| は ー ち ゃ ん の メ ジ ロ |
アスファルトの道をちょっと歩くと小さな森があります。奥に大きな池があって危ないので、
子どもたちだけで遊んではいけないことになっています。
でも、きょうはおかあさんが一緒だから安心。
「おもしろいことがあるといいな」。はーちゃんはワクワクしながら森にはいっていきました。
森の小道はお日さまがポカポカ。落ち葉を踏むたびにザワッザワッといい音がします。
はーちゃんは歩きながらおもしろい形やきれいな色の葉っぱをたくさんひろいました。
「はーちゃん、それ、どうするの」「ひ・み・つ!」。
はーちゃんは「フフフ」と笑いました。森のすてきなプレゼント、実は、
おとうさんのおみやげにするつもりなのです。
「あっ」はーちゃんが大きなドングリの木の枝をチョコチョコと動きまわっている
何かを見つけました。
「おかあさん、見て見て。リスよ。リスがいるよ」「ほんと。何かいるわね。でも、
リスじゃないよ。小鳥みたい」。
たしかによく見ると、それは小鳥です。木の幹をすばやくあちこち歩きまわりながら、
時々コツコツコツと幹をつついています。それがキツツキの仲間で「コゲラ」と呼ばれていること、
それから、残念だけれど、大分の森にはリスは住んでいないことを
おかあさんが話してくれました。
コゲラはオシャレな鳥です。からだは小さいのですが、頭の横のほんのすこしの赤い羽根と
背中の白い水玉模様はとてもすてきで、はーちゃんはいっぺんにファンになってしまいました。
コゲラをみつめていたときです、どこからか「キチキチキチ」という高い声が
聞こえてきました。
「あれ、なーに」「何だろう、かわいい声ね」。
おかあさんにも何だかわからなかったのでしょうか、今度は教えてくれませんでした。
耳をすましていると、もう一度「キチキチキチ」という声が聞こえ、森は、
それっきり静かになりました。
それから、はーちゃんとおかあさんはフユイチゴを食べたりドングリをさがしたりかげふみを
したりで冬の森をたっぷりたのしみ、お家に帰ったときはもう夕方になっていました。
お正月になりました。はーちゃんはかわいい赤い着物を着て、おとうさんやおかあさんと
お宮まいりにいきました。
「ことしもお友だちがたくさんできて、楽しいことがたくさんありますように」。
はーちゃんは小さな手をあわせ、心のなかでおいのりしました。
お宮から帰たはーちゃんとおかあさんは、いっしょにお庭で羽根つきです。
そのとき! ツバキの木の方から「キチキチキチ」という声が聞こえてきました。
はーちゃんには聞きおぼえのある声です。
「ほら、あそこよ」。おかあさんが指さした方をみると、葉っぱのあいだを見えかくれしながら
とびまわっている小鳥がいました。それはとても小さな鳥でした。ツバキの花にぶらさがったり、
お花にもぐりこんだり、まるでサーカスみたいです。
からだはきみどり色につつまれていて、とくに胸のあたりは黄色がこくてきれいです。でも、
なんといってもよくめだつのは目をふちどっている白。
「あのね、あの小鳥さん、目のまわりが白いでしょ。だから、メ・ジ・ロってお名前なの。
ときどきお庭に遊びにきて、ああしてお花の蜜を吸っているのよ」。
おかあさんが教えてくれました。
「はーちゃん、メジロさんの声、おぼえていたよ」「あのときもメジロさんだったのね」。
12月の森でメジロの声を聞いたとき、ほんとうはおかあさんにはわかっていたのです。でも、
メジロがお庭にきたときに、はーちゃんが自分で見つけたほうがずっとうれしいだろうと思って
だまっていたのです。
よくみるとメジロは2羽いました。なかよく花から花へと動きまわりながら蜜を吸っています。
しばらくの間、はーちゃんとおかあさんは羽根つきをわすれてメジロにみとれていました。
その日の夜、はーちゃんは夢をみました。
きがつくとまわりはツバキの花でいっぱい。はーちゃんにはかわいい羽根がついていました。
そう、メジロさんになったのです。ためしに羽根を動かしてみました。
「パタパタパタ」。調子はよさそうです。「よーし」。
はーちゃんはおもいきって飛んでみることにしました。
羽根をもう一度、今度はもっと強く動かし、両足でツバキの枝をポーンとけりました。
するとどうでしょう、はーちゃんは青空にむかってグングンのぼりはじめたのです。
「すごいすごい」。
いつのまにかお山よりも高くなっていました。下をみるとお庭でおかあさんが
笑いながら手をふっています。公園で手をふっているのはけーくんのようです。
はーちゃんは楽しくてたまりません。川では夏の自然観察会で友だちになったカニさんや
ドンコさんが「はーちゃんこんにちは。元気そうね」と声をかけてくれました。
海のほうからはカモメさんが飛んできて海のお塩で作ったキラキラかがやくブローチを
プレゼントしてくれました。
こうして、はーちゃんが夢中であちこちをとびまわっているうちにいつのまにか夜になりました。
空はきらめく星にうめつくされています。はーちゃんはすこしつかれてねむくなってきました。
すると星のあいだから「はーちゃん、はーちゃん」と呼ぶおかあさんの声が聞こえます。
