スーパーロボット大戦

Generation α

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メイド。

 メイドだ。

 メイドばかり。

 担当エリアごとだろうか。

服装こそ多少異なるものの、城内はモデルでも通用しそうな美しいメイド達で満ち溢れていた。

 ティーンズが集まる休日の繁華街を花畑とするなら、ここは王宮貴族の所有する花園といったところか。

 老人だろうが若者だろうが、男ならそれを目にして持ち帰りたくなる衝動を抑えるのは難しいであろう、華やかな花々。

 そんな色とりどりの花達の中で、一際異彩を放つ花が一輪。

 一人の少女メイドである。

 その少女が他の花達に劣るというわけではない。

 優しげな大きめの瞳に、同性が羨む長い艶やかな髪。

 薄化粧の下に見え隠れする雪のような白磁は彼女本来のものだろう。

 異彩といっても、異なる色というそのままの意味を示すだけで、男に「美少女か?」と聞けば間違いなく九割以上がYESと答える女の子である。

 際立っていたのはその恰好だ。

 少女が身に着けている茶色をベースにしたシックな色合のメイド服は、胸の赤いリボンと相まって彼女に似合っていたが、周りのメイド達の服装と違うデザインのものであるため、いやでも目立つ。

 ただ目立つだけならまだいい。

 問題なのは、少女の頭に生えている物体だった。

 いや、生えているというのは正確ではないだろうか。

 少女の頭の上に付いている愛らしい物体……世間一般で言うかどうかはわからないが、それは

 

“ネコミミ”

 

 というものらしかった。

この奇妙なネコミミメイド少女の名は、水瀬名雪。

 城の外で待っているはずの、祐一のいとこである。 

 祐一達に「待っていろ」と言われたものの、潜入した二人が無事に帰ってくる保障はまったく無く、考えれば考えるほど心配になったため、結果、城へ忍び込む計画に合わせて用意しておいたメイド服を着込み、少女もまた城へと潜入したのだ。

 ぶっちゃけた話、待ちきれなくなったともいう。

 ただ、名雪は祐一と違い、エイジの姉のアヤカと完全に面識がある。

エイジはともかく、一度会っただけでうろ覚えなために写真一枚片手に潜入した祐一よりは活躍できる可能性があった。

 

(完璧にとけ込んでるよね? うん、バッチリだよ〜)

 

 うんうんと頷き、満足そうに微笑む名雪。 

 百歩譲ってデザインの違うメイド服が見咎められなかったとしよう。

 それでも、ネコミミはいただけないこと、この上なかった。

 メイドはあくまでメイドで、ネコミミを付けている者などメイド達の中には一人も居ないのだから、とにかく目立つのだ。

まったくバッチリではない。

 すれ違うメイド達からジロジロと訝しい視線を向けられていることに気づかないまま、名雪はニコニコとマイペースで城内を進んでいく。

 

「ちょっと、そこのあなた?」

 

 幾らなんでもそんなに甘いモノではない。

 案の定、その姿を見咎められたのか、メイドの一人に呼び止められる名雪。

 だが――。

 

「え?」

 

 

 ドンッ!

 

 

 生返事をしながら振り向こうとするも、足を止めなかったのがいけなかったらしい。

 振り向いたタイミングと、曲がり角から人が現われたのが同時だったこともあり、名雪はその人影に勢い良くぶつかってしまった。

 

「わっ!? ご、ごめんなさい!」

 

 なるべく目立たずに行動しなければならないのは、常人よりも幾分脳天気な名雪でも承知していることである(既に恰好からして目立ってはいたが)。

 慌てて謝り、恐る恐る上目遣いでその人物を見上げる。

 問題の御仁は、名雪よりも頭二つ分近く高い長身の男性だった。

 城の外で遠目から見た各国の主賓達と同等か、それ以上の質の良さそうなスーツを完璧に着こなす紳士だ。

 年の頃はよくわからないが、年と見た目が一致しない人物を母に持っているので、名雪はとりあえずその紳士を母の秋子と同じぐらいと分析しておく。 

 

(かっこいい……えらい人かな?)

 

 祐一一筋な名雪が思わず見惚れるほどの容姿をした紳士は、感情の起伏を表に出さないまま、名雪を見つめ返した。

 睨んでいるようではなかったが、どちらかといえば名雪同様、紳士もまた少女のことを分析しているかのようだ。

 

「あの……?」

 

 ぶつかったことを咎めず、黙ったままの紳士の態度に心配になった名雪が何か取り繕おうと、とりあえず声を上げようとした時。

 

 

  すっ

 

  

前触れもなく紳士は、名雪の頬の下にいきなり手をやると、胸元の上にあるリボンへと手を伸ばしたのだ。

いきなりでいて、自然すぎたため名雪は反応すらできない。

 

「リボンが曲がっているな」

     

 間近でそう声を掛けられ、微笑む紳士のエクボを見て初めてそれに気づく。

 名雪がジェントルマン好きのいなせな年上好みだったら、一撃で昇天しそうな破壊力の、マンガのような笑顔がそこにあった。

 

(わ、わ、わ!?)

 

 残念ながら名雪はそうではなかったようだが、それでも異性との接近遭遇自体にそれほど免疫があるわけではないので、おのずと顔が真っ赤に染まる。

 だが、慌てたのは名雪だけではない。

 

『サ、サンドマンさま!?』

 

 紳士のその行動に驚愕したのは、メイド達も同様だ。

 実に熱い視線が紳士と名雪を取り巻いていた。

 大部分は驚きを示すものだったが、中には嫉妬めいたものまで含まれている。

 紳士は単に曲がったリボンを直しているだけなのだが、その行為……というよりも、その対象である名雪がお気に召さないらしい。

 メイド達の様子を観察すれば、紳士がメイド達を使う側の人間であるということぐらい、普段の彼女にならば推察できただろうが、紳士に見つめられ、完全に二人だけの世界に突入している名雪にはそれを期待するだけ無駄だろう。

 

「よし……ふむ、思った通りだ。よく似合っている」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 単純な褒め言葉だが、与えた効果は大きかったようで、名雪は赤く染まった顔を隠すように俯いた。

 基本的にいとこの少年以外の男は異性として眼中に無い彼女がそういった状態に陥るほど、紳士は実に魅力的な男性だった。

 

「初々しいな。なるほど、新人さんか。君はまだここに慣れていないようだね?」

 

 そんな名雪の様子に初々しさを感じ取ったのか、紳士は勝手に自己完結、目の前の変わり種メイドをそう結論付けたらしい。

 当然ながら明らかに違うのだが……。 

 

「……はい」 

 

「そうだな……ならば城に慣れる意味も含めて、この紙に書かれている場所を掃除して欲しい。どうかな?」

 

 さすがにこれ以上城の関係者に接するのはマズイと思い始めていた矢先の、渡りに船だった。

 名雪は流れに任せることに決め、顔を上げて頷く。

 

「わかりました。ええと……サンドマンさま」

 

 先程、メイド達が呼んだ名を咄嗟に口にすると、紳士から経路が書かれた紙を受け取り、名雪はそそくさとその場から立ち去ることにした。

 

「……フッ」

 

 サンドマンと呼ばれた紳士は、名雪の姿を慈愛に満ちた表情で見送り、静かに微笑んだ。

 まるで、初めての仕事をこなそうと必死になる若者を見守る年長者のような微笑ましい視線を、その背に送りながら――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二話「来訪者」

