スーパーロボット大戦

Generation α

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭部に装着したモニターリンク型のグラスバイザー上に浮かぶ情報を視覚する以前、数秒後に浮かぶ情報予測を完了し、凄まじい速度でキー操作を行なう名雪。

 IMPC関連の基礎に触れる論理を避けながら創造基軸を構築し、一気に術式を組み上げていく。

 猛スピードで操作パネルの上を滑る指には、逡巡も無ければ迷いも無い。

 明らかに自然(ナチュラル)ではないその技術は、彼女が調整者(コーディネイター)であり、その分野のエキスパートであることを意味している。

 軍人である母に幼少から各所を連れ回される過程で、EFAの付属工学科を学舎とした名雪は、ハイスクール入学以前までに工学関連の様々な技術と知識を会得していた。

 その技能は凄まじく、集中し作業に没頭する姿が眠っているように見えることから、“眠り姫”の愛称で彼女を呼ぶ者もいるほどだ。

 コーディネイターでも中より上の部類に入るであろういとこの少年すら、こと電脳に関して言えば名雪には及ばない。

 PTのシステム組みは、祐一に付き合って日頃から散々行なっていること。

 OSのシステムプログラムを構築することなど、彼女にとっては児戯に等しいのだ。

 

(基本はこれで終わり、と……単にシステムがオチてただけみたい。心配して損したよ〜)

 

 作業開始からものの一分足らずで、基礎動作プログラムの構築を終了させる。

 手を止めることなく機体に装備されている兵装の確認と、武器を使用可能にさせる伝達系の開放及びリンク作業へ移りつつ、名雪は心の中でほっと一息ついた。

 勝手に起動したり、戦闘システムの構築もされていないのに自動追尾モード(しかもやけに明確な)が作動したりしたので不安だったが、これならどうにか戦えそうだ。

 

(ヒュッケバインタイプなんだろうけどこんな子、ラボのデータでも見たことないよ。やっぱり新型かな? 武装はコールドメタルナイフが二つ、ロシュセイバーにバルカン、フォトンライフル。中距離から近距離に対応するための装備は一通り揃ってるみたい。……あれ?)

 

 バイザーの情報に気になる点が生じたので、伝達系への作業と平行しながら、名雪は基本データベースの検索を始めた。

 確認を行ない武装位置と名称を知ることはできたが、名称からでは用途がわからない兵装があったためだ。

 

(これ、なんだろ?)

 

 選択可能な兵装のうち、二つほど仕様が不明。

 用途がわからないものをぶっつけ本番で使うのは危険すぎる。

 ただでさえ、自分達はこれが初の実戦なのだ。

 命を預ける機体の情報は必要不可欠だった。

 PTならば、どの機体にも操作マニュアルや機体の特徴などを示す基本のデータベースが存在するはずである。

 それは、ほどなく見つかった。

 他のデータに埋もれるように存在する、丸を二つに割ったような白と黒のイメージ画像が端末に表示される。

 搭乗機体操作データ参照に用いられるライブラリにしては随分とわかりにくいところにあるな……そう思いつつ、名雪はファイルを参照するためにデータベースへとアクセスを開始した。 

 だが――。

 

 

KANON:―――――――――――― ―――― ――――?

 

 

(え……なに?)

 

 KANONというシステム名と思しきものが何かを聞いてきた――その内容を知覚した時、到底容認できない違和感が名雪を襲った。

 その途端、データベースが次々に開かれ、制限無く溢れ出る情報がバイザー上に踊り、視界を埋め尽くす。

 そこまでの操作を行なっていないにも関わらず。

 これでは表示される情報に対し、情報認識が間に合わない。

 

『ねえ祐一、この子……何だか変だよ』

 

 自分を信頼し任せてくれたいとこの少年に違和感を伝えようとしたが、彼女の戸惑いの声はその口から漏れることはなかった。

 

(!? これ……なん、で?)

 

 唇が麻痺したように声が出せない。

 既にパネルを叩く手は止まっていたが、それどころの話ではない。

 異変は留まることを知らず、無力な少女に更なる牙を剥いた。

 

 

 ドクン

 

 

 心臓が、跳ねるように脈動した。

 同時に体の中から沸き上がる不快感。

全身が火を吹いたように熱くなり、突き上げるような鈍痛が脳を席巻する。

 何故か瞳を閉じることができず、名雪はバイザーに表示される情報を凝視し続けるしかない。

 たまらずバイザーをむしり取ろうとして、愕然とした。

 唇同様、指一本動かすことができないのだ。

 何も間違ったことはしていないはず。

 なんでこうなったのか、まったくわからない。

 名雪にわかるのは、自分が祐一の信頼に応えることができなかったということだけだ。

 基本構築が済んでいるだけで、伝達系も完全でなければ、最低限の環境最適化も終わっていない。

 最適化を行なっていないOSのままでは、いくら祐一といえどもまともに戦うことなどできないだろう。

 システムが完全ではないせいで、自分は死ぬかもしれない。

大事な者を死なせてしまうかもしれない。

 

『ゆういち、ごめ……――』 

 

 謝罪の言葉は伝えられることなく消沈した。

 何かが己の内に入ってくる、そんな不快感に苛まれる中、視線の先にソレ(・・)が現われた時、少女は声にならない悲鳴を上げた。 

 

その瞬間、名雪は自分の意識が闇の中へ呑み込まれるのを感じた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三話「ヒトツノオワリ、スベテノハジマリ」

The one end… all beginnings―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 C.E.71年1月25日夜半過ぎ。

 夜を裂く轟音と閃光。

明け方も近い街の夜空を彩るのは、大きな爆発とEFA戦闘機の機銃斉射によるフラッシュである。

 市街地の上空を飛び回る謎の物体ゼラバイアに対し、EFAの航空部隊は自衛権を行使し攻撃を試みたのだ。

だが、果敢な彼らの攻撃もゼラバイアに傷一つつけることすら適わず、逆に群がりまとわりつく金属の怪物によって次々と墜とされていくだけ……その光景は、まるで電光に惹かれて当たり墜ちる蚊トンボのようだった。

 

「くそぉぉぉっ!! まるで歯が立たないとはあぁぁーーーーっ!!!!????」

 

そんなEFA航空部隊の一機には先刻、女装した祐一を口説こうとしたEFA将校アレックスの姿もあったのだが、あっという間に撃ち落とされながらも、脱出機構によって事なきを得ていたというのはまったくの余談である。

 

「……なんか、ヤバいんじゃないか?」

 

 白いヒュッケバインの中、一人心地で呟く祐一。

 上空のEFA航空部隊は、もはや全滅寸前だった。

 なにしろ、数が違う上に火器がまったく通じていないのだ。

 戦いにすらなっていない。

 ついさっきまで祐一の中にあった生活の場を乱されたことへの怒りは、一方的な展開を目の当りにした事によって急速に冷め始めていた。

 MSやMAが相手ならばシミュレーターでの経験から対応できる自信はあったが、相手はまったく未知の敵である。

 PTに乗っているとはいえ、プロの軍隊がどうにもならないのに、素人に毛が生えたような自分が果たして戦えるのか? 

 

「おーい、そろそろ終わるか? 急げよ、ちょっとばかりヤバい雰囲気だぞ」

 

 逃げることも視野に入れるかと思い直しながら、祐一は後ろの名雪に緊張感の無い調子で声を掛けた。 

 この危機的状況を和ませるための、言葉のキャッチボールだ。

 

“うん、わかってるよ〜”

 

 間延びした、名雪らしいわかりきった答えが返ってくるはずだった。

 

「……」

 

 だが、その呼びかけに作業をしているはずの少女は沈黙を返してきた。

 

「…………名雪? どうした?」

 

 繰り返したが、名雪は応えない。

 寝るのが三度の飯より好きないとこの少女のことだ(祐一論)、ほとんど徹夜だったことが祟ったのだろうか。

 そんなことが一瞬、頭を掠めたが、それこそありえない。

 集中している彼女が寝ているように見えるのは「ただ見えるだけ」で、実際そうはならないはずなのだ。

 

「おい、こんな時に冗談はよせよ? いくら伝説のエンターテイナーでも、この状況でそれは笑えないぞ……」

 

 自分で言って、本当に笑えなかった。

 状況の不味さはちょっとどころではない。

かなりヤバい。

今が冗談などできる状態じゃないのは、誰の目から見ても明らかである。

この状況下で名雪が何も応えないということは、彼女の身に何か異変があったとしか思えない。

 だが、祐一が少女の状態を確かめようと後ろを振り返ったその時。 

 

「なゆ――!?」

 

 

 

 ズゥン……!

 

 

 

 コクピットを揺るがす振動と共に、クモのような形状の異形の金属体が空から降ってきた。

 

 

 

 ズゥン! ズゥン! ズゥン! ズゥン!

 

 

 

 地響きを発てて次々に舞い降りてくるのは、EFA空軍機の編隊を壊滅させ、新たな獲物を見つけたゼラバイアだった。

 

(や、やばい)

 

 完全に囲まれた。

 飛行型とは異なり、節足動物のような足を生やした歩行型へ変化したゼラバイアが、ヒュッケバインを完全に取り囲んでいる。

 とりあえず、いきなりな攻撃は無いようだ。

 ヒュッケバインが戦闘態勢を取っていないため、害意の無い障害物かどうかを探っているらしい。

 コンソールを叩いて、名雪がどこまで作業をしてくれたのかを全力でチェックする。

 制御バランスがバラバラで操作は困難だが、とりあえず動かすことはできそうだ。

 

(動けるには動ける、が……環境の最適化もされていない機体で、まともにやれるのか?)

