VOL.2
コラム 「欲望とバーズとサスペリア(デヴィッド・ヘミングス編)」(小松崎)

 このコラムのタイトルは「欲望とバーズとサスペリア」というものだが、まぁ、もっと音楽ファンに判りやすく言うならば「ヤードバーズとバーズとゴブリン」としたほうがイイかもしれない。そして、この3つの点を線で結ぶ男、それがデヴィッド・ヘミングスである。

 巨匠ミケランジェロ・アントニオーニ監督の映画『欲望(BLOW−UP)』(67年公開)はロック・ファンにとっては、やはりヤードバーズが出演したことで思い入れの深い映画だろう。ジェフ・ベック、ジミー・ペイジのツイン・リード・ギターを擁していた当時のヤードバーズが唯一見れるのがこの作品だからだ。しかも彼らの出演シーン(主人公の写真家がさ迷い込んだナイトクラブでヤードバーズが演奏してる)ときたら、ベックがピート・タウンゼンドよろしくギターをアンプに叩き付けてブッ壊しちゃうというものだったんだからね。もうこのシーンだけで、この映画はスウィンギング・ロンドンを描いた最高作品となったワケである。
 さて、この映画で主人公トマスを演じたのが、デヴィッド・ヘミングスであった。ちなみにこのトーマスは、当時のヒップなカメラマン、デヴィッド・ベイリー(ストーンズとの仕事で知られる人物)がモデル。さて、それほど美青年でもないし演技だって特にこれだっていうほどのものでもない、そんなヘミングスだが、僕としては大変思い入れの深い俳優の一人なんだ。

 というのもヘミングスは、僕が今なおB級カルト・ホラーの最高峰と信じてやまないイタリア映画『サスペリア 2(PROFONDO ROSSO)』(75年公開、監督:ダリオ・アルジェント)の主人公マーク役をつとめたオトコでもあるからなんだ。この映画は中学の時に初めて見たんだけれども、もうとにかくチープなこわさが全篇を包んでて、それが異様なまでの不気味度を増幅してるんだよ。一種の猟奇殺人事件がテーマで、その謎を解く鍵は「子供の歌う不気味な歌」にあるんだけど、この歌ってのがなんとも不気味でねぇ。でもって、この作品の主役がヘミングスなんだ。 ややこしい話なんだが、日本では、ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア(SUSPIPIA)』が77年に公開されるや大ヒットしたってんで、同じアルジェント監督の前の作品『PROFONDO ROSSO』に無理矢理、『サスペリア 2』というタイトルを勝手につけて売り出したってのが真相で、実のところパート2でもなんでもないんだよね。でもって案のじょう、我等がヘミングス主演のパート2のほうは、パート1ほどのヒットは記録しなかった(そうそう、パート1といえば、イタリアが誇るプログレ・バンド、ゴブリンによる音楽も怖くて最高でした)。てなワケで、パート2は結局はカルト映画として終わってしまった、と。これは本国でもそうだったようです。

 さて『欲望』がカンヌ映画祭のグランプリにも選ばれて、スターとしての地位を手に入れたデヴィッド・ヘミングスが、なぜその8年後には、こんなカルト映画に出演するまでになってしまったのか?その謎を解く鍵は、実は一枚のレコードにある。ヘミングスが67年、『欲望』出演後にリリースしたアルバム『DAVID HEMMINGS/HAPPENS』(US:MGM SE−4490)がそれだ。
 実のところ僕がこのレコードを買ったのは10年前で、その時はこのレコードの作者が、僕の好きな『サスペリア 2』や『欲望』に出てたあの俳優だとは結びつかなかった。同姓同名の人かな?なんて思う余裕すらなかったんだ。単にザ・バーズのメンバーが参加してたから、ただそれだけの理由。ジーン・クラークが「BACK STREET MINOR」を提供してるほか、ロジャー・マッギン、クリス・ヒルマンがヘミングスとの共作で「GOOD KING JAMES」「TALKIN’ LA」「WAR'S MYSTERY」の3曲を提供してるんだ。おまけにプロデューサーはデビュー前のバーズを見出したジム・ディクスンだし、実際のバック演奏もバーズが担当したとも言われている。ねっ、バードマニアだったらたまらないレコードでしょ。それと、これは勝手な推測だけども、恐らくはレコーディングは67年の9月から10月にかけてじゃないだろうか。だってデヴィッド・クロスビーの後任としてジーン・クラークが一時期出戻りしたのがこの時期だから。
 それにしてもジャケット裏のライナーを読んで、このデヴィッド・ヘミングスなる人物が、あのデヴィッド・ヘミングスだと知った時はビックリしたなぁ。でもって、レコードの内容なんんだけど、イイんだよね、これが。恐らくグラム・パーソンズがもし加入しなかったら、バーズはこんな方向に進んでたのかもしれない、そんな内容なんだ。それを想像させるのが<マッギン=ヒルマン=ヘミングス>による共作ナンバー3曲。もう、まさにヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコって感じ。不協和音を奏でる12弦ギター(マッギンか?)にフルートやらタブラやらが絡んで、それに呪術的と言おうかヘミングスの朗読みたいな呟きが被さるんだ。前衛的でオリエンタルなアシッド・ロックって言ったらイイかな。
 もしこのレコードがそこそこでも売れてたら、ヘミングスはアメリカ東海岸のヴェルヴェッツと並び、西海岸のカルト・ロック・アーティストとしての地位をモノにしてたのかもしれない。ヴェルヴェッツも当時はまったく売れなっかったけど、評論家や芸術家受けは良かったから、ヘミングスにちょっとでもこの時期スポットが当たってらと思うと本当に残念でならない。そう、結局はこのレコード、「映画俳優の気まぐれ」として当時は片づけられちゃったんだよ。まったく売れなかったし、プレスの評判だって散々だったそうだ。おまけにこのレコードの酷評がもとで、俳優としての人気にも陰りが見えてくる。思えば、こういったレコードを作っちゃったということが、その後のカルト俳優への道に繋がっていったのかもしれない。でも、そういったことを微塵と感じさせない素晴らしいレコードなんだ、この『HAPPENS』は。恐らく、その仕上がりにはヘミングスも満足したことだろう。バードマニアにもヴェルヴェッツ・フリークにもオススメのこのアルバム、残念ながらCD化されてないが、中古屋さんで見つけたら是非手にとってみて欲しい。

 というワケで、ひとつの映画、一枚のレコードにも、いろんな繋がりがあるわけです。それはジグソー・パズルにも似ている。それを楽しむ、楽しまないは個人の自由。でも僕はこうやって、なにかが繋がった時って思わず嬉しくなっちゃうんだよ。

(2000.1.9)