The Zelabaia―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変長らくお待たせいたしました。これよりこの城の主、クライン・サンドマンより、皆様方にご挨拶があります」

 

 ホール全体にレイヴンの声が響き渡ったのを皮切りに、照明がうっすらとステージを照らし、会場の雰囲気もそれに合わせて闇を強調したものへと替わった。

 会場を取り巻いていたざわめきは小さくなり、すでに客達の目が進行を見守るものへと変化している。

 二階からステージの中央へ降りる階段へ、スポットライトが当てられると、演奏を止めていた合奏隊が指揮者の合図でファンファーレを奏でる。

 そして、光の先から長身の紳士が姿を現すと、小さくなっていたざわめきが再び大きくなった。

 登場した白皙の青年紳士に、ほとんどの者が膨らませていた想像とは違う人成に、驚きを隠せないでいるようだ。 

 

「あの人がクライン・サンドマン……?」

 

「はぇ〜……随分と若い方ですね」 

 

「想像していたのとは違うな。てっきり、御老人かと思っていたんだけど」

 

 佐祐理達三人もまた、他の招待客達と同様の感想だった。

 世界有数の財閥であるKURATAや覇道以上の財力を持つ謎の大金持ちという情報から導き出されるとしたら、大抵ある程度は年のいった人間を想像する。

 いくら知識や資産があろうと、経営資本の管理運営には経験が付きまとうからだ。

 だが、どうみても問題の人物は二十代後半から三十代前半にしか見えないのだから、驚くなという方が難しいだろう。 

 

「……お集まりの皆様方」

 

 静かでいて、確固たる力強さを秘めた声。

会場内が大きなざわめきで包まれていたにもかかわらず、サンドマンの発したそれは場を支配し、漏れる声を押しとどめた。

 

「今宵は私の招きに応じて頂き、心より感謝いたします。私がこの城の城主、クライン・サンドマンです」

 

 一旦言葉を止めステージ中央から会場を見回した後、サンドマンは力強い調子で言葉を紡ぐ。

 

「――無用な挨拶は抜きにして簡明に申しましょう。現在、地球は危機に瀕しています」

 

 

 “地球は危機に瀕している”

 

 

 その言葉の意味を計りかねたのか、客達の間に戸惑いを含んだ空気が流れ始める。

 

「あの男は、何を言い出すつもりでしょう?」

 

 台詞の意図を理解できないのか、ステージの近くにいた一人の隣人への囁きがサンドマンの耳にも届く。

 だが、場の雰囲気に臆することなく、彼は会場中央の壁面に向かって視線を向ける。

 すると、まるでそれが合図であったかのように、壁面に掲げられたタペストリースクリーンに実写の映像が映し出された。

 スクリーン上の対象物は、荒涼とした赤い砂の大地とそこに建つ巨大なドーム施設群だ。 

 一般人ならば馴染みのない光景だったが、職業柄、この場にいる者達はそこが地球連合によって共同管理された火星資源採掘基地だと知っていた。

 各国の重鎮達が見守る中、その出来事が始まった。

 宇宙開発において、プラントに一歩先んじられている地球連合側の最重要施設の一つ……そんな場所に突如、災厄が襲い掛かったのだ。

 建造物の一つが、何の前触れもなく空から降ってきた光に貫かれ、砕け散る。

 上空から降下し火星の大地へ突き刺さる巨大な刃状の物体。

 無機質で攻撃的。

まるで剣のような形状の機械の怪物が怪光を発射し、刃を突き立て、次々に施設を破壊していく。

爆圧で砂が宙に舞い、炎に照らされた赤砂がまるで血煙のように映った。

 音声は入っていなかったが、突然の惨劇に逃げまどうスタッフの歪んだ表情が、逆に無音によってより一層引き立てられ、恐怖の様を克明に伝えていた。 

 

「良くできたCGだが……」

 

「新作の特撮かSF映画の宣伝か?」

 

 大なり小なり、客達の持った感想は同一だった。

 奇妙なほどリアルだが、それだけに現実感に乏しいのだ。

 サンドマンは、来賓の反応にも顔色を変えず続ける。

 

「これは虚構ではありません。今、この瞬間の火星基地のレーザー通信を用いたライブ映像です。撮影しているのは私の部下。現場の凄惨な事態の報告が、今も次々に入ってきています」

 

 人々は唖然として映像に見入っていたが、何処かそれは他人事のような、実感の伴わない程度のものにすぎないようだった。

 常識的ではない、現実的ではない。

 受け入れる、入れない以前の問題だというわけだ。

 

「……今一度、申し上げます。現在、この太陽系人類世界は、外宇宙からの攻撃を受けているのです」

 

 会場に響く城主の声が届いているのかいないのか。

 大真面目なサンドマンの呼びかけにも、客達は沈黙で返すばかりだ。

 だが、十秒ほど経ってから、不意にブロンドの白人男性が拍手をしながらステージの前に歩み出てきた。 

 

「ミスター・サンドマン。なかなか面白い趣向でしたヨ」

 

 青年の名はムルタ・アズラエル。

 大西洋連邦国防軍需産業連合の若き長にして、反コーディネイターを標榜する団体『ブルーコスモス』の盟主である。

 

「……だが、パーティジョークとしては些か凝りすぎているのではないですか? ザフトと事を構えている戦時、こんな馬鹿げた催しもののために我々を呼んだのだとしたら、興醒めも甚だしいですナ?」

 

 人を食ったような態度で手を打ち揶揄するアズラエルに、サンドマンは平静を装ったまま答える。

 

「ミスター・アズラエル、残念ながらこれは現実です。人類は今、滅亡の淵に追いやられているのです」

 

 あくまで映像が現実だと主張するサンドマンに気分を害したのか、他の主賓達も続きだした。

 

「莫大な財産を持っている者の中には時折、いたずらっ気のある人物がいるが、これは度を超している。悪趣味の範疇に属していると思うが?」 

 

「私としてもこれが冗談であればどれほど嬉しいことか……」

 

 サンドマンの崩れない態度に、東方統合政府大統領ウィリアムもまた肩を竦め、手に持っていたグラスをテーブルへ置き、言う。

 

「史上空前の富の持ち主と言うから、どのような人物かと期待していたのだが――いきすぎたジョークはあまり私の好むところではない。失礼させていただこう」

 

 無駄に時間を費やすことを由としないウィリアム。

くだらないことに付き合わせてくれたと、その表情が雄弁に語っている。

 だが、彼が城外へ続く通路へ向かうべく踵を返そうとした時、先程から小型通信機で通話をしていたウィリアムの側近が顔色を変えた。

 

「……なに? 何だと……それは本当かっ!?」

 

 そして、声を1オクターブ下げつつ、即座に主へと事実を伝える。

 

「緊急連絡です……! 火星基地からの連絡が途絶したそうです。呼びかけを行なっていますが、どの国のベースからも応答がありません……!!」

 

 まるで映像を裏付けるかのような報告の内容に、大統領が目を見開いた。

 そして、それを合図にしたように会場のいたるところで客達へ国元から火星基地通信途絶の報告が入ると、その事実が認識され始めるにつれ、ざわめきが徐々に広がっていく。

 サンドマンは混乱していく会場をしばらく無言で見守っていたが、会場全体に情報が行き渡ったとみると、静かに口を開いた。

 

「……外敵は太陽系天頂方向より襲来。現在、火星基地を襲撃中……さしあたり現場の人々の安全確保は、潜入させた私の部下達に任せてよかろうと思います。肝要なのは敵のこれからの動きです」

 

