「女子大寮に掟ができるまで5」

 ゲオルガトスは、アルテミスが気に入っていた。最初はおてんばだという事でゲオルガトスが指導を任されたのだが、接してみると、上品だし、素直だし、よく自分の命令をよくきいている。

 週に一度、アルテミスのことを寮監に報告するときも、ゲオルガトスは鼻高々だった。

 「本当にうまくいっているのね」

 55歳になる女性の寮監は何度も念を押したが、その時のゲオルガトスの答えは決まっていた。

 「非常にうまくいっています」

 寮監はゲオルガトスに紅茶を出した。寮監が子供の頃は、この国でも紅茶は一般的な飲み物だったが、最近はすべて輸出に回されれるようになり、一般の人間では手に入らない。ゲオルガトスが飲むのは今日が初めてだった。ゲオルガトスは、特に感激もせず、一気に飲み干した。なんと表現して良いのか良くわからないが、上品でおいしい飲み物だという事はわかった。そして寮監が好きそうな味だという事も。

 「紅茶って、おいしい飲み物なんですね」

 「きちんとお仕事をしたあとの紅茶は、とてもおいしいものよ」

 寮監はこの紅茶が、仕事のご褒美という事を強調した。寮監はゲオルガトスの事を信頼していなかった。力は強いし、武道をやっているだけあって、上のものの言う事はきちんと従うが、問題は彼女の頭の方である。大学に受かったくらいだから、一般の人に比べれば相当頭がよいことは確かだが、この大学の中ではどちらかというと低い方に入る。

 (アルテミスという子に騙されていなければよいのだけど)

 もっとも、アルテミスは誤解から目を付けられ、特別指導生と勝手に決められたのだ。問題など、あるはずもない。問題があるとしたら、この国が貧困にあえぎ、少ない富を少ない一部の階級の人間に摂取されている事だけである。

 

 同じ時間、アルテミスは、第八女子寮のフィロソマの部屋にいた。同じ部屋にはディグヌスがいるのだが、幸い、今は家の人が訪れてきたので、面会にいっている。

 毎日、ゲオルガトスに迫られていることを相談できる相手としたら、フィロソマくらいしかいない。ディグヌスがいない今はチャンスだろう。まずは、遠回しの話題から入っていく事にした。

 「フィロソマさんは、学校には慣れたのかしら?」

 「もうすっかりね」

 「寮にも?」

 「同室のディグヌス先輩がうるさいけど、あとは快適だよ。うるさい親父もいないしさ」

 「ディグヌス先輩は、優しくしてくださるの?」

 「それがさー、毎日、掃除しろ、宿題やれ、服あらっとけだのって、わがまま放題で、困っちゃうよ」

 「よく怒られるのね」

 「まあね。でもこっちが文句を言ってるから、おあいこか」

 「わたし、実は・・・」

 アルテミスがゲオルガトスについて相談しようとしたときだった。ドアがひらき、ディグヌスが入ってきた。

 「あら、あなたは、たしか?」

 「第三女子寮のアルテミスです」

 「用は終わったかしら?」

 「え、えぇ・・・」

 「早く出ていってね。フィロソマには用をやらせないといけないから」

 「ごめんな、この先輩性格悪くて」

 フィロソマはアルテミスに謝るついでに、文句を言っている。

 「あら、ゴミが何だかおしゃべりしているみたいね」

 と、フィロソマは嫌味な声で言った。

 「はい、はい、わかりました。アルテミス、じゃあ、また明日」

 フィロソマは先輩に文句を言いつつも、うまくやっているようだった。

 (それに比べて私は・・・)