 

 やってやれないことは無いとは思うが、自信はまったく無かった。

 ここまでおざなりなOSで戦闘シミュレーションをした経験が無いのだから、それは仕方のないことなのだが。

 

(仕方のないこと? そんな言い訳が通じる相手かよ)

 

 祐一はうなだれて意識を失っている名雪を見、挫けそうな意識を奮い立たせる。

 ただやられるのを待つだけ……そんなのはふざけている。

 この機には祐一だけではない、名雪も乗っているのだ。

 

「しっかりしろ相沢祐一、やるしかないだろ!? 気合い一発、なるようになるっ!」

 

 声を張り上げ、己を鼓舞。

 レイカーを握りしめコンソールの情報に目を光らせながら、祐一はフットペダルを一気に押し込んだ。

 

「動けえぇぇぇっ!!!!」

 

 ヒュッケバインがスラスターを吹かして飛ぶのと、ゼラバイアが獲物目掛けて飛び掛かったのは、まさに同時だった。

 思った以上にスムーズな軌道で跳躍し、ゼラバイアの突進をやり過ごす。

 兵装確認は既に終わっている。

 

 

 近接戦推奨兵装:コールドメタルナイフ×2  

         ロシュセイバー

         サークルザンバー

 

 

 敵との間合いを計算し、使える近接戦用の三つの中から迷わずロシュセイバーを選択。

 水瀬家のシミュレーターよりも格段に多い作業量をこなすと、ヒュッケバインの右腕の端末に光刃が生じた。

 そして重力に任せるまま、ゼラバイアのがら空きの頭上からセイバーを振り下ろす。

 タイミングも完璧だ。

 鋼鉄を引き裂く光刃が、異形を真っ二つに両断し――。

 

 

 

 ガキッ!

 

 

 

「……は?」

 

 鈍い感触。

 収束帯が何かに激突して弾かれたことに、祐一は思わず間の抜けた声を上げた。

 斬られたというよりも、叩かれた衝撃で少し微動するに留まるゼラバイア。

 両断するどころか、そのボディには傷一つついていない。

 ロシュセイバーが通じなかったのだと祐一が事態を認識した次の瞬間、周りの異形達が白いヒュッケバインを敵とみなし、一斉に襲い掛かった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北の街上空に飛来したEFA所属大型輸送機『リーリエ』……その格納庫内に佇むのは、ベースカラーにディープ・ヴァイオレットが使用されている一機のPTだった。

 MSにおけるガンダムタイプのように、統合国内の誰もが知るその形状はヒュッケバインタイプのそれだ。

 その名を“ヒュッケバインR”。

 KURATAが有するロストテクノロジーの粋を結集して構築された、旧時代ヒュッケバインタイプのリファイン試作機である。

 そのコクピットで各計器のチェックを行なっているのは、ノーマルスーツに身を包んだ一弥だった。

 

『被害は沿岸を中心に広がってる。住民の避難も、まだ半分しか済んでないみたい』 

 

「はっ、下の下だね。平和ボケして今が戦時だってことがわかってないみたいだ」

 

 スピーカーから聞こえてきた舞の報告に呆れたのか、吐き捨てるように言う。

 ザフトと地球連合の勢力図は日に日に変わっている。

現在、旧台湾に建造された対ザフトの前線の一つ“カオシュン”まで戦域が拡大しているのだ。

 それにも関わらず、この国の人間はまさに対岸の火とでもいうように、ただの情報としか出来事を捉えていない。

 一弥はそのことに軽い苛立ちを感じていた。 

 

『あはは、仕方ないですよ。本土は戦争が始まってから一度も侵攻されたことがないのだから、危機意識が薄いのもわかります。それに一番悪いのは破壊者。こういう時のために軍や私達がいるんですから』

 

 姉にフォローされるまでもなく、そんなことはわかっていた。

 ただ、もどかしさを口にしてみただけだ。

 

「……ま、そういうことだからね。被害はなるべく最小限に留めておくよ」

 

 チェックを終え、コントロールレイカーに手を掛ける。 

 

『一弥も実戦は久々。敵のデータも無い。無理は禁物』

 

『何かあったらすぐに言ってね? 危なくなったら私も降りますから』

 

「はは、ありがとう。でも姉さんの出番は無いよ。あの程度の数、僕とRで十分だ」

 

 身を案じてくれる姉達にそう返す一弥。

 確かに実戦は約一年ぶりだったが、ヒュッケバインRの性能と彼の技術を持ってすれば、撃退は不可能ではないように思えた。

 αナンバーズとして前の戦いに参加した折は、もっと多くの敵と相対したこともある。

 数多くの戦いの経験が、彼にそんな台詞を言わせたのだ。

 開いた後部ハッチから眼下を覗き、一弥は夜空へと一気に愛機を押し出した。

 

「降下っ!!」

 

 

 

 ゴァッ……!!!

 

 

 

 スラスターを吹かし、カーゴを飛び出した紫のPTが夜の闇を飛翔していく。

 東の空が白んでいる。

 夜明けが近いのだ。

 日の出前の街。

 そんな黒の中に、大きな赤。

 やけに目立つ明るい光が、煌々と闇を照らす。

 沿岸に隣接する工業地帯は火の海だ。

 一日の始まりの朝が、こんな地獄だなんて馬鹿げているな、などと一弥は思った。 

 

(こりゃ酷いな……沿岸部はほとんどメチャメチャだ。これ以上の被害は――ん?)

 

 沿岸部から街へと続くブロックに、光が走る。

 続く爆発。

 群がる無数のゼラバイアとは別にその中心で動く影を、Rのセンサーが捉える。

 

「誰か、先に戦っているぞ……! あの機体は?」

 

 

 データ照合:UNKNOWN

 

 

 モニターに表示された情報は該当無しと示されたが、外見から機体のタイプを見間違うはずもない。

 ゼラバイアと戦っている白いPTは、一弥の乗るR同様、ヒュッケバインタイプのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きくジャンプし、ゼラバイアが頭上から覆い被さるように強襲してくる。

 先程から果敢に突撃を仕掛けてくるが、組み付こうとでもいうのだろうか。

 組み付かれてから先の事は考えたくもない。

 少なくとも、悪い方向にしか働かないのは目に見えているのだ。

 先読みして複雑な手順を踏み、幾つかの姿勢制御バーニアを強引に稼動させる。

十メートルほど機体をスライドさせ、左腕部に備わったサークルモジュールに光破を展開。

ヒュッケバインのあった位置に着地した異形へと、無造作に叩き付ける。

 

 

 

 ズシャアッ!!

 

 

 

 一瞬の反発後、円状に展開した光破収束帯がゼラバイアを真っ二つに斬り裂いた。 

 二つに分断された金属片が両側に地響きを発てて倒れ、小爆発を引き起こす。

 使用した兵装はサークルザンバー。

左腕に備わっている円形端末に強力な攻性光破を発生させ主に攻撃、場合によっては防御に使う兵装である。

 使える武器を全て試した結果、唯一この異形に対して通用したのがこれだった。

 他の武器では、ゼラバイアが有している障壁のようなものを破ることができず、ダメージをまったく与えられないのだ。

 

(これで十一、くそ……一体何機いるんだ)

 

 周りの敵がひとまず沈黙したからといって、油断はできなかった。

 倒しても、倒しても、まるで蟻のように金属の怪物達は次々に襲ってくる。

 交戦当初はこの敵が有人機かもしれない、などと多少の躊躇いはあったが、そんなものは二、三機倒した時点で頭から吹き飛んで無くなっていた。

 

「そこのヒュッケバイン!!」

 

 ひとまず小休止、と祐一が思った矢先、突然スピーカーから声が入ってきた。

 チャンネルなど弄る暇はなかったので、通常のダイアルだろう。

 

「?」

 

 その声に合わせて接近してくる機影をレーダーで捉える。

 一弥の駆るヒュッケバインRだ。

 あれもヒュッケバインだなー、などと祐一が呑気に考えていることなど関係ないとでもいうように、一弥は怒気を含んだ声で問う。

 

「お前、何処の所属だ? “戦術の鍵”か!? 階級と名を言え! PTの実戦参加はこちらだけのはずだぞ!」 

 

「おっ? その声、ひょっとして一弥……倉田一弥か?」

 

 聞き覚えのある……というより普段から聞き慣れたその声に、祐一は休日街角で偶然会った知り合いに声を掛けるような調子で言いつつ、コクピット内カメラをONにしながら、通信用の映像で少年の姿を確認した。

 仰々しいノーマルスーツに身を包んでいるものの、間違いなく弟分の一弥だ。

 

「え? …………まさか、兄さん? 祐一兄さん!!!?」 

 

 意外に冷静な祐一に対し、一弥の驚きはその比じゃないほど大きいものだった。

 彼も通信映像で祐一の姿を確認したのだ。

 

「こんなところで奇遇だな。ちょうどいい、連中やたらと多くて、ちょっとばかり一人じゃ心細かったところなんだ」

 

 ちょっとばかりなわけがない。

 相当、ギリギリまで心細かった。

 OSの問題でバーニアの微調整がままならないため、フェイントを使った回避や攻撃が一切できず、通常より手順を何倍も増やした操作でようやく可能となる直線的動作をするのがやっとなのだ。

 敵が単純な行動をしてくれているおかげで「何とかやれている」が正解である。

 

「な、な、なっ……!?」

 

「『な』が三つでナナミちゃん? ナナミって名前、幼なじみの元気少女な感じがするな」

 

「なに意味不明かつ呑気なこと言ってるんだよっ! どうしてこんなところに兄さんがいるのさ!?」

 

 当然の質問だった。

 普通の反応だろう、自分と親密な(と一弥は思っている)人間がいきなりPTに乗って正体不明の敵と戦っているのだ。

 むしろ、そういう反応をしない祐一の方がオカシイ。 

 

「いや、何から言っていいものやら。これには海よりも深いワケがあったりするんだけどな……」

 

 もっとも、彼には答えに窮する理由がありまくりである。

 サンジェルマン城への潜入に加え、城内にあったPTを勝手に乗り回しているのだから。

 

「……って、ああーーーっ!!?!??」

 

 答えに詰まっていると、何やら一弥が大声を上げた。

 本日のリアクション王に任命したい勢いだ。

 

「?」

 

 何事かと見ると、じっと白いヒュッケバイン(以後、暫定的にカノンと呼称する場合有)内の様子を凝視しているようである。

 

「は、は、そうか……そういうことかい。コーラとかなんだとか訳の分からない理由で僕の誘いを断ったと思ったら、結局は“名雪さん”てわけだ!」

 

「あ? 何の話だ?」 

 

「言い訳無用っ!!」

 

 

 ギン!