 城主の言葉に合わせて、スクリーンの映像が火星基地の惨状から太陽系模式図へと変わった。

 太陽系直上から現われた光の線が火星を経由し、地球へ迫っている。

 

「敵の最終目標は地球。私はこの敵に立ち向かうべく、以前より対策を講じておりました。皆様にお願いします。どうか、ご理解とご協力をいただきたい……!」

 

 サンドマンが喋る間、僅かに静まっていた会場が再び蜂巣を突いたような騒ぎに包まれる。

 謎の敵の襲来は、各国の首脳陣や軍部にとってまさに寝耳に水の出来事だった。 

 

「馬鹿を言うなっ!! 民間人の出る幕ではない!」

 

「地球軍に任せるべきだ! 君の持っている情報をただちに提出したまえ!」

 

 不満の声を上げた者に軍属の者が多かったのは、一介の金持ち風情にいち早く情報を握られ、更にその対策をとられてしまったかもしれないという事実に対する面子の問題ということもあるのだろう。

 だが、今は面子よりも事実確認が優先である。

 

「静かに!」

 

 ウィリアムの鶴の一声で、ざわめきがピタリと止んだ。

 サンジェルマン城が東方の勢力圏内である以上、この場を仕切るのは東方統合政府大統領である自分の役目だと言わんばかりに、彼は誰よりも詳しい情報を握ると思われるサンドマンを正面から見据える。 

 

「……どうやら、ジョークではないようだな。ミスター・サンドマン、君は何故この敵の襲来を知っていた? 一体、アレは何なのだ?」

 

 誰もが固唾を飲んで見守る中、謎の大富豪は瞑目しつつ、厳かにその名を口にした。

 

「ゼラバイア」

 

「ゼラバイア?」

 

 サンドマンは頷きつつスクリーンの映像へ再び視線を移した。

 爆炎の向こうに立つ悪魔のような来訪者……破壊者以外の何者でもないそれに注がれる視線。

そこに宿る感情は霧の向こうに閉ざされ、誰にも伺い知ることができない。 

 

「そう、人類の未来を喰らうモノ――」

 

 

 

 

 ――サンドマンが“ゼラバイア”という名を口にしてから数十分後。

 世界の重鎮達は、既に事態が地球にとって退っ引きならないところまで進行していることを悟っていた。

 火星を襲った謎の来訪者が単体ではないこと。

襲ったものと同じか、または別のソレが間もなく地球圏に到達すること。

 そして、地球への第一波が東方統合国内に飛来するであろうこと。

 戦時のため、防衛部隊の展開を速やかに行える事を幸運と呼ぶべきかどうかは謎だった。

 対策を講じるにしろ、情報も時間もあまりに足りなさすぎる。

いずれにしろ、緊急を要するにも関わらず対策と呼ぶべきことがそれぐらいしかないのが現状だった。

 サンドマンは「ゼラバイアへの対策をこれからお目に掛ける」とタペストリーを示しつつ退席したが、果たしてその対策とやらがどの程度のものか。

 

「ゼラバイア……」

 

「舞?」

 

 神妙な顔をして怪物の名を口にした親友の様子に、佐祐理は情報を引き出すために行なっていた携帯端末の操作を止めた。

 念動力者として高い感受性と力を持つ舞だけに、何か感じるものがあったのだろう。 

 

「すごく嫌な感じがする。気を付けた方がいい」

 

「……そうだね」

 

 それは言われるまでもなく同感だった。

 過去、“橘の反乱”にてαナンバーズに参加し、数多の戦場を戦い抜いた経験を持つ佐祐理達は、未知の敵と相見えることの意味を十分すぎるほど理解している。

 やるべきことは全てやらなければならない。

 KURATA代表という肩書きは伊達ではなく、こういった事態に対応するための権限と手段を、倉田姉弟は財閥と政府からある程度与えられていた。

 佐祐理は、ゼラバイア迎撃のための出撃許可を得るべく大統領に進言する弟の元へ足を向ける。

 

「――我がKURATAはパーソナルトルーパーの実働テストを終え、既に残すところは実戦のみの段階まできています。大統領、この状況はEFAがPTの運用を再び可能としたことを各国に知らしめる、絶好の機会と思われますが?」

 

二足歩行型兵器であるモビルスーツ(以後MS)やパーソナルトルーパー(以後PT)。

旧時代にて戦いの担い手となった兵器……財閥の手によって秘匿されていた技術は、橘の反乱を契機に一時は現代へと蘇った。

 しかし、復活したはずの兵器群は、ある時期を境に再び封印の憂き目をみることとなってしまう。

 その時期とは、地球軍とプラントの軍隊“ザフト”との対立が明確化したC.E.70年2月中旬。

 封印理由は二つ。

 一つ目は、開戦初期にザフトの手によって地上へ打ち込まれた兵器“ニュートロンジャマー”(以後Nジャマー)。

ザフトが開発したこの兵器の影響により、地球上の核分裂反応が抑制され、核融合炉を主エンジンとして用いていた旧時代の巨大人型兵器は動力を完全に断たれ、動かぬ巨像と化してしまったのだ。

二つ目は、機体を統御するためのシステムプログラム“IMPC”(統合機動推進制御システム)。

 発進、巡行、空間戦闘、着陸、歩行の五つの基本機動をオート制御するこのシステムは、パイロットが状況に応じてスイッチを切り替えるだけで、機体の姿勢制御その他機動補正を自動的に行なってくれる画期的なプログラムで、人型機動兵器の複雑な動作を統御するため、ほとんどの兵器には基本的にこれが組み込まれていた。

 しかし、開戦直後、このシステムを用いていた全ての機体が原因不明のシステムエラーを引き起こし、作動不能に陥るという事件が激発した。 

全てのMS、PTの基本ベースに構築、組み込まれているIMPCを根本から抜き去ることは困難を極め結果、MSやPTは封印の憂き目をみることになってしまったのである。IMPCが登場した当時、それ以前のマニュアル操作よりパイロットの作業量は激減しただが、手軽な操作で兵器を操ることができるので、一部の熟練パイロットからは人間を堕落させる妖精の名をとって“インプ”と蔑まれていたというのは有名な話だが、今となっては皮肉以外のなにものでもないといえるだろう(直接的原因は不明のままだったが、システム起動に際しIMPC関連の重要な基礎ロジックに少しでも触れるとエラーが起こることから、IMPCというプログラムを狙った姿の見えない新型コンピューターウィルスが原因という説が有力。このエラー現象は、対象となるシステム名から“小悪魔の囁き(インプ・ウィスパー)”と呼ばれている)。

ザフトはこれらの条件を完全にクリアする形で新時代MSといえる機体の開発に成功しており、単純な制御プログラムで動作可能な兵器しか持たない地球軍は、初戦で大敗を期すこととなった。

当初、誰もが疑わなかった地球連合軍の勝利は開戦当初から尽く裏切られ続け、現在に至るのである。

そして、ここに来てEFAは今再びPTの運用に目処をつけた、地球を脅かす敵の存在が眼前に迫っている……「全てのお膳立ては整ったのだ」と、一弥はウィリアムに伝えたのだ。

 

「うむ。報告は聞いているが……大丈夫なのかね? 確かに敵の正体は不明だ。だが、だからといって勇み足では済まされんぞ」

 

確かに各国の首脳達が一堂に会するこの場は、同じ地球軍の中で力を誇示しイニシアチブを得るための絶好の機会だったが、逆を返せば慎重にいく必要もある状況でもあったので、ウィリアムの懸念はある意味当然のことだろう。

