機動戦士ガンダムセンチネル外伝

―SORA―

 

 

 

 

 

「正面・・・いや、左かっ!」

 

 そう感じた瞬間、往人は機体を下方へとひねる。

 そのすぐ後、青白いビーム光が往人の操る黒いMSのすぐ脇を掠めた。

 

 ビームを放った赤い色のMSを、センサーに補足しすぐに反撃の態勢へ移行しようとしたとき、スピーカーから通信が入った。、

 

『国崎少尉、編隊を崩すな!』

 

「編隊を崩すなだと? ふざけるなよ・・・! 高濃度のミノフスキー粒子に酔っぱらったのか? 迎撃できるヤツはもうおれ以外にいないだろうがっ!」

 

 ミノフスキー粒子のため、通信が一方通行になっているとわかっていても、吐き捨てるように呟かずにはいられなかった。

 

 編隊もなにもない。

 防衛にまわっていたビッツ小隊は、往人を除いてすでに全滅していた。

 

 戦域の拡大と高濃度のミノフスキー粒子のせいで、母艦にはその情報が入っていないのだ。

 

 攻撃にまわっている他の部隊が戻るには、時間がかかりすぎる。

 敵を食い止めるものは、往人以外にいない。

 

「残る敵はハイザックが二機、マラサイが一機か。上等だ・・・!」

 

 変則的な動作で目標の敵に向かって徐々に迫っていく。

 

 マラサイのビームライフルから放たれたビームを、少ない動きで小刻みにかわすジムU。

 どんどん間合いを詰めてくる敵MSに、マラサイのパイロットは戦慄を覚えた。

 

「黒い・・・ジムUだとっ!?」

 

 まるで当たらないビームライフルを投げ捨て、マラサイはサーベルを抜いた。

 直後、往人のジムUが見計らったかのように動きを変え、一直線に突進してきた。

 

「ジムごときがっ!」

 

 直線的に向かってくるジムUをパイロットはあざ笑ったが、サーベルの間合いに入った瞬間、ジムUがいきなり視界から消え失せる。

 

 真下に制動をかけ、一瞬だけ機体を消えたようにみせかけた往人は、サーベルを振り下ろしたマラサイの斜め下からお返しとばかりにサーベルを走らせた。

 

 コクピットを直撃した刃が、パイロットの体を粒子レベルに分解させる。

 何が起こったのかわからないまま、マラサイのパイロットは爆発の中へと消えていった。

 

「よくも隊長をぉぉっ!」

 

 怒りに燃えた二機のハイザックがジムUに向かってきたが、往人の方も静かな怒りが湧き上がっている。

 

「こっちだっておまえらに隊長を殺られている・・・!」

 

 数の差など往人の前では関係無かった。

 むしろ、標的を母艦ではなく自分に変えてくれたのは大きい。

 

「教則どおりの動きしかできない連中に、このおれがやられるか!」

 

 マシンガンを無茶苦茶に撃ちながら接近するハイザック。

 だがその弾丸全てが、目標を失ったまま虚空へと消える。

 

 代わりに火を吹いたジムUのビームライフルが、二機のうち片方のハイザックに大穴を穿った。

 

「なっ・・・?」

 

 爆発する仲間の機体を、信じられない思いで捉えるパイロットの脳裏にあることが浮かんできた。

 

「黒いジムUのパイロット・・・まさか、人形使い・・・」

 

 ハイザックのパイロットが言葉を言い終わることは、永久に訪れることはなかった。

 

 眼前に迫るビームサーベルの刃がスクリーン一杯に映り、視界を光が覆い尽くしていった・・・。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第13話「メイガスの者達」

Maigass's Peoples−

 

 

 

 

 

 UC0087年3月2日。

 

 サイド7に造営されていたティターンズの拠点であるグリプスにて、テスト中のガンダムMkUをエゥーゴが奪取するという出来事が起きた。

 これにより、エゥーゴとティターンズの緊張の糸は完全に綻び、両者の戦いは激化の一途をたどっていく・・・。

 

 

 そして時は同年5月末日。

 

 宇宙にて遊撃行動をとっていたエゥーゴの巡洋艦メイガスが、ティターンズとの交戦によって消費した物資を補給するため、月面都市の一つアンマンに入港した・・・。

 

 

 

 

<サラミス改級巡洋艦メイガス・ブリッジ>

 

 

「おれが隊長・・・!?」

 

 メイガスのブリッジに往人の声が響き渡った。

 普段、クールな彼が少し取り乱すのを見て、クルーの何人かが「ああ、ヤツも焦ることがあるんだな」と心の中で思ったのは確かなことだと言える。

 

