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メキシコ−死に彩られた街

tengoku喧燥に満ちた道路に横たわる出稼ぎ労働者の死体、埃っぽい田舎道を歩く葬儀の行列、アメリカ国境を徒歩で越えようとして死んだ孫娘、海へ向かうハイウェーの脇に立つふたつの墓標。年上の女性ルイサと海岸へバカンスに出かける少年フリオとテノッチの、笑いと喜びに満ちた野放図な夏の風景に、音もなく忍び寄ってくる死の気配。性が死に限りなく近いのと同じく、彼らの輝かしい生の充溢は、完璧なまでに死と隣り合わせだった。ラテンの国が何処もそうであるように、この地もまた、強い日差しとくっきりとした黒い影に彩られる。二人の少年とひとりの女が向かう海岸の名前は、どこか不吉な響きのある「天国の口」。そしてその存在するはずのない、でたらめの地名に、彼らは本当に辿り着いてしまう。道に迷い茂みの暗がりのなかで一夜を明かした翌朝、遠くから微かに聞こえてくる波の音−メキシコ・シティからもう遥かに遠くまで来てしまった。そして、黒い大きな岩のあるその海岸はどこか不思議な静けさをもって彼らを迎えた。
明るさの中に悲哀が感じられるスペイン語の響きや音楽と同じく、この甘美で官能的な夏の物語の結末は辛く悲しい。天国の口から戻った少年たちは、もう二度と海岸へは辿り着けないことを知っている。そして、失ったものが何だったのかを知るのはまだずっと先のことだ。『天国の口、終わりの楽園』 (Oct.18,2002)





URBAN HYMNS - 都市の聖歌


the verveを知ってる? 1991年に結成されたUKのロックバンドで、99年に解散。1997年にリリースされた'URBAN HYMNS'はその3枚目にして最後のアルバム。メインはヴォーカルのリチャード・アシュクロフト。
電子の鳥のさえずりさえ聞こえる未来都市の聖歌 Bitter Sweet Symphony、朦朧とした夢の中へのダイブCatching The Butterfly、陰鬱な歌詞と甘美な旋律に彩られたVelvet Morning、重層的なギターの響きが耳鳴りのように押し寄せる Come On .. 70年代と共に確かに死に絶えたはずの音が、またここにあるという奇蹟。良い音楽はあっても「世界を一変させる」音はもう長いこと聞いたことがなかった。サイケデリックな音の波の中に、遠いなつかしい未来が見え隠れする。耳を澄ましてごらん、いろんな音が聞こえてくる。そしてそれらは、初めての、まっさらの、聞いたこともない音。 I was born a little damaged man (僕は傷を負って生まれてきた)−ここにもまたカインの末裔。根源的な悲しみと希望がないまぜになったアシュクロフトの歌声は、祈りのようだ。21世紀−それでも歌声は誰かに確実に届く。 (Oct.14,2002)





BOMBAY DREAMS


10月に入っていきなり寒くなり、しつこい風邪。体調が悪いのをいいことに、早めに家に帰って音楽聞いたりビデオを見たりして、ゆったりくつろぐ。私はいつも、家にいるのが一番好き。
ARラフマーンのミュージカルBombay DreamsのCDが意外によくてハマった。半分がこれまでに公開されたインド映画で使われた音楽で、半分がオリジナル曲。チャイヤ・チャイヤだけはほぼ原曲のままで、歌ってるのも同じ歌手。オリジナル曲では、Like An Eagleと、The Journey Homeが素敵。どれもミュージカル風にアレンジされているものの、ラフマーンらしさも感じられ、これはぜひミュージカルの方も見てみたい気にさせられる。話題にもなっているようだし、これは来年の春くらいまで大丈夫かもしれない。プレミアリーグ見て、加えてBombay Dreams−これだけで十分にロンドンへ行く理由ができるんだけど。しかし11月にはバルセロナ行きも思案中で、お金とヒマは当分底をつきそう。 (Oct.11,02)