無理は無い。

だが、その懸念はゼラバイア撃退を持って払拭させてもらう――佐祐理は微笑みながら、自信を持って弟の援護にまわった。

 

「あはは、心配無用ですよー。後方にはKURATA研の優秀なスタッフがついていますし、万全な状態で望みますからーっ!」

 

 そう、準備は万全だった。

 敵の程度はわからないが、余程の事でもない限り大丈夫だという自信が佐祐理達にはあった。

 それだけの準備を今まで行なってきたのだ。 

 姉の後押しで弾みをつけたのか、一弥は自信に満ちた表情でウィリアムに進言を続ける。

 

「ぼくがヒュッケバインで出ます。戦闘態勢は整っていますから、後は大統領からの直接の指令があれば――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最下層にあるモニタリングルーム。

 城内及び、各地から送られてくる情報や映像をモニターし、工作員やスタッフに指令を下すサンジェルマン城の中枢部である。

 ゼラバイア襲撃の報を受け、レイヴンは会場でヘマをしまくったメガネっ娘メイドを伴い、主人より一足早くそこへ降り立った。 

 

「エィナ、怖いか?」

 

「いっ、いいえ!」

 

 エィナと呼ばれたメイドは、レイヴンの問いに気丈に頭を振る。

 ゼラバイアとこれから戦うべき運命を持つ、その重荷故の恐怖だろうか。

 だが、弱気ながらも「敵から逃げる」という選択が彼女に無いことが、メガネの奥の瞳から感じられた。

 レイヴンは頷き、モニタリングルームの扉を開けた。 

 

「レイヴン、エィナ!」

 

 上司の登場に、琉菜とミヅキが振り返った。

 紅エイジ探しとゼラバイアへの警戒監視の統括を行なっていたテセラ達三人のメイドもまた、レイヴンを振り仰ぐ。

 

「状況は?」

 

「ゼラバイアが大気圏に突入しました。間もなく地上に到達します!」

 

 簡潔に答えるテセラ。

 月軌道を越えてきたゼラバイアが赤い矢となって地球へ落ちていく様子をモニターで確認し、レイヴンは唇を歪めた。

 

「……予想外に動きが早いな」 

 

「これが……ゼラバイア」

 

 拡大モニターに映し出された金属の怪物に息を呑んだのは、ミヅキだけではない。

 火星での破壊の情報をいち早くキャッチしたのは、この部屋である。

 ゼラバイアの振り撒く破壊の恐ろしさはわかっている。

 対策を講じなければ、地球は火星基地の二の舞となってしまうだろう。

 対ゼラバイア作戦本部となるであろうこの場所に彼らが集ったのは、その対策に必要なことだからだった。

 対ゼラバイア用に開発された戦闘メカ“グランディーヴァ”に搭乗するパイロットが彼らなのだから。

 

「テセラ、斗牙はどうしている――」

 

 戦闘メカの中心“グランカイザー”の搭乗者ともいうべき少年の居場所をレイヴンが尋ねたのと同時に、扉を開けて一人の少年が顔を出した。

 無垢な印象を受ける瞳に、どことなくあどけなさが残る顔立ち。

 邪気をまったく感じさせないこの少年は天空侍斗牙(てんくうじとうが)

 レイヴンが名を呼んだ少年その人である。 

 

「ねえ、みんな!」

 

 何やら嬉しそうな少年は、背負っていたものを背負い投げの要領で床へ下ろした。

 どさっ、と音を発てて床へ伸びたのは荷物でもなんでもない……一人の人間だ。 

 

「斗牙、その子……」

 

 斗牙の持ってきたソレに、言葉を詰まらせるミズキ。

 当然の反応だった。

 その少年は、彼女達が必死になって探していた紅エイジその人だったのだから。

 

「グランカイザーの整備をしていたら会ったんだ。ぼく以外の男の子なんて珍しいから、とりあえず連れてきてみたんだけど?」

 

 南の塔でリィルと別れた後、エイジは城の下層付近で機体を整備していた斗牙とまみえることとなった。

 しかし、情報を引き出そうと喧嘩を売ったのが運の尽き、返り討ちとなって今に至るわけである。

 とは言っても若くて体力があるのが売り、伸びていたのは一時的なものだったらしい。 

 

「……ぃってぇ! いいかげんにしろ、この天然っ!! 人を物扱いすンなっ!!」

 

 意識はあったようで、飄々と言ってのける少年に反応したのか、エイジは即座に起き上がると、自分を荷物のように扱った仇敵?に飛び掛かった。

 完全に逆恨みである。

 だが、そんなエイジの奇襲めいたパンチを、斗牙は笑顔のまま軽々と捌きいなす。

 初等部時代から古武道を囓っている自分の攻撃がまるで当たらない事実に、エイジは既視感(デジャヴ)めいたものを感じた。

 

(また、かわされた!? これじゃ、まるでアイツと同じじゃねーか)

 

 思い起こしたのは、昨年の春、転校してきた祐一とちょっとしたことで揉め、初めてタイマンを張った時の出来事だ。

 今と同じように、攻撃が全て見切られていいようにあしらわれた。

 その後、意気投合し現在に至るのだが、斗牙のそれはエイジにとって、まさにその時の再現に思えた。

 

「ちくしょう……おまえ、コーディネイターかよ?」

 

 コーディネイター。

この時代、先天的な遺伝子疾患を持つ胎児に対し、遺伝子治療が普通に行なわれているが、それを更に一歩進め、胎児の状態から遺伝子レベルで優良因子を調整した者達のことを差す言葉である。

そうして改良を加えられ誕生した彼らは、肉体的にも常人より頑強で病気も殆ど寄せ付けない丈夫な体に加え、優れた才能を得る素質を生まれながらに持っている(爆発的増加に際し、コーディネイターに対して普通の人間はナチュラルと呼び区別されている)。

コーディネイター達の本拠地“プラント”と戦闘状態にある地球だったが、橘の反乱以降、ウィリアムの基本的人権を遵守した政策により、東方統合国内には中立国のように、少ないながらもナチュラルと生活を共にしているコーディネイター達もいた。

 

「コーディネイター? 何それ?」

 

 エイジは斗牙の動きから、コーディネイターであることを疑ったのだが、聞かれた本人は言葉の意味自体が通じなかったらしく、首を捻るだけだった。

 

「斗牙はナチュラルだ。紅エイジ」

 

 二人のやりとりを横で見ていたレイヴンが、斗牙に代わり答えた。

 メイドばかりの変わった城だから何が出てきても驚かないつもりのエイジだったが、インパクト大な仮面の男に少し面食らう。

 エイジは覚えていなかったが、パーティー会場では何度かすれ違ったりしたので、初の邂逅かというと微妙なラインだ。

 

「誰だ、あんた? つーか、なんで俺の名前を……」

 

「私の名はレイヴン。細かい質問は後にしてもらう。こうなった以上、お前にも戦ってもらわねばならん」 

 

「戦ってもらうって……まさかこの子もグランディーヴァに乗せるつもり!?」

 

 仮面の青年の有無を言わせない言動にエイジが反発するより早く、ミヅキが驚きの声を上げる。

 

「当然だ。グランディーヴァはG因子の保持者が乗らなければ動かない。そのことはシミュレーションマシンでお前達も学んだはずだ」

 

「でも、何の訓練も受けていない素人よ? できると思う?」

 

「『できるかどうか』ではない。『やってもらわねば』ならんのだ。でなければ、我らの神は動かない」

 

 ブロンドの美女と、仮面の男。

 当のエイジを差し置いて、いきなり言い合いを始めた二人……だが、当然ながらエイジは話についていけなかった。

 

(こいつら、一体何言ってるんだ? ……わけわかんねえ)

 

 意味不明な専門用語ばかりの上、挙げ句の果てに神がどうとか言っている……いきなり聞けばエイジでなくとも、電波と思うのが普通だろう。

 

「……全員、揃ったようだな」

 

 そんな時、厳かで深みのある声が部屋の入り口から飛んだ。

 慌ててエイジが振り仰ぐと、身なりの良い長身の紳士が悠然と佇んでいるのが視界に入った。

 サンドマンだ。

 

(な、なんだこのおっさん?)