 

 

 捲し立て、普段は兄と慕う祐一を一喝する一弥。

 睨む目がちょっとばかり怖い感じだ。

 

「今回ばかりはいくら兄さんでもいただけない……! メイド服にネコミミなんてマニアックな恰好をさせた挙げ句、そんな密室で一体何をしていたのか、後でジックリと聞かせてもらうよ!!」

 

「……?」

 

 言っている意味がよくわからないながらも、祐一は後部席を仰ぎ見た。

 クラッシックな感じのメイド服に身を包んだ名雪が、愛らしいネコミミを付けて寝ているように見える――というか、まんまだった。 

 

「は? え? ……おい、そりゃ誤解だぞ!」

 

 言われてみればなるほど、確かにコクピットは密室だ。

 中で何が行なわれていてもわからないので、そういう意味ではやりたい放題である。

 見方によっては、祐一が名雪にメイド服を着せてコスプレを楽しんでいるようにも見えるかもしれない。

 祐一達の場合は誤解以外のなにものでもないのだが……。

 聞く耳持たない一弥は、なおも言い放った。

 

「大体、兄さんには姉さんがいるでしょう! そんな服装が趣味なら、姉さんにいくらでも着てもらえばいいじゃないかっ!!!!」

 

 今度はベクトルの若干違うことを言い始める倉田一弥。 

 

「……」

 

 一弥が姉と言うのは当然、佐祐理のことである。

 佐祐理はとにかく可愛い。

 それだけではなく、実に個性的だ。

 メイド服にネコミミを着せることを夢想してみる祐一…………実に良いイメージが浮かび、思わず顔がにやける。

 だが、そのにやけ顔は現実を目にした瞬間、即座に戦士の顔へと立ち戻った。

 再び現われた一体のゼラバイアが、Rを標的に選んだのだ。

 

「一弥っ!」

 

「!」

 

 祐一の声とほぼ同時に危険を察知し、背後のゼラバイアから高速で撃ち出された刃のようなものをRは間一髪で回避した。

 その反応は、まさしく経験を積んだ戦士のそれだ。 

 

「五月蠅いハエがっ! 邪魔するなっ!!」

 

 

 

 バシュゥゥッ!!!

 

 

 

 振り向きざまに発射されたメガビームライフルの光条が、回避行動をとる間も与えないまま、ゼラバイアに吸い込まれる。

 しかし、重装甲をやすやすと撃ち抜くビームは、異形の目前で発生した不可視の障壁によって弾き散らされて消えた。

 

「何っ!?」

 

 攻撃が弾かれるという予想外の出来事に絶句する一弥。

 その一瞬の隙を突き、接近してきた別のゼラバイアがRへと飛び掛かった。

 

「やらせるかっ!! そこっ!」

 

 それを黙って見ている祐一ではない。

 行動を予測して回り込むと、ジャンプして無防備なゼラバイアの下部へアッパーを見舞うように、サークルザンバーを叩き込む。

 障壁ごとボディを切り裂かれ、ゼラバイアが砕け散った。

 敵機破壊後の爆発に煽られ着地後、横転しそうになりながらも、祐一は持てる技術を駆使してカノンの姿勢を立て直す。

 

「兄さん!」

 

「貸しにするつもりはないけどな。こういう時には何か言うことがあるだろ?」

 

 何の変哲もない言葉の羅列。

 だが祐一の言ったそれは、一弥にとって彼ら二人が始めて出逢った頃を即座に思い起こさせる台詞だった。

 含まれるのは、一弥への戒めと励まし。

 

「……ありがとう。助かったよ」

 

 相手に向かって普段は素直に頭を下げることがない一弥も、祐一には頭が上がらない。

 祐一にとって彼は実の弟というわけではなかったが、一弥は今なお祐一を兄と呼び慕う。

 機会があればいずれ明らかにされるだろうが、彼らの出逢いに起因するそれは二人が二人でなくならない限り、おそらく永久不変のものだ。

 

「弟分をフォローするのは当然だからな。とりあえず、詳しい話は後回しにしとけ。今は化け物共を片づけるのが先だ。……気を付けろよ。こいつら、見えないシールドみたいなもので護られているらしい。ハンパな攻撃は通じないぞ」

 

「シールド? ふん、なるほどね。道理でっ!」

 

 ライフルをマウントし、Rが腰部から何かを取り出した。

 両腕に構えたところで折り畳まれていた鋼の刃がジャキンと音を発てて開き、二振りの剣を形作る。

 コールドメタルソード。

 対ビームコーティング処理を施した特殊強化超鋼製の実剣である。

 現われた一機に狙いを定め、抜身の剣を引き下げたRが突進を仕掛けた。

 バーニアを使った直線的な行動。

 が、ゼラバイアに攻撃の兆候があらわれた瞬間、制動をかけ進行軌道をスライド、敵の真横へと回り込み刹那の斬撃を振るった。

 戦い慣れした動きだ。

 二本のソードから繰り出された衝撃に耐えきれず、障壁ごと分断されたゼラバイアが爆発、砕け散る。

 

「強引なやつだな!」

 

「お互い様だよっ!」

 

 言い合う二人の口には自然と笑みが浮かんでいた。

 この場に何故いるのか?……などという当たり前の疑問は二人の中にあったが、そんなものは後回し、今は共通の目的を果たすことが最優先事項だ。

 競い合うように、それぞれの近接兵装を用いて群がるゼラバイアを片っ端から破壊していく二機のヒュッケバイン。

 多少強引な近接戦によって、確実にゼラバイアはその数を減らしていく。

 そして、二機の活躍に続くように更なる影が戦闘地帯と化した街に出現していた。

 

「ん?」

 

 一旦跳躍し上空から街を見下ろした祐一は、ヒュッケバインRとはまったく別の機体を目撃した。

 市街地を守るように、見慣れない形状の青いロボットが異形を攻撃、ゼラバイアの反撃を華麗にかわしながら次々に撃破している。

 まるで神の像を思わせる形状のロボットは、不思議なことにゼラバイアの障壁をまったくものともせず、殴り、蹴りなどの打撃技だけで敵を破壊していた。

 別の機体はそのロボットだけではない。

 そうかと思うと、突然地面を突き破り、ゼラバイアの群の真っ直中に二基のドリルを備えた巨大戦車が現われ、中心からゼラバイアを砲撃し狙い撃ち始める。

 青いロボットと同じく、EFA部隊の攻撃が通じなかったゼラバイアの障壁など無いかのように、群がる異形を平然と破壊していく。

 障壁を無理矢理破って何とか撃退している祐一達よりも、実に効率がいい。 

 

「おい一弥、アレはお仲間か?」

 

 祐一自身、学園において倉田姉弟がKURATA財閥の関係者だと知る、数少ない人間である。

 KURATAが関係していること、そして共闘開始から今までの一弥の言動から、祐一は一弥をEFAの関係者と断定し、そういった意味で質問していた。

 その読みは実際正解だったが、ロボットやドリル戦車がEFAに属しているかどうかというかというと、話は別だ。

 

「……違う。見たこともないタイプだ。EFAの機体じゃない」

 

 拡大モニターで動き回る青いロボットと戦車を見つめ、一弥は首を横に振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青のロボット“グランカイザー”。

 ドリル戦車“Gドリラー”。

 その参戦に合わせるように、街の上空に新たな二機の戦闘攻撃機が出現した。

 二機のうちの片方“Gアタッカー”に乗るのは、戦うことを半ばヤケクソに了承したエイジだ。

 

「あの天然が、あれに乗ってるのか……」

 

 斗牙の乗るグランカイザーが地上を駆け、ゼラバイアを次々に倒していく。

 エイジをいとも簡単にやり込めたあの格闘センスが、まるでそのまま操縦に反映されているかのようだ。

 蹴り、打ち、倒すその動きは華麗で思わず見とれてしまうほどである。

 そんなエイジを現実に引き戻したのはアラームの耳障りな音と、モニターの警戒信号だった

 

「エイジ君、狙われてるわよっ!」

 

 僚機“Gストライカー”からミヅキの声が飛ぶ。

 キャノピー越しに後方を見ると飛行型ゼラバイアが二機、Gアタッカーを追うようにピタリと付いていた。

 なるほど、完全に狙われている。

 

「んなこと言われたって! くそっ、どうすりゃいいンだっ!?」

 

 Gストライカーの操縦方法は、エイジが普段から乗り回しているエアバイクと類似しているので左右の回避行動くらいは何とかなるのだが、何分ドッグファイトなど初めての経験である。

 付け加えるなら、普通のエアバイクに上昇や下降、武装などといったものは備わっていない。

 いきなりやれと言われても、無理な相談だった。

 とりあえず、狙いをつけられないように機体を左右に振るのが関の山だ。

 その時。

 

 

 

 ガガガガガガッ!!!!

 

 

 

 不意に、何もない空中から機銃斉射のフラッシュが迸り、Gストライカーを追っていたゼラバイアに風穴を空けた。

 失速し墜落、爆発するゼラバイアに続いて、旧時代のステルス爆撃機のような三日月型戦闘機が、空間から滲み出るように出現した。

 

「あれは?」

 

 急な展開に呆気にとられたエイジは、自分を助けてくれた機影を見つめる。

 グランカイザーやGドリラー、Gアタッカー、Gストライカーは説明の映像で見たが、その機体は覚えがない。

 

『あれはGシャドウだ』

 

 司令部からだろう、サンドマンがエイジの声に応えるように言った。

 

「Gシャドウって、五機目があるなんて今まで一言も――」

 

 知らなかったのはエイジだけではないらしく、飛び込んできた琉菜の声も当惑を隠せないでいた。

 機体を知らないということは、それに乗るパイロットも誰だか知らないということだ。

 自分より先輩パイロットな琉菜も知らないパイロット……ひょっとしたら、ミヅキやエィナ、斗牙も知らないかもしれない。

 実に謎である。

 

(誰が乗ってるんだ? まさか、アヤカか!?)