スリランカ映画祭2002 (Sep.25 - Oct.2,2002)


アジアフォーカスのスリランカ映画コレクションが、そっくりそのまま東京(溜池)でも上映された。スリランカ映画は、今世界的にちょっとしたブームだそうで、最近日本でも見る機会が増えている。2000年のアジアフォーカスで上映された「サロージャー」が素晴らしかったので、それ以来スリランカ映画に注目しているのだか、今年も東京国際でその新作が上映されるハンダガマ監督の「マイ・ムーン」(2001年東京国際映画祭)などはずいぶんユニークな作品だ。今回のスリランカ映画祭のラインナップは、そういった斬新な映画というよりオードソックスなものが多かったが、それでも見たいくつかの作品はどれも見応えがあった。『湖畔の邸宅』は裕福な大家族が没落してゆく様子を描く。湖のほとりに立つ大邸宅の最後の主である未亡人の願いも空しく、一家の精神的支柱でもあった館を手放す結末は哀愁が漂う。『白い影』は家族や男女の関係を繊細に描きながら、生きることの無情感を漂わせる興味深い作品。イギリスの植民地支配に反乱をおこした仏教僧のスドゥは、身を隠すためにコロンボに8年間逃れる。ほとぼりが冷めた頃に故郷に戻るが、そこに暮らしていたのは年老いた母と疲れた顔をした兄嫁とその子供たち。兄は刑務所だった。仕事をはじめ、家族を養うようになったスドゥは、いつのまにか兄嫁へ愛情を持つようになっていた。二人は結ばれ、兄嫁は身ごもった。そこへ突然兄が特赦で刑務所から戻ってくる。当時のスリランカでは一妻多夫が認められていたというが、それでも兄と弟と二人の間には微妙な感情的対立が生まれる。子供たちは刑務所帰りの父親を疎ましく思うばかりで、兄は身の置き場がない。時は満ちて兄嫁は子供を出産するが..。淡々と進んでゆく物語のなかで、少ないセリフだけで人々の感情の彩が繊細に表現されている。突然途切れるようにして終わるラストは、あまりに悲しく非情だ。
スリランカ俳優の数自体が少ないのか、あるいは有名俳優なのか、『告白』の冒頭にでてくる老人は『私への道』にも「満月の日の死」にも出ている。この人(ジョー・アベーウィクラマ)が実にいい顔をしていて、その表情だけで痛切な哀感をただよわせる特異なキャラクターである。この老人の告白から始まるこの映画は、ある貧しい夫婦の話。村にはマラリアが流行り、薬さえも買えない二人は息子を病気で亡くしてしまう。亡骸を埋葬しようと土を掘っていた時、夫は青く光るサファイアの原石を見つける。それで貧しさから抜け出せるはずだったのに、二人にはとんでない運命が待ち受ける。物語はスタインベックの小説「真珠」からの翻案。二人の数奇な運命もさることながら、舞台となる川や滝、ジャングル、仏塔の見える風景など、スリランカの自然が実に美しく印象的だった。
『蓮の道』はスリランカ文学の金字塔といわれる有名な小説を映画化したものだが、ここでの主人公の行動や生きざまは、曖昧でやや不可思議である。確かに無欲な人間ではあるのだか、それが無気力にしか見えなかったのは私だけだろうか。男は人生に対していかなる一歩も踏み出そうとしない。自らの意志で倫理的に生きようとしたのではなく、何もしないが故に結果として倫理的に生きたように見えるだけなのだ。仏教でいう無欲っていうのはこういうこと?映画と原作の違いを確かめたい気がする。
そして今回のスリランカ映画で一番好きだったのか『私への道』。裕福な家の一人娘である主人公が、自分が極貧の農村からもらわれた養子であったことを知り、アイデンティテイに危機に見舞われるがそれを乗り越えようとするさまを描く。スリランカ社会のすさまじい貧富の差、これまで自らが誇りをもって生きてきた人生が突然足元から崩壊する衝撃、自分は誰なのか、社会的環境が変ると自分は自分でなくなるのか。もしこの映画の主人公と同じような環境におかれれば、誰しも自分とは一体誰で何者なのかがわからなくなってしまうだろう。娘が暮らす瀟洒な邸宅に響いていた無邪気で明るいピアノの旋律は、もう二度と流れることはない。娘のメナカを演じた若い女優が魅力的だ。