 

 会場での自己紹介の時、既に城内へ繰り出していたエイジには、当然のようにそれが誰なのか、まったくもって見当もつかない。

 訝しげな少年の視線を受け、主人に代わってレイヴンが口を開いた。

 

「こちらはクライン・サンドマン。この城の御城主だ」

 

「クライン・サンドマン? ……じゃあ、お前かっ!? アヤカがメールで書いてた雇い主ってのは!」

 

 定期的に送付されていた姉からの手紙。

 新しい職場の雇い主はサンドマンという名前だと、以前書いてあったことがあった。

 記憶の名前と一致し、矛先が完全に斗牙から謎の紳士へと切り替わる。

 

「アヤカは何処だ!? アヤカを出せっ!!」

 

 姉を監禁したにっくき親玉の登場に、頭に血が上ったエイジは激昂し、サンドマンに飛び掛かった。

 だが、次の瞬間。

 

 

 ダンッ!

 

 

「がっ……!?」

 

 勢いはそのままに体が回転し、床に叩き付けられる。

 受け身を取る暇もない。

 背中から思い切り体を打ちつけたため、息が詰まった。

 エイジがつかみかかる間際、サンドマンを庇うように立ち塞がったレイヴンが懐に潜り込み、背負い投げの要領で投げ飛ばしたのだ。

 

「この方に無礼な真似は許さん……!」

 

「くっ、テンメェ……!!」

 

 冷たく見下ろす仮面の男に神経を逆撫でされ、エイジは懲りずに飛び掛かろうと立ち上がる。

 普段から鍛えているので、タフさだけは天下一品だ。 

 

「君への手紙は私が出したのだ。紅エイジくん」

 

 睨み合う二人を制するように、サンドマンが割って入った。

 

「えっ……あんたが出した? この手紙を?」

 

 ピタリと動きを止め、懐からアヤカが最後に送ってきた手紙を出すエイジ。

 呆然と、ただ手にした手紙とサンドマンを見比べる。

 わけがわからない。

 落ち着いてくると、ようやくエイジにも自分を取り巻く状況が少しずつ見えてきた。

 古城のイメージとはかけ離れた最新機器の数々。

大きな城だと思ってはいたが、それにしても常軌を逸しすぎる構造。

物凄い数のメイド。

 そのメイド達にしても、配膳から防犯まであまりにオールラウンド過ぎだった。

 

「……あんたら、一体何なんだ?」

 

「我々は“アースガルズ”」

 

「アースガルズ? …………!?」

 

 エイジがそう反芻した時、正面の大きなモニターに変化が起こった。

 夜の街。

 海辺なのだろう、湾岸に沿って煌びやかな夜の灯火が輝いている。

 だが、上空の雲が突如、何かを向かい入れるかのように大きな渦を巻きはじめ、その中心から刃状の物体が降下して来た。

 ゼラバイアだ。

 一つや二つではない無数の刃が地上へ降り注ぎ、建物や道路を次々に破壊した。

 そして、刃は地上へ突き刺さった後、昆虫のような形態へ変形を遂げると、突然の破壊に逃げまどう人や車を襲い始めたのだ。

 一瞬、特撮かと思ったがそれにしては破壊も人の反応も、やけにリアルだ。

 戸惑うエイジに追い打ちを掛けるように、サンドマンは言った。

 

「断っておくが、あの画像は虚構ではなく実際の映像だ。我々が話している今、地球は外宇宙からの攻撃を受けているのだ」

 

「……」 

 

「アースガルズとは、あの金属の怪物“ゼラバイア”の脅威から人類を守るべく、私がつくった秘密組織だ。この城にいる者はメイド達も含め皆、アースガルズの一員なのだ」

 

「ゼラバイア……」

 

「ゼラバイアに対抗するための兵器、グランディーヴァを操縦するためには、体内にG因子という特殊な酵素を持っている者でなければならない」

 

 段々、話がきな臭い方へと進んでいく。

 一体どんな意図があるのか、エイジは計りかねていた。

 

「こ、こうそ?」 

 

「体の中の化学変化に触媒として作用する高分子物質だ。G因子は、体内の重力子循環に対する先天的な順応生だと思ってくれればいい。斗牙、琉菜、ミヅキ……ここにいる者達は、全員がグランディーヴァのパイロットであり、G因子の保持者だ。そして、きみの姉君、紅アヤカと、君自身も、G因子を持っているのだ」

 

「俺と、アヤカが?」

 

 サンドマンが手を翳すと、スクリーンの一つに戦闘機のようなメカが映った。

 同時に、別のスクリーンではそのメカが整備されている様子が映し出された。

 その横には、採掘機のように巨大なドリルを付けたメカまで並んでいる。

 

「我々は君をグランディーヴァの一つ、Gアタッカーのパイロットに選んだ。君に偽の手紙を出したのは、君をこの城に呼び寄せるためだったのだ」

 

 スクリーンに映っているメカがグランディーヴァと呼ばれているマシンなのだろう。

 とにかく人類を護るためだ、酵素だ、メカだと、色々と理由が付けられていたが、結論は一つだった。

 

(よーするに……俺はまんまとおびき寄せられた、ってことか)

 

 目の前の怪しげな紳士が言っていることが本当かどうかはまだ計りかねていたが、自分がおびき寄せられたということだけは間違いないようだと、エイジは結論付けた。

 

「偽の手紙を送りつけ、君を騙したことは謝罪する。確かに美しいやり方ではなかった。だが、事情を説明して君を招いても、信じてもらうことはできなかっただろう。あのような、人知を越えた怪物が地球を狙っている、などとな」

 

「……」

 

「本来なら、君の姉君がGアタッカーのパイロットになるはずだった」

 

「アヤカが……?」

 

「だが、彼女は残念ながらG因子の活性度が不十分だった。我々は、早急に新たなG因子の保持者を見つけなければならなかった」

 

「……」

 

「G因子の保持者は決して多くはない。そこで、アヤカの血縁者であるきみに――」

 

「……嘘だっ!!」

 

 サンドマンの誠意のある態度に耳を傾けていたエイジだったが、内容が姉のアヤカに差し掛かった瞬間、口を開きサンドマンの言葉を遮った。

 順調な流れだっただけに、斗牙を除く者達が反射的にエイジを見やる。 

 

「嘘だっ! 絶対に嘘だっ!! アヤカはこれまで、俺に何だって話してくれたンだ! こんなわけもわからないメカに乗るなら、俺に教えてくれたはずだ! 俺は信じねーぞっ! お前ら一体、何たくらんでやがるンだっ!?」

 