 

「……」

 

 結局、エイジの思考が姉の行方に行き着くのは仕方のないことだが、当のGシャドウのパイロットはそんなことなど知るよしもなく、自分の近くを飛行するGアタッカーを静かに見つめた。

 

 

 

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 サンジェルマン城の司令室は、慌ただしいながらも勢いづいていた。

 テセラ、マリニア、チェイルら三人の筆頭メイドが戦況を分析しながら、グランディーヴァ各機の様子を逐一モニターしている。

 ゼラバイアの攻勢は予想以上に激しく、EFAは主力空軍を尽く失うこととなったようだ。

 

「EFA空軍の戦力、完全に沈黙! 残っているのは二機のPTとグランカイザー、各グランディーヴァだけです!」

 

 テセラはEFA航空部隊の全滅を受け、その旨を主に報告する。

 だが、当の城主は死闘の最前線を映し出す中央モニターのある一点を見つめたまま、どういうわけか報告に反応を示さない。

 

「あのPTは……なぜ、あそこに?」

 

 サンドマンが視線を向けていたのは、ヒュッケバインRと共に善戦を続ける白いヒュッケバイン“カノン”だった。

 彼が何故、白いPTに注意を示すのかはまったくの謎だがこの場の誰もが、主人がカノンに興味を向けていることに気づいていなかった。

 それも当然だろう。

グランナイツの活躍を世界の重鎮達にお披露目する方が今は優先である。

サンドマンがそんなものに注意を向けるなどということ自体、本来ならありえない。

 

「サンドマン!」

 

 指示を仰ぐべく主を呼ぶレイヴンに、紳士はカノンから視線を外し頷く。

 

「……紫のPTに乗っているのは、KURATAの御曹司君だったはずだ。通常の武器でゼラバイアの“エルゴ・フィールド”は破れまい。グランディーヴァの装備ならば倒すことはできるが、かといって、ソルジャー級以上の敵が出現した場合、グランディーヴァのままでは危険だろう」

 

 エルゴ・フィールドを持つゼラバイア相手には、同じエルゴの力を秘めるグランディーヴァが最適なのだと、サンドマンは言う。

 対ゼラバイア兵器として、まさにうってつけの秘密兵器グランディーヴァ。

 それはゼラバイアという敵を知らなければ、到底創造しえないもの。

 だが、たとえグランディーヴァであっても、単体では小型ゼラバイアであるソルジャー級を相手にするのがやっとだ(祐一達が戦っている相手がソルジャー級ゼラバイアである)。

 脅威は間違いなく迫っている。

 そして、ソルジャー級以上の脅威を相手にするには、グランディーヴァをもう一段階上のステージへと移行させる必要があった。

 

「“合神”を許可する」

 

 左腕を水平に構え、正面へ向けて掌を翳すサンドマン。

 金色に輝く瞳は鋭く、まるでまだ見ぬ脅威を射抜くかのようだ。 

 

「グランナイツの諸君、合神せよ!!!!!!!!!

 

 凛とした城主の声が『神』の招来を高々に告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「了解!!!!!!!!」」」」

 

 斗牙、ミヅキ、琉菜、エィナ。

 エイジとGシャドウの主を覗く四人のグランナイツが、サンドマンの号に応える。 

 

「エルゴ・フォーム!!!!!」

 

 声を張り上げた斗牙が機体を跳躍させると、グランカイザーの中心にある宝玉が黄金の光を放った。

 搭乗者である斗牙のG因子と呼応し、神像が秘めたる力を開放したのだ。 

 操作に迷いは無く、城で見せた天然さをまったく感じさせない。

精密機械のように無表情なそれは、まるで別人のようだ。

 

超重、合神!!!!!

 

 グランカイザーのコントロールを司る玉に、拳を叩き込む斗牙。

 瞬間、跳躍したまま上昇を続けるグランカイザーを中心に球状の領域が出現し、Gアタッカーが暗い壁に覆われたその領域に引き寄せられ始めた。

 エルゴ・フィールドを展開したのである。

 説明こそ受けていたものの、知識と実際体験するのとではワケが違った。

さすがのエイジもこれには虚勢すら張れない。

 

「うおっ!?」

 

 グランカイザーに向かって機体が落下するような感覚に、思わず声が出る。

 いや、違う。

 感覚というよりもむしろ、完全に落下していた。

 強烈な加速。

 ジェットコースターのような状態にあるGアタッカーのコクピットで、エイジは味わったことのない体験に悲鳴を抑えるのが手一杯だ。

 キャノピーの外を見ると、先程エイジを救ってくれたGシャドウが見えた。

グランカイザーに引き寄せられているのは、Gアタッカーだけではないらしい。

やがて、衝突するのではないかという距離まで接近した……そうエイジが感じた瞬間、引っ張られるような感覚が消失した。

 

 

ガギュン……!

 

 

機体同士がジョイントする衝撃の後、Gアタッカーのモニター画面に斗牙達四人の顔が映る。

どうやら、合神が完了したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

「重力子安定指数98%!」

 

「グランディーヴァ各機、正常に稼働中っ!!」

 

「重力子循環臨界まで9877ポイント」

 

 城内司令室にて、テセラ、チェイル、マリニアが合神後の情報を読み上げる。

 モニター中央には、巨大な人型が水平線から昇る太陽の光を浴び、鋼鉄のボディを煌めかせていた。

 合神を終えたグランディーヴァ。

 いや、それはもはやグランディーヴァとはまったく次元の違う存在だ。

 サンドマンは、大広間に己の姿を投影させるカメラの前で厳かに言う。

 

「あれが、我々アースガルズの切り札。地球を護る盾、そして矛」

 

 PTやMSを遥かに凌駕する巨体、そして存在感。

 ゼラバイアの襲撃と重なってしまったが、今回彼が世界の指導者達を招いたのは、この兵器のお披露目がそもそもの目的だった。

 破壊者ゼラバイアに対する比類無き防衛力。

 その兵器の名は――。

 

「その名を、グラヴィオン。そう……“超重神グラヴィオン”だ」

 

 

 

 

 

 

 合神を終え、その姿を現した超重神グラヴィオン。

 いきなり空から降りてきた巨大なソレに、祐一は呆気にとられた。

 

「なんなんだ、この展開は」

 

 PTや金属の怪物自体、日常とは無縁の存在だったがこれは極めつけである。

 

「あれが、クライン・サンドマンの言っていた切り札か。見栄えは上の上だね」

 

 驚き戸惑う彼とは対照的に、一弥は多少驚いていたもののいたって冷静だった。

 サンドマンの「ゼラバイアへの対抗策」という件を聞いていたことがら、一弥自身は早くからグランディーヴァやグランカイザーが謎の大富豪が有する兵器だと気づいていたのだ。

 いかに祐一の能力が高かろうと、材料が無ければ推測すらできない。

 事態は留まることを知らなかった。

 グラヴィオンの登場に合わせたように突如、上空の雲が渦を巻き始めた。

 その直後、稲妻のような光が降り注ぎ渦の中央から巨大な金属の塊が出現したのである。

 剣に近い形状からゼラバイアなのは間違いないのだが、この敵に比べれば祐一達が今まで相手にしていたものなど、実に可愛らしいものだ。

 ヒュッケバインに比べてかなり大きなグラヴィオンより、更に頭一個分以上デカい。

 あり得ないほど馬鹿デカかった。

 

「ふん、舞台が整ったところでいよいよ本命のお出ましってわけだ……!」

 

 やる気満々な一弥。

 それにひきかえ、祐一はあまりの非日常さに気が滅入っていた。

 

「合体巨大ロボの次は大怪獣?か。まったく、まるでアニメだな」

 

 マンガやテレビの中でしかありえないはずだったことが今、目の前の現実として身に降りかかっている。

 後ろの名雪はまだ目を覚まさない。

 口では何と言っていても、彼女は祐一にとってかけがえのない存在……大事な家族だ。

 気は確かに滅入っていた。

 だが、そうも言ってはいられない。

 名雪のため、そして己が生き残るために祐一は目の前の非現実に向き合う覚悟を決めた。

 そんな少年の事情など知らず、グラヴィオンは巨大なゼラバイアに対し攻勢に出る。

 

「レフトドリラーコクピット、グラヴィトン・プレッシャーパンチ、スタンバイ」

 

 近くに存在する二機のPTなど気にせず、斗牙が指示を飛ばした。

 

「了解っ!」

 

 先手必勝の気概に乗るべく、頷いた琉菜が操縦桿を握る手に力を込める。

 

グラヴィトン・プレッシャー……」

 

パァーーーンチっ!!!!

 

 斗牙の声に続けて叫ぶ琉菜。

 『技の名前を叫ぶなど何を無駄なことを』と普通なら思うところだが、これには訳があった。

 音声入力とスイッチ操作を同時に行なうことによって、攻撃の軸となるグランカイザー側とサポート役のグランディーヴァ側の息を合わせる意味と、強力な武器使用における誤作動を防ぐという二つの目的から、グランナイツは攻撃時に武装名称を口にするよう徹底されているのである。

 

 

 

 ドシュゥゥゥゥッ!!!!!!!!

 

 

 

 轟音を発てて切り離された右腕が、ゼラバイアに向かって凄まじい速度で飛んだ。

 グラヴィトン・プレッシャーパンチと呼ばれるこの飛翔必殺ブローは、搭乗者が操縦することによってより確実な命中精度を誇る。

 衝撃やGは、G因子活性化によって発生する特殊な力場のおかげで、中のパイロットの負担とならない。

 衝突音と共に命中したパンチがゼラバイアの体勢を大きく崩し、ガイドビームに引き戻され再び腕に固定される。

 ダメージは間違いなく与えている。

先制攻撃としては、申し分ない一撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラヴィオンがゼラバイアを相手に戦う姿は、城の大広間のタペストリーモニターにも映し出されていた。

 グランカイザーの両腕に、分離したGドリラーがそれぞれ備わり、両脚にはGストライカーとGアタッカーが合体し、見た目は中世の鎧をまとった騎士のようだ。

 

「綺麗だ……」

 

 そう呟いた誰かの言葉は、会場の誰もが思っているものだった。 

 朝陽を受けて輝くボディは美麗この上なく、その圧倒的な存在感はまさしく神懸っている。 

 

「信じられん、あれほどの巨大ロボットが存在するなど」

 

 優に五十メートルを超える巨大ロボットが動き、戦う光景は神話さながらである。

 圧倒的な力を持つゼラバイアに対抗するための、美しさと頼もしさを兼ね揃えた兵器。

 当の大富豪は、指導者達へグラヴィオンを最高の形でお披露目できたと確信していた。

 

「ゼラバイアに対し通常兵器はまともに通用しません。この場の対処は我らグランナイツにお任せいただきたい」

 

「むぅ……」

 

