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 第48回  お釈迦様の右側臥位の謎                      有病者のリスクとコスト 

お釈迦様の臨終の絵として、今に伝わる涅槃図では、いつもお釈迦様は右側臥位の
体位として描かれております。私が昔読んだ書物では食中毒の下痢により脱水症と
なり、循環不全、心不全の結果、心臓を楽にさせるために体重力の圧迫から逃れる
ために右を下に、心臓の左側を上にしていたのではないか?と書かれていました。

しかし、脱水、血液量の減少の時に右側臥位の体位が本当に心臓が楽になるのか?

血液が少なくなって、さらに血液の多くが右半身にあると、心臓に戻る血液量の低下
はさらに悪化し、病状の悪化をきたすのではないか? これは私の長年の謎で、
医学
書院の2001年版の「今日の治療指針」の急性脱水症
のところにおいても、市立札幌
病院の救命救急センターの元部長の松原泉先生は、体位については、言及されて
おられません。

最近、パルスオキシメータが歯科医療機関によく売れているそうですが、これは
松原泉先生の裁判 のおかげかもしれません。裁判の内容を考えていただければ
わかりますが、最近になりようやく歯科の保険診療で、特定の全身疾患の有病者
ではパルスオキシメータの必要性とそのコストが認められました(他にも条件はあり
ますが)。

歯科チェアに座っていて、少し息が荒くなっている時に楽な安静位を求めて体を横に
するのは、危険な時があります。横たえている状態よりも座っている状態の方が楽な
時は、
起坐呼吸の場合があります。 水がたまる、とよく言いますが、肺の水分増加や
うっ血を起こすと(心不全の状態であるなら)
、坐位から臥位にすると、さらに、肺の
うっ血はひどくなり、低酸素の悪化によりパルスオキシメータの SpO2の数値は低下
することでしょう。

座位での歯科治療など臥位から座位にすると不利な場合もありますが、起坐呼吸の
その呼吸でさえ横になっているよりかは患者さんは楽なわけです。


第47回  弟子アーナンダによる世界初のオーラルケア?       死の意識 

お釈迦様はご臨終の間際、水を欲したようですが、飲水と共に重度の下痢、脱水による
口渇でオーラルケアを望んでいたかもしれません。オーラルケアの証拠はありませんが、
私はターミナルケア時のオーラルケアを施行する時に、死の意識とともにいつもこの情景
を思い浮かべてしまいます。

現在では、末期の水として死後の儀式になってしまいましたが、元々は、生存のため
ものであるわけです。

一般の歯科治療では死を意識することはほとんどありませんが、医科に比べ、歯科の
従事者のめったに臨終に接しない、または、
死の意識の稀薄さが歯科医療の向上に
対する逆風の一因になっていると思います。

麻酔の研修時、周りのスタッフに大袈裟にもステルベン(死)するよりかはマシだ、と
言っていた感慨は今でも常に思うところです。

リスクの高い患者さんの治療をするか、歯科麻酔や口腔外科の研修に出るか、医科の
研修に出るか、そして安全な歯科治療とは、その”器”はあなたのお考え次第です。


第46回  処方ミスと調剤ミス                                             人間のスキ 

医療ミスの中で薬害として、いろいろなものがありますが、カルテに記入される薬量
処方箋の薬量
が異なる場合があります。

例えば、
力価としての薬量調剤される実際の薬量が桁違いになるときがあります。
ミリ(1000分の一)の桁違いのミスは起こりにくいとは思います。 患者さんに実際に
渡される薬剤がミスで、1000倍の量や1000分の一の量はおそらく現実には起こる
はずがない...?
ところが、
10分の一や10倍の薬量は起こり得ます
10分の一なら薬効がなく、これも危険ですが、10倍の薬量ミスなら中毒の危険性
非常に高く、そして、どちらが命に関わるかは自明でしょう。