 エイジは、姉のアヤカと二人家族だった。

 両親はエイジが幼少の頃に事故で他界して以来、彼は姉と二人で生きてきたのである。

 たった二人だけの家族、姉弟なだけに、普通の家族よりも結び付きは強い。

 隠し事なんてないはず……故に、エイジにはサンドマンの言葉が信じられなかった。

 

「アースガルズのことは、肉親といえども口にしてはならないと定められている。君の姉も、それを忠実に守っていたのだ。それに……人間誰しも、表と裏の顔があるものだ」

 

 隠し事の一つや二つ、誰にでもあるという一般論を突きつけるレイヴンの言葉にも、エイジは耳を貸そうとしない。

 

「じゃあアヤカを出せ! アヤカはここに居るんだろ!? アヤカに聞いて確かめる!」

 

 このままでは埒があかないと、エイジはアヤカに会うことを要求することにした。

 いずれにしても、この城で働いていたことは間違いないのだから。

 だが“姉に会えるかもしれない”という期待は、次のミヅキの一言で水泡に帰した。

 

「……アヤカはね、行方不明なの」

 

「え?」

 

 不意打ちに唖然とするエイジを尻目に、彼女は言葉を続ける。

 

「訓練中に失踪して、まだ見つかっていないのよ。私達も心配しているんだけど……」

 

 姉からの手紙を頼りに、友人を巻き込み、危険を冒してまで忍び込んだ末の結末。

 エイジにとっては無駄足、向こうにとっては余りにも都合の良すぎる展開だった。

 

「そんな……そんな話、信じられっか!!」

 

 再び声を上げるエイジ。

 完全に話は平行線へと差し掛かっていた。

 だが、時間と事態の変化は待ってはくれない。

 

「ああっ!?」

 

 会話の転換期に合わせたように、モニターを見ていたエィナが悲鳴を上げた。

 ゼラバイアが市街地の攻撃へ本格的に乗り出したのだ。

 地獄が、拡大していた。

 

「ゼラバイア、市街地への侵攻を開始しました……!」

 

 マリニアの報告に、レイヴンは頷くと空中へ向かって呼びかけた。

 

「トリア、グランディーヴァは?」

 

『準備万端っ! いつでも出られます!』

 

 レイヴンの声に、メインスクリーンの一部に回線が開き、姿を現した黄色いメイド服を着た小柄なメイドが自信たっぷりに答えた。

 トリアという名のこのメイドは、格納ブロックで整備班の長をしているメイドだ。

 既にゼラバイアを迎え撃つための“道具”の準備はできている。

 そして、この場には“道具”を操ることが可能な“担い手”達が揃っているのだ。

 後は、行動を起こすのみ。

 

「よし。総員、出動準備――」

 

「俺は行かねーからなっ! 戦うなら、誰か他のヤツを行かせろよ。……俺にゃ、関係ねえ」

 

 だが、レイヴンが出撃の号を発し終わる前に、エイジが口を挟んだ。

 高揚し掛けた現場の雰囲気に水を差すその発言に、琉菜が食ってかかる。

 

「何言ってるの? ゼラバイアが暴れ出してるのよ! あなた、ほっとけるの!?」

 

 だからといって動じるエイジではない。

 むしろ、エイジの性格は他人から無理強いされることを由としないもので、一度こうと決めたら梃子でも動かないほど頑固な部分もあるのだ。

 少し捲し立てられたぐらいでは、引くわけがなかった。

 エイジと琉菜、二人は間にバチバチと火花が散るような印象を周りに与えるほど激しく睨み合う。

 

「だから他の奴を乗せろって言ってるだろ! ……どうしてもって言うならアヤカを出せ! そしたら乗ってやる!」

 

「あのねえっ! だからアヤカさんは行方不明なんだってば!!」

 

「信用できねぇっつってンだろ!? 俺はアヤカから手紙を受け取ったんだぞ!」

 

「それはサンドマンが書いた偽物だったって言ってるでしょ!!」

 

「アヤカとはガキの頃からずーっと二人で暮してるんだ! アイツの字を見間違えたりするもんか!!」

 

「かぁ〜っ!! 何よ、このシスコンっ!!」

 

「何だと!? この凶暴女っ!!」

 

「何ですってぇっ!?」

 

 平行線……それ以前に子供の喧嘩である。

 

「琉菜、よしなさいよ!」

 

「お、お二人とも、喧嘩はおやめになって下さいっ!!」

 

 大人げないことこの上ない展開に見苦しさを感じたのか、ミヅキとエィナが止めに入る。

 そんな彼らの様子をノホホンと眺めていた斗牙が、笑顔を浮かべたまま言った。

 

「……いいんじゃない?」

 

「へ?」

 

「斗牙?」

 

 荒れた場にはそぐわない、場違いの爽やかな声に皆が少年を見つめた。

 斗牙は平然と、さも当たり前のように言葉を続ける。

 

「こんなに怖がってるんだもの、許してあげようよ? 彼一人くらい居なくたって、大丈夫。僕がその分フォローして戦うからさ」

 

 この発言に慌てたのはエイジだ。

 

「ちょっ……ちょっと待て! 俺は別に怖がってるわけじゃねーぞ!」

 

 人間、誰しも理想のイメージというものが存在する。

エイジにとって「男とはこうあるべきだ」というイメージがやはり存在したりするのだが、“臆病”“怖い”“弱い”などという惰弱なイメージのある言葉は理想に反するものであり、まさに彼の心に響くNGワードだったりするのだ。

斗牙はエイジを「戦うのが怖い臆病者だから許してやる」的なことを言っているわけで、それは彼の心理を激しく突いたのである。

言っている本人は悪気が無いだけに、余計質が悪い。

 

「無理しなくてもいいんだよ。君は僕と違って“弱い”んだから、大人しくここで待っておいでよ」

 

「よ、弱いぃっ?! こんのやろ――……なっ!?」

 

 再びいきり立ち、懲りずに斗牙に掴みかかろうとしたエイジの目に、信じられないものが飛び込んできた。

 中央モニターに映る映像。

 先程からゼラバイアが暴れている光景が映し出されているが、破壊されようとしている建造物の中に覚えのあるものを見たのだ。

 見間違いではない。

 エイジは気づいてしまった。

 ゼラバイアに襲われている場所……それが、彼が慣れ親しんだ街であるという事実に。

 

「あれって、まさか俺の街か!? そんな……あいつらっ!」

 

 生活の場を踏みにじられる現状を目の当りにしたエイジ。

炎に包まれる街。

斗牙への憤りは消し飛び、胸に生まれたのは破壊者へのやり場のない怒りだ。 

 

「ゼラバイアに善悪の区別は無い。対象も無差別……奴らが生むのは破壊だけだ。地球の全てを破壊し尽くすまで、奴らは止まらないだろう」

 

 熱くなっているようでいて、どことなく冷めている。

 エイジは、冷水を浴びせかけられたような気分だった。

 レイヴンの言葉は真実なのだろう。

 いや、ひょっとしたら今までのやりとり全てが真実なのではないか――大体にして、盛大なブラフを貼り自分をかついだところで、彼らにメリットがあるとは思えない。 

 

「……」

 

 その時、エイジの脳裏に過ぎったのは姉のアヤカのことだった。

 自分と同じような状況に置かれたら、姉はどうしただろう。

 己のように屁理屈を言って拒否するだろうか? 

