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暗 黒 性

ヴィクトリア朝のアンダーワールド

ヴィクトリア朝のブルジョアジーは成り上がった自分の地位を守るために、きわめてお上品で偽善的な道徳をつくりあげた。そして、不道徳なものはみなおおいかくしてしまった。ヴィクトリア朝は二重底の社会をつくりあげてしまったのである。この時代がまことに面白いのも、あらゆるものが二重になっているからであり、ルイス・キャロルのつくりだしたアリスのように、鏡のむこうにあべこべの世界があらわれるのだ。ポルノグラフィも厖大な読者をもつことになった。ヴィクトリア朝は、表面から性を地下へおしこめたために、性的欲望は抑圧され、よけいにいりくんだアンダーワールドをつくりだしたのである。(海野弘『地下都市への旅』P89)

19世紀のロンドンが表面的には道徳的な雰囲気を蔓延させながら、裏では極めて暗黒な都市であったという指摘である。
性に取り憑かれた男の厖大な放蕩記録『我が生涯の秘密』を読むと、そのあたりの事情が飲み込める。『我が生涯の秘密』の作者も、うわべは地位のある紳士であったようだ。


ゴング−ルの日記

以前、図書館から『ゴングールの日記』という本を借り出したことがある。
今、復刊されれば、ぜひとも購入したい本だ。
その日記の第2巻に、ヴィクトリア朝のロンドンの暗黒面が描かれており、唖然とした。
以下はゴングールの1862年の日記である。

四月七日 月曜、今日、私は、怪物を、地獄の鬼にもひとしい男のひとりを訪ねた。彼を介して、私は、歓楽に飽き果てた大金持ちの貴族社会の、愛欲のなかに残忍性をもたらして、そしてただ女性の苦痛だけでしか楽しもうとはしない、放蕩無頼のイギリス貴族社会の、嫌悪すべき一つの素質、恐怖すべき一面を、ちょうど破けた幕からでものぞいて見るように、ちらと見たのである。
 いつぞや、オペラ座の舞踏会で、ある若いイギリス人がサン=ヴィクトールに紹介されたことがあったが、このイギリス人は話の始めとして、彼に向かってあっさりとこんなことを言った。
「パリでは面白く暮らそうとしてもほとんどだめでした。ロンドンは非常にすぐれていました。ロンドンにはとても好い家が一軒ありましてね、ジェンキンス夫人の持ち家なんですが、そこにはおよそ13歳くらいの少女たちがいまして、最初にこの少女たちに授業をするのです。やがて、しばらくたつと、この子たちを鞭で叩くことになるのですが、いやとても! 小さい連中は強く叩いたりなんかはしません。大きい連中には、全くびしびしやりました。この子供たちに針を刺してもいいのです。もっとも針といっても、非常に長い針ではなく、僅かにこんなくらいの長さでした」と彼はわれわれに自分の指の先を見せた。
「そうです、血がでましたよ!…」
 この若いイギリス人は、冷静に、落ち着いて言葉を加えた。
「私には残酷な趣味があります。しかし、男や動物にはやめています。昔、私は、絞首刑になることになっていた殺人女囚を見物するために、莫大な金を出して、ある友人と一緒に、窓を一つ借りました。私たちは女どもを連れていましたが、それはその女囚がいよいよ首を絞められるそのときに、この女どもにあることをする−このイギリス人はいつも極度に上品な表現を使う−ためでした。その上、私たちは、女を絞め殺すときに、スカートを、その殺人女囚のですとも! すこしまくりあげるようにと死刑執行人に頼んでさえいたのです…けれども女王が、最後の瞬間になって、特赦にしたのは、どうも不愉快です」(p26)


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