「すわってよ、君を愛していると思う」 (バッファロー・スプリングフィールド編)
<1>好調!ステファン・スティルス
 それにしてもCSN&Yの11年ぶりのアルバム『LOOKING FORWARD』は快作だ、ここのところ我が家のスピーカーからはこればっかりが流れている。ホントに最高の出来さ。中でも目を見張るのは、イイ意味でリラックスしまくったスティーヴン・スティルスの見事な仕事振り。誰が何と言おうと、僕の心のナンバー・ワン・ギタリストはいつだってスティルスだった。ニール・ヤングとのライヴァル戦争に敗れてからのスティルスは、ハッキリいって過去の遺物だの、才能が枯渇したアーティストのなれのはてみたいなレッテルを貼られてきた。そして彼がもがけばもがくほど、あたかも蟻地獄のようなジレンマに陥り、凡作ばかりを提供してきた。その事実は否めないだろう。しかし極論すればスティルスは、1960年代という時代を良くも悪くも、永遠に引きずっているアーティストなんである。器用貧乏ともされるスティルスだが、実際には、その時代時代の先端とうまく折り合いをつけられるニール・ヤングほど、器用ではないということだ。そう、ハッキリ言って不器用で頑固者の見本みたいな人だと僕は思う。
  そんなスティルスが良い意味で「おやじぃ、開き直ったな」ってニヤリとさせてくれるのが、この『LOOKING FORWARD』である。関係ないが、僕自身も30才を過ぎた頃、若い女の子から「小松崎さん、そんなこと言うなんて、オヤジみたいですよぅ」なんて指摘されるとムキになって否定していた時があった。でもね、最近じゃこう言うことにしてるんだ。「当たり前じゃん、だってオレ、オヤジだもん」ってね。まあ、最近のスティーヴン・スティルスにはそれに共通したものを僕は感じちゃうんだよ。キース・リチャーズみたいなオヤジ・ロック道もイイだろう。だけどね、僕にはスティルスのほうがシックリくるんだ。プレイボーイに掲載されたスティルスのインタビューを読んで嬉しくなっちゃったよ。「歌詞も最近覚えられなくってねぇ、まぁオレもジジイだからな、ハッハッハッ」だもん。
  早ければ今年の春にもCSN&Yとして来日する可能性もあるという。こいつは最高に楽しみな話題だ。ともあれCSN&Yとしての仕事が先になったために、あのバッファロー・スプリングフィールドのボックス・セットは延びたままになってる。しかし、こちらも年内には正式発売の予定という。そこで今回は、60年代アメリカが生んだ最高のロック・グループのひとつ、バッファローについて簡単におさらいしてみようよ(ファンなもんで話がスティルス中心になるがご勘弁を)。
<2>栄光のバッファロー・スプリングフィールド
 バッファロー・スプリングフィールドはザ・バーズ、モビー・グレイプ、ジェファーソン・エアプレイン、モンキーズと並んで僕の大好きなグループの一つだ。結成は1966年4月。当時のメンバーはオー・ゴー・ゴー・シンガーズというフォーク・グループに在籍していたスティーヴン・スティルス(ヴォーカル、セカンド・ギター)とリッチー・フューレイ(ヴォーカル、リズム・ギター)、名門ブルーグラス・バンド、ディラーズ出身のデューイ・マーチン(ドラムス)、そしてカナダ人のフォーク歌手、ニール・ヤング(ヴォーカル、リード・ギター)、ブルース・パーマー(ベース)の5人組。
  「ニールはボブ・ディランに、そして僕はビートルズになろうとしていた」とは当時のスティルスの発言だが、実質的なリーダーはスティルスだった。幼少時代を南米で過ごしていたという彼は、ロックンロールからフォーク、ブルーグラス、ラテン音楽に至るまで、さまざまな音楽素養を身に付けていた。それにしてもバッファロー・スプリングフィールドだなんて、なんてイカした名前なんだろうね。コレはトラクターについてた名前から頂戴したとのことだ。