 ホログラフィ投影されたサンドマンの言葉に、ウィリアムは言葉を詰まらせた。

 航空部隊が全滅し、KURATA研のPTは善戦してはいたものの、ゼラバイアを相手に圧倒しているとは言い難かった。

 Nジャマーの影響下で稼動可能な機体をEFAが有しているということを、ここまでの戦闘で既に各国に印象づけられたはず。

 ならば、この場はもう十分役割を果たしたと見て一弥達を退かせ、後はグラヴィオンに任せるべきでは……いや、それではEFAの面子が保たれないのではないか――。 

 

「ご安心を。グラヴィオンは力、そして美しさを兼ね揃えた人類の希望です」

 

 迷う大統領に、サンドマンは軽く微笑み、自信を持って宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 即席の連携として、ヒュッケバインRからのビーム攻撃を援護に、祐一はカノンをゼラバイアへと肉薄させた。

 当然、Rのメガビームライフルではゼラバイアにダメージを与えることはできない。

 あくまで目眩ましになればいい……その程度のものだが、テクニカルな行動をとることが不可能な今のカノンにとって、これがあるのと無いのとでは雲泥の差だ。

 ソルジャー級ゼラバイアが合体してできあがった鞭のような金属の触手が、直進する白いヒュッケバインのすぐ側のビルを薙ぎ払い半壊させる。

 まともに直撃しようものなら、PTなど一撃でスクラップになりそうだ。

 恐れを感じたものの、祐一は恐怖心で速度を緩めるなどという愚行を犯すことなく、展開した円形の光刃を引き下げて巨大なソレに飛び掛かった。

 図体がデカい分、近接戦闘を仕掛ければ外しようがない。

 しかし、カノンの振るったサークルザンバーの一撃は、ゼラバイアの展開するエルゴ・フィールドを破ることができず、弾かれたカノンは反発作用に乗り、少し距離を置いたところに着地し体勢を立て直した。 

 

「くそっ! サークルザンバーでも駄目か!?」

 

 大きさで障壁の強さが違うのか、それとも個体に左右されるのかわからなかったが、小型ゼラバイアに通用していたサークルザンバーがまるで通じないことに、祐一は舌打ちした。 

 使える武器は全て試して、唯一効いた武器がこれだったのだ。 

 他に何か手はないかと、改めてモニターから全兵装を呼び出し表示させる。

 

 

 全兵装詳細


1,バルカン×2
2,コールドメタルナイフ×2
3,ロシュセイバー
4,フォトンライフル
5,サークルザンバー → Sファングシューター
6,GEXキャノン
7,クロノス

 

 

 使用不可能な兵装が三つ、ご丁寧に取消線済だ。

 使用しようと操作してもアクセスが拒否されてしまうので、OSへのアクセス権を持たないメインシートからではどうすることもできない。

 

(……というか、この6と7の項目は何だ?)

 

 5の兵装は何となく推測できたが、6と7についてはどんなものか見当もつかなかった。

 いや、6については威力など細かい仕様は不明だが、おそらくこのカノンの背部にマウントされている、大砲のようなものがそうなのだろうと予想できる。

 問題なのは7だ。

 名称が漠然としすぎていて、どんな武器なのかまったくわからない。

 もっとも使えないものをあれこれいったところで、どうにもならないのだが……。

 ともかく、もうゼラバイアに対してカノンでは打つ手がない。

 いよいよもって、万策が尽きたらしかった。

 

グラヴィトン・アーク!!

 

 斗牙の叫びに合わせて、グラヴィオンの額に備わっている緑色の玉から圧縮重力子の奔流が解き放たれた。

 物凄いエネルギーだ。

 だが、重力子エネルギーの光は直撃することなく、ゼラバイアを掠めて空の彼方へと消える。

 直撃できればかなりのダメージを与えることができたであろう、凄まじい攻撃。

 外したのは、ゼラバイアからそれほど離れていない位置に二機のPTがあったためだと祐一が気づいたのは、スピーカーから斗牙の声が入った後だった。

 

「そこのPT、戦闘の邪魔だ。下がれ」

 

 感情の起伏は無いが、有無を言わさない調子の声だ。 

 

「なんだと!? その言い方っ……!」

 

 頼むというよりも命令に近いそれに一弥は色めき立ったが、PTの操縦で一杯一杯の祐一は渡りに船と言わんばかりに即決した。

 

「おう、誰だか知らないが了解だ。一弥、どう考えてもあっちの言ってることが正しいぞ。足手まといなんだよ、おれ達は。ここは大人しく正義のスーパーロボットに任せてだな――」

 

 偶然か、それとも必然か。

 弟分の説得にかかる祐一の声は、グランカイザーへの通常回線を伝ってGアタッカーコクピットのエイジへと届いた。

 

(!? 今の声、まさか相沢? それに……倉田か!?)

 

 片やただの友人と呼ぶには水臭い悪友、片やその悪友を慕い何かにつけて絡んでくる疑似ブラコン。

 両方とも学園においてほぼ毎日、日常的に耳にしている声だ。

 エイジがそれを聞き間違えるはずもない。

 

「おい相沢!!! ……くそっ! 繋がってないのか? どうやンだよ、これはっ!」

 

 呼びかけても反応がない。

一方通行な回線に苛立ち、エイジは適当にボタンを押しまくった。

 不用意な行動によって押されたボタンの中には、ミサイルのボタンなども含まれていたが、音声入力がなされていなかったため、発射されるには至らない。

 

「Gアタッカーコクピット、勝手な行動は慎め」 

 

「うるせえっ! あれには、俺のダチが乗ってるンだ!!!」

 

 Gアタッカーコクピットでの勝手な行動に気づいた斗牙の注意も、今のエイジには効果が無いようだ。

 一方、祐一も弟分の説得を続けていた。

 PTの武器でゼラバイアに決定的なダメージを与えることができないのは、先程の攻撃で一弥も理解したはずだった。

 戦闘はグラヴィオンに任せて、自分達の機体を下がらせるのがベターなのだと。

 だが、それは完全に祐一の理屈である。

 一弥はEFA・KURATA研として戦闘に参加している。

 『はいそうですか』と簡単に撤退するわけにはいかない……いや、一弥自身の戦士としてのプライドが後退をよしとしなかった。

 

「そんな簡単に引き下がるわけにはいかないんだよっ!!」

 

 祐一の声に耳を貸さず、抜身のコールドメタルソードを引き下げたRがスラスターを吹かし、ゼラバイアへと突撃を仕掛ける。

動作に制限のあるカノンに比べ、ヒュッケバインRは出力も運動性も桁違いだ。

祐一がシミュレーターで知る、どのMSやPTよりも高性能なのではないか。

あれでは、巨大なゼラバイアの攻撃などそうそう当たるものではない。

攻撃する暇も与えることなく懐へ飛び込み、距離が限りなくゼロメートルに近づいたところで跳躍、Rは空中にいるゼラバイアの中心へコールドメタルソードを突き立てようとした。

 だが、今までの例に漏れず鋼鉄を引き裂く白銀の刃は寸前で展開したエルゴ・フィールドの上を滑り、本体にダメージを与えることはできなかった。

 

「くっそぉっ!!」

 

 ソードよりも攻撃力の高いサークルザンバーが通らなかったのだ。

 この結果は分かり切ったことだったが、やるせなさと不甲斐なさを胸に押し込めるには、一弥はまだまだ青かった。

 

「馬鹿、不用意に突っ込み過ぎだっ! ……!?」

 

その時、祐一はゼラバイアの後方へと不自然に振られる触手に気づいた。

リングのように纏まっていた小型ゼラバイアの集合体。

直撃した時の威力の程は、ビルを半壊させた様子から簡単に伺い知ることができる。

カノンからは攻撃態勢に入ったそれをみることができたが、Rからは完全に死角だ。

OSの危険回避プログラムもアラームも、MSやMA、PTを相手に組まれたものなので、学習段階のゼラバイアの攻撃には反応しない(少なくとも、水瀬家のシミュレーターではそうだった)。

 弟分の危機に、体が反応した。

 レイカーを突き動かし、サークルザンバーを展開したカノンを跳躍させる。

 

 

 

 ヴォンッ……!!!!!!

 

 

 

 まるで鞭のように撓い、唸りを上げてRを狙い打つ触手。

 その下方から切り払うように光破を突き上げ、触手の軌道を強引に流す。

 カノンの入れた横槍で、あわやRを直撃しようとしていたそれは見当違いの方向へと逸れていった。

 だが、事はそれで終わりではなかった。

 無事なRにほっと息をつき、何気なく視線をゼラバイアへ向けると、ソレが血のように赤いセンサーを光らせ、カノンを見つめていた。

 モニター越しに見られているような気分になり、祐一は背中に冷や水をかけられたような感覚に陥る。

 ゼラバイアが振りかぶるように右半身を下げたのが見えた。

 

 “ヤバい”

 

 頭の中で警鐘が鳴り始めた。

 よせばいいのに、ゼラバイアの次の行動を頭の中でシミュレートする。

 巨体の両腕は鋭い刃のようになっていたはずだ。

 あんなものが突き入れられたら、PTなどひとたまりもない。

 鞭のような触手は本体から伸びているわけではなく、その周囲に浮いている末梢器官のようなものであり、ゼラバイアはそれを遠隔操作のような感じで動かしている。

 例えば、グラヴィオンのような大きな目標に振るわれたならば、鞭は単純な破壊の意味ではなく拘束という意味で作用したかもしれない。

 そう、鞭は単なるプロセス。

 巻き付けて得物を拘束し、動けなくなったところで本命の剣を突き入れるのだと。

 カノンはその一段階目のプロセスを阻止したにすぎない。

 すぐに二段階目が襲ってくる。

 そして、その二撃目の目標はRではなくカノンなのだ。

 どうする?

 今、カノンは空中にいる。

 回避してみるという手段は、機体の制御操作が複雑なため難しい。

 姿勢制御一つするのに五秒も六秒も時間を掛けるのは、即座の対応を必要とされる現状において無意味だ。

 無理。

 次の攻撃は避けられない。

 では、サークルザンバーをシールドのように使って防いでみるか?