「あっ、おかあさんだ」。はーちゃんははやくおかあさんのそばに行ってねむろうとおもって、
力いっぱい、なんどもなんどもはばたきました。
2月になるとお庭ではウメの花がさきはじめます。メジロさんたちはウメの花をめあてに
毎日お庭をおとずれています。
はーちゃんはメジロさんに会うのがとても楽しみ。メジロさんもちかごろでは、
はーちゃんがすぐ近くに行ってもにげなくなっていました。
でもそんなある日のこと、おかあさんがいいました。
「メジロさんもそろそろお山に帰る日が近づいているのよ」。
お山に春がきてたべものがたくさんみつかるようになったら、メジロさんはお庭に
遊びにこなくなるのだそうです。
4月になり、はーちゃんは幼稚園に通いはじめました。
お家に帰るときまっておかあさんにききます。
「メジロさん、どうだった、きょうもきてた?」。
はーちゃんはメジロさんのことがちょっと心配。だから「ええ、きょうもきてたわよ」
という返事をきくとやっと安心して公園に行き、けーくんたちと遊ぶのです。
5月になってもメジロさんはお庭に遊びにきていました。いつもの年だとメジロさんは
もうお山に帰っているころです。
「へんね、どうしたのかしら」。おかあさんにもわかりません。
きょうもはーちゃんはメジロさんをみていました。今はもう花のなくなったツバキや
カシノキの枝をあちこちとびまわっているメジロさん。
でも、1羽です。
「どうしたのかしら。お山に帰っちゃったのかしら」。
そんなことを考えながらみていると、はーちゃんの背より少し高いあたりのツバキの枝に、
野球ボールくらいのゴミのようなものがひっかかっているのがみつかりました。 |
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とうとうその日がやってきました。
幼稚園から帰っていつものようにけーくんとお庭にでると「キリキリキリ」といういつもより
高い鳴き声がひびいてきました。
「どうしたのかしら」とおもいメジロのお家のほうをみるとおかあさんメジロとおとうさんメジロが
いそがしそうに動きまわっています。
「あっ!」
お家よりだいぶ高いところの枝にあかちゃんメジロがじっとうずくまっていたのです。
あかちゃんといっても大きさはおかあさんたちとあまり変わりません。色だってほとんどいっしょ。
でも、はーちゃんはあかちゃんにちがいないとおもいおおよろこびしました。
はーちゃんたちの声を聞いておかあさんもでてきました。
「ほんとう、あかちゃんだわ。ほかにもいるかしら」。
3人でさがすと、あかちゃんメジロは3羽みつかりました。よくみるとおとなにくらべ、
胸のあたりや顔のあたりの色がすこし黒いようです。そして、あいかわらずじっとしています。
それから毎日みていると、はじめはじっとしていたあかちゃんメジロもやがて枝の上をすこしだけ
歩いたり、あまり遠くない枝に飛び移ったりと、活発に動きまわるようになりました。そして、
ときには枝にとまったままおかあさんメジロから口うつしでごはんをもらったりすることも
ありました。
そんな日がなん日か続いたあと、メジロさんたちは突然いなくなりました。
「メジロさん、きょうもこなかったね」。
夕ごはんのとき、はーちゃんがつぶやきました。
メジロさんがいなくなってから、はーちゃんは友だちをなくしたようなとてもさみしい気持ちに
なっていました。けーくんたちと幼稚園や公園で遊んでいるときはいいのですが、
ひとりになるとおもいだして、またさみしくなるのです。
久しぶりにメジロさんに会うことができました。
目の前に5羽のメジロさんがたっていました。一番大きいのがおとうさんメジロ、
つぎがおかあさんメジロ。子どもたちはおとうさんメジロとおかあさんメジロのあいだに
なかよくならんでいます。
「はーちゃん、ひさしぶりね」。おかあさんメジロがいいました。
「メジロさん、はーちゃんはね、メジロさんたちに会えなくてさみしいの。もうずいぶん長いこと
会ってないでしょ。だからかなしいの」。
はーちゃんの目からポロリとなみだが落ちました。
「きょうははーちゃんのことが心配でみんなで遊びにきたのよ」。
おかあさんメジロがはーちゃんの頭をやさしくなぜながらいいました。
子どもたちははーちゃんの肩にとまりました。おとうさんメジロはしずかにはーちゃんを
みつめています。
「わたしたちはね、夏はお山でくらすのよ。しかたがないの。しばらくはお別れ。だけど、
ずーっとじゃないわよ。また冬になってツバキのお花がさきはじめるころには、はーちゃんのお庭に
もどってくるわ。だからかなしまないで。今度会えるのを楽しみにまってて」。
はーちゃんがなにか言おうとしたとき、メジロたちはどこかへふーっと消えていました。
夢だったのでしょうか。
朝おきたとき、はーちゃんのまくらのはしっこに小さなしみができていました。
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「それはきっとはーちゃんが元気なかったんでメジロさんたちがはげましにきてくれたのよ」。 |