  デビュー・アルバムは『バッファロー・スプリングフィールド(BUFFALO SPRINGFIELD)』(CD:イーストウェスト AMCY-2387)で、66年12月に発売された。ビートルズを始めとするイギリス産のビートグループから多くを拝借しながらも、ここで聴けるのはバーズ同様に愛らしいフォーク・ロック・ミュージックの数々である。モンキーズのオーディションの最終選考にも残ったというエピソードのあるスティルス(不合格になったのは前歯が欠けていた為)だが、彼のポップ・センスはたまらなくキャッチーなカントリー風味の(デビュー曲でもあった)「ゴー・アンド・セイ・グッバイ」「ホット・ダスティ・ロード」「みんな悪いのさ」などで堪能できるし、ビートルズへの敬意という点では「ベイビー・ドント・スコールド・ミー」(「デイ・トリッパー」のリフが顔を出す)や炎のヘヴィ・ビート・チューン「リーヴ」「ペイ・ザ・プライス」にハッキリと現れている。僕個人としては、モジョ・メンが取り上げヒットさせた「すわってよ、君を愛していると思う」が思い入れが深いなぁ。なおアルバムは全米チャート第80位を記録、翌67年3月にはスティルスがサンセット通りの暴動事件にインスパイアされて書き上げたプロテスト・ソング
「フォー・ホワット」
がチャートの7位にランクされる大ヒットとなった。現在、国内盤でリリースされてるリマスターCDは、「ベイビー・ドント・スコールド・ミー」を含む初期版と、「フォー・ホワット」の大ヒットを受けてそれを収録した改訂版とがモノ、ステレオでの2イン1仕様だ。
<3>幻のアルバム『スタンピード』
 しかし「フォー・ホワット」のヒット以降、グループは主導権争いとも言うべき事態に見舞われる。そりゃそうだ。こんだけアクの強くって、才能に溢れた5人だもん。リード・ヴォーカル、ギター・ソロ、作曲クレジットを巡って、スティーヴン、ニール、リッチーの3人は激しくやりあうこととなり、その結果デビュー・アルバムと同路線にて制作が進められていたセカンド・アルバム『STAMPEDE』は暗礁に乗り上げ、キャンセルされてしまう。
  現在、この幻のアルバムの音源のいくつかは同名のブートレグ『STAMPEDE』(CD:BOOTLEG BU-SC-80-03)で聴ける。僕の場合、ブートは大嫌いで購入することはまずないが、バッファローとくりゃ話は別で、これは持ってる。一応、15曲のスタジオ録音(アセテート起こしなので状態は良くない)を収録で、スティルスが歌う「ダウン・トゥ・ザ・ワイアー」(ニールが歌ったテイクはアルバム『ニール・ヤング/輝ける10年』に収録)が中でもレア。その他、スティルス・ナンバーでは、これまたカントリー風味漂うビートチューン「Neighbor Don't Worry」「Raga」と題されたミステリアスなインストルメンタル、「ベイビー・ドント・スコールド・ミー」の別ヴァージョン、スペース・ロック時代のバーズっぽい「We'll See」、そして後のCSN&Yの「4+20」にも通じるダルな弾き語りナンバー「Come On」が聴ける。リッチーも後にポコのデビュー・シングルとして再演する「マイ・カインド・オブ・ラヴ」でキャッチーなカントリー・ポップを聴かせてくれるし、ニールの弾き語りだってイイ味を出してる。しかし、恐らくはこのアルバムの目玉は、やっぱニールの歌う、大胆不敵なサイケデリック・ポップ・ロック「ダウン・トゥ・ザ・ワイアー」(ドクター・ジョンがピアノで参加)だったんだろうなぁ。
  この未完のアルバム『スタンピード』、バッファローのボックス・セットが出たおりには、必ずや全曲入ってることを願いたいものです。
<4>最高傑作『アゲイン』

