スーパーロボット大戦
Generation α





























 ザフト部隊アルテミス襲撃数十分前、某地点にて――





 MSのコクピットは狭い。
 旧MSのコクピットのほとんどは、球状のインジェクションポッド方式を採用している。
 MSを人と見立てるならば、それは母親の子宮さながらと言えるかも知れない。
 もっとも、そんな感想をパイロットが抱くかというと、そのような者は絶対少数に違いなかった。
 シートに身を横たえた少女は、その少数の部類に該当する物好きだった。
 母の子宮というよりも、少女にとってコクピットは揺りかごのようなものであったが。
 胸元のエンブレム……EFAの文字に鍵のマークは”戦術の鍵”の証、そして少女の肩口に光るのは、十代の彼女にはそぐわない特務佐官の階級章だ。
 コンソールに付随するキーボードを叩き、慣れた手つきでシステムを立ち上げていく。
 IMPCから新型OSに構築システムが替わっても、起動手順が異なるだけ、彼女にとっては目を瞑っていてもできる単純作業である。
 システムがイグニッション・コマンドを受付け、機体に灯が灯る。
 各種計器、サブモニター類に映像とデータが表示され、全天周スクリーンにデッキ内が映し出された。
 遅れて緩衝フレーム越しに伝わってくる機体の鼓動。
 艶やかな紅色をしたMSは、主人である少女の手で兵器として幾たびも吹き込まれてきた命を、再び吹き込まれ、彼女と共に戦場を駆けるのだ。
 チェックをしていると、少女のMSからは見えない奥のハンガーにある僚機から通信が入った。 

「戦略価値の無い辺境の要塞攻略に、ザフト艦少なくとも四部隊が集結か。随分と多いな」

 声に合わせて通信画面に映ったのは少女同様、MSの起動作業を行なっている部下だった。
 少々目つきの悪い青年だ。
 戦闘だというのに、何故かノーマルスーツも着ていない。
 明らかに軍規違反なのだが、少女も人のことを言えるような風体ではないので、それについては黙認する。
 既に作業を終えているのか、どうやら手持ちぶさたらしい。
 戦闘に関して言えば優秀な男だが、性格はというと、色々と難があるというのが、ここ一年余りの付き合いから持った彼に対する少女の感想だ。 

「おそらく、ヘリオポリスをやった部隊も合流しているはずだ。哨戒に出ている遠野美凪からも、偵察ドローンの情報を裏付ける報告が上がっている」 

「光波の傘もあるのに連中、本気でアルテミスを墜とす気なのか? ご苦労なこった」

「何か策でもあるのだろう。もっとも、奴らの狙いがなんであれ、我々は我々の仕事をするだけだが」

 ユーラシアの軍事要塞アルテミスは、戦略面ではそれほど重要な位置に無いため、これまでザフト軍の攻略目標からは外れていた。
 戦略的に見て重要ではないということもあったが、標的にされなかったもう一つの理由は、要塞が持つ防御能力にもあった。
 光破防御帯。
 小惑星基地全体にあらゆるものを通さない光破で包み込むという特殊な防御機構を持つが故に、アルテミスは難攻不落の要塞として名高いのである。
 その基地周辺に、ザフトの部隊が集結しつつある。
 偵察ドローンの情報を元に、哨戒に出た部下が送ってきた情報もまた、それらを裏付ける類のものであった。
 先日、中立国オーブのコロニー『ヘリオポリス』がザフトの攻撃を受け、壊滅した。
 私企業モルゲンレーテから提供された情報からすると、ザフトは開発中の新型MSと戦艦を強奪しコロニーを破壊、逃走したらしい。
 その矢先のザフト部隊との遭遇である。
 友軍の要塞を襲撃する敵を攻撃、殲滅するため、少女は部下を率いて出撃するのだ。
 敵の要塞攻略戦に間に合うかどうかは微妙だが、只で済ますわけにはいかない。

「新型機を敵に使われるのは忍びない。奪取されたGタイプ、新造艦を含む敵全てをこの出撃で殲滅する。先行している遠野美凪と合流の後、作戦開始だ。遅れるな、国崎往人」

「了解。……てか、隊長」 

「なんだ?」

 軽く注意を促した少女に、モニターの向こうで部下の青年が色々言いたそうな顔を見せる。

「いつも思うんだが、いちいちフルネームで呼ぶなよ」

 見せるだけではなく、言ってきた。
 だが、少女は部下の青年を一瞥した後、まるで「付き合っていられるか」とでもいうように、一方的に通信を切った。
 もっとも、言われて頷ける問題でもなく、分が悪かったために話すのを止めたといった方がいいだろうか。
 少女は自分ではあまり気づいていないが、友好的な順を無意識にネームで類別していた。
 フルネームで呼ぶのは、そこそこ仲の良い証拠なのだ。
 ちなみに、どうでも良い相手に大しては名前すら呼ばない。
 両極端な少女だった。

『左舷上部カタパルトクリア。ORX―013C ガンダムMk―X、発進どうぞ!』

 準備が出来たらしく、艦橋のオペレーターが発進の指示を送ってきたが、少女は何やら思うことがあったらしく、思わず呟いた。

「む……担当オペレーターは九条女史か」

 微妙に落胆の含まれたそれに、オペレーターの少女はニヤリと反応し、上官たる彼女に目敏く返す。

『そうですよ、特佐。神尾さんでなくて残念でしたね。せっかくですから彼女に替わりましょうか?』

 その口から上ったのは、少女が一番大事にしている存在の名だった(この艦に配属されている二名のオペレーターのうちの一人が、会話に上った少女)。 

「無駄口はいい。作戦中だぞ」

『すいません』

 オペレーターの看破は実に的確だったが、不適切だったので、諫めるように言うと、オペレーターは素直に頭を下げた。
 まったく、悪びれてなどいなかったが。
 思わずため息が出る。
 この艦の雰囲気は、あまり軍隊らしくない。
 悪く言えば弛んでいる。
 良く言えばアットホーム。
 それでいて、これまで数々の戦果を上げてきたというのだから、この世は不思議で満ち溢れている。
 既に配属から一年近くが経つが、まだ完全に馴染めているとは言えない少女だったが、完全に馴染んだら自分の培ってきたものの何かが崩れるような気がして、たまに不安になるというのは、秘密の話だ。 
 戦いに雑念は不要だ。
 例えベテランでも、ちょっとした油断が死に繋がるのが戦場である。
 気持ちを切り替え、浮つきかけた心を平静に戻しつつ、少女はこれから先の戦場へと意識を向けた。

「折原ミサオ、Mk―X……出撃する!」

 幾度と無く命を預けてきた真紅の愛機を駆り、少女は漆黒の空間へと躍り出る。 
 ザフト相手の遭遇戦自体は、珍しいことではなかった。

 だが、この出撃の先に彼女の運命を決定的に変える何かが待つことを、少女は知らない――。












インターミッション マーメイド:ファイルNo1














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