 ビームやサーベルなら集中展開した光破で防げるだろうが、残念ながら今回は相対的な質量が違いすぎる。

 おまけに、鞭を切り払った体勢で振り抜いているので、まともな防御態勢をとるための姿勢制御も数秒以内には不可能だった。

 少ない時間の中で考えをまとめ上げ、とりあえず結論づける。

 

 

(あ、こりゃ駄目だ。まともに入るぞ)

 

 

 数秒後。

向かってきたゼラバイアの巨大な剣の切っ先が視界一杯に広がった時点で、祐一は己の意識を放棄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の上空で起こった凄まじい爆発。

 空気を揺さぶるような衝撃波が下へ到達し、周辺のビルや家屋の窓ガラスを根刮ぎ砕く。

 地上へ着地したヒュッケバインRの中から、一弥はその光景を他人事のように見ていた。

 まるで現実味が無い。

 白いヒュッケバインがRを狙っていたゼラバイアの攻撃を代わりに受け、爆発したなどと。

 破片一つ残らず跡形もなくなってしまった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)などと、信じられるはずがなかった。

 

「にい、さん?」

 

 白いヒュッケバインの、祐一の姿を探そうと一弥は周りを見回した。

 だが、彼の目に入ってきたのは破壊された街とグラヴィオン、そして破壊者であるゼラバイアだけ。

 

「嘘だ。……いつもの冗談だろう、兄さん?」

 

 回線に向かって呼びかけるが、応答は無い。

 

 “おう、冗談だ”

 

 期待していたそんな答えは返ってこなかった。

 代わりに、先程まで祐一の声を運んでいたスピーカーからは、耳障りな空電音が聞こえてきた。 

 

「何処だよ? 何処にいるんだっ!?」

 

 全センサーをフルオープンにして、片っ端からチェックを入れるが、導き出されたのはLOSTの文字のみ。

 白いヒュッケバインが完全にこの場から消失したという事実を改めて突きつけられる結果になり、一弥はカノンに刃を突き立てた敵に向かって叫ぶ。

 

「信じない……こんなの信じないぞ。キサマ、兄さんを何処にやった!!!??」

 

 この事態を招いたのは自分の軽率な行動だと一弥は悟っていたが、何よりも事態の原因は目の前にいる異形である。

 彼のやりきれない感情全ては、必然的にソレへ向いた。

 

キサマあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!

 

 まるで怒る主人の気概に呼応するかのように、ヒュッケバインRのセンサーアイが一際蒼い光を放った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サンジェルマン城司令室にも、白いヒュッケバインが引き起こした爆発の報告が入っていた。

 

「爆発による衝撃波を観測。デストロイヤー級ゼラバイアの攻撃で、白いPTが破壊された模様です」

 

 コンソールに表示される情報を正確に読みとり、マリニアが主達に事実を伝える。

 鮮明ではないが、カノン撃破の瞬間のVTRがモニターの一つに映し出された。

 腕を組んでそれを見ていたレイヴンが、その悲報に仮面の奥の眉を僅かに潜ませる。

 

「KURATAのPTが、まさか撃破されるとはな。余計な手出しをせず、我々に任せていればこうはならなかったものを。御曹司の機体ではないのが不幸中の幸いか。……サンドマン?」

 

 城主の様子に奇妙なものを感じ、仮面の麗人は主を呼んだ。

 呼びかけに気づかなかったのか、サンドマンは答えを返さなかった。

 横顔を見る限りでは、その表情に変化は見られない。

 レイヴンは気のせいだと結論づけ、再びモニターに視線を戻した。

 

「……」

 

 紳士は繰り返し再生されるVTRの映像を、無言で見つめる。

 表情に変化こそなかったが、レイヴンがもっと注意深く見ていたなら、サンドマンの顔が蒼白だったことに気づいただろう。

 一弥の乗った機体でないのが幸いだと、レイヴンは言った。

 レイヴンだけではない、おそらくこの司令室の誰もが副官と同じ事を言うに違いない。

 「司令室でただ一人、あの白いヒュッケバインを知る者」以外は。

 モニターから視線を外し、サンドマンは上を見上げる。

 何かを気遣うような城主の瞳が向けられたのは、城の最上階……バルコニーのある方向だ。

 

 

 

 サンジェルマン城バルコニー。

 眼下に広がる森の向こうを、憂いを帯びた瞳で見つめる一人の女性の姿があった。 

 ふくよかな胸とほっそりとした肢体を隠すのは、肩に“鍵”のような形のエンブレムが入ったEFAの女性将官服だ。

 三つ編みにまとめ上げられた長い髪が風になびき、色白の肌に踊る。

 

「名雪、祐一さんを……」

 

 呟きというよりも、祈りのような韻。

 彼女の発した透き通るような旋律は、静かに朝陽の空へと消えていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リーリエの内部は錯綜する情報の処理が間に合わず、混沌とした状況だった。

 謎の白いPTの正体が判明しないうちに状況が移ろい続け、ついには原因不明な爆発の報が入る始末だ。

 Nジャマーの影響が強く出始めたのか、リーリエの位置からでは満足に正確な情報を得ることさえ難しくなりつつある。

 

「一弥、聞こえたら報告して。一体何が起こったの」

 

 一弥に呼びかけを続けていた舞だが、何の返答も送られてこない状態に苛立ちを募らせていた。

 Rからの通信は一方通行ではあったが、先程まで送られていたのだ。

 だが、数分前の謎の爆発を最後に連絡は途絶えてしまった。

 

「Nジャマー及び、謎の爆発による局地的磁場の発生で、激しい電波障害が生じています! 単純な信号は受信可能ですが、双方向の通信回復にはまだしばらく掛かるかと」 

 

「……一弥につながったら知らせて」

 

 対応をオペレーターに任せ、舞はカムを一旦置くことにした。

 Rの位置を知らせる信号は入ってきているので、最悪の事態は無いはず。

 舞が疑問に思っていたのは、一弥と白いPTのパイロットとのやりとりである。

 

(何で、祐一がこんなところにいたの。しかもあんなPTに乗ったりして……わけがわらない)

 

 やりとりからすると、謎のPTに乗って現われたのは祐一らしい。

 その辺りからして意味不明だが、先程の爆発は白い機体が破壊されたために引き起こされたという情報もある。

 情報を鵜呑みにするわけではないが、心配の種は尽きない。

 祐一も心配だが、白いPTがやられたことで一弥が暴走する事も考えられるからだ。

 さっきから、一言も話に参加してこない親友の意見も聞くべきだと、舞は後ろを振り返る。

 

「佐祐理、どうしよう? あの子を下がらせるにも、通信できないんじゃ――」

 

 そこまで言いかけて、彼女は違和感に気づいた。

 情報が錯綜し対応に追われるスタッフ達を見回す。

 

「佐祐理……?」

 

 呼びかけに応えは無い。

 スタッフの中に佐祐理の姿は無かった。

 まるで、最初からそこに存在しなかったかのように、忽然と室内から姿が消えていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の空を一人の少女が翔んでいる。

 変わった形状をした一本の杖に右手でぶら下がる、薄翠のドレスを着た少女。

 佐祐理だった。

 実に不自然な光景である。

 万有引力の法則を完全に無視して空を飛ぶその姿は、見る者を驚愕させるには十分すぎるものだ。

 佐祐理の柔和な貌が緊張で強ばる。

 その瞳の先にあるのは、ゼラバイアとの戦闘の舞台となっている場所だ。

 徐ろにドレスの下から一冊の本を取り出す。

 薄いドレスの何処に隠されていたのか。

 日の光で金色に光っているように見えると思えばくすんでいるようにも見える、変わった装丁の書物だ。

 

神の声の元に(ロガエス)

 

 紡がれる音に合わせて、本のページがゆっくりと一枚一枚、独りでに開かれていく。

 風の影響ではない。

 それどころか、そこそこの速度で飛翔しているにも関わらず、佐祐理は大気の影響をまったく受けていなかった。

 左手に乗せられた本が浮き上がり、淡い金の光を放ち始める。

 薄桃色の唇から紡がれるは魔韻。

 

 

 聖なる耕地の神秘と相似

 

 正しき力をその手に

 

 愛を信じる者達の

 

 夢を守って戦う光

 

 ここに来たれ

 

 

 詠唱に応え、巨大な魔方円が上空に出現した。

 49対49の複雑な文様が次々に絡み合い、光の方陣を形成する。

 それは異界の扉。

 

リーベル・ミステリオルム・エト・サンクティ・パラレルス・ノウァリスクェ!!!!!

 

 契約者・魔術師(マギウス)『倉田佐祐理』の呼びかけに答え、光の門を通って顕在化するそれ。

 現われたのは、PTやMSよりも一回りほど大きな、黄金色に輝く一対の翼を持つ人型……いや、腕脚部が無いことから完全に人型と呼ぶには相応しくないかもしれない。

 佐祐理の所有する“エノクの書”という名の強大な力を持つ魔導書に召喚されしは、光輝の剣―鬼戒神(デウス・マキナ)リーベル・ミステリオルム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撤退するなどという文字は、一弥には無い。

 いや、当初の作戦では撤退を含めた状況の想定もされていたが、彼の中にはもはや欠片も存在しなかった。

 何度も攻撃を仕掛けたが、やはり気合いだけではゼラバイアに傷一つ与えることができないようだ。

 軽い地響きを発ててゼラバイアの放った十数本の金属槍が、ヒュッケバインRを掠めて地面に突き刺さる。

 ほとんどは回避、被弾コースのものもあったがそれはRの持つ“Gウォール”と呼ばれる防御機構で弾道を逸らした。

 エルゴ・フィールドほどの防御能力は無いが、Gウォールはある程度の攻撃を緩衝させる重力障壁を張るので、乱戦では重宝する。

 ただ、使用には機体をある程度アイドリングさせる必要があるため、急な出撃の際の使用は制限されてしまうという欠点があった。

 便利でいて、不便な機構……いや、それを述べるなら要因はRの動力にある。

 サンジェルマン城にいる主賓達は、大統領であるウィリアムでさえ、おそらくRの動力を高効率バッテリーか何かだと思っているだろう。

 ザフトのMSは旧時代MSのような核動力ではなく、バッテリー動力で動いているのだから、そう思うのが当たり前だった。

 でなければ、核分裂反応を阻害するNジャマー影響化の地球圏で動作などしない。

 だが、ヒュッケバインRの動力はバッテリーでもなければ、核動力ですらない。

 旧時代の遺物“ブラックホールエンジン”。

 その仕組みすら解明されていないソレが、Rの内部には使用されているのだ。

 試験段階で様々な問題が生じ、色々と不明な点もあるこの動力だが、それを完全払拭して余りある程のリターンがある。

 生み出される膨大なエネルギーによって、通常のMSやPTではドライブすることができない兵装の使用が可能なのだ。

 

「攻撃が通じないなら、通じるような武器を使えばいいっ!! Gインパクトキャノン射出要請(コール)!!」

 

 おそらく通じるであろう兵装の射出要請シグナルを、リーリエへと送る。

 今回の出撃は、EFAがNジャマー影響下で動く機体を有しているということを各国に印象づけるのが大きな目的である。

 ゼラバイアの破壊に拘る必要は本来ならない。

 放っておいても、グラヴィオンが問題なく倒してくれそうなのだから。

 ――が、それでは一弥の気が収まらない。

 カノンを破壊した仇を自分の手で葬らなければ、気持ちに決着がつかないのだ。

 しかし、同じ気持ちを有しているのは何も一弥だけではない。

 

 

 

 ゴァァァァァァァッ!!!!!!!!!

