一杯になって来ました。
それでも、まだ見ぬ新しいチョウを求めて岸壁通いは正月近くまで続きました。
そんな様子を見て釣り仲間のMさんは 「その内にウェットにも手を出すぞ。」の冷やかしに
「そんな高い物に手は出ませんよ」っと言うと「あのね、miuraさん、スーツは何もそんなに高い物だけじゃないのね、1万円ちょっとで一式そろうんだよ、それなら高くないでしょ。」っとOさんが親切そうに話しかけます。
それをMさんがニヤニヤしながら見ています。
その笑いの意味は私も十分知っている訳で、Mさんは私がチョウの病気に順調にはまり込んでいるのを笑っているのです。
私のO師匠の持論は、すべてになるべくお金をかけないでやるっと言う事です。
しかし、どうしてもこれだけは欲しいっと言う物は高かろうが買ちゃうんです。
そんなOさんのありがたいお言葉は
ウェットは某釣具ショップが4月になるとシーズン前の売り出しでウェットスーツ上下、帽子、ブーツで1万円、ベルト、重りで2、000円で買えるっと言うものでした。
それ位ならと、ショップに行くとそれまで釣りの用具を買いに来た時は見もしなかった潜水用具がちゃんとありました。
前から持っていた水中メガネも古かったので一緒に買って、これでいつでも潜れる準備は出来ました。
しかし、季節は春っと言っても4月、水温は低いはずです。
ちょっとの間ならウェットも着ることだし、4月の海は4月でないと見れない訳だしっと訳のわからない事を言いながら、近くの磯で潜り初めです。
場所は東京湾に面した、最近では首都圏に近いっと言う事でカラフルなウェットを着たダイバーが増えてきた場所です。
ダイバーは漁協と提携したスクールが建てた建物の中で着替えが出来るからいいのですが、そんな場所もない私にとって東からの風の中、揚がって来て濡れた状態での着替えは寒いだろうなっと思いながらも着々と準備をして、いよいよエントリーです。
大潮になると何度か見て回った所なので、場所的には始めはゴロタ石と言う事はわかっていました。
打ち寄せる波を受けながら、そのゴロタ石を過ぎると海草が茂っていますが、ちょっとカラフルな岩肌も見え出しました。
どうせ今日は綺麗なお魚は期待はしていないので、水槽に入れられる綺麗な海草でも有れば良いなっと言う感じです。
カジメなどの大きな海草の林の切れ間から見える、石灰藻の岩肌を丹念に見て回ると居ました。
ガラス細工のような濃い緑色をした、カタツムリが背中に背負った貝を何処かに置き忘れてきたようなウミウシです。
それをそーっと採集いけすにいれて、そばにあった緑色をしたツタ科の水草も採集しました。
他の場所に移動して海草の中に頭を入れた時に目の前の黒い物体が急に動き出しました。
後ずさりして離れて見るとサメ(ドチザメ)です、こちらを襲ってくる様子はなく悠々と泳ぎ去って行きました。
その後は赤い模様のウミウシ(サラサウミウシ)を見つけて、入れ物に入れてからバッグが置いてある所に戻ります。
陸に上がると、入るときに心配したように風が強く、ウェットを脱ぐのにかなり勇気がいります。
こんな時は息を止めて一気に着替えたほうが良いみたいです。
最後にシャツのボタンを止めていると、こちらの方に男の人が歩いて来ます。
男の人 「漁協の物だが何採ってんだ。」
私「何って、ウミウシですよ。」
男の人「何、ウミウシ、ウミウシってあのムラサキの汁を出す奴か。」
私「いや、もっと小さくて綺麗な奴ですよ。」
っと言って生簀のフタを取って見せます、男の人はそれを覗き込みます。
男の人「こんなもん採ってどうすんだ、売れる訳でもないんだろう。」
私「水槽に入れて飼ってるんですよ。」
男の人「こんな物飼ってどうすんだ、実は通報でここでウェットを着て潜っている奴がいるって言うんで見に来たんだ。やっぱり通報が有れば見に来なければならないんだ。」
っと言って帰って行きました。
そんな風に私の初ウェット着用潜水は無事に終わりました。
第9話 夏を待ちきれずに