否――答えは一つしかない。

 お人好しで優しい姉のことだ、自分から「戦う」と言うに違いなかった。

 

「大勢の人の命が危ないのに、屁理屈言って逃げたがるような弱虫の意気地なしの卑怯者なの!? 君はっ!」

 

 ツインテールを揺らし、必死になって自分を説得(というより散々貶している)しようとしている少女、琉菜を見る。

 段々と、馴れ馴れしさがアップしているような気がした。

 エイジと同年代か、年下にしか見えないその少女もまた、ゼラバイアと戦うと言っているのだ。

 男の自分が引き下がれるわけがないし、見ず知らずの女に言いたい放題言われ続けるのも癪だった。

 

「……分かったよ」

 

「えっ?」

 

 頷いたことに斗牙が心底意外そうな顔をしていたが、天然男の反応など今は気にしないことにする。 

 

「やってやらあっ!! やりゃいいんだろ!? やりゃあぁっ!!! グランなんたらでもパーソナルトルーパーでもモビルスーツでも、なんでも乗ってやるよ!!!」

 

 こうなったらヤケクソだ。

 やれというならトコトンやってやると、エイジは完全に腹をくくった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒュッケバイン。

 白い機体を前にし、ただ見上げる。

 シミュレーターでPTやMSの扱いを完全にマスターしている祐一だったが、本物の機体に乗ったことがあるわけではなく、これほど間近で目にするのは初めてのことだった。 

 

「……コクピットが開いてる?」

 

 キャットウォークから正面に向かい、コクピットハッチが開いていることに気づく。

 高価な機体であることは一目瞭然であるにもかかわらず、扱いはかなり不用心だ。

 

(まったく、ドロボーにでも入り込まれたらどうする気だ?)

 

自分も似たようなものだということを棚に上げつつ、そんな事を思ったりする祐一だったが、結局はモラルより好奇心が勝った。

外観に惹かれるものを感じるのだから、中を見たいと思うのは歴史の必然だろう。

だが、興味本位から身を乗り出し、祐一がコクピット内部を覗き込もうとしたその時。

 

 

 ドンッ!

 

 

「うわっ!?」

 

 いきなり閉まってきたハッチに背中を押される形で、祐一はコクピット内へ転がり込みそのまま、パイロットシートに抱き付くような体勢で止まった。

 

「きゃっ!?」

 

 いきなり耳に飛び込んできた小さな悲鳴に顔を上げると、何処かで見たような娘が眼前20〜30cmほど間近に座っていた。

 付け加えるなら、何処かで聞いたことがあるような声だ。

  

「……」

 

「……」

 

 思わず互いに見つめ合う二人。

 男と女が狭い空間で二人っきりとなれば、本来甘い空気の一つでも流れるのだろうが、これっぽっちもそんなことはなかったりする。

 ジックリと凝視したかいもあり、祐一は目の前の人物をどうにか特定することができた。 

 だが、万が一外れていたら相手に失礼である。

 付け加えるなら、ここに彼女が居ること自体オカシイし、少女の恰好は輪を掛けてオカシイ。

 十中八九当たりだろうが、自分の記憶が正しいかどうか、かなり心配だったので、祐一は恐る恐るその名を呼んでみた。

 

「……名雪?」

 

「え〜と……………にゃあ? ネコさんのマネ♪」

 

 

 ポカッ!

 

 

「いたっ!?」

 

 頭を軽く叩かれたため、謎の女の子……もとい、名雪はちょっとした痛みに顔を顰めた。

 反射的に手が出たが、祐一はまったく悪びれた様子もなく、ため息をつきながら言う。

 

「何が『にゃあ?』だ。とりあえず殴っていいか?」

 

「う〜っ、行動と言動が逆だよ……」 

 

「悪かったな。……そんなことよりおまえ、何でこんなところに居るんだ? 城の外で待ってろって言っただろ」

 

 エイジとの“男と男の約束”を果たすため、祐一達二人はサンジェルマン城へ潜入する計画を立てていたのだが、直前になってその行動を訝しんだ名雪にエイジが捕まった結果、名雪も同伴で城へ向かうことになってしまったのだ。

 絶対についていくと言ったので、仕方なしに連れてきたが、さすがに城への潜入は危険が伴うため「戻るまで昼寝(?)でもして待っていろ」と堅く言い含めておいたはずなのだが――。 

 

「言われたけど、待つのキライだし。これでも一時間も待ったんだよ?」

 

「……」

 

 女は勝手な生き物だと、改めるまでもなく思う祐一だった。

 待つといえば、七年ぶりに水瀬家のある街へと戻ってきた時、祐一は一時間どころか半日近く名雪に待ちぼうけを食わされた経験がある。

蒸し返してどうなのだと問いつめたいところだったが、どうにか忍耐で抑えてみせる。

 

「それに、祐一達が心配になったからね。こんな大きなお城で人捜しするなら、人手は多い方がいいと思ったんだよ」

 

 本人はナイスアイデアとか思っているようだが、実に危険な思考だ。

 

「『ミイラ取りがミイラになる』ってことわざ、知ってるよな?」

 

「?」

 

 どうやらわかっていないようで、いとこの少年の言葉に首を傾げる名雪。

 世の中の男達から見れば実に可愛らしい仕草なのだが、散々見慣れている祐一にはその効果は薄い。

 とりあえず必要なのは厳しい指摘だろうか。

 脳天気な少女を思い知らせるには、現状を認識させるしかない。

 

「……だいたいそのカッコ、何だ?」

 

 メイド服、そして……ネコミミ。 

 名雪の恰好――おそらく家からなのだろうが、何処から持ってきたのだそんなものと、半日問いつめたくなる気分に陥るような服装だった。 

 

「猫耳メイドさん。ネコミミモードでGOだよ〜」

 

「……」

 

「誰にも、怪しまれなかったよ。どこから見ても完璧な変装だよね♪」

 

 名雪自身にも、こんな怪しさ爆発のネコミミメイドを放置した城の連中にも、ツッコミどころ満載すぎて何処からツッコんでいいのかわからなかった。

 捕まったら捕まったで問題なので全ては結果オーライなのだが――。

祐一は釈然としなかったが、とりあえず、納得がいかないながらも話が進まないので、違う話題を振ることにした。

 

「まあ、それはいいとして……コイツに乗っていたのはなんでだ?」

 

「えっとね、サンドマンさんていうお城のえらい人に、お掃除を頼まれたんだよ」

 

 正確には通路のだけどね?

と補足し、名雪はゆっくりと続ける。

 

「見たことのない機体があって、コクピットが開いてたから覗いてみたんだけど……後部シートに座ったところで人の気配がして――」

 

「慌ててハッチを閉めたわけか。なるほど、実に名雪らしいな」 

 

「……ひょっとして祐一、さり気なく馬鹿にしてる?」

 

 苦笑する祐一に少しだけムッとしたのか、名雪が上目遣いに睨む。

 全然、怖くも何ともないところが実に名雪らしいと思いながら、祐一はシートに身を預けてコンソール周りを見る。

 水瀬家の地下にあるシミュレーターは、叔母の秋子がKURATA研から持ち込んだ最新式のものなのだが、それとほとんど変わらないところをみると、仕様的にかなり新しい機体のようだ。

 “ワンオフの試作機”という言葉が祐一の頭を過ぎった。

 

「当然だ。ま、中見たくなったおまえの気持ちもわかるか。なんだか妙に惹かれるんだよなー、コイツ」

 

 手を伸ばした祐一のとった行動は、ごく自然な流れだった。

 だが、感触を確かめようとコントロール・レイカーを握りしめた瞬間……それは、起こった。

 

 

 ウィィン……

 

 

 初めは電子音。

 続いて、コンソールに光が灯る。

 

(? ……システムが、たちあがった?)