 さて『スタンピード』がキャンセルとなった頃より、ニール・ヤングは脱退と加入を繰り返すようになったし、ドラッグ問題からブルース・パーマーが国外退去させられたりと、グループの混乱には一層の拍車がかかっていく。しかし、そういった混乱や緊張感を逆にエナジーとすることによって、彼らは歴史的な作品をものにしたのだった。それが67年12月に発売されたセカンド・アルバム『アゲイン』(CD:イーストウェスト 18P2−2853)である。現在ではこの作品はビートルズの『サージェント・ペパーズ』へのアメリカからの回答として、後のシーンに大きな影響を与えた金字塔的なアルバムとして高く評価されてる。
  商業的にも成功を収めたのだった。エヴァ・ベイビッツによる美麗なジャケット・デザインも話題を呼びアルバム・チャートの44位にランクされるヒットとなった。シングル・ヒットだって 「ブルーバード」(58位) 「ロックンロール・ウーマン」(44位)「エクスペクティング・トゥ・フライ」(98位)とこのアルバムからは3曲も生まれたほどだ。

 このアルバムを僕が初めて聴いたのは、中学2年の時だったが、その時の衝撃ったらなかった。それは、バーズの『霧の5次元』ジェファーソンの『シュールレアリスティック・ピロウ』、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのバナナのレコードよりも強い衝撃だった。ニール・ヤングの最高のロック・オペラ「折れた矢」やストーンズばりのリフで決めた「ミスター・ソウル」にもやられたし、リッチーのカントリー・フレイバーたっぷりのセンチな作風にもやられたけども、僕にとっての『アゲイン』ときたらやっぱスティーヴン・スティルスなんだよね。
  サイケデリック・ジャズとでも言うべき「エヴリデイズ」の革新性、ドラマチックな展開がCSNを予感させる「ハング・アップサイド・ダウン」(絞首刑を歌ったもの)、バーズのデヴィッド・クロスビーの口ずさんだメロディーにインスパイアされて書き上げたビートルズ調の(って言うかバーズの『昨日よりも若く』っぽい)キャッチーな「ロックンロール・ウーマン」、そして最後にどんなハード・ロックよりも壮絶なギター・バトルが最高の「ブルーバード」、とここでのスティルスは何かに取り憑かれたかの如き活躍ぶり。シンガーとしてもギタリストとしてもプロデューサーとしても、まさに一世一代の大舞台といったところだ。完璧。あ、そうそう、「ブルーバード」はこの3年後の71年にはセカンド・ソロ『STEPHEN STILLS 2』の中で「帰ってきたブルーバード」として、スティルスったらチャッカリとリメイクしてるんだよ。こちらも聴いてみてネ。
 
まあ、このアルバムによって僕のスティルス・フリークとしての歴史がスタートしたんだ。パンクにニューウェーヴにハード・ロックにAORも聴いてたけど、一番のフェイヴァリットはステファン・スティルスその人だった。だから今回、第1弾にスティルスを持ってきたってわけなんだよね。