カルテ、処方箋への記入ミスやコンピュータの入力ミスは薬を直接に投与することが
ないこともあって、人間のスキが起こりやすいのでしょう。

第45回  医療環境の老化                                        研修医の受難

研修医4人に1人、1〜2カ月でうつ状態、または、研修医40%近くがうつ状態とのこと
です。 歯科医師の研修医も受難ですが、歯科医も研修医よりも経験の豊富なうまい
歯科医が求められているような気がしてなりません。 しかし、研修医や新人は医療ミス
をなくすためにも適切な教育、医療環境が必要です。 

ヒポクラテスのような、あるいは白い巨塔の里見助教授のような人格者を求められるのは
わかりますが、手術が
うまく成功する確率を考えた場合、食道外科なら財前 五郎教授や
一般外科ならブラックジャックにちょっと憧れてしまいますが、国家、行政がもっとしっかり
してくれて、研修医にもっといい医療環境を与えないといけませんね。
 
研修医や新人がいい医療者であるほど医療環境が若返り、さらに将来の医療環境が
良きものになるという道理です。


第44回  行動調整の一例                                        全身管理として

行動調整は、行動管理、行動マネージメント(behavior management)などとも
称されますが、小児歯科や障害者歯科では行動調整の枠組みとしては、

 基本  1  通法
  2  行動療法(行動変容法)
  3  鎮静法
 特殊  1  抑制具や人手による身体抑制法     
  2  全身麻酔


行動科学では泣く、わめく、体動などの不適応行動について 「症状や問題となる行動が
ある場合、その行動は法則によって学習された不適応行動である」 と考え、その学習能
力を利用して不適応行動を適応行動へと変容させる方法が行動変容法とか精神科的
には行動療法と言われています。

行動療法を応用することも含め、この概念をさらに広げ、患者さんを診療に適応できる
ように誘導、管理することを行動調整、行動管理、行動マネージメントとも呼ばれます。

歯科治療を遂行する上で患者さんに問題があるのなら、全身管理として調整する必要
がありますが、不適応行動に対しては行動調整として考慮するということで、この行動
調整も全身管理の一部と考えていいでしょう。

行動療法(行動変容法)には歯科的にも精神科的にも様々な方法、技法がありますが、
私の考案した
ガーゼ咀嚼飲水法もその一つと考えてもいいですが、一例として知的
障害児の患者さんでは、診療所まで連れてこられても嫌がって診療所に入らない方や
入っても診療室に入室しない、チェアに座らないなどの困難な方がおられます。

この方の行動管理を考えてみます。以下、
テクニカルチップス No.8  とします。  

チェアに座れば飴をあげると言って、チェアに座れば、行動調整として、成功なわけ
です。さらにその飴を食べた食後に歯磨きをしてもらう、ということができれば、また、
食後の歯磨きが
学習効果として習慣づけできれば全身管理としても、成功なわけです。

さらに、治療に際しては、治療後にまた飴をあげるから、がんばって治療をしようね、
と協力してもらえれば、歯科治療に適応させることができた、と言えます。

以上は
オペラント技法の一例ですが、受診患者数の減少している診療所があれば、飴
やリコールの手紙以外でも一般の方にも応用できるかどうか検討してみてください。

行動管理、全身管理全般に言えますが、
欠点として時間がかかることとコストの問題
があります。いずれ、時間のかからない行動調整のテクニカルチップスを発表します。


第43回  麻酔とは                               全身管理の匙加減と調整

小麻酔科書の第7版の冒頭には私の大師匠である稲本晃先生(故人、京大名誉教授)
の推薦の辞があり、少し引用させていただきます。

     
臨床医学の中でも、ことに麻酔学はとくに理論と実際が直結しなければならない。
   しかも、われわれ麻酔医が常に直面しているのは急速に発現する症状の変化であり、
  それに対して、常に一刻の猶予もなく、適切な判断と、迅速な処置が要求される。