 第三女子寮に戻ると、ゲオルガトスが玄関で待っていた。

 「友達のところに行くぞ」

 そう言うと、ゲオルガトスはさっさと寮の中に出ていった。ついて来いという事なのだ。アルテミスは、あわててゲオルガトスのあとを追った。

 「どこに行くんですか?」

 「武道部の部室だ。行った事あるか?」

 「いえ、初めてです」

 武道部は、政治経済研究会と並ぶ大学の2大部活の一つだ。

 「今日は、友人におまえのお披露目をするんだ。私はおまえが、とても気に入ったからな」

 「ありがとうございます」

 そういいながらも、アルテミスの胸には不安が首をもたげる。

 武道部の部室はいくつかあり、その中の「3年生用」と書いてある部屋に入っていった。窓が一つあるだけの狭い部屋だった。椅子が2つ無造作に置かれている。部屋の中には3年生の制服をきた4人の部員が待っていた。

 「わー、きれーい」

 みんなが一斉に声をあげた。

 「アルテミス、挨拶するんだ」

 「みなさん、はじめまして。ゲオルガトス先輩の同室のアルテミスです」

 アルテミスが挨拶をすると、部員の一人がすーと近づいてきて、アルテミスの髪をなでた。

 「きれいな金髪ね」

 「あ、ありがとうございます」

 「それに、やわらかそうな胸」

 胸の表面をかるくなでる。

 「きゃっ」

 思わずアルテミスはその場にしゃがんだ。

 「アルテミスちゃん、手を出して」

 しゃがんでいるアルテミスに向かって、部員の一人が手をさしのべた。

 「すいません」

 アルテミスは、手をつかんでもらい立ち上がった。すると、その部員はあいている手を重ねてきて言った。

 「きれいな手をしているのね」

 すると別の部員が横から、

 「アルテミスちゃんは、キスはしたことがあるのかしら?」

 そう言って、急に顔を近づけてくる。

 アルテミスは避けようと顔をそむけると、

 「肩はこってない?」

 後ろにまわった別の部員が肩をなでる。

 アルテミスがじっとしていると、正面にいた部員が

 「なんだか顔色が悪いわ。おでこと、おでこをくっつけても熱をはかってあげましょうか」

 と言いながら、おでこを近づけてくる。

 「いやー」

 アルテミスは思わず突き飛ばした。

 

 懲罰室は寮の1階、寮長の部屋の隣にある。懲罰室には窓がないため、部屋は常にしめっぽく冷たい空気が流れている。

 生活指導委員のエアリセスは、部屋の中央にアルテミスを立たせると、その周りをゆっくりと歩いた。

 「あなたはこの国を守り育てるエリートになる事を嘱望されてるのよ」

 エアリアスは細身の鞭で風をきった。びゅっという音がした。

 「わかってるわね」

 「はい」

 アルテミスの通っていた高校では、鞭での懲罰は2年までと決まっていた。それに高校で叩かれた子は、クラスのおてんばの子のわずか2、3人だけだ。アルテミスが、叩かれたのは中学2年生が最後だった。ただ、その鞭の痛みだけは体が良く覚えている。その証拠に、いまにも膝から崩れ落ちそうだった。

 「用意をなさい」

 エアリアスが冷たく宣告した。アルテミスは制服のスカートをめくり、絹の下着を膝までおろした。

 この国では、女性同士であれ肌を見せる習慣はない。シャワーはすべて別の部屋であるし、日々の着替えも着替えようの小さな個室を使う。そういった習慣の唯一の例外が、この懲罰である。それだけに羞恥心は、非常に強い。

 アルテミスの顔が、自然と顔が赤くなる。スカートの裾を腰のところに入れて落ちないようにすると、手を膝について前屈みになった。

 「一回目」

 びゅっと音がすると、肌を叩くばちんという音が部屋に響いた。最初はじんわりとしたかゆみのようなものがしたが、数秒後には肌をさくような痛みにかわった。白い肌に、床と平行に赤い線がついた。

 「二回目」

 30秒後、二回目の鞭がアルテミスをおそった。一回目の数センチ下に赤い線ができた。

 「三回目」

 床と平行に走る線は、三本になる。

 五回の懲罰が終わると、アルテミスは一礼し、懲罰室を出ていった。五回というのは、生活指導委員ができる懲罰では最高に重い懲罰だった。

 (女子大寮に掟ができるまで5  おしまい)