 キャプテンシートから往人を見下ろすのは、いかにも歴戦の将という雰囲気をまとった初老の男だ。

 少し興奮気味の往人に、メイガスの艦長バーミリオン・クォーツは内心笑いながらも、威厳を崩さず無骨な視線を向けながら答えた。

 

「そうだ。前回の遭遇戦で五名中、隊長のビッツを含む二名が戦死。残る二人も大怪我で戦線復帰の見通しもたたん。そこで、今回支部の方からMSと一緒に新兵を補充することにした。ビッツの隊で動けるのはおまえだけだからな。新しいMS隊の指揮はおまえにとってもらう」

 

「てっきりブラムの世話になるかと思ってたんだけどな・・・」

 

 ブラムとは、往人が所属していたビッツ小隊と双璧をなす、メイガスのMS隊であるネモ隊の隊長ブラムド・ギール中尉のことだ。

 

 人当たりが良い陽気な中年というのが周りから見たブラムの型だったが、往人から見ればうっとおしいだけの中年オヤジである。

 

「正直な話、ギール中尉におまえが扱いきれるとは思えん。・・・それならばいっそうのこと、新しい隊を編成しておまえに任せてみようと思ったのだが・・・嫌か?」

 

「嫌なわけないだろ」

 

 往人は自分よりも格下の人間から、頭ごなしに命令されることを嫌っている。

 自分が隊長になれば、そんなこともないだろうと思った。

 

 それにバーミリオン(以後、バーム)は、誰に対しても公平で厳しい人間だった。その彼から認められているというのも気分が良いものだ。

 

「実は逆立ちして腕立て伏せするぐらい嬉しいぞ」

 

 そう言いながら逆立ちして腕立て伏せを始める往人に、バームはやれやれといったようにため息をついた。

 

「・・・言ってるそばから逆立ちするんじゃない」

 

「大舟に乗った気でいてくれ。・・・他に何か話は?」

 

「新しい補充要員のリストがあるが」

 

「パス。隊員がどういう奴らかは自分で見て判断するさ。経歴なんか見る必要はないぞ」

 

「・・・何処へ行く気だ?」

 

「話は終わりだろ? ・・・聖に呼ばれてるからな。医務室に行かないと殺されるんだ」

 

 辞令だけを受け取ると、往人はブリッジから出ていった。

 

「まったく困ったヤツだ」

 

 往人の姿が消えたのを確認すると、バームの顔には苦笑が浮かんだ。

 

 半年以上の付き合いで彼は、往人という人間がどのような男なのか、自分なりに答えを出していた。

 クールなようでいて、ふざけた態度をとることもあり、お世辞にも協調性がある男とは言えない。

 

(まるで若い頃のワシをみているようだな・・・)

 

 配属当初はもめたものだが、今では往人の物怖じしない態度を修正するつもりはなかった。

 

 また往人のMS技術は、他の兵士に比べてずば抜けて高い。

 それは誰もが認めることだ。

 

「『一匹の獅子が指揮する百匹の羊の群は、一匹の羊が指揮する百匹の獅子の群に勝る』という話がある。果たしてあいつの隊はどちらになるか・・・。往人は大舟に乗った気で、と言ったが、泥舟にならないことを祈るだけだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

<医務室>

 

 

「君が隊長になるだと? 笑えない冗談だ」

「ぐは・・・」

 

 そう言うと思っていたが、もちろん口に出さない。

 相変わらず毒舌な目の前に座る白衣の女性に、面と向かって言ったら何をされることやら。

 

 長い髪にちょっとキツ目の瞳と整った容姿は美人系のそれ。

 だが見た目に騙されてはいけない。

 

 往人は霧島聖という名の、その女性の本性を知っているのだ。

 

 初めて出会った時、容姿だけで判断して酷い目に遭いそれ以来、聖には頭が上がらなかったりする。

 

「ま、今まで以上に頑張ってくれ。我が妹も君の下につくんだからな」

 

「・・・佳乃がか?」

 

 聖の妹、霧島佳乃は士官学校の時の数少ない知り合いだ。

 

「なんだ、知らなかったのか?」

 

「まぁな」

 

 資料を読まなかったので、知るわけが無かったが、もちろんそのことは伏せておく。

 

「しかしいいのか? 前線に出ればそれだけ危険が大きくなるぞ」

 

「佳乃が自分で決めたことだ。私がとやかく言っても始まらないさ」

 

「・・・てっきり反対したのかと思った」

 

 聖の妹に対する溺愛ぶりは、かなりのものだと往人は思っている。

 それだけに、聖の態度は意外だった。

 

「猛反対したさ。だが、私も軍に身を置いている。そのことを切り出されると弱いんだ」

 

「なるほどな」

 