    そのためには、麻酔医の頭脳の中には、いつも、理論的な生理学、薬理学の知識と
  実際的な経験が、整理されていなければならない。

     ことに麻酔は、安全に行うことが第一の条件で、往々にして、不用意、不注意、
   簡単なことの知識の欠如が大事を起こしうることを心せねばならぬ。
          
                                                                             ーーー以下略

小麻酔科書のコラム覧では、麻酔は、意識、知覚、運動、自律神経系反射の4要素の
抑制から成り立つものである、とのことが書かれています。この麻酔とは全身麻酔中を
さしますが、麻酔中以外の前後でも全身管理として、さらには歯科の局所麻酔において
も全身管理として大なり小なり関係します。

局所の知覚の抑制のみを考慮されることが歯科の局所麻酔では多いのかもわかりま
せんが、、、

全身管理というのは、全身の各器官の状態とその関係を把握、調整し、安全な状態を
1個の全身として総合的に維持、管理することである
、と思いますが、医師、歯科医師
と厳密に峻別してしまうと、殊に歯科医師には全身管理が困難なものとなり、国民に
とって損なものとなってしまいます。

歯科の治療にあたっては全身を把握し、匙加減しながら調整し、より快適な安全な
医療へと施行すべきです。

調整という言葉がよく使われますが、歯科では、噛み合わせの調整、義歯の調整など
の他、
行動調整という言葉も使われることがあります。 歯科治療では体動(運動)が
非常に危険を伴うことが多く、痛み、鎮痛とともに考慮する必要があります。

歯科治療を遂行する上で全身管理上問題があって、適応が困難な場合があります。
その問題とは、身体障害、内部臓器疾患、知的障害、精神障害などがあげられます。
診療上、問題のある行動に対しては、診療に適応できるように誘導、管理する方法が
あり、これを行動調整と言っています。

この行動調整のなかには、精神科的には精神療法(心理療法)としての行動療法や、
笑気鎮静法などの精神鎮静法、特殊なものとして、抑制具による身体抑制や全身
麻酔も含まれます。


第42回  小麻酔科書 →  麻酔科学                            座右の書

座右の書  私の座右の書である小麻酔科書(金芳堂)は第7版ですが、
  初版が  1965年で、第8版よりその名称を麻酔科学と変え、
  現在は 第10版となっております。著者の兵頭正義先生は
  お亡くなりになり、現在は森秀麿先生の改訂編集となり、
  およそオリンピック周期で改訂が続けられています。次回
  の改訂もどのような変化があるか楽しみにしています。

  座右の書だけあってボロボロですが、私の麻酔の勉学は
  これだけをしていたわけではありません。かつて手術室に
  実習に来ていた歯科医師の卵に、麻酔の勉学には、
国家
  試験で3冊の専門書、歯科麻酔科に入局するなら10冊、
  歯科麻酔の認定医をとるなら30冊を読み込めばいいので
  はないか
、と根拠も無く話しをしたことがあります。

各科あたり3冊も読み込めば国試が合格するのか?と疑問をもたれる方もおられる
かもわかりませんが、1冊だけでも完璧に読みこなすのは、私のこの小麻酔科書を
見ていただければ納得できると考えます。

ここで国試の合格と実際の臨床とは月とスッポンの差ほどの現実があります。

メールや掲示板で質問をされても、特に各個人の病状、治療方法などを相談されても
文字だけではまったく的はずれであまりにもいい加減なバーチャルなもの
になると思
います。 実際の臨床では直に対面し、問診し、視診、触診などの診察をし、検査をし、
やっと治療方針がたてられることがほとんどです。

患者さんの訴えられることも実際の病気とは誤った、間違ったことを思い込み主張さ
れることも多く、主訴だけならまだしも患者さんによっては自ら診断し治療方針をたて、
場合によっては実際に誤った処置さえして、受診される方もおられます。