 

 

 

 Rが少し下がったところで突如、上空から巨大な光の柱が降り注ぎ、ゼラバイアを打ちのめした。

 陽電子砲クラスの光の衝撃だ。

 光はフィールドを易々と貫き、その衝撃に耐えきれず異形がズンと音を発てて地面に倒れ込んだ。

 一弥は光の正体に覚えがあった。

 

「今のはリーベルの“レギオン”? …………姉さん、何で出てきたのさっ!!!?」

 

 現世紀最強のスーパーロボット半鬼械神“デモンベイン”を含む、αナンバーズ三体の鬼械神の一つリーベル・ミステリオルム。

 食ってかかる弟に対し、浮遊するリーベルの中で佐祐理は飄々と言う。

 

「『でも姉さんの出番は無いよ。あの程度の数、僕とRで十分だ』貴方はそう言いましたねー、一弥? でも、状況を見るとそういうわけにもいきません。それに祐一さんの仇を、みすみす他の方に差し上げるなんてもっと嫌です」

 

 嗜めるような調子で一括りすると、少女は少し後方で戦闘態勢をとったままのもう一つの神を見た。

 斗牙の再三の制止も聞かず、ヒュッケバインRが常に近距離で戦闘を続けているため、グラヴィオンは迂闊に動けなかったようだ。

 

「ゼラバイアの障壁を中和できる戦闘ロボット……さすがミスター・サンドマンが自信を持って薦められるだけのことはありますね♪」

 

 まるでグラヴィオンの存在意味を認めるような言葉。

 非公式ではあったが、KURATA代表として来ていた彼女の発言としては不適切だと、関係者なら思っただろう。

 アースガルズのメンバーなら良いふうにとるであろうそれ……聞いたグランナイツ達は、各々気分良く受け取る。

 だが、次の台詞がそれをぶち壊した。

 

「そんなわけでグラヴィオンのパイロットの皆さん、そのロボットの有効性は十分理解できましたから、この場は佐祐理達に任せて退いていただけませんかー? あのデカブツは佐祐理が責任を持って断罪しますから」

 

 一体どんなわけなのか。

 口調は丁寧だったが、言っていることは「後は引き継ぎます。あなた達はもう必要ないので帰って下さって結構ですよ〜」というようなものだ。

 普段と変わらない態度に見えるが実際問題、佐祐理はキレていた。

 ある過去の出来事から、祐一が絡むと佐祐理の一人称は「私」から「佐祐理」になるのだが、それだけではなく今の彼女には何処か雰囲気に容赦というものがない。

 

「か、勝手に話を進めンなっ! 相沢がやられてムカついてンのはあんただけじゃねーんだよ、倉田先輩! 姉弟揃って、なんでそんなのに乗ってンのか知らねーけど、後から出てきてそれはないだろうがっ! このゼラバイアは俺達が倒すンだからな!!!!」

 

 相手のぶしつけな提案に皆が閉口する中、グラヴィオンの中で唯一佐祐理と面識のあるエイジが反応し、普段はたおやかで優しい佐祐理のイメージのギャップに戸惑いながらも、怒り叫ぶ。

 友を目の前でやられたという事実が、内に眠る熱き魂を揺さぶる動かしたらしく、嫌々出撃した彼は急速に打倒ゼラバイアの使命感に目覚め始めていた。 

 

「ふぇ〜、ひょっとして紅さんですか? 奇遇ですね〜♪」

 

「“なんで紅先輩がいるのか”なんてこの際“どうでもいいこと”だよ、姉さん。兄さんに比べれば重要度は下の中だしね」

 

「倉田ぁ、てンめぇ……!」

 

 試行錯誤の結果、通信を双方向にすることができたのだが、返ってきた一弥の辛辣でどうでもよさげな言葉に、エイジは更にボルテージを上げた。

 佐祐理は少し思案に暮れたが、ゼラバイアが起き上がるような素振りを見せると、ポンと手を叩いて提案した。 

 

「仕方ありませんね。対象は一つだけ。半分にするわけにもいきませんし、ここは公平に……早い者勝ちということでいきましょう♪」

 案を挙げるというより、案の押しつけだった。

 まったくもって公平ではない。

 他者が止める暇など与えず佐祐理はリーベルを操り、術式を発動させる。

 

「まずは移動を禁じましょうか。その巨体には狭いでしょうけど、人心を脅かす邪悪には過ぎた牢獄を差し上げますっ!!」

 

 上空に描かれた七芒方円から光が降り注ぎ、起き上がったゼラバイアの周りを囲むように、一瞬にして十六角形の光の空間を形成した。

 攻撃を行なった相手、上空のリーベルに向けて反撃を行なおうとする異形。

だが、投槍での攻撃は光壁を破ることができず、衝撃を吸収されて終わるのみだ。

 

 縛鎖空間呪法“光さす箱庭”

 

 リーベル・ミステリオルム最大秘術の一つであるこの光の檻は、佐祐理の魔力供給量を上回る力を加えない限り、内側から破ることはできない。

 また、内部が局地的異界と化すこの檻は、内側からの攻撃こそ通さないが、外側からの攻撃は入れ放題という利点もあった(この状態で近接戦闘を加えようとした場合、対象と共に内部へ取り込まれてしまう上、術者の魔力を常に相当量使うため維持が難しいという欠点も存在する)。

 術者の気力がよほど充実していなければ使えないはずなのだが、いきなり使えたところをみると、気力十分やる気満々ということらしい。

 地上に近い位置にあった光の檻が、佐祐理の力によって上空へと引き上げられる。

 

「あはは〜っ! その箱庭(けっかい)は簡単には破れませんよ〜!」

 

 破れるはずのない檻の中でもがく獲物を見、魔法少女は小悪魔めいた微笑みを浮かべて次の術を組み上げ、更なる攻撃に移った。

 リーベルの正面の空間が僅かに湾曲したかと思うと、収束した光が波動となって撃ち出された。 

 

 殲滅系光式呪法“レギオン”

 

 参戦の折にゼラバイアを撃った光と同じ、最大出力で放たれた陽電子砲と見まごうばかりの、凄まじいエネルギーの奔流だ。

 完全に的となった異形を、容赦なく襲う光の波動。

 一撃では済まさず、佐祐理は必殺の奥義をこれでもかというほど撃ちまくる。

 まるで容赦がない。

 エルゴ・フィールドを突き破り進んでくる光に、ゼラバイアは為す術もなく滅多打ちにされた。

 

「なによあれ……? 圧倒的じゃないっ!」

 

「ゼラバイアがタコ殴り状態ですぅっ!」

 

 その光景を目にした琉菜とエィナは、余りの出来事に驚きを隠せない。

 ミヅキもまた、圧倒的な力を見せつける佐祐理のデウス・マキナに畏敬を向ける。

 

「これが、元αナンバーズ『閃光の魔女』の力……!」

 

 口から漏れたのは、橘の反乱で呼ばれることになった佐祐理の二つ名。

 前の二人とはまた驚きのベクトルが異なるようだ。

 理由は不明だが、何故かミヅキは佐祐理の事を知っているらしい。

 ミヅキの呟きはエイジにも聞こえたが、エイジは承伏できない展開にボルテージが最高潮に達しており、それどころではなかった。

 このまま指をくわえて見ていたら、間違いなく佐祐理がゼラバイアを倒してしまう。

 

「おい天然、さっき額から出したあの技でトドメをさせよっ! あれなら倉田達を巻き込まずにやれるだろ!?」

 

 ナイスアイデアだと思いついたことを挙げるエイジに、斗牙は簡潔に答える。

 

「グラヴィトン・アークは速射することができない。それに、無理な行動は臨界を早めるだけだ」

 

 グラヴィオンには、重力子臨界という稼動限界がある。

 それは、グランカイザーのエルゴ・フォームによって高められた重力子エネルギーの負荷に、他のグランディーヴァが耐えられるリミットであり、10000から始まった重力子臨界は攻撃行動や時間によって減っていく。

 そして、これがゼロになった時、機体及びパイロットの安全が優先され、合神が解かれてしまうのである。

 臨界の関係でできないという回答をされては、反論の余地が無い。

 

 

 ダンッ!

 

 

「ちくしょうっ! なんとかならねーのかよっ!?」

 

 悔しさの余りコンソールを叩くエイジ。

 だが、そんな時だった。

まるでエイジの慟哭に応えるように、スピーカーからそれが飛び込んできたのは。

 

「……グラヴィティ・クレッセントを使って」

 

 囁くようなか細い声。

 耳の中に残る音に、エイジはハッとして通信画面を見つめる。

 

「だ、誰? 今の声……」

 

「司令室から?」

 

「テセラさんの声……じゃありませんよね?」

 

 琉菜やミヅキ、エィナの探すような様子から、彼女達ではないことが伺える。

 司令室からでもない。

 弱々しい、守りたくなるような少女の声、それも最近聞いたような……そこまで考えて、エイジはその声の主に思い当たった。

 

「……リィル? その声、リィルか!!」 

 

「え、え!? リィルって誰よ?」

 

「リィルなんだろ!? まてよ……ひょっとして、Gシャドウのパイロットをやってるのはお前なのか!?」

 

「Gシャドウのパイロット!?」

 

 初めて聞くその名とエイジの推測に驚きの声を上げる琉菜とミヅキ。

 通信画面に顔は表示されていない。

 だが、エイジは自分を救ってくれたGシャドウのパイロットが、南の塔で会ったあの少女なのだということを、直感的に感じ取っていた。

 

「Gシャドウは武器として使えるの。……音声入力でスタンバイします。時間がありません、急いで……!」

 

 リィルと思しき少女の最初の言葉は、攻撃方法を模索していたエイジに向けられたもの。

 そして、続いたのはグランカイザー・斗牙への報告だ。

 

「了解した」

 

 戸惑う素振りすら見せず、斗牙は即座に行動を起こした。

 時、同じくしてリーリエから飛来した兵器をヒュッケバインRが上空でキャッチし、機体へと直結させた。

 

ゲットセット、Gインパクトキャノン……!!