 

 突然の出来事に祐一は呆気にとられたが、そうしている間にも事態はどんどん進行していく。

 祐一の見ている前でコクピット正面のメインモニターに、起動サインと思しき文字が表示され始めた。

 

 

 KANON:How do you do! My eternal master.

It usually changes to the mode after optimizing display form if needed.

 

 

 異変は機体全体に広がっていた。 

 

「……モニターが映ったよ? 祐一、何したの? 勝手に動かしたらまずいと思う……」

 

 後部シートのオペレーター用コンソールが起動したことを受け、祐一が関与したと思った名雪が、嗜めるように言った。

 当然ながら、それはまったくの誤解だ。

 祐一はレイカーに手を触れただけなのだから。

 

「何もしちゃいない……レイカーに触れたら、いきなり動き出したんだよ!」

 

 祐一の頭の奥で危険回避を促す警鐘が鳴り始めたのは、コクピット全面に展開する天周モニターが映り、更に事態の異様さが際立った後だった。

 

 

 KANON:敵対象発見。迎撃行動を最優先とし、予測戦闘地域へと移動を開始します。

 

 

 瞬間――。

 

 

 

 ゴォゥ……ッ!!

 

 

 

 噴射音と共に縦のGがコクピットを揺るがした。

 それほど強くはなかったが、何の前触れもないものだったため祐一達は反射的に目を瞑る。

 僅かの間の後、目を開けた祐一は流れていく周囲の映像と伝わる軽い振動から、自分達の置かれた状況を導き出した。 

 

「オートパイロット!? 起動しただけでこんな――」

 

 即座に操作パネルへ指を走らせる。 

 

(入力を受け付けない? くっ、どうなってるんだ!?)

 

 本格的なシミュレーターを扱う上での嗜みにと、秋子からこの手のトラブルへの対処法は叩き込まれているので、改善もすぐにできると臨んだ祐一だったが、何故かオートパイロットを解除するための操作をシステムが受け付けない。 

 

「飛んでる? 祐一……わたし達、飛んでるよ!?」

 

 モニターで周囲の様子を見て騒ぐ名雪に対し、逆に祐一は冷静だった。

 

「慌てるな! 何が起こるかわからないからな。とりあえず、ちゃんとシートについとけっ! 衝撃が来たとき、舌咬むぞ!」

 

 一喝されたことで我に返った名雪は、信頼する少年の言葉に力強く頷いた。

 

「うん、わかったよ……!」

 

 二人が喋っている間にも、ヒュッケバインは乗員の与り知らない状態で飛翔していく。

 キー操作を続けながら、チラリと横目で見るとそこには夜空が、まるで深淵のように暗い口を開けていた。 

 

(こいつ、何処まで飛ぶつもりだ!?)

 

 行き先不明の旅路は、始まりも突然ならば終わりも突然だった。 

 

「っ!!」

 

「わ……っ!?」

 

 ヒュッケバインは突然降下を始めると、城のある山地を越えた先の街へ降り立った。

 

「ここは…………おれ達の、街?」

 

 降りた郊外にある高台付近は、民家もそれほど多くはなく、高い位置からなら街を一望することができた。

 祐一は友人達と一緒に、この付近へ夜景を眺めに訪れたことがある。

しかし、記憶にある光景と現実との余りのギャップに、彼は言葉を失った。

 

「……うそ? 街が……わたし達の街が燃えてるよっ! そんな、なんでっ!?」

 

 先に自分の思いを言葉に表したのは名雪だ。

 眼下の光景。

 それは、まさに地獄絵図だった。

 海に隣接する地区から街の中心部へ向かって爆炎が走っていた。

 爆発する車両、破壊される家屋。

 そして、街を蹂躙する破壊者達の行動までもが、コクピットの拡大モニターに映し出される。

 無機質で機械的な、金属の化け物。

 争いとは無縁な日々の平和な日常とはかけ離れた、非現実的な光景。

 現実的ではない。

 

(だが…………これは、現実だ)

 

 キーボードを叩いていた手を止め、祐一はゆっくりと口を開く。

 

「……名雪、地上戦に合わせたOSの書き換えはどれくらいでできる?」

 

 名雪は振られた内容に戸惑いながらも、一呼吸分の間思案した後に応えた。

 

「IMPCベースじゃないし、初期化されてるみたいだから、すぐにできるよ。基本動作構築に一分、武装伝達に三十秒、戦闘環境最適化に一分……掛かっても三分てところかな?」

 

 おおよそ予想通りの回答に頷く。

 操作パネルとシステムを調べた結果、祐一は、このヒュッケバインは操縦系統とシステムOSの制御系統を二つのシートに分割し、効率化を図っているという結論に達していた。

 少なくとも、初期状態ではパイロットシート側からOSを弄るのは不可能なのだ。 

 

「ギリギリいけるな。五分以上かかると思ったら、残りを半分こっちにまわせよ。この機体、初期設定じゃパイロットシートから直接OSを弄れないらしい」

 

 触っただけで動き出したことや、システムが初期化されているというのに勝手にオートパイロットが掛かったことなど、不明な点が多いが、それは今考えることではない。

 今必要なことは“この機体を戦闘で使えるようにすること”である。

 普段は何かと天然な感のある名雪だが、システム面の技術においては最大の信頼に値できるものを持っている。

 こと、この手のことに関しては祐一も、いとこの少女には及ばない。

 ある意味、名雪が後部シートに居てくれたことは幸運だった。

 

「まわせって、祐一……まさか、あれと戦う気なの? あんな敵、うちのシミュレーターにも入ってなかったよ?」 

 

「だから何だ? 戦ったことがないから、見過ごせっていうのか?」

 

「そうは言ってないけどっ……」

 

 未知の敵に不安が募るのは当然のことだった。

 それはわかるので別に祐一は名雪を攻めるつもりなどない。

 ただタイミングが悪かっただけだ。

 目の前の光景が、記憶の中にある光景と重なりを見せた時、スイッチが入ってしまった。

 ――足掻くためのスイッチが。

 

「なんでこうなったのかはわからない。あいつらが何なのかも。……けど」

 

 

 閃光。

 

爆発。

 

そして、祐一を攻める悲痛な少女の声。

 

平穏な日常を乱す来訪者、ゼラバイアを睨み付ける。

今、祐一の手にはそれを退けることができるはずの力があるのだ。

これを使わないという選択肢は、無い。

 少年の決意の声が、何かの始まりを告げるかのように響く。

 

「おれ達の街を壊す連中を、このままにしておくわけにはいかないだろうがっ!」

 

 

 

  戦闘開始(フェイズ・スタート)――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二話「来訪者」

終了後のイベント達成及びデータ登録確認

 

 

 

 

 

 

 

 <インターミッション開始>

 

祐一×名雪 ○ − − − − :第一フラグ成立 

 

 対デストロイヤー級ゼラバイア・戦闘フェイズスタート

 

 <インターミッション終了>

 

 

 

 

 登場人物図鑑に

 

水瀬名雪  クライン・サンドマン  ムルタ・アズラエル  エィナ トリア

 

 を追加予定。

 

 

 

 Gαスーパーロボット大図鑑に

 

 ヒュッケバイン・カノン

 

 を追加予定。

 

 

 

 Gα用語図鑑に

 

 ゼラバイア  大西洋連邦  ブルーコスモス  ナチュラル  コーディネイター  Nジャマー  IMPC

 G因子  アースガルズ  グランディーヴァ

 

 を追加予定。