藁にもすがりたいと思われるお気持ちもわかりますので、ご質問はかまいませんが、
以上を了解していただいた上でお願いいたします。


第41回  一般市民の方へ、立ち上がろう!        レベルアップ

歯科治療中の急変での気管内挿管などの救命処置については厚生労働省の
方は「緊急避難として許される。義務ではない」と
公判の席上で言われたよう
ですが、歯科治療中の急変に関わる裁判での今までの判例では、ほとんどの
場合、歯科医師の責任が問われ、歯科医側が敗訴になっていると思います。

道路交通法第72条によると、交通事故時はまず人命救助が義務づけられて
います。自動車の教習所においても心肺蘇生などある程度の救急治療の授業
はあります。憶えていますか?

免許証の更新時にはこれらの教習内容の復習はないようで、誠に残念ですが、
実質119番通報すれば多くは責任は問われないのでしょうか?

心肺蘇生時の循環のサインというのがあります。これは、循環状態の判断には、
頸動脈の拍動の触知が行われてきましたが、一般市民にとって、緊急の場で
頸動脈の拍動を確認することは難しく、心停止で触れていないはずなのに誤って
触れると誤判断することが少なくありません。

そこで一般市民は頸動脈の触診はしないで、以下の循環のサイン3徴候を10秒
以内に調べて、徴候がなかったり、明らかでない場合には、循環のサインなしと
判断し、心臓マッサージを開始する。徴候のいずれかが見られる場合は、心停止
でないと判断する、というのが最近の考えです。

まず気道を確保し、呼気吹込み人工呼吸を2回行った後に、
 1)呼吸をしているか?(目で胸の動きを見たり、呼吸の音を聞く。)
 2)咳をしているか?
 3)体に動きが見られるか?


しかし、しかし、一般市民の方へ、あなた自身で自分の頸動脈を触診する練習を
して、心肺蘇生のレベルをあげようではないですか!
気道の確保ができるように勉強しようではないですか!

自分が助かるために、家族が助かるために


第40回  貧血と循環血液量の限界                 タイムラグ

 献血検査のすり抜けや輸血ミスの発表がありましたが、東京のある病院で、
手術中に大量出血を来たし、輸血の遅れから低酸素脳症となり、脳死に近い
状態の女性がおられると発表がありました。

 病院側によると、女性は今年5月に、再発した腫瘍摘出の再手術を受けた。
担当したのは三十年以上の臨床経験がある外科医教授ら医師4人のチームで
執刀。 1200mLの血液を準備していたが、急速大量出血により手術中に追加の
血液を要請したが間に合わず、約25分間にわたって輸血が中断。女性は急激な
血圧低下を起こし、低酸素脳症となった、とのことです。
 輸血量は約3740mL、出血量は予想の約三倍の約6680mLが出血した。

病院側は医師らの連携ミスもあったことも認めた、とのことですが、医師らの間の
相性が悪かったのかどうかは私は知りませんが、輸血の相性は医師らの間だけ
でなく、スタッフ、輸血業務、緊急時のシステムなど多くの要因も考えられるところ
だと思います。

また、約25分間にわたって輸血が中断ということですが、この時、CVP値などを
参考に輸液により循環血液量を維持しようとしますが、そうしなければ、
別のミス
を起こしてしまいます。当然、貧血は進行しますが、ここで、
貧血の臨床的な限界はヘモグロビンで5g/dl、生存限界は3g/dl
ということを認識していなくてはなりません。

循環血液量の過不足の把握は簡単なことではなく、また直接には測定できません
ので、臨床ではよく中心静脈圧(CVP)というので代用します。CVPは長いカ
テーテルを血管から挿入し、その先端を右心房の近くに位置させて測定できます。
似たような状況では、みなさんは点滴されている人で点滴の瓶の中が空っぽになり、
液がその先の管の中で止まっているのを見かけたことはないでしょうか。その液面と
心臓からの高さの数値を測るわけです。