<5>バラバラだけど有終の美

 ともあれバッファローは68年5月には解散してしまう。主な原因はスティルスとヤング間のエゴのぶつかりあいというか、主導権争いだったし、ドラッグ問題もあった。解散後の8月に出されたサードにしてラスト・アルバムが『LAST TIME AROUND』(CD:イーストウェスト AMCY-2589)だ。前作がサージェント・ペパーだとすると、こちらはホワイト・アルバム。それもそのはずでレコーディングはメンバーそれぞれが勝手にやったものを、新加入のベーシストにしてプロデューサーのジム・メッシーナが編集したわけだから、散漫な印象を与えるのも当然だろう。でもその統一感のなさが、逆にホワイト・アルバム同様にたまらなく不思議な魅力を醸し出してるんだよね、今の時代に聴くと。
  ニール・ヤング作品だとシングル・ヒット(82位)したオープニングの「オン・ザ・ウェイ・ホーム」のロマンチックさなんて、僕にとってはビートルズの「トゥ・オブ・アス」以上さ。「アイ・アム・ア・チャイルド」はヤングの今に至るまでのテーマ曲といってもイイだろう。リッチーも「カインド・ウーマン」って最高のカントリー・バラードを披露した他、雑誌に応募してきた歌詞にメロディーをつけた「雨なき頃」なんて後のポコ時代の大作「クレイジー・アイズ」にも繋がるプログレッシヴ・カントリーだ。また新加入のジム・メッシーナもボードビル風のとぼけた「ケアフリ・カントリー・デイ」でイイ味を出してる。
  我等がスティルス作品は全5曲。歌詞がたまらなく美しいフォーキーな「プリティ・ガール・ホワイ」がここでは僕のフェイヴァリット。プロテスト・カントリー・ロックとでも呼べそうな「フォー・デイズ・ゴーン」では、燻し銀(といってもまだ23才だけど)的なスティルス節を聴かせてくれる。黒人女性シンガー、ドリス・トロイが後にアップルからのアルバムでカヴァー(スティルスもゲスト参加)する「スペシャル・ケア」のヘヴィさもたまらない。ここではギタリスト、シンガーとしてだけでなく、キーボーディストとしても最高の腕前を見せてくれるんだ。「クエスチョンズ」はCSN&Yの名曲「キャリー・オン」のプロト版。そして「ウノ・ムンド」はスティルスのラテン音楽クレージーぶりが凝縮された小粋なナンバー。DJやるなら、今のクラブ・シーンではピッタリの曲だと思うよ。
  というラスト・アルバムだが、日本のタイガースがこのアルバムのジャケを「廃虚の鳩」でパクったのは有名な話だ。もう本当にこれまた最高のジャケットだよね。ちなみに左からスティルス、ジム・メッシーナ、リッチー・フューレイ、デューイ・マーチン、ニール・ヤングの順。活動期間が僅か2年、出したアルバムがこれまた3枚というバッファロー・スプリングフィールドそのものを象徴するにはこれ以上のものはないという、美しいポートレートだと僕は思う。
  そしてこのジャケットを見るたびにこう祈らざるにはいられないんだ。「永遠なれ、バッファロー・スプリングフィールド」ってね。リリースは3枚だけなので揃えるのも楽だろう。まだの方がいらしたら、是非とも聴いてみてください。

「Sit Down、I Think I Love You」(STEPHEN STILLS)

<6>付録(Odds & Sods)

 それでは最後にバッファロー・スプリングフィールド・ネタで重要なアイテムをいくつかご紹介して拙稿を締めくくらせていただこう。
  まずはスティルスとフューレイが65年に在籍していたニューヨーク、グリニッチ・ヴィレッジの9人編成のフォーク・グループ、オー・ゴー・ゴー・シンガーズ(AU GO GO SINGERS)の唯一のアルバム『THEY CALL US AU GO GO SINGERS』(LP:US Roulette RS-25280)。「ミス・ネリー」と「ハイ・フライング・バード」の2曲でスティルスの若々しい歌声が聴ける(それにしちゃドスのきいた声で嬉しい)。僕が持ってるのはアナログだが、どうやら最近になってCD化されたらしい。

  アメリカで73年に発売された2枚組ベスト『BUFFALO SPRINGFIELD』(LP:US ATCO SD2-806)には名曲「ブルーバード」の9分にも及ぶロング・ヴァージョンが収められている。スティルス、ヤング、フューレイの3人による後半のギター・バトルが圧巻。この一曲だけでも買う価値アリ。中古盤屋さんに行けば3000円くらいで買えるでしょう。
  ロスのグループ、イエロー・ハンド(YELLOW HAND)が70年に発表したアルバム『YELLOW HAND』(LP:US CAPITOL ST-549)には、当時未発表だったバッファローのナンバーが多く取り上げられているので要注意だ。その未発表曲とは、スティルス・ナンバーだと「Neibour Don't You Worry」「We'll See」「Come On」「Hello、I've Returned」の4曲、ニール・ナンバーだと「ダウン・トゥ・ザ・ワイアー」「Sell Out」の2曲。いずれも『スタンピード』からのものだ。

TEXT BY TAKEO KOMATSUZAKI(2000.1.21)