 

 ドライブ・プログラムが正常に稼動していることを確認、一弥は身動きのとれない箱庭の中の標的へと照準を合わせる。

 Rの攻撃タイミングに合わせたのか、佐祐理の魔力が尽きたのかわからなかったが、前触れもなく光の檻が消え去った。

 

「最低の戦いだ、下の下だねっ!!!」

 

 不甲斐なさを隠そうとせず、一弥がやりきれない怒りをトリガーに乗せ引き絞った。

 砲身の先の空間が超重力の収束によって僅かに陰った瞬間――。

 

 

 

 ヴアァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 通常兵器の追随を許さない、絶対的な力がゼラバイアに向けて解き放たれた。

 超重力の波は対象に抗うことをよしとせず、測定不能の圧倒的衝撃が金属の怪物を呑み込み、蹂躙した。

 直撃させれば大型宇宙艦すらも一撃で粉砕する衝撃だ。

 驚いたことにGインパクトキャノンの砲撃を受けてなお、ゼラバイアは全身をズタズタにされながらもその身を存在させていた。

 恐るべき耐久性能である。

 だが、その命運もここまでだった。

 

グラヴィティ・クレッセント!

 

 斗牙の叫びに応えるように、Gシャドウの少女が合わせる。

 

シュート!!

 

 か細いながらも響く声に乗り、Gシャドウのウィング部分……クレッセントが分離した。

 グラヴィオンが重力子コーティングされたクレッセントを振りかぶり、敵へと投げつける。

 ブーメランのように複雑な軌道を描きながら、グラヴィティ・クレッセントが満身創痍のゼラバイアを襲い、胴体部分を貫通、両断した。

 夢か現か。

 決定的な一撃を受けたゼラバイアは力を失い、光の粒子となって弾け、そのまま消滅した。

 

 朝陽が照らす中、消えていく破壊者の姿を前に、それぞれの戦士達は短くも長い戦いが終わりを告げたことを悟った――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後――。

 中立国を経由して大西洋連邦へと向かう航空機内。

広々としたVIPルームにて、ブロンドの青年が何やらカムに向かって怒鳴っていた。

 

「――聞こえなかったのか!? EFAがNジャマー影響下で動く機体をロールアウトさせたって言ったんだっ! ……ああそうだ、ハルバートンの玩具をアテにしてる時間なんて、もう無いんだよ! 必要なデータは送られてきているだろうがっ!!」

 

 ムルタ・アズラエルだ。

 秘匿通信を用いて話している相手は、どうやら自国技術部門の者らしい。 

 

「無能共がっ! 揃いも揃って何考えてんだか!」

 

 しばらくして、叩き付けるようにカムを置くと、彼は吐き捨てるようにぼやいた。

 融通の利かない、状況をまったく理解していない下の者に腹立しさが抑えられないようだ。

 先日の東方での一件以来、ピリピリしているアズラエルに、護衛として随伴していた大西洋連合の佐官が話しかける。

 

「まさかEFAがPTの使用を既に可能にしていたとは、思いもよりませんでしたな。この分ではMSの方も時間の問題でしょうか?」

 

 名はウィリアム・サザーランド。

 軍人であり、狂信的なブルーコスモスの一員としての顔を持つ彼は、アズラエルの腹心ともいうべき存在である。

 配下の前ということもあり少し落ち着いたのか、盟主は僅かばかりの笑みを見せた。

 

「もしくは、もう使えるようになっているのかもネ。“戦術の鍵”の、例の部隊のこともあるし。おまけにあの『閃光の魔女』に加え、件の巨大ロボット……冗談じゃありませんヨ、まったく」

 

「ザフトだけでも手一杯だというのに、外宇宙からの敵とは……ザフトのMSと渡り合える駒を得、ゼラバイアへの対抗策(グラヴィオン)を国内に持ったことで、EFAは地球軍での発言力が増しますかな?」

 

 地球連合軍といっても、中身は単なる寄せ集めの同盟軍である以上、その力関係は軍事力に左右されている。

 EFAがPTに加えてMSを得ており、更に宇宙からの外敵に対する防衛策グラヴィオンさえも有することになれば、地球連合内での発言力は計り知れないものになるだろう。

 それは、大西洋連邦の思惑ではない。

 

「だろうネ。もっとも、コーディネイター共を内に飼っている奴らに、我々はいつまでも遅れをとっているわけではないケド」 

 

「“ダガー”の量産計画に“生体CPU”、それに、プトレマイオスの遺跡から出た“前世紀の遺物”ですな」

 

 具体的な策を挙げてみせるサザーランドに、アズラエルは笑いながらも敢えて答えなかった。

 東方統合国は地球連合に加盟こそしているものの、自由企業国家の体質により加盟国として唯一コーディネイターに対する差別政策をとっていない。

 それどころか、その国柄から少ないながらもコーディネイター達が社会深くへと浸透しているのだ。

 コーディネイターという毒に内部から冒され、腐りきった資本国家が地球連合のリーダーとなった日には、ザフトと和平などというふざけた展開さえある。

 そんなものなど、容認できるわけがない。

 

「ふん……」

 

 アズラエルは、壁のモニターに表示されている映像に目を向ける。

 画面には、先日の東方における対ゼラバイア戦闘のVTRが繰り返し流されていた。

 グラヴィオンが腕部を射出し、巨大な異形の金属体を打ちのめすシーンだ。

 

「金属生命体、ゼラバイア。そして、それに立ち向かう巨神グラヴィオンか……なるほど、確かに神話めいた光景ですネ」 

 

「現在、クライン・サンドマン及び、あのグラヴィオンという兵器について、東方の諜報員に調査を進めさせております。今しばらくお待ちを」

 

 サザーランドの報告に微笑を深めるアズラエル。

 

「超重神グラヴィオンに、クライン・サンドマン。たかが一介の金持ちふぜいが、あのような切り札を握っていることは面白くないケド……」

 

 神々しさ、そして畏怖を感じさせる巨体。

 敵に回せば恐ろしいことになるだろうが、味方ならばこれほど頼もしいものはない。

 そして、その力を自らのものとすることができれば、それはどんなに素晴らしいだろうか。

 

「……まぁ、いいでしょう。彼らもいずれ知ることになる。人類に必要なのは神ではなく、指導者なのだということを」

 

 力は、支配者が握るのが相応しい。

 蒼き地球の支配者は、自分達ナチュラルなのだ。

 反コーディネイター組織ブールーコスモスの盟主アズラエルは静かに笑った。

 主の呟きにサザーランドは平伏する。

 

「全ては、蒼き清浄なる世界のために……」

 

 

 刻の歯車が回り始める。

 

 始まりの終わりが、動き出したのだ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

始動編

 

 

 

邂逅編

第四話へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 第三話「一つの終わり、全ての始まり」

終了後のイベント達成及びデータ登録確認

 

 

 

 

 

 

 

 第三話の主な戦闘の流れ

 

 <戦闘開始>

 

 

 ソルジャー級ゼラバイア多数出現

 

PTヒュッケバイン・カノン参戦

 

ヒュッケバイン・カノン、ゼラバイアに対し“ロシュセイバー”で攻撃

 

PTヒュッケバインR参戦

 

ヒュッケバインR、ゼラバイアに対し“メガビームライフル”で攻撃

 

ヒュッケバイン、ゼラバイアに対し“サークルザンバー”でカウンター攻撃

 

ヒュッケバインR、ゼラバイアに対し“コールドメタルソード”で攻撃

 

グランカイザー参戦

 

各グランディーヴァ参戦→超重神グラヴィオン合神参戦

 

ソルジャー級ゼラバイア撤退、デストロイヤー級ゼラバイア出現

 

グラヴィオン、ゼラバイアに対し“グラヴィトン・プレッシャーパンチ”で攻撃

 

グラヴィオン、ゼラバイアに対し“グラヴィトン・アーク”で攻撃

 

ヒュッケバインR、ゼラバイアに対し“コールドメタルソード”で攻撃

 

ゼラバイア、ヒュッケバインRに対し“剣”で攻撃

 

ヒュッケバイン・カノン、Rを援護防御

HP20%未満→カノン消滅イベント発生

 

倉田一弥“気合×2 熱血 不屈”イベント発動

 

鬼械神(デウス・マキナ)リーベル・ミステリオルム参戦

倉田佐祐理 “愛” イベント発動

 

リーベル・ミステリオルム、ゼラバイアに対し“殲滅系光式呪法「レギオン」”で攻撃

 

リーベル・ミステリオルム、ゼラバイアに対し“縛鎖空間呪法「光さす箱庭」”で攻撃

 

ヒュッケバインRの武装に“Gインパクトキャノン”追加

ヒュッケバインR、ゼラバイアに対し“Gインパクトキャノン”で攻撃

 

グラヴィオンの武装に“グラヴィティ・クレッセント”追加

グラヴィオン、ゼラバイアに対し“グラヴィティ・クレッセント”で攻撃

 

 デストロイヤー級ゼラバイア撃破

 

 

 <戦闘終了>

 

 

祐一×佐祐理 ○ − − − − :第一フラグ成立  

 

 祐一&一弥 ○ − −  :第一フラグ成立 

 

 

 

 登場人物図鑑に

 

水瀬秋子

 

 を追加予定。

 

 

 

 Gαスーパーロボット大図鑑に

 

 グランカイザー及びグランディーヴァ各機  グラヴィオン  ヒュッケバインR  リーベル・ミステリオルム

 ソルジャー級ゼラバイア(空)(地)  デストロイヤー級ゼラバイア(剣)

 

 を追加予定。

 

 

 

 Gα用語図鑑に

 

 カオシュン  エルゴ・フォーム  エルゴ・フィールド  重力子臨界  魔導書  エノクの書  

魔術師  鬼械神  戦術の鍵   

 

 を追加予定。