数値そのものが循環血液量を示すわけではないので、数値の増減でもって、循環
血液量の増減とみまします。循環血液量の増減にはその他に、血圧、脈拍、尿量、
アルブミン値なども考慮して、総合判断します。

 しかし、最も大事なことは、何事においてもそうですが、
術野の視診です。
時間をみるセンスについても常に修練しなければなりません。出血量が計られ、
数値として上がってくるのは15分から30分近くかかりますので、急速大量出血
においては、遅すぎます。ポンピング急速輸血をしてもCVP値が上がるどころか
停滞下降気味の怖さは経験(研修)しないとわからない、と思います。
 

第39回  医科研修の必要性その1                   人のため

 報道によりますと、ある病院歯科で、顎の矯正手術を受け、術後、吐き気が
強く、手術から約24時間後に呼吸困難から心肺停止となり、呼吸停止が約
30分間続き、救急蘇生を行ったが、意識がなく、人工呼吸器を付けている、
とのことです。

報道では、上気道周囲の腫れが大きかったことが原因の一つとみられる、と
いうことですが、もしそうなら、今後、事前の対応策、予防策がないかどうか、
など、考えないといけません。上下顎の顎間固定の有無の記述がないのです
が、今後、下顎の矯正手術は、特に上下顎の顎間固定をするのなら術中から
の気管切開による気道確保が必要になってくるかもわかりません。

腫れは術後の反応性の浮腫なのか、アレルギー性の浮腫なのか、出血による
腫れなのか、あるいは、もし他に原因が考えられるなら、吐物、異物などによる
呼吸困難なのか、薬の副作用による吐き気、呼吸困難なのか? その他は?

上記の、呼吸停止が約30分間続き、という内容が気になりますが、このこと
 からでも歯科医師だけでなく、
医療スタッフも見学研修を含む医科の研修
必要と思います。
 

第38回  狭心症の連関痛としての歯、顎の痛み     医療IQを高めよう

 狭心症という病気は冠血流の低下により、心筋が一過性に虚血(低酸素)に
陥ることにより生じる特有な胸部不快感(狭心痛)を主症状とする心臓疾患
ですが、これがさらに悪化を来すと心筋梗塞となり、最悪、命とりにもなって
しまいます。

狭心症は狭心痛が主症状ですが、離れた部位の肩、腕、顎にも痛みが現れる
事があり、これを
連関痛といいます。これを認識している事で狭心症を早期
発見、ひいては
心筋梗塞を早期に予防ができるかもわかりません。

これに関連した症例報告や論文は歯科的には非常に少ないのですが、私の
勤務先の増井雄治先生が第12回歯科麻酔学会に発表され、論文としては
昭和60年、日本口腔外科学会雑誌の第31巻第6号に発表されております。

概要を略記しますと、昭和58年4月23日初診、76歳男性で、左側下顎部
疼痛にて某歯科よりの紹介です。某歯科ではメフェナム酸1.5gを9日間投与
されていましたが、疼痛に変化はなかった。症状は同月より左側の下顎部に
しめつけるような疼痛があり、この疼痛は早朝に集中し、10回程度繰り返して
起こり、30秒から10分間程度持続したようです。

歯科的な局所所見では左側下顎部疼痛との関連を疑わせる異常な所見は
なく、以上から狭心症を疑い、内科では1回目の対診では狭心症とはいえず、
セカンドオピニオンの他医では、ホルター心電図で、AM2時からAM9時に
かけて
一過性のST上昇、AM6時からAM8時にかけてT波の増高が認めら
れました。

これら
ST-T変化時に一致して、患者さんが下顎に疼痛を訴えているのが明ら
かとなり、異型狭心症の疑いにて冠血管拡張薬を投薬すると、ST-T変化は
改善し、下顎の疼痛も完全に消失したとのことです。

この方の狭心症はもちろん歯科では治療できないわけですが、2度にわたり
医科へ対診することで、心筋梗塞の発症を予防できた可能性は当然ある
わけです。

歯科、医科の垣根を取り払って、人を一人として、いわゆる
全人的な見方で
医療を
すすめていきませんか?
  症例報告や論文も増え、医療の質の向上も期待できるでしょう。