「君達の仕事場は生きるか死ぬかの戦場だ。だからある程度は覚悟しているが・・・国崎君、妹をよろしく頼む」

 

「・・・あんたに頼み事をされるのも変な気分だな。ま、心配してもらわなくても大丈夫さ。隊員を生かすのも隊長の仕事だからな。・・・ところで、用ってなんだ?」

 

 タイミングを見計らって、強引に話を軌道修正する。

 往人が聖のところへ顔を出したのは、新しいMS隊のことではなくまったくの別件なのだ。

 

「ああ、忘れいていたよ。九品仏からおまえと私宛にホログラフィーが届いた。一人で観るのも気味が悪いから、この際一緒に観ようかと思ってな」

 

「大志から?」

 

 聖の口から出た意外な名前に、往人は少し驚いた。

  

「どうせろくなものではないだろうが、君に断りを入れずに捨てるのもうまくないだろう。・・・なんなら捨てるが?」

「さて、観るとするか」

 

 聖の返事を待たずに、往人は再生用の機具のスイッチに手をかける。

 彼女の場合、かなり大志を嫌っているので、黙っていると本気で捨てかねない。

 

 スイッチを入れると映像板の上に、二人にとって忘れたくても忘れられない男の姿が映し出された。

 

『くっくっく・・・久しぶりだなっ! マイブラザー、あんどっ! マイっシスタァッ! 元気でやっているか? 我輩か? 我輩は元気にやっているぞっ!』

 

「相変わらずだな。この男は。殴っていいか?」

「機械が壊れるからやめてくれ」

 

 往人は、聖の冗談とも本気ともいえないセリフに頬を引き攣らせた。

 

『・・・我輩は現在、アナハイムのとある研究所に在住している。詳しくは言えないが、とてつもないスケールのプロジェクトにかかわっているのだっ! フッ・・・天才である我輩の実力ならば当然の結果といえるが』

 

 云々。

 

 大志の近況報告を兼ねた自慢話が、十分ほど続く。

 

「・・・おい、そろそろ止めてもいいか? ヤツの話にもいいかげん飽きてきたぞ」

 

 さすがの往人も聖の疲れたような顔に、頷こうとしたその時。

 

『・・・とまあそういうわけだ。研究成果の一つである試作型のシステムを一基、あとで送らせてもらおう。マイ同志、聖ならばMSに取り付けるのもたやすいだろうからなっ!』

 

 ビシッ!

 

 ホログラフィに指を突きつけられるのも何か妙な感じだった。

 

『同志、往人よ。おまえがこのつまらぬ戦いで死ぬような人間ではないことを心の底から祈っているぞ。おまえは我輩と共に宇宙を手に入れる人間なのだからなっ! 以上、簡単だが我輩の魂の叫びと代えさせてもらおう。では、さらばだっ! 我が同志達よっ!』

 

 フッ

 

「「ふぅ・・・」」

 

 再生が終わり、映像が途切れたところで往人と聖は同時にため息をついた。

 

「・・・ヤツの自慢話は正直、どうでも良いがMSに搭載するアナハイム製の試作型システムか・・・。なかなか興味深い」

 

「届いたら、まさかおれの機体に取り付けるのか?」

 

「当然だろう。九品仏からのものなど、危なくて他の者のMSに付けられないからな」

 

(・・・おれならいいのか?)

 

「新しいメンバーも増えて、ネモも同時に搬入された。これから忙しくなるぞ」

 

「ネモかっ!」

 

 ネモ。

 エース用に何機か生産されたリックディアスに続く、エゥーゴ専用の量産型MS。

 

 同じメイガスのMS隊であるブラム小隊のMSは、全てネモだ。

 その性能はジムUなど比べ物にならない。

 

やっとジムUから開放されるのだと思うと、小躍りでもしたい気持ちで一杯な往人だったが、聖の次の言葉で、その考えは凍りついた。

 

「・・・何を喜んでいるのか知らないが、君の機体はジムUのままだぞ」

 

「どーゆーことだ・・・!?」

 

「搬入されたネモは三機。新メンバーも三人。つまり、エゥーゴには余分なMSをまわす気など無いということだ」

 

がーん

 

「・・・普通はエースパイロットにこそ良いMSをまわすんじゃないのか」

 

「良い腕だからこそ、ジムUでも平気だと上も判断したんだろう。・・・安心していいぞ。君のジムUはネモの性能にひけをとらないほどの改造が施してあるからな」

 

 聖のフォローは往人の耳に入らなかったようだ。

 

「くそぅ・・・なんでおれの機体は未だにジムUなんだ?」

 

「・・・ほほう? 国崎君。君は私の作品が気に入らないというのかな?」

 

 シャキーン!