チューブの歌ではありませんが、その後チョウチョウウオがまだ現れないのはわかってはいるのですが、休みの度にあっちの磯、こっちの磯と潜る範囲を広げて行きました。
潜る場所の決定は、以前に釣りをやっていた時に買った「船釣りマップ」です。
この本には水深はもちろん、水面下の隠れた「根」まで載っているのです。
しかし、水深や「根」などを参考に期待して潜っても海草ばかりで、がっかりの連続でした。
何処に行ったら海水魚図鑑などに載っている綺麗な無脊椎類やかわいい生物達に会えるのか、考える様になりました。
やはり環境なんだろうなー、なんて漠然と考えるようになって、そん時にペットボトルに入った「室戸の海洋深層水」なるものを見つけました。
その商品の脇に置いてあったコピーのカタログには、深層水なるものの概要や効用が書いてありました。
それは、窒素やリン、ケイ酸などの無機栄養塩などが多く、微量元素や様々なミネラルがバランスよく含まれている「魔法の水」の如く書いてありました。
成る程、この水が湧き上がる磯を探そうと単純な私は考えました。
早速、例の船釣マップを広げると、もともと半島なので陸地からちょっと離れると200、500、1000メートルと急に深くなっています。
その等深線の間隔が狭い所がきっと例の「魔法の水」の湧き上がる所と決め付けて喜ぶのでした。
まあ、その考え方がまんざら間違ってはいないのでしょうが、これと言った確信が得られない私に、また、新しいキーワードが現れました。
「森は海の恋人」です。
その頃は、新聞の番組欄に「海」の言葉が載っている番組は欠かさず見るようになっていました。
NHKの「世界生き物紀行」などは大のお気に入りで、宮崎美子さんなどはいきなりファンになっちゃいました。
そんな番組の中では、山の樹木の落ち葉などの栄養分が雨水に溶け出して、川をつたい海に運ばれて、磯が豊かになる、森林が開発された海では「磯焼け」と言う現象が起きて磯が死んでしまっていると言う事です。
成る程、そこで単純な私は「森」をキーワードにある磯を選びました。
その磯は釣りやバーベキューで、知っている人は知っているようで、その日も何人かの釣り人や何組かのバーベキューの人たちがいました。
そんな人達を横目にウェットスーツを着て海に向かいます、手に持ったタマ網が不信者と区別できる所です。
入った岩のすぐ下のオーバーハングになった所に黄色や赤のイソバナが見えます、近くの壁になった所にはシロウミウシ、アオウミウシやコモンウミウシなどが見えますが、今までの他の磯と比べて余り変わった物は見つかりません。
そこで、その森からの「魔法の水」流れ出ているであろう磯の方に場所をかえます。
もし、ここで何にも変わったものが見つからなければ、「海洋深層水」、「森は海の恋人」も何の為にもならなかった事になります。
潜って慎重に探して行きますが先程の磯と変わった物は見えません。
独り言で「何が森は海の恋人じゃい、森は昌子の旦那さんだ。」などと訳のわからない事をブツクサ言っていると、今まで見た事のない大きなイソギンチャクが現れました。
確か本にはサンゴイソギンチャクと書いてあったような、でもそれはサンゴイソギンチャクのように触手が丸くはなく細長いものでしたが、私の予想は的中したのです。
場所を移動して行くとそのイソギンチャクの数が増えてきました。
そして、沖合いの方まで進んで行くと、見渡す限り(これはちょっとオーバー)深さ3メートル下の全部が、そのイソギンチャクの群落となりました。
大きな物は50センチ、中にはサンゴイソギンチャクのようにちゃんと丸くぷっくりとした物が、波の動きでゆらゆらとゆれています。
やっぱり私の理論は間違っていなかったと、さっきのぼやきも忘れ1人悦に入っていました。
こう言う事は人と共有する事で喜びも倍増するもの、後日、O師匠にも同行して見てもらいました。
師匠いわく「いやーこれは私の人生の中のベスト5に入る感動だ!。」
師匠!それはちょっと言いすぎですよ。
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