第37回  貧血と脳貧血、濃度と量                        医療IQ問題その1

  脳貧血は略して俗に貧血と言われることが多いですが、正確には医学的には、
貧血はヘモグロビン(Hb)濃度または赤血球(RBC)数の低下をいい、脳貧血は
脳血流の低下や血圧低下などによる脳の一時的な虚血をいいますが、Hb濃度
または赤血球数の増減には言及しません。しかし、一過性に時間あたりのHb
総量または赤血球総量が低下していると思われます。

脳貧血も貧血も重症であれば、どちらも脳の虚血(低酸素)を呈するわけですが、
脳貧血は起立性低血圧をさす場合が多く、めまいやふらつきなどの症状を呈する
程度でふつうは一過性のものです。

脳血流の低下は、
心拍数10/分6秒間の心停止位の極端な徐脈になると失神
するので、脳が酸素と糖を連続して欲求することは、それは6秒の中断も待って
くれない、ということです。

低血圧についても循環血液量の減少による低血圧に対して血管収縮剤をすぐに
使うのは御法度です。ただでさえ毛細血管の細いものは赤血球1個がかろうじて
通過できる太さしかなく、末梢血管を収縮させることで、組織を流れる
時間あたり
のHb総量、赤血球総量がさらに減る
可能性があり、低酸素を助長します。その
ため、手術中は、充分過ぎるほどに循環血液量を維持しようと輸液します。

このため、以下の例題が起こり得ます。短時間ですので尿量などは無視して、
<>内の数字はわかりますか?  ヒントは1dl=100ml    さて、
医療IQ はいかに !

60kgの成人男性の循環血液量は、60×70=4200ml、この患者さんが出血により
循環血液量が500ml減少して3700mlになって、この時、Hbが8g/dlであった場合、
循環血液のHbは計<ア>g、この状態で止血状態となり、これより1時間近く
かけて
輸液と輸血MAP2単位を施行されて循環血液量が4700mlになった時の
Hb濃度を計算すると、

MAPは1単位140ml、Hb20g/dlとして、MAP2単位に含まれるHbは計<イ>g
ですので、4700mlの循環血液のHbの総量は<ア>+<イ>=352gです。
よって、Hb濃度は352÷47で <ウ>g/dlとなります。

<ア>29.6、296、2960
<イ>28、56、2800
<ウ>7.5、8.0、8.5

つまり、止血状態で輸血しているのにHb濃度が8から7.5に低下したのは、
輸血を上回る輸液をしたから、輸液により薄められたわけですね。ここで
注意!
Hb濃度が低下しているので、より貧血が進行し、どこかで出血しているのか?
と誤認する可能性を知っておかねばなりません。
  逆に循環血液量が維持できているとも言える?


第36回  御礼申し上げます                               その思い


多くの方より激励、質問、お叱りなどのメールをいただいておりますが、例を
挙げますと、脳貧血と貧血を混同している方、相性などという非科学的な言葉を
使うなと言う方、研修医は勝手に輸血をするなと言う方、それ程までに輸血を
辛抱することもないだろうという方、ここのサイトは難しくてわからないという方、
質問、医療相談を受けてほしいという方、もっとひんぱんに更新をしてほしいと
いう方など、様々なメール、お言葉をいただき、どうもありがとうございます。
 この場を借りまして、御礼申し上げます。

次回のコラムではこういう内容につきまして可能な限りお答えしたいと思います。


第35回  医療の中での相性                           心停止と脳死

  人間同士の社会の中では、みなさんも相性のいい人、悪い人がおられると
思いますが、この人類最大のテーマでもある相性についてチーム医療の中での
ある不幸な手術をもとに考えてみます。