 

 いきなり聖の手に現れた一本のメスに、往人は正気に戻された。

 

 一体、何処から出したのか。

 いや、白衣の裏からなのだろうが、出すモーションを往人は捉えられなかった。

 

「滅相もありません」

「そうか、そうか。そんなに気に入っているか。おねえさんは嬉しいよ」

 

(そこまで言ってないんだけどな・・・)

 

 勝手に自己完結する聖。

 対する往人は冷や汗ダラダラだった。

 

「とりあえずMSデッキにあるジムUとネモを見比べてみるといい。ジムUの良さがもっとよくわかるぞ」

 

「ぐは・・・」

 

反論の余地はなかった。

ずーんと肩にのしかかるものを感じながら、往人は医務室を出てMSデッキへと向かった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<MSデッキ>

 

 

「外から見ただけで良さがわかるものなのか?」

 

 ぶつぶつと呟きながらも、勢いで格納スペースに降りた往人。

 

 三機のネモに混じって、クリアブラックカラーのジムUが静かに起動の時を待っていた。

 往人にとっては、士官学校を卒業してから初めて与えられたMSであり、幾多もの死線を潜り抜けてきたかけがえの無い相棒なのだが・・・。

 

「比べてみるとやっぱネモの方が断然かっこいいんだよな・・・」

 

 往人は一年戦争時の量産機RGM−79とデザインがほとんど変わらないジムUを、好きになれずにいた。

 いかにも量産型ですという自己主張の無い型が、特に気に入らないのだ。

 

「やっぱり男だったら性能が高い試作型に乗りたいぞ。・・・ん?」

 

 ジムUの前でなにやら蠢く不審な人影。

 かなり背が小さい。

 

 子供かと思ったが、往人はその考えを振り払った。

 メイガスに子供は乗っていないはずだ。

 

 なにやらウロウロと挙動不審な行動をとり続けている見覚えの無いその人間に、往人は後ろから声をかけるべく近づいた・・・。

 

 

 時にUC0087年5月30日の出来事だった・・・。

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

<MSデータ集>

 

その20

名称:ジムU(往人仕様)

識別:RGM−79R        パイロット:国崎往人

本体重量:40.5t    頭長高:18.1m    ジェネレーター出力:1580kw  

スラスター総推力:71580kg          装甲材:チタン合金セラミック複合材(一部ガンダリウム合金使用)

武装:バルカン×2  ビームサーベル×2  ビームライフル  スパイクシールド

 

 エゥーゴ製のジムUを、聖が往人専用機として徹底的に改良した機体。ムーバブルフレームが使用されていない機体としては、最高峰の改造が施されており、性能的にはジムUにもかかわらずマリオネット小隊のネモと同等である。その他、追加武装としてビームサーベルを一本と、通常のシールドに代わってスパイクシールドが備わった。カラーリングは往人の好みに合わせてクリアブラックが主体色になっている。また、左肩とシールドには「人形使い」の意味を示すエンブレムが印されている。

 

その21

名称:ハイザック(緑)

識別:RMS−106        パイロット:ティターンズ兵士

本体重量:38.7t    頭長高:18.0m    ジェネレーター出力:1428kw  

スラスター総推力:64800kg          装甲材:チタン合金セラミック複合材

武装:マシンガンorビームライフル  ビームサーベル ヒートホーク  ミサイルポッド シールド

 

 連邦軍が一年戦争終結後、初めて本格量産化に踏み切った機体。ジオン公国軍と連邦軍の技術が中途半端に組み合わさっているため、基本性能はジムUを僅かに上回るが、複数のビーム兵器を同時にドライブできないなどの欠点を持つ。

 

その22

名称:マラサイ

識別:RMS−108        パイロット:ティターンズ兵士

本体重量:33.1t    頭長高:17.5m    ジェネレーター出力:1790kw  

スラスター総推力:74600kg          装甲材:ガンダリウム合金

武装:ビームライフル  ビームサーベル ミサイルランチャー付属シールド バルカン

 

 アナハイム社が開発したハイザックの発展型ともいえるMS。装甲にガンダリウム合金が採用され、機体重量がかなり軽量化された。ハイザックの欠点を改善し、複数のビーム兵器を同時に携帯、使用可能である。当初はエゥーゴに廻される予定だったが、裏取引によってティターンズに渡ることとなった。性能、生産性共に優れた機体で、ティターンズの主力MSとして供給された。機体の色はレッド。

 

 

 


あとがき

 久々の三剣です。

 ようやく第二部がスタートしましたっ!

 

・・・けれどもまだまだ不完全燃焼(汗)

 

どりあえず、次回にみんなお目見え予定です。

最後に出てきた不審人物は誰でしょうね〜(爆)

 

では、次回もどうぞよろしくっ!

 

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