『湖畔の邸宅』 監督:レスター・ジェームス・ピーリス 2002年 スリランカ
『スリ』監督:リンタン・セーマゲー 2002年スリランカ
『白い影』監督:スニル・アーリヤラトゥナ 2002年スリランカ
『告白』 監督:ベナットゥ・ラトゥナーヤカ 2001年スリランカ
『私への道』 監督:ワサンタ・オベーセーカラ 1998年スリランカ
『城壁』監督:プラサンナ・ヴィーターナゲー 1997年スリランカ
『長女』監督:スミトラ・ピーリス 1993年スリランカ
『ジャングルの村』監督:レスター・ジェームス・ピーリス 1980年スリランカ
『変革の時代』監督:レスター・ジェームス・ピーリス 1982年スリランカ
『蓮の道』 監督:ティッサ・アベーセーカラ 1987年スリランカ






アジアフォーカス福岡映画祭2002 (Sep.13 - Sep.23,2002)


イラン映画が良かった。特に『私は15歳』。15歳で婚約し妊娠してしまう主人公タラネを演じた実際の名前もタラネという少女の無垢な可憐さに、見るものは一瞬で魅了されてしまう。「一時的結婚」さえ認められるイスラムの男性社会で少女の立場は圧倒的に弱い。身ごもった挙げ句に男に捨てられるタラネはしかし、社会から排除されることを恐れることなく、ひとり子供を産み育てる決意をする。その強さが清々しい。監督のやや教訓的な意図をこえて少女の魅力が映画を輝かせている。『ベマニ』もまた弱い立場に置かれたイスラム社会での女性を取り上げる。ここではさらに悲惨で、追いつめられた女達の行き着く先は死しかない。暗い気持ちにさせられた。
アン・ホイ監督の新作『男人四十』。去年の「千言萬語」といい、今年のこの映画といい、物足りないのだ。「女人四十」の力強さを想像すると、テーマも人物描写も表面的で肩透かしをくう。韓国映画『酔画仙』は、良くも悪くもイム・グォンテク作品。失望もしなければ驚きもしないタイプの映画だが、この監督の映像の美しさが結構好きだ。細部にまで神経がゆきとどいた美的センスを感じる。「美術館の隣の動物園」の女性監督イ・ジャンヒャンの2作目ということで楽しみにしていた『おばあちゃんの家』。韓国では地味な映画ながら大ヒットを記録したという。いくら韓国でもあれほど凄まじいド田舎があるんだろうか、というような山奥に住む口のきけないオバアちゃんと都会育ちの孫の心温まる交流。これがまた実にアザトイのだ。にもかかわらず、いちばん最後で泣かされてしまったのが悔しい!