日本麻酔科学会の 2003年10月1日付けのニュースによりますと、略記しますが、

    東京慈恵会医科大学附属青戸病院における腹腔鏡下前立腺摘除術に関する
    報告書では、輸血(MAP)4単位を用意し、麻酔あるいは手術は順調に進み、
    8時間30分後のヘモグロビンが8.3g/dl(術前15g/dl)と低下したため、輸血を
    開始した、とあります。その後、泌尿器科医の止血の終了を認識させる言葉
    にも拘らず、ヘモグロビンは7.6g/dlに低下したようです。

    その後、更に血圧は低下し、輸液、昇圧薬の増量で対応し、麻酔科から輸血
  のオーダーと開腹止血術への術式変更に踏み切らせた。その間の出血量は
  約3000ml(尿込み)で徐々に血圧は低下し、心電図上徐脈で脈波のみで心
  マッサージを開始した。

    輸血が到着、MAP7単位を行い、約12分後に血圧は回復したようですが、病室
  に帰室しても、ヘモグロビン低下による酸素不足により意識は回復せず
  1ヶ月後に死亡した、との報告です。

以前はヘモグロビンを10g/dl以上に維持すること、というのが、根拠がないにも
かかわらず基本的な事でした。しかし
循環血液量さえ充分であれば、また心肺
機能さえ良ければヘモグロビンは7g/dlでも大丈夫との考えも多くなり、実際、
私の昔の麻酔研修でもヘモグロビン7g/dlを切って輸血を開始したことは何度も
あり、また特に問題にはなりませんでした。

電子版麻酔学教科書においても、手術中のヘモグロビンは15g/dlは不要.
最低限その半分あれば充分.との記述があります。

ここで輸血開始の決断についての術者と麻酔側との貧血に対する
感覚の温度差
あります。 麻酔側としては、術者は局所の止血に全力を傾けてほしい、全身の評価、
管理は麻酔側に任してほしい、との思いが強いわけですが、術者としては出血量が
1000mlを超え、あるいはヘモグロビンが9g/dlから8g/dlへと貧血が進むにつれ、
輸血はまだか?、と不安になってきます。

私の麻酔研修の輸血開始ではヘモグロビンが9g/dlないし8g/dlから7g/dlに達する
のにおよそ30分から1時間を経過することが多かったですが、術者と麻酔指導医の
間にいた若き研修医(私)は術者の不安の除去と手術の安全、的確な手術操作を
期待してヘモグロビン7g/dlを切るのが目に見えている20から30分前より輸血開始
をすることが多く、安心した術者よりお礼の言葉をいただいたこともありました。

もちろん、このような場合でも麻酔指導医よりとくに指導の言葉はなかったわけです。
こういったチーム医療の中での方針について感覚の温度差が大きくても、相性が
良ければ、それが緩和、吸収され、よりスムースに事が運び、逆に相性が悪ければ、
うまくいかないのかもわかりません。
 

  第34回  医療革命?の3商品          医療革命と人の革命

 日本光電より10gの呼気CO2検出器(CO2センサキット)が発売されています。
  肺での呼吸は簡単に言うと酸素を吸気で体内に取り入れて、体内の二酸化炭素
  CO2を呼気で排出することはみなさん御存知のことと思いますが、歯科治療中は
  結構呼吸が止まっており、鼻呼吸検出用のものであれば歯科治療時の呼吸管理
  に有効でしょうか?
   呼気はこのCO2検出器で管理、吸気はパルスオキシメータで管理、そして時に
  口腔から目を離して視診で胸郭、腹部の呼吸運動を監視する!

 
 エピペン(エピペン注射液0.3mg)   コラムの第3回アナフィラキシーショックの中で
  エピネフリンの自己注射セットは日本では認められていない、と書きましたが、最近、
  メルク(株)より自己注射器エピペンが、主治医の処方により入手できるようになりま
  した。
    アナフィラキシーの徴候や症状を感じた時にその場で速やかに自己注射できる!

