Professor Kapparの
ス ペ イ ン 記

 お世話になった、愛すべき友人たちに別れをつげた。
 Spainへのフライト前日。マイナス6度の雪の中、モーツァルトの生まれた土地としても名高い ザルツブルグの小さな町を私は独り、ひたすら歩きまわった。
 美しいパウダースノウも溶けて靴の中に浸透し、すべてが麻痺してくる。頬も耳も指も何もかも あらゆる感覚器官が無くなってしまったのかと思わず心配になった。今宇宙人が地球をのぞいて そこに偶然私が写ったら、「地球人というものは目と心臓だけで構成された奇怪な生き物だ」と 報告されたと思う。
 それくらい寒かった。そしてまた、とても寂しかった。どうしようもなく寂しかった。今更ながら だが、気候も文化も人種も歴史もなにもかも違うこの土地で、あぁ、幸か不幸か私はいま独り なんだなぁ・・・という漠然とした思いが、心をぎゅっと絞った。
 私は訳もなくカフェのおじさんに話しかけながら、ただただ歩きつづけた。そして、0:20発、 チューリヒ空港行き夜行列車の時間を待った。

 それは突然やってきた。飛行時間約1時間半。ついに、ついに、バルセロナだ!
 まず耳に届く音の量から言って全く違う。絶えず聞こえる笑い声、怒鳴り声、通りのど真中で急に 始まる世間話、車のクラクション。10メートルも歩けば必ずといっていいほど笑顔で声をかけてくる 元気な男の子たち。道端で繰り広げられる大道芸人たちの芸術的活動。寒さで震え上がっていた私の 心も次第に溶かされていく。圧倒的なエネルギー。ここは、生まれて初めてのラテン民族の国、 スペインなのだ!
 スペインで過ごした3週間、一貫して感じた人々の姿勢があった。それは「La Vida Dulce」  つまり 「甘く愉快な人生」 を追求しようとする、パワフルで積極的な姿勢だ。彼らはどんな 場所でも決して黙ったりしない。暇さえあれば友達や恋人や家族や、お店の店員や偶然肩の ぶつかった通行人を捕まえて、おしゃべりにうつつを抜かしている。
 一度スーパーのレジで、私の前に並んでいたおばあさんが偶然レジ係の女の子と知り合いだった らしく、弾丸のごとく会話をはじめた。それはシエスタ(3−4時間に渡る昼休み)明けの夕方、 結構忙しい時間帯だったにもかかわらず、二人は悪びれる様子もなく延々と楽しそうにおしゃべりを 続けていた。更に驚くべきことは、私の後ろの人々も皆、「しかたないね」と笑って他の列に 並びなおしていた。
 そこでは一分一秒が、ぴょんぴょん弾むように流れていた。今や全世界に勢力をひろげる マクドナルドの店内にも、恐るべき光景が用意されていた。店員たちがのんきに冗談を言い合って いる横の全テーブルには、食べ終わったごみがポンポン置いたままにされているのであった。
   あらららら。
 面倒くさいことはしない。純粋に楽しいと思ったことをする。「今日できることを明日に 延ばさない」のではなく「明日できることを今日しない」のである。(そして時として明日さえ しない?)日本における「耐え、忍ぶ美」の正反対に位置する哲学が、そこにはあった。
                               to be continued...


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