アジアパノラマ作品リスト

『旅の途中で』監督:中山節夫 2002年イラン・日本
『ベマニ』監督:ダイユシ・メヘルジュイ 2002年イラン
『私は15歳』 監督:ラスール・サドレアメリ 2002年イラン
『ふたりのミナ』監督:モハマド・ホセイン・ラティフィ 2002年イラン
『演説者』監督:ユスフ・ラジコフ 1999年ウズベキスタン
『根のない樹』監督:タンビール・モカンメル 2001年バングラデシュ
『光、新たに』監督:マリルー・ディアス=アバヤ 2001年フィリピン
『旅立ちの汽笛』監督:アクタン・アブディカリコフ 2001年キルギス・仏・日
『心の調べ』監督:シャージ・カルン 2002年インド
『島』監督:ギリーシャ・カーサラヴァッリ 2002年インド
『虹に乗って』監督:ジャヌ・ボルア 2002年インド
『ビューティフルフラワー』監督:ナビン・スッパ 2002年ネパール
『チキンライス・ウォー』 監督:チーク 2000年シンガポール
『ムーンハンター』 監督:バンディット・リッタコン 2001年タイ
『グァバの季節』監督:ダン・ニャットミン 2000年ベトナム
『男人四十』 監督:アン・ホイ(許鞍華) 2001年香港
『きらめきの季節/美麗時光』 監督:チャン・ツォーチ 2001年台湾・日本
『酔画仙』監督:イム・グォンテク 2002年韓国
『おばあちゃんの家』 監督:イ・ジョンヒャン 2002年韓国
『ラスト・プレゼント』 監督:オ・ギファン 2001年韓国
『美しい夏キリシマ』監督:黒木和雄 2002年日本
*青字はこれまでに見たもの







第16回 福岡アジア映画祭 (July 5 - 14, 2002)


小規模な映画祭ながら、今年はアジアフォーカス以上の話題作揃い。去年の釜山でもいろんな場所で広告を目にし、しかも主演はイ・ソンジェにソル・ギョング...とくれば期待せずにはいられない『公共の敵』。「アタック・ザ・ガスステーション」や「新羅の月夜」ですっかりファンになってしまったイ・ソンジェの新作でもある!が、しかし..。 コメディでもなければサスペンスでもない中途半端な展開で、大いに期待外れ。しかもかなり気持ち悪いシーンも多くて辛い2時間だった。『バッド・ガイ』は去年の釜山で一度見ているので、最初見たとき程の衝撃はなかった。それにしても、どれもすこぶる変った映画が多いキム・ギドクだが、そのもの悲しさと不思議な雰囲気は決して忘れられない。「魚と寝る女」にしろ「受取人不明」にしろ、いろんなシーンがいつまでも心に焼き付いてしまうのだ。
今回一番印象的だったのが香港映画『初恋メリーゴーラウンド』。喧嘩ばかりしていた相手なのに、気付いたら恋をしていた−だれにでもある甘い青春時代の思い出。ごく普通の青春映画なのに、切ない思いに胸があつくなる。そんな素敵な一品。シンガポールといえば絶対にチキンライスなんだけど、ついにそのチキンライスが主役の映画が登場。『チキンライス・ウォー』はドタバタ娯楽映画ながらシンガポールらしさを感じさせる。
『アナムのスカーフ』はベルリン在住のトルコ人女性監督による作品。ドイツに住むトルコ人女性の象徴はその頭に被ったスカーフである。いかにもドイツの風景のとけこまないその装いは、異郷に暮らすトルコ人移民の最後の誇りのようにも感じるのだ。貧しい異国からの移民は当然ながら社会の底辺に置かれ、この映画でも主人公の職業は清掃婦である。その中で民族の誇りを失わずに生きて行くのは並大抵のことではない。しかも世代が進んでゆくにつれ、子供たちはドイツ語だけしか話せなくなり、親子の間の文化的ギャップも広がって行く。そんな状況のなかで力強く生きてゆこうとするアナムに誰しも共感を覚えるだろう。

オープニング特別上映(*)・コンペ部門

公共の敵 (*) 監督:カン・ウソク 2002年 韓国
バッド・ガイ 監督:キム・ギドク 2001年韓国
初恋メリーゴーラウンド 監督:トーマス・チョウ 2001年香港
天使の眼監督:リー・シン 2001年中国
チキンライス・ウォー 監督:チーク 2001年シンガポール
アナムのスカーフ 監督:ブケット・アラクシュ 2001年ドイツ