  
シリジェットは針の無い注射器!で茂久田商会より発売。カートリッジへの圧力に
  より、麻酔液が一瞬で粘膜下に到達、粘膜下で霧状に拡散し、1回にわずかなんと
   0.025mlの注入量で効果が得られ、即効性にすぐれる!

  第33回  細菌感染の重症化          抗菌剤の点滴投与は必要か?

 ある新聞紙上で智歯(親知らず)周囲の炎症が重症化し、炎症が頚部から
  胸部に広がり、さらに敗血症を併発し、死亡に至った方が紹介されておりま
  した。

  新聞紙上での文章は情報の偏りから一般の方は誤解され易いかもわかりま
  せんが、その中で入院先の担当の歯科医が、点滴はしない、と言ったそう
  ですが、多くの歯科治療では点滴をされることはまずありません。

  細菌感染の重症な場合は、点滴をとって抗菌剤を静脈内投与することが多く、
  私の勤務先でも時々点滴はとりますが、重症化の判断や抗菌剤の点滴投与
  の必要性の判断は必ずしも容易ではありません。

  また、歯性の細菌感染症は細菌を特定できない事が多く、複数菌による混合
  感染も多い疑いがあります。

  抗菌剤の点滴投与に匹敵(ひってき)する方法として経口投与での抗菌剤の
  併用療法を紹介します。−−−→
テクニカルチップスNo.7

     

  第32回   水道水のフッ素化                            水と空気の成分


  水道水にフッ素を添加し、虫歯を減らそうという試みは施行されている外国も
  ありますが、日本では行われておりません。 この方法は昔より推進派と反対
  派があり、今でも議論が絶えないようです。

  私は非自然的、人為的なものはできるだけ避けたいとの思いから、どちらか
  というと反対の気持ちですが、善悪は別にして逆説的な思考をしてみます。

  水道水のフッ素化が実現した時、水道水が非常に気にかかる、ということから、
  目の前の水道水には他になにが含まれているのか、成分はどうなっているのか、
  という心配がより多くの人に起こってくるでしょう。

  もしフッ素以外のものについても有効な成分検出器なるものが、大量生産され、
  一家に一台設置され、簡単に即座に検出できるようであれば、水全般についての
  安全性が少しは確保されるかもしれません。

  こういった検出器は空気についても同様の検討がなされるでしょう。

  将来、何十年か先、なんらかのきっかけで、現実のものとなるかもしれないですね。

  
 第31回   ガーゼ咀嚼飲水法(
テクニカルチップスNo.6)   歯科と全身との融合


  ガーゼ咀嚼飲水法はLogemannの方法とは大きく概念が異なります。 Logemannの
 方法は食塊形成やその送り込み訓練として、あるいは、舌運動改善のための方法と
 考えられますが、ガーゼ咀嚼飲水法は、、第一の目的として、知覚と運動を統合、
 反響させつつ、嚥下反射を惹起させることにあります。

 ガーゼ咀嚼飲水法との違い、利点を述べますと、

 1、指示に従う能力がなくてもよい〜開口、閉口などの外力を加えるだけでもよい
 2、オーラルケアの延長上にすぐに施行できる〜嚥下リハとして施行される機会が
    多くもてる
 3、積極的に水を利用する
 4、水はどこにでもある
 5、水は誤嚥しても安全
 6、水は酸、糖などの為害性の心配がない
 7、歯はなくてもよい〜歯や義歯は必ずしも必要としない
 8、飲水テストにもなっており、間接訓練にも、直接訓練にもなっている
 9、嚥下リハの入門として検討できる〜歯科スタッフ、家族、介護者も施行可能である
10、歯科の嚥下への関わりとして衆知できる
11、ガーゼがなければ清潔なハンカチ、タオルでもよい

 など他にもあるかもわかりませんが、欠点としてはガーゼに含ませる水分量が
 わかりずらいなどがあげられます。

 反響については、いずれ、またの機会に。

            
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